賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第18話 鐘の音と、空の影

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 それは、前触れもなく起きた。

 ――ゴォン、ゴォン、ゴォン。

 けたたましい鐘の音が、ハルネ村中に響き渡る。
 昼下がりの空気を切り裂くような、緊急を告げる音だった。

「……なに?」

 ルークが顔を上げた瞬間、
 家の扉が勢いよく叩かれた。

「エドガー! いるか!」

 ミアの父の声だった。

 扉を開けると、彼は息を切らし、顔色を変えていた。

「魔物だ……」

 一言で、場の空気が凍りつく。

「魔物の群れが、村に向かってる!」

 次の瞬間、エドガーは剣を掴んだ。

「リリア」

 短く、だが強い声。

「ルークとセシリアを頼む」

「……ええ」

 リリアは即座に頷く。

 それ以上、言葉は要らなかった。

 エドガーは剣を携え、外へ飛び出していく。
 同時に、村のあちこちで大人たちが動き出す気配がした。



 残されたリリア、セシリア、ルークは、
 急いで村の避難所へ向かった。

 途中、同じ方向へ走る人々の流れの中で、
 ミアとその母と合流する。

「……ルーク!」

 ミアは不安そうに駆け寄ってきた。

「だいじょうぶ」

 ルークはそう言ったが、
 胸の奥は、ざわついていた。

(……群れ、か)

 鐘の鳴り方からして、数は少なくない。

 避難所に到着すると、
 すでに多くの村人が集まっていた。

 しばらくして――。

「怪我人だ! こっちだ!」

 避難所の横に設けられた救護所へ、
 次々と怪我人が運び込まれ始める。

 血の匂い。
 うめき声。

 リリアは状況を一目見ると、
 セシリアとルークをミアの母シアに託した。

「二人とも、ここにいなさい」

「シア二人を、お願い」

「任せて」

 そう言って、リリアは救護所へ駆けていく。

 彼女は治癒魔法が使えた。
 今、この場で最も必要な力だった。



 時間が経つにつれ、
 救護所の空気は重くなっていった。

「……押されてる」

「魔物の数が多い……!」

 そんな声が、断片的に聞こえてくる。

 運び込まれる怪我人も、増えている。

(……まずい)

 ルークの胸の奥で、警鐘が鳴り続ける。

 前線は、苦戦している。

 居ても立ってもいられなくなり、
 ルークは、すっと立ち上がった。

「……ぼく、いく」

「だめ!」

 即座に、セシリアが腕を掴む。

「危ないでしょ!」

「……ルーク、だめ!」

 ミアも、必死に止める。

 ルークは、二人を見下ろし――
 そっと、抱き寄せた。

「……だいじょうぶ」

 静かな声だった。

「みんな、たすけてくる」

 そして、耳元で囁く。

「……ここ、まもって」

 二人の身体が、震えた。

 だが――
 引き止める言葉は、出なかった。

 ルークは、周囲の大人の視線を避け、
 人の少ない隙を縫って、避難所を抜け出した。



 戦闘が行われている場所から、少し離れた森の縁。

 ルークは立ち止まり、
 深く息を吸う。

(……久しぶりだな)

 ここから先は、
 “今の時代の魔法”ではない。

 だが、選択肢はなかった。

 ルークは、地面に魔力を刻むようにして――
 召喚術を行使した。

 空間が、わずかに歪む。

 次の瞬間。

 ――圧倒的な存在感が、現れた。

 蒼い鱗。
 巨大な翼。

 そして、知性を宿した瞳。

 エンシェントドラゴン。

 名は――シエル。

 女性の声で、穏やかに告げる。

「……お久しぶりです。あるじ様」

 ルークは、小さく息を吐いた。

「俺の姿を見ても、動じないんだな」

「魔力が、あるじ様のものですから」

 シエルは静かに答える。

「分かります」

 ルークは、短く笑った。

「……また、よろしくな」

「はい」

 ルークは、状況を簡潔に説明する。

「魔物の群れが、村を襲ってる」

「……一掃できるか?」

 シエルの口角が、わずかに上がった。

「御意」

 次の瞬間、
 彼女は颯爽と空へ舞い上がった。



 一方、前線。

「……なんだ、あれ……」

 戦っていた男の一人が、空を見上げる。

 巨大な影が、雲を裂いて迫ってくる。

「……ドラゴン?」

「なんで、こんな所に……!」

 絶望が、広がりかけた、その時。

 シエルは、魔物の群れへと突入した。

 爪が閃き、
 翼が薙ぎ、
 圧倒的な力で、魔物を討ち伏せていく。

 一方的だった。

 抵抗は、許されない。

 あっという間に、
 群れは壊滅した。

 シエルは、周囲を一瞥すると、
 そのまま空高く舞い上がり――
 姿を消した。



 シエルは、村人たちに見つからぬよう、
 姿を不可視にして、ルークの元へ戻ってきた。

「任務、完了しました」

「……助かった」

 ルークは、短く礼を言う。

 だが――。

(連れてはいけない)

 この時代に、
 エンシェントドラゴンを置いておくわけにはいかない。

「一度、戻ってくれ」

「承知しました」

 シエルは、静かに頷き、
 元の住処へと帰還した。

 ルークも、急いで避難所へ戻る。



「……ルーク?」

 シアが、彼の姿を見て、ほっと息を吐いた。

「……よかった」

 セシリアとミアも、
 何も言わずに、彼にしがみついた。

 しばらくして――。

 戦いに出ていた男たちが、次々と戻ってくる。

「……あのドラゴン、なんだったんだ?」

「助かったのは確かだが……」

 疑問の声が、口々に上がる。

 救護所は、しばらく慌ただしかったが、
 日没前には落ち着きを取り戻した。

 避難していた人々も、
 軽傷だった者たちも、
 それぞれの家へ帰っていく。

 村は――救われた。

 誰が救ったのかは、
 誰も、正確には知らないまま。

 ルークは、夕焼けの空を見上げながら、
 静かに思った。

(……切り札は、切った)

 だが。

(……まだ、ばれてない)

 それでいい。

 今は――
 ただ、村が無事であれば。

 伝説は、
 まだ語られる必要はなかった。
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