33 / 48
第34話 上級の壁
しおりを挟む
翌朝。
空はよく晴れており、
春の風が穏やかに吹いていた。
ルーク、リリア、ミアの三人は、
村から少し離れた場所へと向かっていた。
そこは、開けた平原だった。
周囲に人家はなく、
多少の衝撃や爆音があっても問題にならない。
「……ここなら、だいじょうぶ」
ルークは、周囲を見渡してそう言った。
ミアは、緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らす。
「……いよいよ、上級魔法だね」
「ええ」
リリアは頷き、
少し離れた位置から二人を見守る。
「何かあったら、すぐ止めるわ」
その言葉に、
ミアは少し安心したように肩の力を抜いた。
*
「……まずは、ぼくがやる」
ルークは一歩前に出た。
小さな身体だが、
立ち姿には迷いがない。
まず、詠唱。
静かな声で、
正確に、淀みなく。
魔力が集まり、
空気が震える。
「――上級魔法
《エクスプロージョン》」
次の瞬間。
指定した地点で、
凄まじい爆発が起きた。
地面が抉れ、
衝撃波が周囲に広がる。
ミアは思わず目を見開いた。
「……すご……」
リリアも、内心で息を呑む。
(詠唱付きで、これ……)
だが、ルークはそこで終わらなかった。
同じ位置に向けて、
今度は詠唱を省く。
――無詠唱。
一切の言葉なく、
ただ魔力を解き放つ。
次の瞬間。
先ほどと、
まったく同じ規模の爆発が起きた。
威力も、精度も、
詠唱付きと変わらない。
「……かわらない、でしょ」
ルークは、淡々と言った。
ミアは、思わず拳を握る。
(……あれを、わたしが)
*
「……じゃあ、つぎ」
ルークはミアを振り返った。
「まずは……えいしょう、つき」
「うん……!」
ミアは深く息を吸い、
集中する。
中級までなら、
何度も成功してきた。
(大丈夫……)
詠唱を始める。
だが――。
魔力は集まったものの、
最後まで形にならず。
不発。
何も起きなかった。
「……え?」
ミアは目を瞬かせる。
「……なんで……」
肩が、わずかに震えた。
ルークは、すぐに状況を見極める。
「……まりょく、たりない」
「もっと、だして、いい」
「……こわく、ない?」
「……だいじょうぶ」
ミアは、唇を噛みしめ――
頷いた。
再び魔力を巡らせる。
今度は、
先ほどよりも多く。
身体の奥から、
一気に引き出す。
「――っ!」
放たれた魔法は――
発動した。
だが。
狙った地点から、
大きく逸れた方向へ。
次の瞬間。
轟音と共に、大爆発。
地面が砕け、
無数の石片が空を舞った。
「……っ!」
ルークは即座に動いた。
「――しょうへき!」
瞬時に展開された障壁が、
三人を包み込む。
石が、
雨のように降り注ぐ。
だが、
すべて弾かれた。
数秒後、
爆風が収まり、静寂が戻る。
「……だいじょうぶ?」
ルークが振り返る。
ミアは、
青ざめた顔で頷いた。
「……うん……」
だが、
声が震えている。
*
その後も、何度か試した。
だが――
出力が足りなかったり、
逆に多すぎたり。
狙いが定まらず、
成功には至らない。
最後には、
ミアの目に涙が浮かんでいた。
「……やっぱり……」
「……むずかしい……」
俯くミアの頭に、
ルークはそっと手を置いた。
「……だいじょうぶ」
優しい声。
「……きょう、はじめて」
「できなくて、あたりまえ」
ミアは、
目をこすりながら顔を上げる。
「……ほんと?」
「……ほんと」
ルークは、はっきりと頷いた。
「……あせらなくて、いい」
「じかん、かけよう」
リリアも、一歩近づいた。
「そうね」
穏やかに、微笑む。
「ミアなら、できるわ」
「今日できなかったからって、
何も変わらない」
その言葉に、
ミアの胸が少しだけ軽くなる。
「……うん」
涙を拭い、
小さく頷いた。
*
上級魔法は、
確かに高い壁だった。
だが――
越えられない壁ではない。
ルークは、
ミアの背中を見ながら思う。
(……ちゃんと、のぼれる)
(……ゆっくり、で、いい)
空には、
変わらず穏やかな青が広がっていた。
その下で、
また一つ、確かな一歩が刻まれていた。
空はよく晴れており、
春の風が穏やかに吹いていた。
ルーク、リリア、ミアの三人は、
村から少し離れた場所へと向かっていた。
そこは、開けた平原だった。
周囲に人家はなく、
多少の衝撃や爆音があっても問題にならない。
「……ここなら、だいじょうぶ」
ルークは、周囲を見渡してそう言った。
ミアは、緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らす。
「……いよいよ、上級魔法だね」
「ええ」
リリアは頷き、
少し離れた位置から二人を見守る。
「何かあったら、すぐ止めるわ」
その言葉に、
ミアは少し安心したように肩の力を抜いた。
*
「……まずは、ぼくがやる」
ルークは一歩前に出た。
小さな身体だが、
立ち姿には迷いがない。
まず、詠唱。
静かな声で、
正確に、淀みなく。
魔力が集まり、
空気が震える。
「――上級魔法
《エクスプロージョン》」
次の瞬間。
指定した地点で、
凄まじい爆発が起きた。
地面が抉れ、
衝撃波が周囲に広がる。
ミアは思わず目を見開いた。
「……すご……」
リリアも、内心で息を呑む。
(詠唱付きで、これ……)
だが、ルークはそこで終わらなかった。
同じ位置に向けて、
今度は詠唱を省く。
――無詠唱。
一切の言葉なく、
ただ魔力を解き放つ。
次の瞬間。
先ほどと、
まったく同じ規模の爆発が起きた。
威力も、精度も、
詠唱付きと変わらない。
「……かわらない、でしょ」
ルークは、淡々と言った。
ミアは、思わず拳を握る。
(……あれを、わたしが)
*
「……じゃあ、つぎ」
ルークはミアを振り返った。
「まずは……えいしょう、つき」
「うん……!」
ミアは深く息を吸い、
集中する。
中級までなら、
何度も成功してきた。
(大丈夫……)
詠唱を始める。
だが――。
魔力は集まったものの、
最後まで形にならず。
不発。
何も起きなかった。
「……え?」
ミアは目を瞬かせる。
「……なんで……」
肩が、わずかに震えた。
ルークは、すぐに状況を見極める。
「……まりょく、たりない」
「もっと、だして、いい」
「……こわく、ない?」
「……だいじょうぶ」
ミアは、唇を噛みしめ――
頷いた。
再び魔力を巡らせる。
今度は、
先ほどよりも多く。
身体の奥から、
一気に引き出す。
「――っ!」
放たれた魔法は――
発動した。
だが。
狙った地点から、
大きく逸れた方向へ。
次の瞬間。
轟音と共に、大爆発。
地面が砕け、
無数の石片が空を舞った。
「……っ!」
ルークは即座に動いた。
「――しょうへき!」
瞬時に展開された障壁が、
三人を包み込む。
石が、
雨のように降り注ぐ。
だが、
すべて弾かれた。
数秒後、
爆風が収まり、静寂が戻る。
「……だいじょうぶ?」
ルークが振り返る。
ミアは、
青ざめた顔で頷いた。
「……うん……」
だが、
声が震えている。
*
その後も、何度か試した。
だが――
出力が足りなかったり、
逆に多すぎたり。
狙いが定まらず、
成功には至らない。
最後には、
ミアの目に涙が浮かんでいた。
「……やっぱり……」
「……むずかしい……」
俯くミアの頭に、
ルークはそっと手を置いた。
「……だいじょうぶ」
優しい声。
「……きょう、はじめて」
「できなくて、あたりまえ」
ミアは、
目をこすりながら顔を上げる。
「……ほんと?」
「……ほんと」
ルークは、はっきりと頷いた。
「……あせらなくて、いい」
「じかん、かけよう」
リリアも、一歩近づいた。
「そうね」
穏やかに、微笑む。
「ミアなら、できるわ」
「今日できなかったからって、
何も変わらない」
その言葉に、
ミアの胸が少しだけ軽くなる。
「……うん」
涙を拭い、
小さく頷いた。
*
上級魔法は、
確かに高い壁だった。
だが――
越えられない壁ではない。
ルークは、
ミアの背中を見ながら思う。
(……ちゃんと、のぼれる)
(……ゆっくり、で、いい)
空には、
変わらず穏やかな青が広がっていた。
その下で、
また一つ、確かな一歩が刻まれていた。
0
あなたにおすすめの小説
2週目の人生ですが、生きていた世界にファンタジーがあるとは思ってなかった
竹桜
ファンタジー
1人で生きていた男はある事故に巻き込まれて、死んでしまった。
何故か、男は生きていた世界に転生したのだ。
2週目の人生を始めたが、あまり何も変わらなかった。
ある出会いと共に男はファンタジーに巻き込まれていく。
1周目と2週目で生きていた世界で。
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~
アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる