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第35話 合成の理
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上級魔法の訓練を始めてから、数ヶ月が過ぎていた。
季節はすっかり移り変わり、
村外れの広い訓練場にも、冷たい風が吹く日が増えている。
その日――
ミアは、上級魔法を一通り終え、静かに魔力を収めた。
「……できた」
声は小さいが、
その表情には確かな達成感があった。
指定した地点にのみ作用し、
出力も制御も安定している。
失敗は、もうない。
「……うん」
ルークは、満足そうに頷いた。
「じょうきゅう……あんてい、した」
「ほんと?」
「……ほんと」
その言葉を聞いた瞬間、
ミアは思わず息を吐いた。
「やっと……ここまで来たんだね」
リリアも、少し離れた位置から二人を見て、
静かに頷いていた。
(……ここまで、来たのね)
村の子供としては、
あり得ない速度。
だが、それを当然のように導く少年が、
すぐそばにいる。
*
ひと息ついた後、
ルークは少しだけ表情を変えた。
「……じゃあ」
「つぎ」
ミアが、きょとんとする。
「次?」
ルークは、前に出た。
「……ごうせい、まほう」
リリアの眉が、ぴくりと動く。
「……合成魔法?」
「……うん」
ルークは頷き、
何の詠唱もなく、魔力を巡らせた。
風が集まり、
そこに、熱が重なる。
次の瞬間。
轟音と共に、一直線の炎と爆風が放たれた。
地面を削りながら、
前方へと突き進む。
炎は渦を巻き、
風に煽られ、凄まじい勢いで拡大していく。
「……っ!?」
リリアは、思わず一歩後ずさった。
エクスプロージョンとは、明らかに違う。
爆発的ではあるが、
方向性を持った破壊。
「……これが」
ルークは、淡々と言った。
「かぜ、と、ひ」
「……《ファイアストーム》」
爆風が収まり、
焼け焦げた地面だけが残る。
リリアは、しばらく言葉を失っていた。
(……威力も、性質も……)
(まったく、別物……)
*
「……すご……」
ミアの目は、完全に釘付けだった。
「わたしも、やってみる!」
一歩、前に出ようとした瞬間。
「……まって」
ルークが、即座に止める。
「……え?」
「……いまは、だめ」
「まず……おさえて」
ルークは、指で空中に線を描く。
「ごうせいは……」
「りかい、しないと、あぶない」
ミアは、少しだけ落ち着き、頷いた。
「……分かった」
ルークは、説明を続ける。
「さっきのは……」
「かぜで、ほのおを、つよく、した」
「ながれを、そろえて」
「ひとつの、ほうこうに、だした」
ミアは、真剣な顔で聞いている。
「……つまり」
「強い魔法を、足したんじゃなくて」
「役割を、分けてる?」
「……そう」
短い肯定。
その理解の速さに、
リリアは内心で驚いていた。
*
「……でも」
ミアは、少し考え込み、言った。
「いきなり火は……危ないよね」
「だから……」
「水と風、やってみたい」
ルークは、少し目を見開き、
すぐに頷いた。
「……いい」
「そのほうが……あんぜん」
「……どうやるの?」
ルークは、少し考えてから答える。
「……つめたい、かぜ」
「……みずを、こおらせて」
「……ふぶき」
「それを……ふく、イメージ」
ミアは、目を閉じ、
頭の中で光景を思い描く。
冷たい空気。
舞い散る氷。
視界を覆う白。
「……ねえ」
ふと、ミアが尋ねた。
「合成魔法には……詠唱、ないの?」
「……ない」
即答だった。
ミアは、リリアを見る。
「リリアさんも……使える?」
リリアは、苦笑する。
「いいえ」
「そもそも……合成魔法自体」
「使える人を、私は知らないわ」
「……そっか」
ミアは、改めて、
自分が触れようとしている領域を実感した。
*
だが――
いざやってみると、上手くいかない。
魔力は出ている。
制御もできている。
だが、
風と水が、うまく噛み合わない。
「……むずかしい……」
何度か試し、
ミアは肩を落とした。
「……ルーク」
「……実際に、見せて」
ルークは、少しだけ頷く。
「……いいけど」
「……ちょっと、さむく、なる」
「気をつけて」
そう言うと、
ルークは前に出た。
魔力が流れ、
空気が一気に冷える。
次の瞬間。
白い吹雪が、前方一帯を覆い尽くした。
風に乗って、
氷の粒が舞い、視界を奪う。
体感温度が、急激に下がる。
「……っ、さむ……!」
ミアは、肩をすくめながらも、
必死に目を凝らす。
「……これ」
吹雪が収まる中、
ルークが言った。
「……《ブリザード》」
「……ふぶき、の、イメージ」
ミアは、震えながらも頷いた。
「……分かった……!」
*
すぐに、ミアも挑戦する。
風を起こし、
水を集め、冷やす。
イメージを、重ねる。
――吹雪。
次の瞬間。
白い霧のような冷気が広がり、
氷の粒が、前方へと流れた。
ルークのものほどではない。
だが――
確かに、合成魔法だった。
「……できた……?」
ミアが、不安げに尋ねる。
「……うん」
ルークは、はっきりと言った。
「……せいこう」
ミアの表情が、
一気に明るくなる。
「……やった……!」
リリアは、その光景を見つめながら、
静かに息を吐いた。
(……ここまで、来たのね)
*
その日は、それ以上は行わず、
訓練は終了となった。
合成魔法は、
まだ入り口に立ったばかりだ。
だが――
確かな一歩だった。
夕暮れの中、
三人は村への道を戻っていく。
ミアは、何度も自分の手を見つめながら、
小さく笑っていた。
次の扉は、
もう、すぐそこにある。
それを知りながら――
今日という一日を、胸に刻んでいた。
季節はすっかり移り変わり、
村外れの広い訓練場にも、冷たい風が吹く日が増えている。
その日――
ミアは、上級魔法を一通り終え、静かに魔力を収めた。
「……できた」
声は小さいが、
その表情には確かな達成感があった。
指定した地点にのみ作用し、
出力も制御も安定している。
失敗は、もうない。
「……うん」
ルークは、満足そうに頷いた。
「じょうきゅう……あんてい、した」
「ほんと?」
「……ほんと」
その言葉を聞いた瞬間、
ミアは思わず息を吐いた。
「やっと……ここまで来たんだね」
リリアも、少し離れた位置から二人を見て、
静かに頷いていた。
(……ここまで、来たのね)
村の子供としては、
あり得ない速度。
だが、それを当然のように導く少年が、
すぐそばにいる。
*
ひと息ついた後、
ルークは少しだけ表情を変えた。
「……じゃあ」
「つぎ」
ミアが、きょとんとする。
「次?」
ルークは、前に出た。
「……ごうせい、まほう」
リリアの眉が、ぴくりと動く。
「……合成魔法?」
「……うん」
ルークは頷き、
何の詠唱もなく、魔力を巡らせた。
風が集まり、
そこに、熱が重なる。
次の瞬間。
轟音と共に、一直線の炎と爆風が放たれた。
地面を削りながら、
前方へと突き進む。
炎は渦を巻き、
風に煽られ、凄まじい勢いで拡大していく。
「……っ!?」
リリアは、思わず一歩後ずさった。
エクスプロージョンとは、明らかに違う。
爆発的ではあるが、
方向性を持った破壊。
「……これが」
ルークは、淡々と言った。
「かぜ、と、ひ」
「……《ファイアストーム》」
爆風が収まり、
焼け焦げた地面だけが残る。
リリアは、しばらく言葉を失っていた。
(……威力も、性質も……)
(まったく、別物……)
*
「……すご……」
ミアの目は、完全に釘付けだった。
「わたしも、やってみる!」
一歩、前に出ようとした瞬間。
「……まって」
ルークが、即座に止める。
「……え?」
「……いまは、だめ」
「まず……おさえて」
ルークは、指で空中に線を描く。
「ごうせいは……」
「りかい、しないと、あぶない」
ミアは、少しだけ落ち着き、頷いた。
「……分かった」
ルークは、説明を続ける。
「さっきのは……」
「かぜで、ほのおを、つよく、した」
「ながれを、そろえて」
「ひとつの、ほうこうに、だした」
ミアは、真剣な顔で聞いている。
「……つまり」
「強い魔法を、足したんじゃなくて」
「役割を、分けてる?」
「……そう」
短い肯定。
その理解の速さに、
リリアは内心で驚いていた。
*
「……でも」
ミアは、少し考え込み、言った。
「いきなり火は……危ないよね」
「だから……」
「水と風、やってみたい」
ルークは、少し目を見開き、
すぐに頷いた。
「……いい」
「そのほうが……あんぜん」
「……どうやるの?」
ルークは、少し考えてから答える。
「……つめたい、かぜ」
「……みずを、こおらせて」
「……ふぶき」
「それを……ふく、イメージ」
ミアは、目を閉じ、
頭の中で光景を思い描く。
冷たい空気。
舞い散る氷。
視界を覆う白。
「……ねえ」
ふと、ミアが尋ねた。
「合成魔法には……詠唱、ないの?」
「……ない」
即答だった。
ミアは、リリアを見る。
「リリアさんも……使える?」
リリアは、苦笑する。
「いいえ」
「そもそも……合成魔法自体」
「使える人を、私は知らないわ」
「……そっか」
ミアは、改めて、
自分が触れようとしている領域を実感した。
*
だが――
いざやってみると、上手くいかない。
魔力は出ている。
制御もできている。
だが、
風と水が、うまく噛み合わない。
「……むずかしい……」
何度か試し、
ミアは肩を落とした。
「……ルーク」
「……実際に、見せて」
ルークは、少しだけ頷く。
「……いいけど」
「……ちょっと、さむく、なる」
「気をつけて」
そう言うと、
ルークは前に出た。
魔力が流れ、
空気が一気に冷える。
次の瞬間。
白い吹雪が、前方一帯を覆い尽くした。
風に乗って、
氷の粒が舞い、視界を奪う。
体感温度が、急激に下がる。
「……っ、さむ……!」
ミアは、肩をすくめながらも、
必死に目を凝らす。
「……これ」
吹雪が収まる中、
ルークが言った。
「……《ブリザード》」
「……ふぶき、の、イメージ」
ミアは、震えながらも頷いた。
「……分かった……!」
*
すぐに、ミアも挑戦する。
風を起こし、
水を集め、冷やす。
イメージを、重ねる。
――吹雪。
次の瞬間。
白い霧のような冷気が広がり、
氷の粒が、前方へと流れた。
ルークのものほどではない。
だが――
確かに、合成魔法だった。
「……できた……?」
ミアが、不安げに尋ねる。
「……うん」
ルークは、はっきりと言った。
「……せいこう」
ミアの表情が、
一気に明るくなる。
「……やった……!」
リリアは、その光景を見つめながら、
静かに息を吐いた。
(……ここまで、来たのね)
*
その日は、それ以上は行わず、
訓練は終了となった。
合成魔法は、
まだ入り口に立ったばかりだ。
だが――
確かな一歩だった。
夕暮れの中、
三人は村への道を戻っていく。
ミアは、何度も自分の手を見つめながら、
小さく笑っていた。
次の扉は、
もう、すぐそこにある。
それを知りながら――
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