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第18話 鐘の音と、空の影
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それは、前触れもなく起きた。
――ゴォン、ゴォン、ゴォン。
けたたましい鐘の音が、ハルネ村中に響き渡る。
昼下がりの空気を切り裂くような、緊急を告げる音だった。
「……なに?」
ルークが顔を上げた瞬間、
家の扉が勢いよく叩かれた。
「エドガー! いるか!」
ミアの父の声だった。
扉を開けると、彼は息を切らし、顔色を変えていた。
「魔物だ……」
一言で、場の空気が凍りつく。
「魔物の群れが、村に向かってる!」
次の瞬間、エドガーは剣を掴んだ。
「リリア」
短く、だが強い声。
「ルークとセシリアを頼む」
「……ええ」
リリアは即座に頷く。
それ以上、言葉は要らなかった。
エドガーは剣を携え、外へ飛び出していく。
同時に、村のあちこちで大人たちが動き出す気配がした。
*
残されたリリア、セシリア、ルークは、
急いで村の避難所へ向かった。
途中、同じ方向へ走る人々の流れの中で、
ミアとその母と合流する。
「……ルーク!」
ミアは不安そうに駆け寄ってきた。
「だいじょうぶ」
ルークはそう言ったが、
胸の奥は、ざわついていた。
(……群れ、か)
鐘の鳴り方からして、数は少なくない。
避難所に到着すると、
すでに多くの村人が集まっていた。
しばらくして――。
「怪我人だ! こっちだ!」
避難所の横に設けられた救護所へ、
次々と怪我人が運び込まれ始める。
血の匂い。
うめき声。
リリアは状況を一目見ると、
セシリアとルークをミアの母シアに託した。
「二人とも、ここにいなさい」
「シア二人を、お願い」
「任せて」
そう言って、リリアは救護所へ駆けていく。
彼女は治癒魔法が使えた。
今、この場で最も必要な力だった。
*
時間が経つにつれ、
救護所の空気は重くなっていった。
「……押されてる」
「魔物の数が多い……!」
そんな声が、断片的に聞こえてくる。
運び込まれる怪我人も、増えている。
(……まずい)
ルークの胸の奥で、警鐘が鳴り続ける。
前線は、苦戦している。
居ても立ってもいられなくなり、
ルークは、すっと立ち上がった。
「……ぼく、いく」
「だめ!」
即座に、セシリアが腕を掴む。
「危ないでしょ!」
「……ルーク、だめ!」
ミアも、必死に止める。
ルークは、二人を見下ろし――
そっと、抱き寄せた。
「……だいじょうぶ」
静かな声だった。
「みんな、たすけてくる」
そして、耳元で囁く。
「……ここ、まもって」
二人の身体が、震えた。
だが――
引き止める言葉は、出なかった。
ルークは、周囲の大人の視線を避け、
人の少ない隙を縫って、避難所を抜け出した。
*
戦闘が行われている場所から、少し離れた森の縁。
ルークは立ち止まり、
深く息を吸う。
(……久しぶりだな)
ここから先は、
“今の時代の魔法”ではない。
だが、選択肢はなかった。
ルークは、地面に魔力を刻むようにして――
召喚術を行使した。
空間が、わずかに歪む。
次の瞬間。
――圧倒的な存在感が、現れた。
蒼い鱗。
巨大な翼。
そして、知性を宿した瞳。
エンシェントドラゴン。
名は――シエル。
女性の声で、穏やかに告げる。
「……お久しぶりです。あるじ様」
ルークは、小さく息を吐いた。
「俺の姿を見ても、動じないんだな」
「魔力が、あるじ様のものですから」
シエルは静かに答える。
「分かります」
ルークは、短く笑った。
「……また、よろしくな」
「はい」
ルークは、状況を簡潔に説明する。
「魔物の群れが、村を襲ってる」
「……一掃できるか?」
シエルの口角が、わずかに上がった。
「御意」
次の瞬間、
彼女は颯爽と空へ舞い上がった。
*
一方、前線。
「……なんだ、あれ……」
戦っていた男の一人が、空を見上げる。
巨大な影が、雲を裂いて迫ってくる。
「……ドラゴン?」
「なんで、こんな所に……!」
絶望が、広がりかけた、その時。
シエルは、魔物の群れへと突入した。
爪が閃き、
翼が薙ぎ、
圧倒的な力で、魔物を討ち伏せていく。
一方的だった。
抵抗は、許されない。
あっという間に、
群れは壊滅した。
シエルは、周囲を一瞥すると、
そのまま空高く舞い上がり――
姿を消した。
*
シエルは、村人たちに見つからぬよう、
姿を不可視にして、ルークの元へ戻ってきた。
「任務、完了しました」
「……助かった」
ルークは、短く礼を言う。
だが――。
(連れてはいけない)
この時代に、
エンシェントドラゴンを置いておくわけにはいかない。
「一度、戻ってくれ」
「承知しました」
シエルは、静かに頷き、
元の住処へと帰還した。
ルークも、急いで避難所へ戻る。
*
「……ルーク?」
シアが、彼の姿を見て、ほっと息を吐いた。
「……よかった」
セシリアとミアも、
何も言わずに、彼にしがみついた。
しばらくして――。
戦いに出ていた男たちが、次々と戻ってくる。
「……あのドラゴン、なんだったんだ?」
「助かったのは確かだが……」
疑問の声が、口々に上がる。
救護所は、しばらく慌ただしかったが、
日没前には落ち着きを取り戻した。
避難していた人々も、
軽傷だった者たちも、
それぞれの家へ帰っていく。
村は――救われた。
誰が救ったのかは、
誰も、正確には知らないまま。
ルークは、夕焼けの空を見上げながら、
静かに思った。
(……切り札は、切った)
だが。
(……まだ、ばれてない)
それでいい。
今は――
ただ、村が無事であれば。
伝説は、
まだ語られる必要はなかった。
――ゴォン、ゴォン、ゴォン。
けたたましい鐘の音が、ハルネ村中に響き渡る。
昼下がりの空気を切り裂くような、緊急を告げる音だった。
「……なに?」
ルークが顔を上げた瞬間、
家の扉が勢いよく叩かれた。
「エドガー! いるか!」
ミアの父の声だった。
扉を開けると、彼は息を切らし、顔色を変えていた。
「魔物だ……」
一言で、場の空気が凍りつく。
「魔物の群れが、村に向かってる!」
次の瞬間、エドガーは剣を掴んだ。
「リリア」
短く、だが強い声。
「ルークとセシリアを頼む」
「……ええ」
リリアは即座に頷く。
それ以上、言葉は要らなかった。
エドガーは剣を携え、外へ飛び出していく。
同時に、村のあちこちで大人たちが動き出す気配がした。
*
残されたリリア、セシリア、ルークは、
急いで村の避難所へ向かった。
途中、同じ方向へ走る人々の流れの中で、
ミアとその母と合流する。
「……ルーク!」
ミアは不安そうに駆け寄ってきた。
「だいじょうぶ」
ルークはそう言ったが、
胸の奥は、ざわついていた。
(……群れ、か)
鐘の鳴り方からして、数は少なくない。
避難所に到着すると、
すでに多くの村人が集まっていた。
しばらくして――。
「怪我人だ! こっちだ!」
避難所の横に設けられた救護所へ、
次々と怪我人が運び込まれ始める。
血の匂い。
うめき声。
リリアは状況を一目見ると、
セシリアとルークをミアの母シアに託した。
「二人とも、ここにいなさい」
「シア二人を、お願い」
「任せて」
そう言って、リリアは救護所へ駆けていく。
彼女は治癒魔法が使えた。
今、この場で最も必要な力だった。
*
時間が経つにつれ、
救護所の空気は重くなっていった。
「……押されてる」
「魔物の数が多い……!」
そんな声が、断片的に聞こえてくる。
運び込まれる怪我人も、増えている。
(……まずい)
ルークの胸の奥で、警鐘が鳴り続ける。
前線は、苦戦している。
居ても立ってもいられなくなり、
ルークは、すっと立ち上がった。
「……ぼく、いく」
「だめ!」
即座に、セシリアが腕を掴む。
「危ないでしょ!」
「……ルーク、だめ!」
ミアも、必死に止める。
ルークは、二人を見下ろし――
そっと、抱き寄せた。
「……だいじょうぶ」
静かな声だった。
「みんな、たすけてくる」
そして、耳元で囁く。
「……ここ、まもって」
二人の身体が、震えた。
だが――
引き止める言葉は、出なかった。
ルークは、周囲の大人の視線を避け、
人の少ない隙を縫って、避難所を抜け出した。
*
戦闘が行われている場所から、少し離れた森の縁。
ルークは立ち止まり、
深く息を吸う。
(……久しぶりだな)
ここから先は、
“今の時代の魔法”ではない。
だが、選択肢はなかった。
ルークは、地面に魔力を刻むようにして――
召喚術を行使した。
空間が、わずかに歪む。
次の瞬間。
――圧倒的な存在感が、現れた。
蒼い鱗。
巨大な翼。
そして、知性を宿した瞳。
エンシェントドラゴン。
名は――シエル。
女性の声で、穏やかに告げる。
「……お久しぶりです。あるじ様」
ルークは、小さく息を吐いた。
「俺の姿を見ても、動じないんだな」
「魔力が、あるじ様のものですから」
シエルは静かに答える。
「分かります」
ルークは、短く笑った。
「……また、よろしくな」
「はい」
ルークは、状況を簡潔に説明する。
「魔物の群れが、村を襲ってる」
「……一掃できるか?」
シエルの口角が、わずかに上がった。
「御意」
次の瞬間、
彼女は颯爽と空へ舞い上がった。
*
一方、前線。
「……なんだ、あれ……」
戦っていた男の一人が、空を見上げる。
巨大な影が、雲を裂いて迫ってくる。
「……ドラゴン?」
「なんで、こんな所に……!」
絶望が、広がりかけた、その時。
シエルは、魔物の群れへと突入した。
爪が閃き、
翼が薙ぎ、
圧倒的な力で、魔物を討ち伏せていく。
一方的だった。
抵抗は、許されない。
あっという間に、
群れは壊滅した。
シエルは、周囲を一瞥すると、
そのまま空高く舞い上がり――
姿を消した。
*
シエルは、村人たちに見つからぬよう、
姿を不可視にして、ルークの元へ戻ってきた。
「任務、完了しました」
「……助かった」
ルークは、短く礼を言う。
だが――。
(連れてはいけない)
この時代に、
エンシェントドラゴンを置いておくわけにはいかない。
「一度、戻ってくれ」
「承知しました」
シエルは、静かに頷き、
元の住処へと帰還した。
ルークも、急いで避難所へ戻る。
*
「……ルーク?」
シアが、彼の姿を見て、ほっと息を吐いた。
「……よかった」
セシリアとミアも、
何も言わずに、彼にしがみついた。
しばらくして――。
戦いに出ていた男たちが、次々と戻ってくる。
「……あのドラゴン、なんだったんだ?」
「助かったのは確かだが……」
疑問の声が、口々に上がる。
救護所は、しばらく慌ただしかったが、
日没前には落ち着きを取り戻した。
避難していた人々も、
軽傷だった者たちも、
それぞれの家へ帰っていく。
村は――救われた。
誰が救ったのかは、
誰も、正確には知らないまま。
ルークは、夕焼けの空を見上げながら、
静かに思った。
(……切り札は、切った)
だが。
(……まだ、ばれてない)
それでいい。
今は――
ただ、村が無事であれば。
伝説は、
まだ語られる必要はなかった。
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