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第33話 上級への扉
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ミアが中級魔法を一通り扱えるようになってから、
すでに二年ほどの月日が流れていた。
季節は何度も巡り、
ハルネ村の畑も、森も、道も、
それに合わせて少しずつ表情を変えていく。
だが――
村外れの訓練場で積み重ねられてきた努力だけは、
確かに、形となって残っていた。
*
「……これで、全部」
ミアは額の汗を拭いながら、
最後の魔法を終えた。
火、風、水、土。
どれも中級魔法として、安定した出力と制御を保っている。
「……うん」
ルークは、静かに頷いた。
「ちゅうきゅう……かんぺき」
「ほんと?」
ミアは、ぱっと顔を輝かせる。
「……ほんと」
その短い肯定に、
ミアは思わず笑顔を弾かせた。
「やった!」
だが、喜びも束の間――
ルークは、少しだけ視線を逸らし、考え込む。
(……つぎ、どうする)
ミアの魔力量。
制御力。
魔力感知の精度。
どれを取っても、
上級魔法へ進める条件は、すでに満たしていた。
だが、問題は別にある。
(……ばしょ、が、ない)
上級魔法は、
中級とは比べ物にならないほど危険だ。
暴発すれば、
人が怪我をするどころか、
地形そのものを変えてしまう可能性すらある。
村の中では、論外。
森も、近すぎる。
ルークは、
そのことをずっと考えていた。
*
その日の夕方。
家に戻ったルークは、
縁側に座ったまま、ぼんやりと空を眺めていた。
「……ルーク?」
声をかけたのは、リリアだった。
料理の手を止め、
穏やかな表情で近づいてくる。
「何か、悩んでる?」
ルークは、一瞬迷った後、
正直に話すことにした。
「……ミア、じょうきゅう、いける」
「でも……」
「ばしょ、ない」
拙い言葉ながら、
要点はしっかり伝わる。
リリアは、少し考え込み――
やがて、思い出したように言った。
「……村から、少し行ったところにね」
「かなり広い場所があるの」
「昔は、開拓に使われてたけど、
今はほとんど誰も行かないわ」
ルークの目が、ぱっと開かれる。
「……そこ、なら?」
「ええ」
リリアは頷いた。
「周囲に人もいないし、
万が一の時も、被害は最小限で済むと思う」
「……じゃあ」
ルークの表情が、少し明るくなる。
「そこで、できるね」
だが、リリアはそこで、
ぴしりと表情を引き締めた。
「でも、条件があるわ」
「……なに?」
「上級魔法は、かなり危険よ」
「だから――」
ルークの目を、しっかりと見据える。
「必ず、私がいる時にしか使っちゃダメ」
「約束できる?」
その声音は、
母としてのものだった。
ルークは、迷わず頷く。
「……わかった」
「やくそく、する」
その即答に、
リリアは小さく息を吐き、微笑んだ。
「よし」
*
その後。
リリアは、ミアの家を訪ねた。
夕暮れ時の家の中で、
シアは驚いた顔を見せる。
「……え?」
「ミアが……上級魔法?」
「ええ」
リリアは、静かに頷いた。
「中級は、もう安定してる」
「次の段階に進んでも、問題ないと思うわ」
シアは、しばらく言葉を失った後、
胸に手を当てた。
「……そんなに、成長してたのね」
驚きと同時に、
こみ上げてくる感情。
「……すごい」
「……あの子が」
声が、少し震えている。
だが、すぐに我に返り、
不安げに尋ねた。
「……でも、危なくない?」
「もちろん、危険よ」
リリアは、正直に答えた。
「だから、
必ず私がそばにいる時だけって、
ルークとも約束してる」
その言葉に、
シアは、ほっと息をついた。
「……それなら」
「安心、ね」
そして、ふっと微笑む。
「最近ね」
「ミア、学園に行くために、
勉強もすごく頑張ってるの」
「夜遅くまで、
魔法理論の本を読んでるわ」
誇らしげな声。
リリアも、嬉しそうに頷いた。
「……ええ」
「ちゃんと、前を見てるわ」
*
その夜。
ルークは、自分の部屋で一人、
静かに考えていた。
(……じょうきゅう)
それは、
力が一段階、別の領域へ踏み込むことを意味する。
慎重さが、必要だ。
だが――
もう、止まる理由はなかった。
(……だいじょうぶ)
(……ちゃんと、まもる)
約束は、守る。
だからこそ、進める。
窓の外では、
星が静かに瞬いていた。
それはまるで、
次に開かれる扉を、
黙って見守っているかのようだった。
すでに二年ほどの月日が流れていた。
季節は何度も巡り、
ハルネ村の畑も、森も、道も、
それに合わせて少しずつ表情を変えていく。
だが――
村外れの訓練場で積み重ねられてきた努力だけは、
確かに、形となって残っていた。
*
「……これで、全部」
ミアは額の汗を拭いながら、
最後の魔法を終えた。
火、風、水、土。
どれも中級魔法として、安定した出力と制御を保っている。
「……うん」
ルークは、静かに頷いた。
「ちゅうきゅう……かんぺき」
「ほんと?」
ミアは、ぱっと顔を輝かせる。
「……ほんと」
その短い肯定に、
ミアは思わず笑顔を弾かせた。
「やった!」
だが、喜びも束の間――
ルークは、少しだけ視線を逸らし、考え込む。
(……つぎ、どうする)
ミアの魔力量。
制御力。
魔力感知の精度。
どれを取っても、
上級魔法へ進める条件は、すでに満たしていた。
だが、問題は別にある。
(……ばしょ、が、ない)
上級魔法は、
中級とは比べ物にならないほど危険だ。
暴発すれば、
人が怪我をするどころか、
地形そのものを変えてしまう可能性すらある。
村の中では、論外。
森も、近すぎる。
ルークは、
そのことをずっと考えていた。
*
その日の夕方。
家に戻ったルークは、
縁側に座ったまま、ぼんやりと空を眺めていた。
「……ルーク?」
声をかけたのは、リリアだった。
料理の手を止め、
穏やかな表情で近づいてくる。
「何か、悩んでる?」
ルークは、一瞬迷った後、
正直に話すことにした。
「……ミア、じょうきゅう、いける」
「でも……」
「ばしょ、ない」
拙い言葉ながら、
要点はしっかり伝わる。
リリアは、少し考え込み――
やがて、思い出したように言った。
「……村から、少し行ったところにね」
「かなり広い場所があるの」
「昔は、開拓に使われてたけど、
今はほとんど誰も行かないわ」
ルークの目が、ぱっと開かれる。
「……そこ、なら?」
「ええ」
リリアは頷いた。
「周囲に人もいないし、
万が一の時も、被害は最小限で済むと思う」
「……じゃあ」
ルークの表情が、少し明るくなる。
「そこで、できるね」
だが、リリアはそこで、
ぴしりと表情を引き締めた。
「でも、条件があるわ」
「……なに?」
「上級魔法は、かなり危険よ」
「だから――」
ルークの目を、しっかりと見据える。
「必ず、私がいる時にしか使っちゃダメ」
「約束できる?」
その声音は、
母としてのものだった。
ルークは、迷わず頷く。
「……わかった」
「やくそく、する」
その即答に、
リリアは小さく息を吐き、微笑んだ。
「よし」
*
その後。
リリアは、ミアの家を訪ねた。
夕暮れ時の家の中で、
シアは驚いた顔を見せる。
「……え?」
「ミアが……上級魔法?」
「ええ」
リリアは、静かに頷いた。
「中級は、もう安定してる」
「次の段階に進んでも、問題ないと思うわ」
シアは、しばらく言葉を失った後、
胸に手を当てた。
「……そんなに、成長してたのね」
驚きと同時に、
こみ上げてくる感情。
「……すごい」
「……あの子が」
声が、少し震えている。
だが、すぐに我に返り、
不安げに尋ねた。
「……でも、危なくない?」
「もちろん、危険よ」
リリアは、正直に答えた。
「だから、
必ず私がそばにいる時だけって、
ルークとも約束してる」
その言葉に、
シアは、ほっと息をついた。
「……それなら」
「安心、ね」
そして、ふっと微笑む。
「最近ね」
「ミア、学園に行くために、
勉強もすごく頑張ってるの」
「夜遅くまで、
魔法理論の本を読んでるわ」
誇らしげな声。
リリアも、嬉しそうに頷いた。
「……ええ」
「ちゃんと、前を見てるわ」
*
その夜。
ルークは、自分の部屋で一人、
静かに考えていた。
(……じょうきゅう)
それは、
力が一段階、別の領域へ踏み込むことを意味する。
慎重さが、必要だ。
だが――
もう、止まる理由はなかった。
(……だいじょうぶ)
(……ちゃんと、まもる)
約束は、守る。
だからこそ、進める。
窓の外では、
星が静かに瞬いていた。
それはまるで、
次に開かれる扉を、
黙って見守っているかのようだった。
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