賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第33話 上級への扉

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 ミアが中級魔法を一通り扱えるようになってから、
 すでに二年ほどの月日が流れていた。

 季節は何度も巡り、
 ハルネ村の畑も、森も、道も、
 それに合わせて少しずつ表情を変えていく。

 だが――
 村外れの訓練場で積み重ねられてきた努力だけは、
 確かに、形となって残っていた。



「……これで、全部」

 ミアは額の汗を拭いながら、
 最後の魔法を終えた。

 火、風、水、土。
 どれも中級魔法として、安定した出力と制御を保っている。

「……うん」

 ルークは、静かに頷いた。

「ちゅうきゅう……かんぺき」

「ほんと?」

 ミアは、ぱっと顔を輝かせる。

「……ほんと」

 その短い肯定に、
 ミアは思わず笑顔を弾かせた。

「やった!」

 だが、喜びも束の間――
 ルークは、少しだけ視線を逸らし、考え込む。

(……つぎ、どうする)

 ミアの魔力量。
 制御力。
 魔力感知の精度。

 どれを取っても、
 上級魔法へ進める条件は、すでに満たしていた。

 だが、問題は別にある。

(……ばしょ、が、ない)

 上級魔法は、
 中級とは比べ物にならないほど危険だ。

 暴発すれば、
 人が怪我をするどころか、
 地形そのものを変えてしまう可能性すらある。

 村の中では、論外。
 森も、近すぎる。

 ルークは、
 そのことをずっと考えていた。



 その日の夕方。

 家に戻ったルークは、
 縁側に座ったまま、ぼんやりと空を眺めていた。

「……ルーク?」

 声をかけたのは、リリアだった。

 料理の手を止め、
 穏やかな表情で近づいてくる。

「何か、悩んでる?」

 ルークは、一瞬迷った後、
 正直に話すことにした。

「……ミア、じょうきゅう、いける」

「でも……」

「ばしょ、ない」

 拙い言葉ながら、
 要点はしっかり伝わる。

 リリアは、少し考え込み――
 やがて、思い出したように言った。

「……村から、少し行ったところにね」

「かなり広い場所があるの」

「昔は、開拓に使われてたけど、
 今はほとんど誰も行かないわ」

 ルークの目が、ぱっと開かれる。

「……そこ、なら?」

「ええ」

 リリアは頷いた。

「周囲に人もいないし、
 万が一の時も、被害は最小限で済むと思う」

「……じゃあ」

 ルークの表情が、少し明るくなる。

「そこで、できるね」

 だが、リリアはそこで、
 ぴしりと表情を引き締めた。

「でも、条件があるわ」

「……なに?」

「上級魔法は、かなり危険よ」

「だから――」

 ルークの目を、しっかりと見据える。

「必ず、私がいる時にしか使っちゃダメ」

「約束できる?」

 その声音は、
 母としてのものだった。

 ルークは、迷わず頷く。

「……わかった」

「やくそく、する」

 その即答に、
 リリアは小さく息を吐き、微笑んだ。

「よし」



 その後。

 リリアは、ミアの家を訪ねた。

 夕暮れ時の家の中で、
 シアは驚いた顔を見せる。

「……え?」

「ミアが……上級魔法?」

「ええ」

 リリアは、静かに頷いた。

「中級は、もう安定してる」

「次の段階に進んでも、問題ないと思うわ」

 シアは、しばらく言葉を失った後、
 胸に手を当てた。

「……そんなに、成長してたのね」

 驚きと同時に、
 こみ上げてくる感情。

「……すごい」

「……あの子が」

 声が、少し震えている。

 だが、すぐに我に返り、
 不安げに尋ねた。

「……でも、危なくない?」

「もちろん、危険よ」

 リリアは、正直に答えた。

「だから、
 必ず私がそばにいる時だけって、
 ルークとも約束してる」

 その言葉に、
 シアは、ほっと息をついた。

「……それなら」

「安心、ね」

 そして、ふっと微笑む。

「最近ね」

「ミア、学園に行くために、
 勉強もすごく頑張ってるの」

「夜遅くまで、
 魔法理論の本を読んでるわ」

 誇らしげな声。

 リリアも、嬉しそうに頷いた。

「……ええ」

「ちゃんと、前を見てるわ」



 その夜。

 ルークは、自分の部屋で一人、
 静かに考えていた。

(……じょうきゅう)

 それは、
 力が一段階、別の領域へ踏み込むことを意味する。

 慎重さが、必要だ。

 だが――
 もう、止まる理由はなかった。

(……だいじょうぶ)

(……ちゃんと、まもる)

 約束は、守る。

 だからこそ、進める。

 窓の外では、
 星が静かに瞬いていた。

 それはまるで、
 次に開かれる扉を、
 黙って見守っているかのようだった。
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