賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第25話 春、旅立ちの日

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 春の朝は、少しだけ冷たい。

 ハルネ村の空は澄み渡り、
 冬を越えた畑には新芽が顔を出し始めていた。

 その日――
 セシリアは、王立魔法学園の受験のため、
 村を出ることになっていた。



「ルークぅ……」

 朝食を終えた後から、
 セシリアはずっとルークのそばを離れなかった。

 腕に絡みつき、
 背中に張りつき、
 しまいには、頬をすり寄せてくる。

「さびしいよー……」

「……おねえちゃん」

 ルークは困ったように声を出すが、
 今日は強く引き離そうとしなかった。

(……きょう、くらいは)

 そう思って、
 されるがままにしている。

「だってさ」

 セシリアは、頬をすりすりしながら言う。

「明日から、ルークいないんだよ?」

「毎日、一緒に訓練もできないし」

「朝も、夜も……」

 言葉の途中で、
 声が少し揺れた。

「……だから、今だけ」

 ルークは、小さく息を吐き、
 セシリアの頭に手を置いた。

「……おねえちゃん」

「がんばってね」

 その一言に、
 セシリアはぴたりと動きを止めた。

「……うん」

 少し間を置いて、
 小さく、しかし力強く頷く。

「絶対、がんばる」

「ルークが来たときに、
 “まだ子供ね”なんて言われないくらい」

「……それ、むり」

 ルークが即答すると、
 セシリアは思わず笑った。

「ひどい!」

 だが、その笑顔は、
 どこか涙を堪えているようだった。



 出発の時間が近づき、
 一家は家の外へ出た。

 朝の光の中、
 乗合馬車が、すでに待っている。

 そのそばに――
 ミアの姿があった。

「……ミア?」

 セシリアが驚いて声をかける。

「どうしたの?」

 ミアは、少し照れたように視線を逸らしながら答えた。

「……見送りに来た」

 その目は、
 きらきらと光っている。

 ――涙だ。

「……そっか」

 セシリアは、ゆっくりと近づき、
 ミアの頭に手を置いた。

 昔から、
 こうして撫でると、ミアは落ち着く。

「学園で、待ってるから」

「ちゃんと、ルークに教えてもらいなさい」

 ミアは、鼻をすすり、
 力いっぱい頷いた。

「うん!」

「ちゃんと、強くなる!」

「リアねぇに負けないくらい!」

「……それは、無理ね」

 セシリアがくすっと笑う。

 その笑顔に、
 ミアも、ようやく笑顔を返した。



「……そろそろ、時間だ」

 エドガーの言葉に、
 セシリアは馬車へと向かう。

 足をかける前に、
 もう一度、振り返った。

 そこには――
 ルークとミア、
 そしてリリアとエドガーが並んで立っている。

 全員が、
 手を振っていた。

 セシリアは、
 少しだけ胸を張り、
 大きく手を振り返す。

「行ってきます!」

 その声は、
 村の空気に、はっきりと響いた。

「……いってらっしゃい」

 リリアの声。

「無理はするなよ!」

 エドガーの声。

 ミアは、声を出さず、
 ただ大きく手を振っている。

 ルークは、
 小さな手を振りながら、
 にこっと笑った。

 馬車が、ゆっくりと動き出す。

 車輪が回り、
 村の道を進んでいく。

 セシリアは、
 見えなくなるまで、
 ずっと手を振り続けていた。



 馬車が角を曲がり、
 完全に姿を消した後。

 しばらく、誰も言葉を発さなかった。

「……行っちゃったね」

 ミアが、ぽつりと言う。

「……うん」

 ルークは、空を見上げた。

 春の空は、
 どこまでも広い。

(……はじまったな)

 セシリアの学園生活。
 そして――
 それを追いかける未来。

 ルークは、
 小さく拳を握った。

 約束は、胸にある。

 同じ場所に立つ、その日まで。

 春の風が、
 村を静かに吹き抜けていった。
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