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第25話 春、旅立ちの日
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春の朝は、少しだけ冷たい。
ハルネ村の空は澄み渡り、
冬を越えた畑には新芽が顔を出し始めていた。
その日――
セシリアは、王立魔法学園の受験のため、
村を出ることになっていた。
*
「ルークぅ……」
朝食を終えた後から、
セシリアはずっとルークのそばを離れなかった。
腕に絡みつき、
背中に張りつき、
しまいには、頬をすり寄せてくる。
「さびしいよー……」
「……おねえちゃん」
ルークは困ったように声を出すが、
今日は強く引き離そうとしなかった。
(……きょう、くらいは)
そう思って、
されるがままにしている。
「だってさ」
セシリアは、頬をすりすりしながら言う。
「明日から、ルークいないんだよ?」
「毎日、一緒に訓練もできないし」
「朝も、夜も……」
言葉の途中で、
声が少し揺れた。
「……だから、今だけ」
ルークは、小さく息を吐き、
セシリアの頭に手を置いた。
「……おねえちゃん」
「がんばってね」
その一言に、
セシリアはぴたりと動きを止めた。
「……うん」
少し間を置いて、
小さく、しかし力強く頷く。
「絶対、がんばる」
「ルークが来たときに、
“まだ子供ね”なんて言われないくらい」
「……それ、むり」
ルークが即答すると、
セシリアは思わず笑った。
「ひどい!」
だが、その笑顔は、
どこか涙を堪えているようだった。
*
出発の時間が近づき、
一家は家の外へ出た。
朝の光の中、
乗合馬車が、すでに待っている。
そのそばに――
ミアの姿があった。
「……ミア?」
セシリアが驚いて声をかける。
「どうしたの?」
ミアは、少し照れたように視線を逸らしながら答えた。
「……見送りに来た」
その目は、
きらきらと光っている。
――涙だ。
「……そっか」
セシリアは、ゆっくりと近づき、
ミアの頭に手を置いた。
昔から、
こうして撫でると、ミアは落ち着く。
「学園で、待ってるから」
「ちゃんと、ルークに教えてもらいなさい」
ミアは、鼻をすすり、
力いっぱい頷いた。
「うん!」
「ちゃんと、強くなる!」
「リアねぇに負けないくらい!」
「……それは、無理ね」
セシリアがくすっと笑う。
その笑顔に、
ミアも、ようやく笑顔を返した。
*
「……そろそろ、時間だ」
エドガーの言葉に、
セシリアは馬車へと向かう。
足をかける前に、
もう一度、振り返った。
そこには――
ルークとミア、
そしてリリアとエドガーが並んで立っている。
全員が、
手を振っていた。
セシリアは、
少しだけ胸を張り、
大きく手を振り返す。
「行ってきます!」
その声は、
村の空気に、はっきりと響いた。
「……いってらっしゃい」
リリアの声。
「無理はするなよ!」
エドガーの声。
ミアは、声を出さず、
ただ大きく手を振っている。
ルークは、
小さな手を振りながら、
にこっと笑った。
馬車が、ゆっくりと動き出す。
車輪が回り、
村の道を進んでいく。
セシリアは、
見えなくなるまで、
ずっと手を振り続けていた。
*
馬車が角を曲がり、
完全に姿を消した後。
しばらく、誰も言葉を発さなかった。
「……行っちゃったね」
ミアが、ぽつりと言う。
「……うん」
ルークは、空を見上げた。
春の空は、
どこまでも広い。
(……はじまったな)
セシリアの学園生活。
そして――
それを追いかける未来。
ルークは、
小さく拳を握った。
約束は、胸にある。
同じ場所に立つ、その日まで。
春の風が、
村を静かに吹き抜けていった。
ハルネ村の空は澄み渡り、
冬を越えた畑には新芽が顔を出し始めていた。
その日――
セシリアは、王立魔法学園の受験のため、
村を出ることになっていた。
*
「ルークぅ……」
朝食を終えた後から、
セシリアはずっとルークのそばを離れなかった。
腕に絡みつき、
背中に張りつき、
しまいには、頬をすり寄せてくる。
「さびしいよー……」
「……おねえちゃん」
ルークは困ったように声を出すが、
今日は強く引き離そうとしなかった。
(……きょう、くらいは)
そう思って、
されるがままにしている。
「だってさ」
セシリアは、頬をすりすりしながら言う。
「明日から、ルークいないんだよ?」
「毎日、一緒に訓練もできないし」
「朝も、夜も……」
言葉の途中で、
声が少し揺れた。
「……だから、今だけ」
ルークは、小さく息を吐き、
セシリアの頭に手を置いた。
「……おねえちゃん」
「がんばってね」
その一言に、
セシリアはぴたりと動きを止めた。
「……うん」
少し間を置いて、
小さく、しかし力強く頷く。
「絶対、がんばる」
「ルークが来たときに、
“まだ子供ね”なんて言われないくらい」
「……それ、むり」
ルークが即答すると、
セシリアは思わず笑った。
「ひどい!」
だが、その笑顔は、
どこか涙を堪えているようだった。
*
出発の時間が近づき、
一家は家の外へ出た。
朝の光の中、
乗合馬車が、すでに待っている。
そのそばに――
ミアの姿があった。
「……ミア?」
セシリアが驚いて声をかける。
「どうしたの?」
ミアは、少し照れたように視線を逸らしながら答えた。
「……見送りに来た」
その目は、
きらきらと光っている。
――涙だ。
「……そっか」
セシリアは、ゆっくりと近づき、
ミアの頭に手を置いた。
昔から、
こうして撫でると、ミアは落ち着く。
「学園で、待ってるから」
「ちゃんと、ルークに教えてもらいなさい」
ミアは、鼻をすすり、
力いっぱい頷いた。
「うん!」
「ちゃんと、強くなる!」
「リアねぇに負けないくらい!」
「……それは、無理ね」
セシリアがくすっと笑う。
その笑顔に、
ミアも、ようやく笑顔を返した。
*
「……そろそろ、時間だ」
エドガーの言葉に、
セシリアは馬車へと向かう。
足をかける前に、
もう一度、振り返った。
そこには――
ルークとミア、
そしてリリアとエドガーが並んで立っている。
全員が、
手を振っていた。
セシリアは、
少しだけ胸を張り、
大きく手を振り返す。
「行ってきます!」
その声は、
村の空気に、はっきりと響いた。
「……いってらっしゃい」
リリアの声。
「無理はするなよ!」
エドガーの声。
ミアは、声を出さず、
ただ大きく手を振っている。
ルークは、
小さな手を振りながら、
にこっと笑った。
馬車が、ゆっくりと動き出す。
車輪が回り、
村の道を進んでいく。
セシリアは、
見えなくなるまで、
ずっと手を振り続けていた。
*
馬車が角を曲がり、
完全に姿を消した後。
しばらく、誰も言葉を発さなかった。
「……行っちゃったね」
ミアが、ぽつりと言う。
「……うん」
ルークは、空を見上げた。
春の空は、
どこまでも広い。
(……はじまったな)
セシリアの学園生活。
そして――
それを追いかける未来。
ルークは、
小さく拳を握った。
約束は、胸にある。
同じ場所に立つ、その日まで。
春の風が、
村を静かに吹き抜けていった。
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