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第21話 詠唱の意味、進むべき場所
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中級魔法は、初級とは明確に違う。
それは単に「威力が上がる」という話ではない。
魔力の量・質・流れ・制御――
すべてが、より厳密に求められる段階だった。
「今日は……中級魔法の基礎に入るわ」
訓練場で、リリアは静かに告げた。
セシリアとミアは、自然と背筋を伸ばす。
「中級魔法は、初級よりも
はるかに魔力制御が難しい」
「出力を間違えれば、
怪我では済まないこともある」
二人は、真剣な表情で頷いた。
「あなたたちは、無詠唱でも魔法を使える」
リリアは一度、言葉を区切る。
「……それ自体が、異常なほど凄いこと」
だが、と続けた。
「だからこそ」
「最初は、詠唱を使う」
ミアが、少し意外そうに首を傾げる。
「でも……わたしたち、詠唱しなくても……」
「ええ、出来るわ」
リリアは否定しない。
「でも、詠唱には意味があるの」
ルークが、静かに頷いた。
「……かんがえ、まとめる」
「そう」
リリアは、ルークを見て微笑む。
「詠唱は、魔法の“型”よ」
「感覚を言葉に落とし込んで、
魔力の流れを安定させるためのもの」
「特に中級以上では、
それが重要になる」
ルークも同意するように言った。
「……さいしょは、ことば、あったほうが、いい」
こうして。
三人は、詠唱ありでの中級魔法行使に挑むことになった。
*
最初に選ばれたのは、
中級・風属性魔法。
初級の風と違い、
「流れ」を明確に作り出す必要がある。
セシリアが一歩前に出た。
詠唱を唱え、
魔力を集め、
放出――。
「……っ!」
風は起きた。
だが、
流れが乱れ、
地面の砂を不規則に舞い上げただけだった。
「……むずかしい」
ミアも挑戦するが、結果は同じ。
出力が足りなかったり、
逆に強すぎて制御を失ったり。
初級の時とは、明らかに違う感触だった。
「……これは」
ミアが、額の汗を拭う。
「頭で分かってても、
体が追いつかない……」
リリアは、静かに頷いた。
「それが、中級よ」
その様子を見ていたルークが、
ふと口を開いた。
「……じゃあ」
「ことば、いいながら」
「……なにを、したいか、かんがえる」
二人が、ルークを見る。
「どういう風に?」
ルークは、少し考えてから言った。
「……どんな、かぜを、だしたいか」
「つよさ、かたち、ながれ」
「……それを、えに、する」
セシリアは、はっとした表情になる。
「……ただ出す、じゃなくて」
「……“どうしたいか”を、決める?」
「……うん、えにするのはしょきゅうも
おなじ」
ミアも、ゆっくりと息を吸った。
「……やってみる」
再挑戦。
二人は、詠唱を唱えながら、
頭の中で魔法を“描く”。
セシリアは、
一直線に駆け抜ける、鋭い風を。
ミアは、
周囲を包み込む、柔らかな風を。
――次の瞬間。
空気が、明確に変わった。
セシリアの前方を、
一直線の風が走る。
ミアの周囲では、
穏やかな風が渦を巻いた。
「……!」
「できた……!」
二人の顔が、ぱっと輝く。
リリアは、その光景を見て、
思わず息を呑んだ。
(……早すぎる)
理解が、
あまりにも早い。
しかも――。
(……ルーク)
彼は、教える側として、
完全に“次元が違う”。
理論を、感覚に落とし、
それを言葉にして伝えている。
(……この村に、収まる器じゃない)
リリアの胸に、
一つの決意が芽生えた。
*
夜。
子供たちが眠りについた後、
リリアは、エドガーに今日の話をした。
「……中級魔法?」
エドガーは、驚いたように目を見開く。
「そんな段階まで?」
「ええ」
リリアは、真剣な表情で頷く。
「それだけじゃないわ」
「三人とも、無詠唱で魔法を使えている」
エドガーは、思わず息を飲む。
「……それは」
「凄い、なんて言葉じゃ足りないわ」
リリアは、静かに言った。
「それが出来る人は、
文献では賢者様しかいない」
エドガーは、腕を組む。
「……それで?」
「提案があるの」
リリアは、少し間を置いてから言った。
「セシリアを、
王立魔法学園に入れてはどうかしら」
「……学園?」
エドガーの声が、低くなる。
「それほど、なのか」
「ええ」
リリアは、迷いなく答えた。
「ただし……」
視線を落とす。
「ルークは、まだ早い」
「ルークは四歳」
「セシリアは九歳」
エドガーは、現実的な指摘をする。
リリアは、静かに頷いた。
「学園は、十歳から入学できる」
「セシリアは、もうすぐ条件を満たすわ」
「それに……」
少し、柔らかい表情になる。
「ルークが畑に魔法をかけてくれるようになってから、
作物の出来も良くなってる」
「売れ行きも、悪くない」
「学費は……問題ないはずよね?」
エドガーは、苦笑した。
「……確かに」
「それに、もし」
リリアは続ける。
「主席や、特待生になれれば」
「学費は、免除されるわ」
エドガーは、しばらく黙って考えた。
やがて――。
「……分かった」
「明日、セシリアに聞いてみよう」
「本人の気持ちを、確かめてからだ」
リリアは、ほっと息を吐いた。
「ありがとう」
ランプの灯りが揺れ、
夜は、静かに更けていく。
その頃。
ルークは、眠りの中で、
ぼんやりと思っていた。
(……そろそろ、せかいが、ひろがる)
村の外。
学園。
そして――
まだ見ぬ未来。
それは、
避けられない流れだった。
幼い賢者は、
静かに次の扉の存在を感じていた。
それは単に「威力が上がる」という話ではない。
魔力の量・質・流れ・制御――
すべてが、より厳密に求められる段階だった。
「今日は……中級魔法の基礎に入るわ」
訓練場で、リリアは静かに告げた。
セシリアとミアは、自然と背筋を伸ばす。
「中級魔法は、初級よりも
はるかに魔力制御が難しい」
「出力を間違えれば、
怪我では済まないこともある」
二人は、真剣な表情で頷いた。
「あなたたちは、無詠唱でも魔法を使える」
リリアは一度、言葉を区切る。
「……それ自体が、異常なほど凄いこと」
だが、と続けた。
「だからこそ」
「最初は、詠唱を使う」
ミアが、少し意外そうに首を傾げる。
「でも……わたしたち、詠唱しなくても……」
「ええ、出来るわ」
リリアは否定しない。
「でも、詠唱には意味があるの」
ルークが、静かに頷いた。
「……かんがえ、まとめる」
「そう」
リリアは、ルークを見て微笑む。
「詠唱は、魔法の“型”よ」
「感覚を言葉に落とし込んで、
魔力の流れを安定させるためのもの」
「特に中級以上では、
それが重要になる」
ルークも同意するように言った。
「……さいしょは、ことば、あったほうが、いい」
こうして。
三人は、詠唱ありでの中級魔法行使に挑むことになった。
*
最初に選ばれたのは、
中級・風属性魔法。
初級の風と違い、
「流れ」を明確に作り出す必要がある。
セシリアが一歩前に出た。
詠唱を唱え、
魔力を集め、
放出――。
「……っ!」
風は起きた。
だが、
流れが乱れ、
地面の砂を不規則に舞い上げただけだった。
「……むずかしい」
ミアも挑戦するが、結果は同じ。
出力が足りなかったり、
逆に強すぎて制御を失ったり。
初級の時とは、明らかに違う感触だった。
「……これは」
ミアが、額の汗を拭う。
「頭で分かってても、
体が追いつかない……」
リリアは、静かに頷いた。
「それが、中級よ」
その様子を見ていたルークが、
ふと口を開いた。
「……じゃあ」
「ことば、いいながら」
「……なにを、したいか、かんがえる」
二人が、ルークを見る。
「どういう風に?」
ルークは、少し考えてから言った。
「……どんな、かぜを、だしたいか」
「つよさ、かたち、ながれ」
「……それを、えに、する」
セシリアは、はっとした表情になる。
「……ただ出す、じゃなくて」
「……“どうしたいか”を、決める?」
「……うん、えにするのはしょきゅうも
おなじ」
ミアも、ゆっくりと息を吸った。
「……やってみる」
再挑戦。
二人は、詠唱を唱えながら、
頭の中で魔法を“描く”。
セシリアは、
一直線に駆け抜ける、鋭い風を。
ミアは、
周囲を包み込む、柔らかな風を。
――次の瞬間。
空気が、明確に変わった。
セシリアの前方を、
一直線の風が走る。
ミアの周囲では、
穏やかな風が渦を巻いた。
「……!」
「できた……!」
二人の顔が、ぱっと輝く。
リリアは、その光景を見て、
思わず息を呑んだ。
(……早すぎる)
理解が、
あまりにも早い。
しかも――。
(……ルーク)
彼は、教える側として、
完全に“次元が違う”。
理論を、感覚に落とし、
それを言葉にして伝えている。
(……この村に、収まる器じゃない)
リリアの胸に、
一つの決意が芽生えた。
*
夜。
子供たちが眠りについた後、
リリアは、エドガーに今日の話をした。
「……中級魔法?」
エドガーは、驚いたように目を見開く。
「そんな段階まで?」
「ええ」
リリアは、真剣な表情で頷く。
「それだけじゃないわ」
「三人とも、無詠唱で魔法を使えている」
エドガーは、思わず息を飲む。
「……それは」
「凄い、なんて言葉じゃ足りないわ」
リリアは、静かに言った。
「それが出来る人は、
文献では賢者様しかいない」
エドガーは、腕を組む。
「……それで?」
「提案があるの」
リリアは、少し間を置いてから言った。
「セシリアを、
王立魔法学園に入れてはどうかしら」
「……学園?」
エドガーの声が、低くなる。
「それほど、なのか」
「ええ」
リリアは、迷いなく答えた。
「ただし……」
視線を落とす。
「ルークは、まだ早い」
「ルークは四歳」
「セシリアは九歳」
エドガーは、現実的な指摘をする。
リリアは、静かに頷いた。
「学園は、十歳から入学できる」
「セシリアは、もうすぐ条件を満たすわ」
「それに……」
少し、柔らかい表情になる。
「ルークが畑に魔法をかけてくれるようになってから、
作物の出来も良くなってる」
「売れ行きも、悪くない」
「学費は……問題ないはずよね?」
エドガーは、苦笑した。
「……確かに」
「それに、もし」
リリアは続ける。
「主席や、特待生になれれば」
「学費は、免除されるわ」
エドガーは、しばらく黙って考えた。
やがて――。
「……分かった」
「明日、セシリアに聞いてみよう」
「本人の気持ちを、確かめてからだ」
リリアは、ほっと息を吐いた。
「ありがとう」
ランプの灯りが揺れ、
夜は、静かに更けていく。
その頃。
ルークは、眠りの中で、
ぼんやりと思っていた。
(……そろそろ、せかいが、ひろがる)
村の外。
学園。
そして――
まだ見ぬ未来。
それは、
避けられない流れだった。
幼い賢者は、
静かに次の扉の存在を感じていた。
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