賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

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第49話 積み重ねる者たち

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 ルークたちが合成魔法の訓練をしている一方、訓練所の一角。

 派手な爆音も、氷雪も、砂嵐もない。

 あるのは――
 静かな集中だけだった。

 ネマとサリアは、向かい合うように立ち、目を閉じている。

「……魔力感知」

 アインの低い声が響く。

「自分の魔力の“位置”を意識しろ」

「量を見るな。流れを追え」

 二人はゆっくりと呼吸を整え、意識を内側へ沈めていく。

 ネマの魔力は、量が多い。

 だがその分、流れはやや粗い。

 一方のサリアは、量こそ控えめだが、
 魔力は細く、均一に巡っている。

(……対照的だな)

 アインは腕を組みながら、二人を観察していた。

「次、体内循環」

「魔力を心臓から四肢へ、そして戻せ」

「速さは求めるな。途切れないことが最優先だ」

 ネマの額に、うっすらと汗が浮かぶ。

 魔力量が多い分、制御には神経を使う。

(……流れすぎる)

(……抑えろ……)

 サリアは、慎重に魔力を巡らせている。

 こちらは逆に、出力が足りない。

(……もう少し、前へ)

(……押し出す……)

「いい」

 アインが短く評価する。

「二人とも、魔力感知と循環は及第点だ」

「では次――」

 少し間を置いて、告げた。

「体外放出だ」

 ネマとサリアの表情が、わずかに強張る。

 現代魔法では、ほとんど意識されない工程。

 詠唱を前提とする限り、
 体内で完結していれば問題ない。

 だが――
 無詠唱を目指すなら、避けては通れない。

「怖がるな」

 アインは言った。

「放出といっても、暴発させる必要はない」

「“外に出す感覚”を掴めばいい」

「最初は、指先でいい」

 ネマは、ゆっくりと右手を前に出す。

 魔力を、体の外へ――

 だが。

「……っ」

 魔力が皮膚の内側で滞り、押し返される。

「……出ない」

「焦るな」

 アインは即座に指摘する。

「出そうとするな」

「“流れの延長”として、外へ逃がせ」

 ネマは一度深呼吸し、
 体内循環を意識し直す。

 そして、流れの終点を――
 指先の、その先へ。

 ふっと、空気が揺れた。

「……!」

 ネマは目を開く。

「今の……」

「それでいい」

 アインは頷く。

「今のが、体外放出の第一歩だ」

 一方、サリア。

 こちらは、そもそも魔力が外へ届いていない。

 循環は安定しているが、
 外に出す“圧”が足りない。

「サリア」

「はい」

「お前は、魔力を大事にしすぎだ」

「……え?」

「壊れることを恐れて、内に留めている」

 アインは続ける。

「魔力は、使うためにある」

「減ることを恐れるな」

 サリアは、少し驚いたように目を見開いた。

「……分かりました」

 今度は、意識的に出力を上げる。

 循環を速め、
 その勢いのまま外へ。

 ——ピリッ。

 空気に、微かな刺激が走る。

「……出ました」

「出たな」

 アインは満足そうに頷いた。

「今はそれでいい」



 そこからは、ひたすら反復だった。

 魔力感知。

 体内循環。

 体外放出。

 そして、また最初から。

 派手さはない。

 だが、確実に感覚は積み上がっていく。

「……正直」

 休憩中、ネマがぽつりと言う。

「もっと、特別なことをすると思っていました」

「無詠唱研究、なんて名前ですから」

 サリアも小さく頷く。

「……私もです」

 アインは鼻で笑った。

「特別なことなど、最初から出来るわけがない」

「どんな異端も、基礎の上にしか立たん」

 二人は、言葉を噛み締める。

「……でも」

 ネマが続けた。

「ルークやセシリアたちを見ると……」

「やっぱり、差を感じます」

「才能、ですよね」

 その言葉に、アインは即座に首を振った。

「違う」

「少なくとも、今のお前たちとの差は“時間”だ」

「才能で片付けるのは、努力してからにしろ」

 ネマは、はっとする。

 サリアも、拳を握りしめた。



 訓練は夕方まで続いた。

 最後には、二人とも疲労で座り込んでいたが、
 表情はどこか晴れていた。

「……思ったより」

「出来ましたね」

 サリアの言葉に、ネマは苦笑する。

「ええ……」

「悔しいけど」

「……楽しいです」

 アインは、その様子を静かに見つめていた。

(悪くない)

(この二人は……)

(“積み重ねる力”を持っている)

 夕刻。

 訓練所に満ちていた魔力の余韻も、次第に薄れていく。

 魔力循環と体外放出の反復訓練を終えたネマとサリアは、軽く息を整えながら立ち上がった。

「……今日は、ここまでですね」

「ええ……正直、想像以上に消耗しました」

 サリアの言葉に、ネマは苦笑しながら同意する。

 そこへ、別の区画で合成魔法の練習をしていたルークたちが戻ってきた。

「……お疲れ様」

 ルークの声に、ネマとサリアは顔を上げる。

「ルーク、そちらは?」

 ネマが尋ねると、セシリアが肩をすくめた。

「合成魔法の調整よ」

「威力を出すのは簡単だけど、細かい制御が難しくてね」

 ミアも頷く。

「うん。でも、前よりは安定してきたと思う」

 それぞれが、それぞれの場所で成果と課題を抱えている。

 少し遅れて、アインが二つのグループを見渡しながら歩み寄ってきた。

「よし、全員合流だな」

 短くそう言ってから、手を叩く。

「今日はここまでにする」

 その一言で、張り詰めていた空気が少し緩んだ。

「ただし」

 アインは、はっきりと続ける。

「次に向けて、それぞれ課題を出す」



 まず、アインはネマとサリアの前に立った。

「ネマ、サリア」

 二人は自然と背筋を伸ばす。

「お前たち二人は、引き続き基礎の徹底だ」

「魔力感知、体内循環、体外放出」

「特に体外放出は、毎回同じ感覚で出せるようにしろ」

 ネマは真剣な表情で頷く。

「量ではなく、安定ですね」

「そうだ」

 アインは即答した。

「お前は魔力量が多い分、出力がぶれやすい」

「“出せる”ことより、“揃えられる”ことを意識しろ」

 次に、サリアを見る。

「サリア、お前は逆だ」

「体外放出の強度を、意識的に上げろ」

「遠慮するな。壊れる心配は、ここではいらん」

 サリアは一瞬だけ迷いの色を見せたが、すぐに頷いた。

「……分かりました」

「魔力を使うことを、恐れないようにします」

 アインは満足そうに頷く。

「そうだ」

「無詠唱に進む前段階として、ここを疎かにするな」



 次に、ルークが一歩前へ出た。

 自然と、セシリアとミアがルークの方を見る。

「……じゃあ」

「……二人に課題ね」

 ルークは少し考えてから、言葉を選ぶ。

「……セシリア」

「……合成魔法の属性を片方に寄せる事を
意識してみて」

「……わざと属性バランスを崩してみて」

 セシリアは首を傾げる。

「崩す?」

「……うん」

「完全じゃなくてどこで、難しくなるか」

「……それを知る」

 セシリアは一瞬考え、やがて笑った。

「なるほどね」

「成功だけじゃなく、失敗の形を知れってことか」

「……うん」

「……それ」

 次に、ミアを見る。

「……ミア合成魔法を長く保つ」

「一瞬じゃ無くて持続させてみて」

 ミアは目を輝かせた。

「持続制御、だね」

「魔力の消費量も分かりそう」

「……うん」

 セシリアは少し羨ましそうにミアを見る。

「いい課題もらったじゃない」

「ふふ、頑張るよ」



 課題を出し終え、アインが全員を見渡す。

「今日は解散だ」

「無理はするな」

「だが、間を空けすぎるな」

「魔法は、積み重ねた者にしか答えん」

 全員が、それぞれに返事をする。

「はい」

「分かりました」

「……うん」

 訓練所を出る途中、セシリアがルークの隣に並んだ。

「課題、結構難しいわね」

「……でも」

 ルークは小さく言う。

「……たのしい」

 セシリアは、その言葉に微笑んだ。

「ええ」

「私もよ」

 一方、少し後ろを歩くネマとサリア。

「……課題、重いですね」

「ええ。でも……」

 サリアは前を見据える。

「ここまで来た以上、やるしかありません」

 ネマは静かに頷いた。

「魔術師として」

 こうして――
 無詠唱魔法研究は、それぞれの立場に応じた課題を背負い、次の段階へと進んでいく。

 派手な成果は、まだ先だ。

 だが確かに、
 全員が“自分の壁”を見据え始めていた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

富田 来蔵 / Kizō Tomita

最強の賢者は幸せの日常を
ここから始まる物語はわくわくします
まだ読み始めですが、世界観がしっかりしていて、
楽しみです。

2026.02.08 KAORUwithAI

富田来蔵様
コメントありがとうございます
今後も楽しんでいただけるよう全力で
書いていきますので、ぜひ続きも読んでください。

解除

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