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第20話 見送るだけじゃいられない
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魔物の騒動から、数週間が経った。
ハルネ村は、表向きには完全に平穏を取り戻している。
畑は再び緑に満ち、
子供たちの笑い声が、村のあちこちから聞こえていた。
だが――
あの日を境に、変わってしまったものもあった。
それは、セシリアとミアの中に生まれた、
小さく、しかし確かな“決意”だった。
*
その日の夕方。
いつもの訓練場で、基礎魔法の復習を終えた後、
三人は並んで腰を下ろしていた。
風は穏やかで、
どこか牧歌的な時間。
――にも関わらず。
「……ルーク」
セシリアが、静かに口を開いた。
その声音は、
いつもの姉のような柔らかさではなかった。
「……なに?」
ルークが振り向く。
ミアも、同じように真剣な表情をしていた。
二人は、視線を交わし――
まるで合図をするように、同時にルークを見た。
「……お願いがあるの」
セシリアの声が、少しだけ震える。
「もっと……強くなりたい」
ルークは、瞬きをした。
「……どうして?」
その問いに、
ミアが一歩前へ出る。
「この前の、魔物のとき」
「ルーク、ひとりで……行ったでしょ」
言葉を選ぶように、
しかし、逃げない。
「わたしたち、止めることしか出来なかった」
セシリアが、続ける。
「何も出来ずに、待ってるだけ」
「……あれ、すごく、怖かった」
ルークの胸が、きゅっと締め付けられる。
あの時、
二人を抱き寄せた時の感触が、蘇った。
「……もう、嫌なの」
セシリアは、はっきりと言った。
「ルークが、一人で戦いに行くの」
「わたしたちが、ただ見送るだけなの」
ミアも、強く頷く。
「一緒に、立ちたい」
「同じ場所に、いたい」
「……助けられる側じゃなくて」
少し間を置いて、
小さな声で付け加える。
「……守る側にも、なりたい」
沈黙が落ちた。
風が、草を揺らす音だけが聞こえる。
ルークは、二人を見つめた。
子供だ。
まだ幼い。
だが、その瞳にあるものは――
決して軽い感情ではなかった。
(……覚悟、か)
それは、
賢者だった頃にも、幾度となく見てきた目だ。
「……ふたりの、まりょく」
ルークは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「もう……じゅうぶん、ある」
二人の魔力量は、
すでに大人の魔法使いを遥かに超えている。
問題は、才能ではない。
「……でも」
ルークは、少し視線を落とした。
「つよく、なるって」
「……こわい、ことも、ふえる」
「それでも……いい?」
セシリアは、迷わず頷いた。
「いい」
ミアも、同じだった。
「逃げない」
「もう、決めたの」
ルークは、しばらく黙っていた。
そして――
小さく、息を吐く。
「……わかった」
二人の顔が、ぱっと明るくなる。
「……ただし」
ルークは、指を一本立てた。
「ぼく、ひとりじゃ、きめない」
「……ママと、そうだん、する」
「うん!」
「もちろん!」
*
その夜。
ルークは、リリアに避難所から抜け出した話を伏せながら話した。
セシリアとミアの言葉。
あの日の恐怖。
そして、二人の決意。
リリアは、黙って聞いていた。
途中で遮ることはない。
すべてを聞き終えた後、
静かに口を開いた。
「……あの子たち」
「強くなりたい、んじゃないのね」
ルークは、顔を上げる。
「……うん」
「“一緒に立ちたい”のよね」
リリアは、優しく微笑んだ。
「それなら……止める理由は、ないわ」
ただし、と続ける。
「段階は、踏むわよ」
「無茶は、させない」
ルークは、はっきりと頷いた。
「……うん」
「なら」
リリアは、結論を出した。
「中級魔法へ、進みましょう」
その言葉に、
ルークの胸の奥が、静かに高鳴った。
*
翌日。
三人は、再び訓練場に集まっていた。
いつもと同じ場所。
だが、空気は明らかに違う。
「今日から」
リリアが告げる。
「あなたたちは、初級ではなく――
中級魔法に入ります」
セシリアとミアは、拳を握りしめる。
「これは、“出来る”から教えるんじゃない」
「“必要だから”教えるの」
ルークは、二人の横で、静かに立っていた。
(……また、一歩)
踏み込んだ。
もう、
ただの“訓練”ではない。
力を持つ者として、
覚悟を持つ者としての、一歩。
ルークは、二人を見て思う。
(……もう、見送るだけの存在じゃない)
これから先、
三人は、同じ場所に立つ。
ハルネ村は、表向きには完全に平穏を取り戻している。
畑は再び緑に満ち、
子供たちの笑い声が、村のあちこちから聞こえていた。
だが――
あの日を境に、変わってしまったものもあった。
それは、セシリアとミアの中に生まれた、
小さく、しかし確かな“決意”だった。
*
その日の夕方。
いつもの訓練場で、基礎魔法の復習を終えた後、
三人は並んで腰を下ろしていた。
風は穏やかで、
どこか牧歌的な時間。
――にも関わらず。
「……ルーク」
セシリアが、静かに口を開いた。
その声音は、
いつもの姉のような柔らかさではなかった。
「……なに?」
ルークが振り向く。
ミアも、同じように真剣な表情をしていた。
二人は、視線を交わし――
まるで合図をするように、同時にルークを見た。
「……お願いがあるの」
セシリアの声が、少しだけ震える。
「もっと……強くなりたい」
ルークは、瞬きをした。
「……どうして?」
その問いに、
ミアが一歩前へ出る。
「この前の、魔物のとき」
「ルーク、ひとりで……行ったでしょ」
言葉を選ぶように、
しかし、逃げない。
「わたしたち、止めることしか出来なかった」
セシリアが、続ける。
「何も出来ずに、待ってるだけ」
「……あれ、すごく、怖かった」
ルークの胸が、きゅっと締め付けられる。
あの時、
二人を抱き寄せた時の感触が、蘇った。
「……もう、嫌なの」
セシリアは、はっきりと言った。
「ルークが、一人で戦いに行くの」
「わたしたちが、ただ見送るだけなの」
ミアも、強く頷く。
「一緒に、立ちたい」
「同じ場所に、いたい」
「……助けられる側じゃなくて」
少し間を置いて、
小さな声で付け加える。
「……守る側にも、なりたい」
沈黙が落ちた。
風が、草を揺らす音だけが聞こえる。
ルークは、二人を見つめた。
子供だ。
まだ幼い。
だが、その瞳にあるものは――
決して軽い感情ではなかった。
(……覚悟、か)
それは、
賢者だった頃にも、幾度となく見てきた目だ。
「……ふたりの、まりょく」
ルークは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「もう……じゅうぶん、ある」
二人の魔力量は、
すでに大人の魔法使いを遥かに超えている。
問題は、才能ではない。
「……でも」
ルークは、少し視線を落とした。
「つよく、なるって」
「……こわい、ことも、ふえる」
「それでも……いい?」
セシリアは、迷わず頷いた。
「いい」
ミアも、同じだった。
「逃げない」
「もう、決めたの」
ルークは、しばらく黙っていた。
そして――
小さく、息を吐く。
「……わかった」
二人の顔が、ぱっと明るくなる。
「……ただし」
ルークは、指を一本立てた。
「ぼく、ひとりじゃ、きめない」
「……ママと、そうだん、する」
「うん!」
「もちろん!」
*
その夜。
ルークは、リリアに避難所から抜け出した話を伏せながら話した。
セシリアとミアの言葉。
あの日の恐怖。
そして、二人の決意。
リリアは、黙って聞いていた。
途中で遮ることはない。
すべてを聞き終えた後、
静かに口を開いた。
「……あの子たち」
「強くなりたい、んじゃないのね」
ルークは、顔を上げる。
「……うん」
「“一緒に立ちたい”のよね」
リリアは、優しく微笑んだ。
「それなら……止める理由は、ないわ」
ただし、と続ける。
「段階は、踏むわよ」
「無茶は、させない」
ルークは、はっきりと頷いた。
「……うん」
「なら」
リリアは、結論を出した。
「中級魔法へ、進みましょう」
その言葉に、
ルークの胸の奥が、静かに高鳴った。
*
翌日。
三人は、再び訓練場に集まっていた。
いつもと同じ場所。
だが、空気は明らかに違う。
「今日から」
リリアが告げる。
「あなたたちは、初級ではなく――
中級魔法に入ります」
セシリアとミアは、拳を握りしめる。
「これは、“出来る”から教えるんじゃない」
「“必要だから”教えるの」
ルークは、二人の横で、静かに立っていた。
(……また、一歩)
踏み込んだ。
もう、
ただの“訓練”ではない。
力を持つ者として、
覚悟を持つ者としての、一歩。
ルークは、二人を見て思う。
(……もう、見送るだけの存在じゃない)
これから先、
三人は、同じ場所に立つ。
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