賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第35話 合成の理

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 上級魔法の訓練を始めてから、数ヶ月が過ぎていた。

 季節はすっかり移り変わり、
 村外れの広い訓練場にも、冷たい風が吹く日が増えている。

 その日――
 ミアは、上級魔法を一通り終え、静かに魔力を収めた。

「……できた」

 声は小さいが、
 その表情には確かな達成感があった。

 指定した地点にのみ作用し、
 出力も制御も安定している。

 失敗は、もうない。

「……うん」

 ルークは、満足そうに頷いた。

「じょうきゅう……あんてい、した」

「ほんと?」

「……ほんと」

 その言葉を聞いた瞬間、
 ミアは思わず息を吐いた。

「やっと……ここまで来たんだね」

 リリアも、少し離れた位置から二人を見て、
 静かに頷いていた。

(……ここまで、来たのね)

 村の子供としては、
 あり得ない速度。

 だが、それを当然のように導く少年が、
 すぐそばにいる。



 ひと息ついた後、
 ルークは少しだけ表情を変えた。

「……じゃあ」

「つぎ」

 ミアが、きょとんとする。

「次?」

 ルークは、前に出た。

「……ごうせい、まほう」

 リリアの眉が、ぴくりと動く。

「……合成魔法?」

「……うん」

 ルークは頷き、
 何の詠唱もなく、魔力を巡らせた。

 風が集まり、
 そこに、熱が重なる。

 次の瞬間。

 轟音と共に、一直線の炎と爆風が放たれた。

 地面を削りながら、
 前方へと突き進む。

 炎は渦を巻き、
 風に煽られ、凄まじい勢いで拡大していく。

「……っ!?」

 リリアは、思わず一歩後ずさった。

 エクスプロージョンとは、明らかに違う。

 爆発的ではあるが、
 方向性を持った破壊。

「……これが」

 ルークは、淡々と言った。

「かぜ、と、ひ」

「……《ファイアストーム》」

 爆風が収まり、
 焼け焦げた地面だけが残る。

 リリアは、しばらく言葉を失っていた。

(……威力も、性質も……)

(まったく、別物……)



「……すご……」

 ミアの目は、完全に釘付けだった。

「わたしも、やってみる!」

 一歩、前に出ようとした瞬間。

「……まって」

 ルークが、即座に止める。

「……え?」

「……いまは、だめ」

「まず……おさえて」

 ルークは、指で空中に線を描く。

「ごうせいは……」

「りかい、しないと、あぶない」

 ミアは、少しだけ落ち着き、頷いた。

「……分かった」

 ルークは、説明を続ける。

「さっきのは……」

「かぜで、ほのおを、つよく、した」

「ながれを、そろえて」

「ひとつの、ほうこうに、だした」

 ミアは、真剣な顔で聞いている。

「……つまり」

「強い魔法を、足したんじゃなくて」

「役割を、分けてる?」

「……そう」

 短い肯定。

 その理解の速さに、
 リリアは内心で驚いていた。



「……でも」

 ミアは、少し考え込み、言った。

「いきなり火は……危ないよね」

「だから……」

「水と風、やってみたい」

 ルークは、少し目を見開き、
 すぐに頷いた。

「……いい」

「そのほうが……あんぜん」

「……どうやるの?」

 ルークは、少し考えてから答える。

「……つめたい、かぜ」

「……みずを、こおらせて」

「……ふぶき」

「それを……ふく、イメージ」

 ミアは、目を閉じ、
 頭の中で光景を思い描く。

 冷たい空気。
 舞い散る氷。
 視界を覆う白。

「……ねえ」

 ふと、ミアが尋ねた。

「合成魔法には……詠唱、ないの?」

「……ない」

 即答だった。

 ミアは、リリアを見る。

「リリアさんも……使える?」

 リリアは、苦笑する。

「いいえ」

「そもそも……合成魔法自体」

「使える人を、私は知らないわ」

「……そっか」

 ミアは、改めて、
 自分が触れようとしている領域を実感した。



 だが――
 いざやってみると、上手くいかない。

 魔力は出ている。
 制御もできている。

 だが、
 風と水が、うまく噛み合わない。

「……むずかしい……」

 何度か試し、
 ミアは肩を落とした。

「……ルーク」

「……実際に、見せて」

 ルークは、少しだけ頷く。

「……いいけど」

「……ちょっと、さむく、なる」

「気をつけて」

 そう言うと、
 ルークは前に出た。

 魔力が流れ、
 空気が一気に冷える。

 次の瞬間。

 白い吹雪が、前方一帯を覆い尽くした。

 風に乗って、
 氷の粒が舞い、視界を奪う。

 体感温度が、急激に下がる。

「……っ、さむ……!」

 ミアは、肩をすくめながらも、
 必死に目を凝らす。

「……これ」

 吹雪が収まる中、
 ルークが言った。

「……《ブリザード》」

「……ふぶき、の、イメージ」

 ミアは、震えながらも頷いた。

「……分かった……!」



 すぐに、ミアも挑戦する。

 風を起こし、
 水を集め、冷やす。

 イメージを、重ねる。

 ――吹雪。

 次の瞬間。

 白い霧のような冷気が広がり、
 氷の粒が、前方へと流れた。

 ルークのものほどではない。

 だが――
 確かに、合成魔法だった。

「……できた……?」

 ミアが、不安げに尋ねる。

「……うん」

 ルークは、はっきりと言った。

「……せいこう」

 ミアの表情が、
 一気に明るくなる。

「……やった……!」

 リリアは、その光景を見つめながら、
 静かに息を吐いた。

(……ここまで、来たのね)



 その日は、それ以上は行わず、
 訓練は終了となった。

 合成魔法は、
 まだ入り口に立ったばかりだ。

 だが――
 確かな一歩だった。

 夕暮れの中、
 三人は村への道を戻っていく。

 ミアは、何度も自分の手を見つめながら、
 小さく笑っていた。

 次の扉は、
 もう、すぐそこにある。

 それを知りながら――
 今日という一日を、胸に刻んでいた。
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