賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第19話 噂は、外へ

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 魔物の群れが討伐されてから、数日が経った。

 ハルネ村は、表面上はいつもの日常を取り戻している。
 畑は耕され、家畜は鳴き、子供たちは外を走り回る。

 だが――
 人々の会話の端々には、必ず同じ話題が混じっていた。

「……あの時の、ドラゴン」

「本当に見たのか?」

「見た、って言う人は多いけどな……」

 村人たちの記憶は、曖昧で、しかし一致していた。

 空に現れた巨大な影。
 魔物を一瞬で薙ぎ払った圧倒的な存在。
 そして、どこかへ飛び去ったという事実。

 恐怖と、安堵と、
 そして説明のつかない違和感。

 それらが混じり合い、
 “噂”という形で村を巡っていた。



 数日後の朝。

 村長の家の前に、一台の馬車が止まった。

「……来たか」

 村長は、深く息を吐く。

 馬車から降りてきたのは、
 整った装いの男だった。

 胸元には、領主家の紋章。

 ――フェルナン領、領主の使者。

「領主様の命により参りました」

 形式張った口調で、男は名乗る。

「先日の、魔物の群れの件について、調査に」

 噂は、村の外へ出た。

 それは避けられないことだった。



 村長は、使者を家へ通した。

 茶を出し、
 互いに向かい合って座る。

「……では」

 使者は、記録用の紙を広げた。

「改めて、何が起こったのか、
 順を追ってお話し願えますか」

 村長は、少し背筋を伸ばし――
 淡々と語り始めた。

「まず、魔物の群れが現れました」

「数は、少なくとも百以上」

「鐘を鳴らし、
 男たちが武器を持って迎撃に出ました」

 使者は、無言で頷き、筆を走らせる。

「……しかし」

 村長は、言葉を区切る。

「正直に言えば、
 こちらは押されていました」

「怪我人も出て、
 長くは持たない状況でした」

 それは、報告書に残っている事実と一致している。

「その時――」

 村長は、視線を上げた。

「空から、ドラゴンが現れました」

 筆が、止まる。

「……ドラゴン、ですか」

 使者の声には、
 疑念がはっきりと滲んでいた。

「はい」

 村長は、首を縦に振る。

「私自身は、はっきりとは見ていません」

「ですが、多くの村人が、同じものを見たと証言しています」

「巨大な翼、蒼い鱗……」

「そして――」

 村長は、はっきりと言った。

「魔物の群れを、あっという間に一掃しました」

 使者は、しばらく沈黙した。

(……荒唐無稽だ)

 正直な感想だった。

 ドラゴンなど、
 王都の文献にしか出てこない存在だ。

 ましてや、
 村を助けて立ち去るなど、物語の中の話だ。

「……その後は?」

 使者は、冷静さを装って続きを促す。

「ドラゴンは、
 魔物を討伐すると、どこかへ飛び去って行きました」

「追跡は?」

「出来るはずもありません」

 村長は、苦笑した。



 使者は、記録を見返しながら考える。

 話自体は、信じがたい。
 だが――。

「……死者は?」

 ふと、尋ねた。

「……いません」

 村長は、はっきりと答える。

「怪我人は出ましたが、
 死者は一人も」

 その言葉に、
 使者の眉がわずかに動いた。

 魔物の群れ。
 百体以上の規模。

 それに対し、
 死者ゼロ。

(……不自然だ)

 奇跡的すぎる。

 何らかの“外的要因”があったと考えなければ、
 説明がつかない。

 だが。

(……ドラゴン、か)

 使者は、内心で溜め息をついた。

 これ以上追及しても、
 証拠は出ない。

 現に、
 ドラゴンの痕跡も、魔力残滓も、
 すでに残っていない。

「……分かりました」

 使者は、記録を閉じた。

「今回の件については」

「“原因不明の外的介入により、
 魔物の群れは撃退された”」

「そう報告いたします」

 村長は、静かに頷いた。

「……ありがとうございます」

 使者は立ち上がり、
 最後に一言だけ付け加える。

「ただし」

「この話が、さらに広がるようであれば」

「改めて調査が入る可能性はあります」

 それは、
 警告とも、忠告とも取れる言葉だった。



 使者が村を去った後。

 村長は、窓の外を見つめながら、
 一人呟いた。

「……本当に、何だったんだか」

 空を見上げる。

 そこには、何もない。

 だが――
 村は確かに、救われた。



 その頃。

 ルークは、家の裏で、静かに空を見ていた。

(……外が、動いたな)

 だが、まだだ。

 調査は、表層で止まった。

(……今は、これでいい)

 噂は広がったが、
 真実には届いていない。

 まだ、
 “伝説”として処理される範囲だ。

 それでいい。

 ルークは、風の流れを感じながら、
 静かに次を考えていた。

 この先、
 必ず――
 もっと大きな波が来る。

 だが、それはまだ先の話だ。

 今は、
 ハルネ村に、静かな日常が戻っている。

 鐘の音も、
 翼の影も、
 ひとまず――空の彼方へ消えていた。
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