【完結】彼女が幸せを掴むまで〜モブ令嬢は悪役令嬢を応援しています〜

かわもり かぐら(旧:かぐら)

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モブ令嬢イェーレ

02. 婚約しない理由

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 呆然自失となってしまった殿下に一応、この場を去るご挨拶をして晩餐会から帰宅後。

 部屋でベッドの上で転がりながら読書をしていたところ、コンコンとドアがノックされた。
 本から顔を上げ、一応ごろ寝からベッドの端に腰掛けて態勢を整えてから「どうぞ」と声をかける。「失礼するよ」という声は兄様だ。
 入ってきたのはニヤニヤしたなんかムカついた感じの兄様、それから困惑顔のお父様がそこにいた。…お母様は、のんびり歩いてこちらに向かってきているんだろう。


「エレン、おま…お前…ふ、ふはははは!!」
「毒キノコでも食べたの兄様」
「落ち着きなさい、イェソン」


 ヒーヒーと笑いっぱなしの兄様に若干呆れたような視線を向けつつ、お父様が私の方を振り返る。


「…王太子殿下から、婚約の打診を受けて、断ったって本当かな?」
「うん」
「うーん、そっか~」
「あっははははは!!」
「ちょっとー、イーくんちょっと笑いすぎよ~」


 お母様も合流し、私のベッドに私、笑いが収まった兄様。それから椅子にお父様とお母様が座る。
 ひとつ静かに息を吐いたお父様は、困ったような表情で話し始めた。


「実は、つい先程正式に王家からイェーレ宛に縁談が来たんだ。お相手は王太子殿下」
「へー」
「正直に答えていい。イェーレはこの縁談に乗り気ではないんだね?」
「乗るつもりはまったくないよ」


 私は王妃になるつもりはないし、何より将来的にヒロインに靡くであろう殿下の婚約者になんてなりたくない。
 メリットがあるとすれば、私に流れるヴェラリオン皇族の血ぐらいか。


「もちろん、貴族としての義務を果たすべきというのであれば受けるけど…」
「そこまでではないから大丈夫だよ。我が家はすでにフィーネがいるからね」


 ヴェラリオン皇族を迎えている我が家としては、特に王家に取り入る必要はないし、そういった野望もない。
 だからお父様やお母様は、私の結婚については私が幸せになればそれでいいというスタンスだ。


「…ところで兄様はなんであんなに笑ってたわけ?」
「あー。レオ…王太子殿下がな、お前に婚約を打診して速攻で断られて、呆然としているうちにさっさと帰られたのがだいぶショックだったみたいで。その様子が笑えただけだよ」


 そんなショック受ける?特別美人なわけじゃないのは自覚してるし、こんな目の色だし…そういえば殿下、もしかして私の目を見た?
 いや、見たならあんなこと言わないな。うん。


「…あ、私そのとき精霊と話してるの、殿下に見られちゃった」
「大丈夫よ~、殿下はイーくんと仲良しだし、私のことも知ってるだろうから」
「俺自身もレオしかいないときは精霊見て話すこともあるし、平気だよ」
「それならいいんだけど…」


 ……あれ。そういえば、攻略対象者のレオナルドにはたしか、婚約者がいたよね。王太子ルートの悪役令嬢。
 たしか、ヴィクトリア・クランクっていう侯爵令嬢で、エリザベスやヴィクトリアのデビュタントの年に開催された晩餐会の数日後に発表されたはず。

 ……あれ?
 それ、今日の晩餐会じゃね?


「じゃあ、王太子殿下からの縁談についてはお断りのお返事を出しておくよ」
「…はい」
「うーん」
「どうしたんだい、イェソン」
「……いや、レオのやつ、諦めるかなって思って」
「あら~。奇遇ね。私もそう思ってるわ」


 やめてください。
 兄様とお母様の勘はやけに当たるんですから。変なフラグ立てないでください。




 それから一ヶ月ぐらい経っても、王太子殿下の婚約者の発表はなかった。
 むしろそれよりも困った状況になっている。

 …お父様に「たまには王都で訓練してみないか」なんて誘われたから、避けていた王都に喜々として来たのに。
 王都のタウンハウスに着いた途端、メイドたちにあれよあれよという間に風呂に入れられ、髪をまとめられ、化粧され、ドレスを着せられた。
 兄様がエスコートしにきて、そのまま馬車に乗せられる。
 向かいに座った兄様を睨みつけ(傍から見ればじっと見てるだけ)たけど、兄様は苦笑いを浮かべるだけだった。


「説明を要求する」
「うーん。俺も父上に呼んでこいってしか言われてないんだよ」
「あぁ?」
「いやホントホント。マジで」


 若干困り顔になったのを見て、兄様が嘘をついていないだろうと判断する。
 兄様は嘘をつくときは視線が泳ぐことが多いからだ。今はまっすぐ私を見てるから、おそらく何も知らされてないのは嘘ではないだろう。

 そのまま馬車は王城に入り、馬車止めのエリアで下りる。迎えに来た近衛騎士団長とメイド長(自己紹介されたけど、なんでトップふたりが来るんだ)に城内を案内された。
 城内に入ることは滅多にないから、ほんの少しだけ見渡す。城内に施されている装飾はシンプルではあるものの、一般的な審美眼しかもたない私でも良い物で誂えているのが分かる。
 ゴテゴテに飾ってるのは好きじゃないから、うん。こういう雰囲気は好ましい。

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと先導のふたりが止まった。
 ふたりが両サイドにずれて、兄様と私の前が開かれる。


 ……うん?なんか、このドア、シンプルではあるんだけど細かいところの装飾に使用箇所が限られている王家の紋章が施されてたりとかして…うん??
 っていうかドアの両脇に衛兵控えてないか??おやあ???

 思わず兄様を見る。
 兄様も私を思わず、といった様子でこちらを見た。


「イェソン・ライズバーグ様、ならびにイェーレ・ライズバーグ様がご到着されました」
「よい。通せ」
「はっ」


 近衛騎士団長の通るような声に、返ってきた低音ボイス。
 聞いたことないけど、やや威圧感があるようなその声に背筋が震えた。

 ドアがゆっくりと開かれる。
 壇上には椅子が2脚並んでいる。
 豪奢な椅子に腰掛けた男性の出で立ちは高貴なお方そのもの。隣にある男性の椅子よりは質素ながら、ひと目でその地位の人だと分かるその椅子に腰掛けている女性は扇子で口元を隠していたが、ふと扇子をおろし、にこりと微笑んだ。
 そしてそのおふた方の頭上には、王冠が輝いている。


「ひぇ…」
「……耐えろエレン。俺も泣きそう」


 小声で兄様に励まされながら、一緒に歩き出す。
 私まだ10歳だぞ。兄様は11歳だけどデビュタント済とはいえまだ子どもだぞ。そんな子どもたちがなんで両陛下に謁見するわけ!?

 壇下にいたお父様をじとりと睨みつけてやれば、家族だからだろう。私が睨んでいると分かったお父様はあからさまに視線を外した。ここからの距離でもダラダラと冷や汗を流しているのが分かる。

 この広い部屋――謁見の間の中程まで来た辺りで、足を止めて兄様は敬礼を、私はカーテシーで挨拶する。


「「国王陛下、ならびに王妃陛下へエレヴェド神の加護があらんことを」」
「うむ。ふたりとも、顔を上げてもう少しこちらへ」


 兄様と私は顔を見合わせ、それから壇下近くまで歩み寄った。
 壇上の陛下から向けられる眼差しは、とても穏やかなものだ。なんでこの場に呼び出されたのかさっぱり分か……いや、心当たりはひとつあるな、うん。


「ライズバーグ小辺境伯。君がレオナルドの側近を引き受けてくれたこと、有り難く思う。王太子はまだ未熟で、君もそうだとは思う。だが共にあることで切磋琢磨し、互いにより良い成長となることを願う」
「はっ」
「ライズバーグ嬢」
「はい」
「…王太子が突然、君に婚約を打診したと聞く。手順を踏まずにそのような行動を受け、驚いただろう。その点については申し訳ない」


 ひぇ…王様に謝罪されちゃったんですけど…。こういうとき、表情が変わらないって助かるわ。動揺してるって分からないもの。


「だが、その後君に婚約を改めて打診したが、断るとのこと。その理由を聞いてもいいだろうか。どのような内容でも我ら王家は受け容れよう」


 デスヨネー!!やっぱりそのことだよね!!
 一応、どんな回答でも不敬罪には問わないって言質はもらってるけども!!


「打診を断ったあなたをどうこうするつもりはありません。ライズバーグ家にこの婚約についてのメリットらしいメリットがないのは承知しています。この打診は我が息子レオナルドからの願いによるものであって、王命ではないのだから」


 王妃陛下が困った顔をしてる。
 まあ、王家としては長年王国の空をモンスターから守ってきた竜騎士団の頭領である辺境伯家と縁を結べるのなら結びたい、といったところだろう。
 なんせ我が家門からは政略といった意味でも王家に嫁いだ者はひとりもいない。総じて、女性の皆様は筋骨隆々な逞しい騎士団に惚れるので。

 でも、ヴェラリオン皇国の皇女であるお母様がお父様にベタぼれして、押しまくって結婚してしまった。王国から離れられても困るから、そろそろ…と考えられてもおかしくはない。

 ちら、とお父様に視線を向ける。
 お父様はこくりと頷いた。理由を話していいらしい。

 ………反射的に断っただけとか言えないわー。
 「この世界は乙女ゲーに酷似している世界で、王太子殿下は将来婚約者を乗り換える可能性があるからイヤです」とも言えないわー。詰んでない?

 言葉を選んでるっぽいように見せかけながら、考える。


「…お断りさせていただいた理由がどんな内容でも、よろしいでしょうか」
「もちろんだ」


 国王陛下が頷く。
 うん…この内容でいくか。


「…結論を言えば、王太子妃、ゆくゆくは王妃になりたくなかったから、です」
「ほぅ?」
「父であるシュート・ライズバーグ竜騎士団長のように、竜騎士となることが私の夢です。兄が父の後を継いで団長になるのであれば、それを支えたく思います。王太子妃、王妃となるための教育と平行して、竜騎士としての鍛錬を行うことは難しいと推測したため、お断りさせていただきました」
「では、レオナルド自身が嫌だからというわけではないと」
「もちろんです。私は未だ見習いですが、将来、第一種を取得した暁にはお護りするお方。嫌う等ありましょうか」


 これでどうだ…!
 ちら、と様子を伺う。国王陛下と王妃陛下は穏やかな表情を浮かべていて「そうか」とだけ呟かれた。


「よい娘を持ったな、ライズバーグ卿」
「ええ、自慢の娘です。最近、幼竜を手懐けたのでそろそろ第三種の試験を受けるところなんですよ」
「息子がこの前第二種に昇格したばかりなのに、今度は娘も第三種か…ライズバーグ家でどういう教育をしているのか気になるところだ」
「一般的な貴族の教育しかしていませんが」


 …あのー、そろそろ帰りたいです。なんて言えない。

 ふと王妃陛下と目が合い、微笑まれる。


「あなたがレオナルドとの婚約を断った理由は分かりました。…これからイェソン殿と一緒にレオナルドのところへ向かってくださる?あなたに伝えたいことがあるそうなの」
「…はい、分かりました」


 兄様を見上げる。
 兄様も知らなかったみたいで、首を傾げていた。

 両陛下に再度カーテシーで挨拶をして、謁見の間から辞する。
 待機していたのだろうメイド長が「ご案内いたします」と先導してくれるのに、ついていった。近衛騎士団長も後ろからついてきている。
 人材の無駄遣いじゃないですか、ねぇ。ちょっと胃がキリキリしてきた。


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