賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第20話 見送るだけじゃいられない

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 魔物の騒動から、数週間が経った。

 ハルネ村は、表向きには完全に平穏を取り戻している。
 畑は再び緑に満ち、
 子供たちの笑い声が、村のあちこちから聞こえていた。

 だが――
 あの日を境に、変わってしまったものもあった。

 それは、セシリアとミアの中に生まれた、
 小さく、しかし確かな“決意”だった。



 その日の夕方。

 いつもの訓練場で、基礎魔法の復習を終えた後、
 三人は並んで腰を下ろしていた。

 風は穏やかで、
 どこか牧歌的な時間。

 ――にも関わらず。

「……ルーク」

 セシリアが、静かに口を開いた。

 その声音は、
 いつもの姉のような柔らかさではなかった。

「……なに?」

 ルークが振り向く。

 ミアも、同じように真剣な表情をしていた。

 二人は、視線を交わし――
 まるで合図をするように、同時にルークを見た。

「……お願いがあるの」

 セシリアの声が、少しだけ震える。

「もっと……強くなりたい」

 ルークは、瞬きをした。

「……どうして?」

 その問いに、
 ミアが一歩前へ出る。

「この前の、魔物のとき」

「ルーク、ひとりで……行ったでしょ」

 言葉を選ぶように、
 しかし、逃げない。

「わたしたち、止めることしか出来なかった」

 セシリアが、続ける。

「何も出来ずに、待ってるだけ」

「……あれ、すごく、怖かった」

 ルークの胸が、きゅっと締め付けられる。

 あの時、
 二人を抱き寄せた時の感触が、蘇った。

「……もう、嫌なの」

 セシリアは、はっきりと言った。

「ルークが、一人で戦いに行くの」

「わたしたちが、ただ見送るだけなの」

 ミアも、強く頷く。

「一緒に、立ちたい」

「同じ場所に、いたい」

「……助けられる側じゃなくて」

 少し間を置いて、
 小さな声で付け加える。

「……守る側にも、なりたい」

 沈黙が落ちた。

 風が、草を揺らす音だけが聞こえる。

 ルークは、二人を見つめた。

 子供だ。
 まだ幼い。

 だが、その瞳にあるものは――
 決して軽い感情ではなかった。

(……覚悟、か)

 それは、
 賢者だった頃にも、幾度となく見てきた目だ。

「……ふたりの、まりょく」

 ルークは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「もう……じゅうぶん、ある」

 二人の魔力量は、
 すでに大人の魔法使いを遥かに超えている。

 問題は、才能ではない。

「……でも」

 ルークは、少し視線を落とした。

「つよく、なるって」

「……こわい、ことも、ふえる」

「それでも……いい?」

 セシリアは、迷わず頷いた。

「いい」

 ミアも、同じだった。

「逃げない」

「もう、決めたの」

 ルークは、しばらく黙っていた。

 そして――
 小さく、息を吐く。

「……わかった」

 二人の顔が、ぱっと明るくなる。

「……ただし」

 ルークは、指を一本立てた。

「ぼく、ひとりじゃ、きめない」

「……ママと、そうだん、する」

「うん!」

「もちろん!」



 その夜。

 ルークは、リリアに避難所から抜け出した話を伏せながら話した。

 セシリアとミアの言葉。
 あの日の恐怖。
 そして、二人の決意。

 リリアは、黙って聞いていた。

 途中で遮ることはない。

 すべてを聞き終えた後、
 静かに口を開いた。

「……あの子たち」

「強くなりたい、んじゃないのね」

 ルークは、顔を上げる。

「……うん」

「“一緒に立ちたい”のよね」

 リリアは、優しく微笑んだ。

「それなら……止める理由は、ないわ」

 ただし、と続ける。

「段階は、踏むわよ」

「無茶は、させない」

 ルークは、はっきりと頷いた。

「……うん」

「なら」

 リリアは、結論を出した。

「中級魔法へ、進みましょう」

 その言葉に、
 ルークの胸の奥が、静かに高鳴った。



 翌日。

 三人は、再び訓練場に集まっていた。

 いつもと同じ場所。
 だが、空気は明らかに違う。

「今日から」

 リリアが告げる。

「あなたたちは、初級ではなく――
 中級魔法に入ります」

 セシリアとミアは、拳を握りしめる。

「これは、“出来る”から教えるんじゃない」

「“必要だから”教えるの」

 ルークは、二人の横で、静かに立っていた。

(……また、一歩)

 踏み込んだ。

 もう、
 ただの“訓練”ではない。

 力を持つ者として、
 覚悟を持つ者としての、一歩。

 ルークは、二人を見て思う。

(……もう、見送るだけの存在じゃない)

 これから先、
 三人は、同じ場所に立つ。
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