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モブ令嬢イェーレ
17. いつまで自分はヒロインであると思っているのだろう
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どうやらあの日、エルは無事エリザベスとディープキスができたらしい。
エリザベスにあの日のことについて聞いたところ、ボッと顔を赤らめて教えてくれたのだ。可愛い。エルもだいぶ顔色が良くなった。
でもまあ、それだけで追いつかないのは確実だ。女であれば私のように……その…精液をあそこら辺に…出してもらえればある程度は効くけど、精霊族の男はそうもいかない。そこら辺不便っちゃ不便だよね。
それにレアーヌはどうやら禁忌とされるレベルの魅了系の魔道具も併用しているようだから、それもあると思う。そうでなければ愛し子といえど、あんな半ば強制的な思考になるとは思えない。
魅了系の魔道具は、一般市民でも頑張って手を伸ばせば手に入る代物だ。
それらの効能は低く、せいぜい好感を得られやすいといった程度。あくまで得られやすいというだけで、相手のために何でもするといったことまではできないし、相手の気に障ることをしてしまえば効果が霧散する程度の代物。
そして、その「好感を得られやすい」というレベルを超えた魅了の効果を持つ魔道具の製造、及び所持は全世界で禁じられている。
かつて、小国の国王が高レベルの魔道具を使用して国民を魅了し、国王の言うままに他国を侵略させたことがあった。戦争でも魅了を使って他国の兵士を魅了して戦意喪失させ、次々と併呑していったのだ。
その小国は大陸間を跨いで歴史上、かつてないほどの巨大な帝国となった。
その魅了の魔道具は、人間だけでなく亜人種すら魅了していった。残ったのは魔法があまり効きにくいとされるヴェラリオンをはじめとした精霊族の国々と、創世神エレヴェドへ忠誠を誓った神官たち。
各大陸の精霊族の国々と神官たちが結託し、巨大な帝国を倒した。
このとき、プレヴェド王国も被害にあっていたというのは歴史書にもはっきりと記載されている。平民であれ貴族であれ、この事実は必ず教育されるものだ。
つまり、この国で教育を受けているはずのレアーヌが魅了系の魔道具を改造することの重大さを知らないわけがない。
でもこんな話は設定資料集には載っていないし、むしろゲームに課金アイテムとして好感度アップのネックレスが用意されてた。たぶん、レアーヌが使っていたのはこれだ。
ただのネックレスか、もしくは一般販売されているレベルのままにしておけばよかったものを。一般販売されているレベルであれば、私もエルもあそこまで具合が悪くなるほどにレアーヌに惹かれることはなかっただろう。
この件はすでにレオとエル、兄様には伝えてある。慎重に調査してくれるとのことだ。
実は先日の騒動でレアーヌとの接触で私が倒れるほど具合が悪くなったことはエリザベスには伏せておいてある。心配をかけるのもアレだったし、何よりエルから「突っ走るかもしんないから黙ってた方がいい」とも言われたからだ。もちろん、クラスメイトにも根回し済みだ。
実際、エリザベスから「なにかあったらわたくしに仰って!」と言われている。たぶんその通りにしたら、自意識過剰かもしれないけどエリザベスが私のためにダンフォール伯爵家にダメージを負わせるようなことをしたかもしれない。
エルに放課後も付きまとおうとする彼女を兄様とふたりがかりで何とか引き離した辺りで、頭がぼんやりとしてレアーヌに尽くしたい気分になってくる。どうやらあの方法では1ヶ月程度しか効果がないようだ。
「…兄様、大丈夫?」
「あーー、たぶん…?」
「頼れる番もいないくせに…」
「うるせー…」
「おふたりとも、大丈夫ですか?」
人気のない廊下でぐったり壁に寄りかかっていた私たちを心配そうにヴィクトリアが声をかけてきた。とたん、ビクッと兄様の体が跳ねる。面白い。
「く、クランク嬢…」
「ダンフォール様の行動があまりにもおかしいし、止められていたおふたりも辛そうだったので心配で来たのですが、まあ、イェソン様顔色が…」
「……ヴィクトリア、お願いがある」
「なに?」
「私たちをハグしてくれない?」
兄様が顔を真っ赤にして魚のように口をパクパクとさせている。驚きで声も出ないようだ。
別に目的なくヴィクトリアにハグを依頼したわけじゃない。ちゃんと理由がある。
「え…っと、イェソン様も?」
「兄様も。ヴィクトリア充電させて…」
「エレンお前何言って、す、すまないクランク嬢」
「いえ、わたくしは別に構いません」
「え」
「ほら、イェーレ」
困ったように笑いながら手を広げたヴィクトリアの腕の中に飛び込む。未だレアーヌへの衝動は収まらない。これはレオじゃないと収まらないが、まだ耐えられるレベルだ。
だからこれは、兄様のための前フリだ。決して、ヴィクトリアの胸が豊かで柔らかくて心地いいからじゃない。羨ましい。
そしてこれは小声で話せるタイミングでもある。
「(実は私たち、精霊の愛し子の影響受けているのを抗っている状況でして)」
「(…その影響はよろしくないものなの?)」
「(かなり。私の方は…番候補がいるから問題ないんだけど、兄様が番候補に声もかけられないチキンだから突進してきたよあとよろしく)」
「(…ちょっと待って色々情報過多なんだけれど。しかもそれってつまり)」
体を離してヴィクトリアを見れば、察してもらえたようでほんのりと頬を赤く染めていた。数歩下がって兄様へ振り返る。普段は騎士らしく、状況判断も優れ大胆な行動もすることがある兄様もこのときばかりは体を硬直させて動けないようだ。まあ、好きな相手にはそうなるよね。
兄様に歩み寄ってバンと背中を強く押すと「イテェ!」と悲鳴が上がったと同時に数歩、前に出る。そう、ヴィクトリアの前へ。
ぶわ、と兄様が後ろから見ても分かるぐらい首までトマトのように真っ赤になった。あ、これ兄様ルートで兄様が照れたり恥じらったときに見れるスチルとたぶん一緒だ。ヴィクトリアも気づいたのか、目を丸くしている。
「…よろしければ、どうぞ」
照れながらヴィクトリアが腕を広げる。兄様はまた体を震わせたけど、恐る恐る手を伸ばして、ぎゅうとヴィクトリアを抱きしめた。よし、これでひとまずは大丈夫だろう。
ヴィクトリアに礼を言って別れを告げ、幾分か顔色が良くなった兄様と一緒にエルとエリザベスが隠れている空き教室へ向かう。
するとそこには困惑するエリザベスに無言で抱きついたまま動かないエルがいた。ああ…やっぱりそろそろ限界が近いだろうな。いや待って。レアーヌの指導開始から1ヶ月近く経ってるけどまだなの?
「……まだ」
「はぁ?まだヤってないの?あんたそれでも男?」
「エレン、言葉」
「…ごめんなさい、兄様。えーと、そんなに婚前交渉について気になるなら、公爵様に事情説明して許可もらえばいいじゃないの。エルとエリザベスの仲睦まじい様子は学園中の噂になってるし、どこかでお耳に入ってるんじゃないの?」
まあ、私も人のことは言えないのだけど。
「たしかに…お父様なら、精霊族の番のこともご存知だと思うわ」
エリザベスの言葉にエルは少し考えたあと「次の公休日にお邪魔することにしよう」とエリザベスに伝えた。エリザベスは頬を染めたものの、こくりと頷く。ああ、可愛らしい。エルの番にするのはもったいない。
「というか、エレンもまだだろ。人のこと言えないくせに」
「うるさいバカエル」
レオが公務で忙しくなり、話をする機会がほとんどなくなってしまった。生徒会室に顔を出せないことが増え、生徒会長の代わりはジェマ様が務めている。
でもレオは私がレアーヌに影響されないよう、無理やり時間を作ってくれていた。休み時間のほんの僅かな時間に人気のない場所でディープキスをして、話もろくにできずに離れる日々。「すまない」と申し訳無さそうに告げるレオの目元の隈は酷くなっている。我が儘を言える状況ではないことは確かだった。
逃げ回るエルを手助けする日々が続くと徐々に、徐々に思考がレアーヌ寄りになりかけていってるのを自覚してるのでそろそろマズいかもしれない。
そう思っていた頃合いに、とうとうエルとエリザベスが結ばれた。
心配していたけどエルははっきりとレアーヌの愛し子の影響を跳ね除けてあしらっていた。それにエルは、私から魅了の魔道具の話を聞いたあと、本国から魅了を無効化する魔道具を取り寄せて持っている。いくら魔道具を使ったって、愛し子の影響がないならレアーヌはただの小娘だ。
…ちなみに、この魅了を無効化する魔道具は国宝に値するもの。何せ、あの魅了の魔道具を用いた侵略戦争の頃の遺物だ。一国にひとつあるかないかのレベルだと思う。
エルがレアーヌを軽くあしらった翌日の昼休み。
ヴィクトリアと東棟にあるオープンテラスで昼食を一緒にする約束をしていたので、そちらに向っていたそのときだった。
「どうしてですか!?」
悲鳴に近い声。レアーヌだ。エリザベスが私に振り向いたので、頷く。急ぎ足で声のした方に向かった。
中庭のとある一角、大きな噴水前に腕を組んだエルとそれに対峙しているレアーヌがいた。エルがレアーヌに向ける眼差しは侮蔑の色を含んでいる。対してレアーヌは、困惑したような様子であった。まー、魅了の魔道具も効かない上、精霊の愛し子の影響もなくなってるんだからそら困惑するよな。
エリザベスと私は物陰に隠れてそっと様子を窺うことにした。レアーヌの悲鳴にも近い声に何事かと遠巻きで様子を窺っている生徒がちらほらといて、それらにちょうど紛れる形となった。
「なぜです…訓練をもう終わりにしようだなんて!私はまだ!」
「私が君に精霊魔法を教え始めて2ヶ月になろうとしている。精霊たちとの関係性も改善されているようだし、私が口出すことはもうないんだよ」
「そんなことありませんわ!たしかに、精霊たちとの関係は改善されて、詠唱魔法もうまくいくようになりました。けれど私はもっと精霊魔法について学びたいんです!」
「…先ほども伝えたはずだが。それはこの学園の教師がやることだ。私はたしかに学園長から『精霊の愛し子だからか、うまく制御できない子がいるので力を貸してほしい』と依頼はされた。精霊魔法の担当であるリーゼル先生は精霊の愛し子でもなんでもない、ただの契約者だ。普通であれば契約もしていない精霊と交流すること自体がない。だから契約せずとも数多の精霊に好かれる君に交流方法を教えるのは無理だった。勝手が違うからね」
淡々とした口調で告げるエルの表情はほぼ無だ。内心うんざりしてるな、あれ。
「それに私は、この学園には学びに来たのであって教壇に立つつもりはない。精霊魔法を教えるリーゼル先生と何度か議論を交わしたが、あの方の精霊魔法に関する知識の豊富さ、伝える言葉選びには頭が下がるほどだ。関係性が改善した今の君なら、リーゼル先生指導のもと、より良い精霊魔法の使い手となれるだろうさ」
「イェルク様…なんで…?先週までは、あんなに親身になってくださっていたのに…」
瞳を潤ませ、レアーヌは肩を震わせる。その姿は憐憫を誘うもので、思わず味方になりたくなる雰囲気である。私もざわりと惹かれ始めて、ぐっと拳を強く握った。
大丈夫。まだやれる。
「エレン」
「お供します」
背筋を伸ばし、噴水の方へと視線を向けたエリザベスが颯爽と歩き出したのに続いて、私も歩き出した。
エリザベスに気づいた生徒たちがざわめきながら、私たちに道を作っていく。モーセの海割りみたいだな。彼らの協力?でエルとレアーヌが対峙しているところまですんなりと辿り着けた。
エルはエリザベスに気づくとやや目を見開いて、それから今までの無表情が嘘だったかのようににこりと微笑んだ。うわ、あからさま~~。
「ごきげんよう、エル、ダンフォール様」
「やぁリズ、イェーレ嬢」
「…ごきげんよう、フェーマス様、ライズバーグ様。何かご用ですか?」
一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたレアーヌではあったが、次の瞬間には淑女らしく微笑みを浮かべた。嘘くさいな~。その一瞬の表情がなければ嘘っぽく見えないから拍手を送っていたのに。
「いえ、廊下を歩いていたわたくしたちのところまで騒ぎが聞こえて、少し心配になりましたの。ダンフォール様が、わたくしの婚約者に何か言いがかりをつけているようでしたから」
「ただ認識の違いで……婚約者?」
「ええ。そうですよ」
お、言っちゃうのか。
エリザベスはエルの隣に歩み寄ると、そっとその胸に手を添えて、頭を肩に寄せる。エルも心得たようにエリザベスの腰に手を回した。ちょっとエル。早速表情崩れかかってる。
ふたりの様子を見たレアーヌが驚愕の表情を浮かべた。
「エルは、わたくしの婚約者です」
「は…!?」
「ねぇ、エル?」
「そうだね。私とリズは婚約している」
レアーヌは言葉が出ないらしい。周囲の野次馬はざわめいた。
まあ、最近の親しく愛称を呼び合う様子から婚約者候補となっているのではと噂はされていたけどまさか、本当に婚約まで進んでいたなんてって感じだろう。
イーリス第二王子とエリザベスの婚約が破棄されてからそんなに日が経ってないもの。そりゃ驚くでしょうね。
「あ、あなたはッ、イーリス様のことを愛していたのではなかったの!?」
「あら…その言葉、そのままダンフォール様にお返しいたしますわ」
レアーヌは拳を握り、歯を食いしばるように表情を歪めている。ふはは、ブーメランになってやがんのざまぁww
「以前もお伝えしたつもりでしたけれど、お忘れになられたようですから再度申し上げます。淑女たるもの、男性に馴れ馴れしく接するのはお止めになった方がよろしいかと。ましてや婚約者がいる男性になんて」
「馴れ馴れしく?ただのクラスメイト、友人として接しているまでですわ」
「友人…?」
えーー、この女、どんな思考回路してんの?
いやまあ、異性の友情はあると思うけど、それでも婚約者がいる相手に対してあそこまで接触しないよ。特に指導には関係ないボディタッチもしていたでしょう?こっちの感覚じゃはしたないと思われても仕方ない。
「私は君と友人になったつもりはないんだけれども」
「……え?」
「どちらかというと教え子かな。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「…な…なん…」
あーあー。狙っていた男から友人ですらない、と言われるとかご愁傷さま。顔真っ青だね。
時計はすでにヴィクトリアとの待ち合わせ時間を過ぎている。そろそろ、と声をかけようとしたタイミングでエルが気づいたようで、エリザベスはヴィクトリアと待ち合わせていると答えた。その答えた内容で、私の呼び名が「イェーレ」から「エレン」に変わっている。
自分自身の味方になるはずのサポートキャラが、完全にエリザベスの味方になっている事実を突きつけられたのだろう。レアーヌの瞳が零れんばかりに見開かれた。
周囲の精霊共も「なんで」「レアーヌの物語なのに」「レアーヌが愛されるべきなのに」と喧しい。
「人を待たせてしまっているのでここで失礼しますわ。ごきげんよう、ダンフォール様」
「…ぁ、イェルク、様…」
レアーヌの手が伸びる。けどエルはそれを一瞥して「では」と一言だけ残してエリザベスと共に踵を返した。
ざわざわと野次馬からの視線にレアーヌは俯き、体を震わせている。
「…現実と物語の見境がないのですね。ここはあなたのための世界ではないのですよ」
レアーヌの顔が勢いよく上がった。そして段々と醜悪な表情に変わっていくのを鼻で笑いながら、踵を返してエリザベスたちを追いかけた。
そんな出来事があった週末に、王室から呼び出された。
しかも招待主はレオではなく、マリア王妃 ―― この前母様が会いに行ったお相手 ―― である。待って。この場合ドレス?ドレス着ていくべきなの?いやでも騎士団に見習いとはいえ所属している立場だし制服でも…!
「イェーレ様、奥様より精霊の手紙で伝言が。『騎士の制服じゃなくてちゃんとおめかしして行ってね♡』だそうです。さ、準備しましょう」
…制服だったら良かったのにな~~!
というわけで、ある程度磨かれて、久々にドレスに袖を通して登城する。魔道具の眼鏡はあまりおしゃれなものでもないので、大抵のドレスが合わないことが多い。だから私は登城するときは制服のときが多いのだ。
侍従に案内された先は応接室。部屋に通されて、しばらく待っていると王妃陛下が来たとの知らせがあり、私は座っていたソファから立ち上がってカーテシーをした。
「王妃陛下へエレヴェド神の加護があらんことを」
「頭をあげて、ライズバーグ嬢。よく来てくれました」
王妃陛下が上座に座り、座るよう促されてから先ほどまで座っていた位置に腰を下ろす。
マリア王妃陛下。レオとイーリス第二王子の母君であり、社交界の華と呼ばれるお方だ。とてもお美しく、すでに成人間近の息子ふたりがいる女性とは思えない美貌。
かつて王妃陛下を巡って国王陛下と宰相が競ったことがあるとかなんとか、噂があったらしい。実際はどうだったか知らないけど。
さて。なんで呼ばれたのだろうか。
だがこういった本題は、しばらく雑談をしてから切り出されるものだ。案の定、王妃陛下から最近のモンスター関連の情勢や他大陸の国際情勢などの話があり、なんとか食いついていった。数日前に母様が「こういったことがあったのよ~」って雑談しに来たと思ったらこういうことだったのか。
話が一段落したあたりで、王妃陛下が紅茶を一口飲んで、カップが乗ったソーサーをテーブルに置いた。
「ライズバーク辺境伯と夫人から話がありました。レオナルドからの求婚を受けると」
「…はい。長らくお待たせいたしましたが…ようやく決心がつきました」
「本来ならそこまで待たないのだけれど、ライズバーグ夫人からある程度乙女ゲームについて聞いてましたから。レオナルドがあなたに一途な思いを抱いているのもあったけれど、何よりあなたが残したゲームに関するメモについても真実味がありましたから、様子見をしていましたけど…ふふ、受け入れてくれたようで何よりだわ」
母様、王妃陛下…これだと国王陛下にも話を通してるのか。
普通、王太子からの婚約の返事をこんな長期間保留にしていたら王室側から解消の申し出がありそうだけど、両陛下はゲームの内容メモを見て信じてくださったらしい。申し訳ない気持ちと、ありがたい気持ちでいっぱいだ。
前世の記憶持ちはさほど多くないって聞いたんだけど、まあ身近に最低ふたりはいるしな…意外と、隠れているだけでいるのかもしれない。
「此度の婚約については、公表時期はレオナルドが卒業をしたタイミングにしましょう。その頃には、例のご令嬢についても片付いているでしょうから」
「はい」
「レオナルドにはもう返事を?」
「いえ、恥ずかしながらまだです。最近は殿下はお忙しいようで、会えても会話がなかなか…」
「そう。今日はレオナルドには休むように伝えてあるの。この後にでも寄っていってちょうだい。レオナルドも喜ぶわ」
「…はい。ありがとうございます」
…うん。これはよ告れって言われてるな。
思いがけず会える時間ができたのであれば、急だけど今日は決行日だ。レオからは今までたくさん伝えてもらった。応えると決めたのだから、私からもきちんと言葉で伝えなくては。
王妃陛下との謁見時間が過ぎたので、退室の挨拶をする。
すると王妃陛下は微笑んで、私にこう言った。
「来週からよろしくね、イェーレ」
「…はい、よろしくお願いいたします、王妃陛下」
王妃陛下が言った意味を理解して、もう一度カーテシーをした。
うん。これ来週から王太子妃教育が始まるなこれ。
エリザベスにあの日のことについて聞いたところ、ボッと顔を赤らめて教えてくれたのだ。可愛い。エルもだいぶ顔色が良くなった。
でもまあ、それだけで追いつかないのは確実だ。女であれば私のように……その…精液をあそこら辺に…出してもらえればある程度は効くけど、精霊族の男はそうもいかない。そこら辺不便っちゃ不便だよね。
それにレアーヌはどうやら禁忌とされるレベルの魅了系の魔道具も併用しているようだから、それもあると思う。そうでなければ愛し子といえど、あんな半ば強制的な思考になるとは思えない。
魅了系の魔道具は、一般市民でも頑張って手を伸ばせば手に入る代物だ。
それらの効能は低く、せいぜい好感を得られやすいといった程度。あくまで得られやすいというだけで、相手のために何でもするといったことまではできないし、相手の気に障ることをしてしまえば効果が霧散する程度の代物。
そして、その「好感を得られやすい」というレベルを超えた魅了の効果を持つ魔道具の製造、及び所持は全世界で禁じられている。
かつて、小国の国王が高レベルの魔道具を使用して国民を魅了し、国王の言うままに他国を侵略させたことがあった。戦争でも魅了を使って他国の兵士を魅了して戦意喪失させ、次々と併呑していったのだ。
その小国は大陸間を跨いで歴史上、かつてないほどの巨大な帝国となった。
その魅了の魔道具は、人間だけでなく亜人種すら魅了していった。残ったのは魔法があまり効きにくいとされるヴェラリオンをはじめとした精霊族の国々と、創世神エレヴェドへ忠誠を誓った神官たち。
各大陸の精霊族の国々と神官たちが結託し、巨大な帝国を倒した。
このとき、プレヴェド王国も被害にあっていたというのは歴史書にもはっきりと記載されている。平民であれ貴族であれ、この事実は必ず教育されるものだ。
つまり、この国で教育を受けているはずのレアーヌが魅了系の魔道具を改造することの重大さを知らないわけがない。
でもこんな話は設定資料集には載っていないし、むしろゲームに課金アイテムとして好感度アップのネックレスが用意されてた。たぶん、レアーヌが使っていたのはこれだ。
ただのネックレスか、もしくは一般販売されているレベルのままにしておけばよかったものを。一般販売されているレベルであれば、私もエルもあそこまで具合が悪くなるほどにレアーヌに惹かれることはなかっただろう。
この件はすでにレオとエル、兄様には伝えてある。慎重に調査してくれるとのことだ。
実は先日の騒動でレアーヌとの接触で私が倒れるほど具合が悪くなったことはエリザベスには伏せておいてある。心配をかけるのもアレだったし、何よりエルから「突っ走るかもしんないから黙ってた方がいい」とも言われたからだ。もちろん、クラスメイトにも根回し済みだ。
実際、エリザベスから「なにかあったらわたくしに仰って!」と言われている。たぶんその通りにしたら、自意識過剰かもしれないけどエリザベスが私のためにダンフォール伯爵家にダメージを負わせるようなことをしたかもしれない。
エルに放課後も付きまとおうとする彼女を兄様とふたりがかりで何とか引き離した辺りで、頭がぼんやりとしてレアーヌに尽くしたい気分になってくる。どうやらあの方法では1ヶ月程度しか効果がないようだ。
「…兄様、大丈夫?」
「あーー、たぶん…?」
「頼れる番もいないくせに…」
「うるせー…」
「おふたりとも、大丈夫ですか?」
人気のない廊下でぐったり壁に寄りかかっていた私たちを心配そうにヴィクトリアが声をかけてきた。とたん、ビクッと兄様の体が跳ねる。面白い。
「く、クランク嬢…」
「ダンフォール様の行動があまりにもおかしいし、止められていたおふたりも辛そうだったので心配で来たのですが、まあ、イェソン様顔色が…」
「……ヴィクトリア、お願いがある」
「なに?」
「私たちをハグしてくれない?」
兄様が顔を真っ赤にして魚のように口をパクパクとさせている。驚きで声も出ないようだ。
別に目的なくヴィクトリアにハグを依頼したわけじゃない。ちゃんと理由がある。
「え…っと、イェソン様も?」
「兄様も。ヴィクトリア充電させて…」
「エレンお前何言って、す、すまないクランク嬢」
「いえ、わたくしは別に構いません」
「え」
「ほら、イェーレ」
困ったように笑いながら手を広げたヴィクトリアの腕の中に飛び込む。未だレアーヌへの衝動は収まらない。これはレオじゃないと収まらないが、まだ耐えられるレベルだ。
だからこれは、兄様のための前フリだ。決して、ヴィクトリアの胸が豊かで柔らかくて心地いいからじゃない。羨ましい。
そしてこれは小声で話せるタイミングでもある。
「(実は私たち、精霊の愛し子の影響受けているのを抗っている状況でして)」
「(…その影響はよろしくないものなの?)」
「(かなり。私の方は…番候補がいるから問題ないんだけど、兄様が番候補に声もかけられないチキンだから突進してきたよあとよろしく)」
「(…ちょっと待って色々情報過多なんだけれど。しかもそれってつまり)」
体を離してヴィクトリアを見れば、察してもらえたようでほんのりと頬を赤く染めていた。数歩下がって兄様へ振り返る。普段は騎士らしく、状況判断も優れ大胆な行動もすることがある兄様もこのときばかりは体を硬直させて動けないようだ。まあ、好きな相手にはそうなるよね。
兄様に歩み寄ってバンと背中を強く押すと「イテェ!」と悲鳴が上がったと同時に数歩、前に出る。そう、ヴィクトリアの前へ。
ぶわ、と兄様が後ろから見ても分かるぐらい首までトマトのように真っ赤になった。あ、これ兄様ルートで兄様が照れたり恥じらったときに見れるスチルとたぶん一緒だ。ヴィクトリアも気づいたのか、目を丸くしている。
「…よろしければ、どうぞ」
照れながらヴィクトリアが腕を広げる。兄様はまた体を震わせたけど、恐る恐る手を伸ばして、ぎゅうとヴィクトリアを抱きしめた。よし、これでひとまずは大丈夫だろう。
ヴィクトリアに礼を言って別れを告げ、幾分か顔色が良くなった兄様と一緒にエルとエリザベスが隠れている空き教室へ向かう。
するとそこには困惑するエリザベスに無言で抱きついたまま動かないエルがいた。ああ…やっぱりそろそろ限界が近いだろうな。いや待って。レアーヌの指導開始から1ヶ月近く経ってるけどまだなの?
「……まだ」
「はぁ?まだヤってないの?あんたそれでも男?」
「エレン、言葉」
「…ごめんなさい、兄様。えーと、そんなに婚前交渉について気になるなら、公爵様に事情説明して許可もらえばいいじゃないの。エルとエリザベスの仲睦まじい様子は学園中の噂になってるし、どこかでお耳に入ってるんじゃないの?」
まあ、私も人のことは言えないのだけど。
「たしかに…お父様なら、精霊族の番のこともご存知だと思うわ」
エリザベスの言葉にエルは少し考えたあと「次の公休日にお邪魔することにしよう」とエリザベスに伝えた。エリザベスは頬を染めたものの、こくりと頷く。ああ、可愛らしい。エルの番にするのはもったいない。
「というか、エレンもまだだろ。人のこと言えないくせに」
「うるさいバカエル」
レオが公務で忙しくなり、話をする機会がほとんどなくなってしまった。生徒会室に顔を出せないことが増え、生徒会長の代わりはジェマ様が務めている。
でもレオは私がレアーヌに影響されないよう、無理やり時間を作ってくれていた。休み時間のほんの僅かな時間に人気のない場所でディープキスをして、話もろくにできずに離れる日々。「すまない」と申し訳無さそうに告げるレオの目元の隈は酷くなっている。我が儘を言える状況ではないことは確かだった。
逃げ回るエルを手助けする日々が続くと徐々に、徐々に思考がレアーヌ寄りになりかけていってるのを自覚してるのでそろそろマズいかもしれない。
そう思っていた頃合いに、とうとうエルとエリザベスが結ばれた。
心配していたけどエルははっきりとレアーヌの愛し子の影響を跳ね除けてあしらっていた。それにエルは、私から魅了の魔道具の話を聞いたあと、本国から魅了を無効化する魔道具を取り寄せて持っている。いくら魔道具を使ったって、愛し子の影響がないならレアーヌはただの小娘だ。
…ちなみに、この魅了を無効化する魔道具は国宝に値するもの。何せ、あの魅了の魔道具を用いた侵略戦争の頃の遺物だ。一国にひとつあるかないかのレベルだと思う。
エルがレアーヌを軽くあしらった翌日の昼休み。
ヴィクトリアと東棟にあるオープンテラスで昼食を一緒にする約束をしていたので、そちらに向っていたそのときだった。
「どうしてですか!?」
悲鳴に近い声。レアーヌだ。エリザベスが私に振り向いたので、頷く。急ぎ足で声のした方に向かった。
中庭のとある一角、大きな噴水前に腕を組んだエルとそれに対峙しているレアーヌがいた。エルがレアーヌに向ける眼差しは侮蔑の色を含んでいる。対してレアーヌは、困惑したような様子であった。まー、魅了の魔道具も効かない上、精霊の愛し子の影響もなくなってるんだからそら困惑するよな。
エリザベスと私は物陰に隠れてそっと様子を窺うことにした。レアーヌの悲鳴にも近い声に何事かと遠巻きで様子を窺っている生徒がちらほらといて、それらにちょうど紛れる形となった。
「なぜです…訓練をもう終わりにしようだなんて!私はまだ!」
「私が君に精霊魔法を教え始めて2ヶ月になろうとしている。精霊たちとの関係性も改善されているようだし、私が口出すことはもうないんだよ」
「そんなことありませんわ!たしかに、精霊たちとの関係は改善されて、詠唱魔法もうまくいくようになりました。けれど私はもっと精霊魔法について学びたいんです!」
「…先ほども伝えたはずだが。それはこの学園の教師がやることだ。私はたしかに学園長から『精霊の愛し子だからか、うまく制御できない子がいるので力を貸してほしい』と依頼はされた。精霊魔法の担当であるリーゼル先生は精霊の愛し子でもなんでもない、ただの契約者だ。普通であれば契約もしていない精霊と交流すること自体がない。だから契約せずとも数多の精霊に好かれる君に交流方法を教えるのは無理だった。勝手が違うからね」
淡々とした口調で告げるエルの表情はほぼ無だ。内心うんざりしてるな、あれ。
「それに私は、この学園には学びに来たのであって教壇に立つつもりはない。精霊魔法を教えるリーゼル先生と何度か議論を交わしたが、あの方の精霊魔法に関する知識の豊富さ、伝える言葉選びには頭が下がるほどだ。関係性が改善した今の君なら、リーゼル先生指導のもと、より良い精霊魔法の使い手となれるだろうさ」
「イェルク様…なんで…?先週までは、あんなに親身になってくださっていたのに…」
瞳を潤ませ、レアーヌは肩を震わせる。その姿は憐憫を誘うもので、思わず味方になりたくなる雰囲気である。私もざわりと惹かれ始めて、ぐっと拳を強く握った。
大丈夫。まだやれる。
「エレン」
「お供します」
背筋を伸ばし、噴水の方へと視線を向けたエリザベスが颯爽と歩き出したのに続いて、私も歩き出した。
エリザベスに気づいた生徒たちがざわめきながら、私たちに道を作っていく。モーセの海割りみたいだな。彼らの協力?でエルとレアーヌが対峙しているところまですんなりと辿り着けた。
エルはエリザベスに気づくとやや目を見開いて、それから今までの無表情が嘘だったかのようににこりと微笑んだ。うわ、あからさま~~。
「ごきげんよう、エル、ダンフォール様」
「やぁリズ、イェーレ嬢」
「…ごきげんよう、フェーマス様、ライズバーグ様。何かご用ですか?」
一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたレアーヌではあったが、次の瞬間には淑女らしく微笑みを浮かべた。嘘くさいな~。その一瞬の表情がなければ嘘っぽく見えないから拍手を送っていたのに。
「いえ、廊下を歩いていたわたくしたちのところまで騒ぎが聞こえて、少し心配になりましたの。ダンフォール様が、わたくしの婚約者に何か言いがかりをつけているようでしたから」
「ただ認識の違いで……婚約者?」
「ええ。そうですよ」
お、言っちゃうのか。
エリザベスはエルの隣に歩み寄ると、そっとその胸に手を添えて、頭を肩に寄せる。エルも心得たようにエリザベスの腰に手を回した。ちょっとエル。早速表情崩れかかってる。
ふたりの様子を見たレアーヌが驚愕の表情を浮かべた。
「エルは、わたくしの婚約者です」
「は…!?」
「ねぇ、エル?」
「そうだね。私とリズは婚約している」
レアーヌは言葉が出ないらしい。周囲の野次馬はざわめいた。
まあ、最近の親しく愛称を呼び合う様子から婚約者候補となっているのではと噂はされていたけどまさか、本当に婚約まで進んでいたなんてって感じだろう。
イーリス第二王子とエリザベスの婚約が破棄されてからそんなに日が経ってないもの。そりゃ驚くでしょうね。
「あ、あなたはッ、イーリス様のことを愛していたのではなかったの!?」
「あら…その言葉、そのままダンフォール様にお返しいたしますわ」
レアーヌは拳を握り、歯を食いしばるように表情を歪めている。ふはは、ブーメランになってやがんのざまぁww
「以前もお伝えしたつもりでしたけれど、お忘れになられたようですから再度申し上げます。淑女たるもの、男性に馴れ馴れしく接するのはお止めになった方がよろしいかと。ましてや婚約者がいる男性になんて」
「馴れ馴れしく?ただのクラスメイト、友人として接しているまでですわ」
「友人…?」
えーー、この女、どんな思考回路してんの?
いやまあ、異性の友情はあると思うけど、それでも婚約者がいる相手に対してあそこまで接触しないよ。特に指導には関係ないボディタッチもしていたでしょう?こっちの感覚じゃはしたないと思われても仕方ない。
「私は君と友人になったつもりはないんだけれども」
「……え?」
「どちらかというと教え子かな。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「…な…なん…」
あーあー。狙っていた男から友人ですらない、と言われるとかご愁傷さま。顔真っ青だね。
時計はすでにヴィクトリアとの待ち合わせ時間を過ぎている。そろそろ、と声をかけようとしたタイミングでエルが気づいたようで、エリザベスはヴィクトリアと待ち合わせていると答えた。その答えた内容で、私の呼び名が「イェーレ」から「エレン」に変わっている。
自分自身の味方になるはずのサポートキャラが、完全にエリザベスの味方になっている事実を突きつけられたのだろう。レアーヌの瞳が零れんばかりに見開かれた。
周囲の精霊共も「なんで」「レアーヌの物語なのに」「レアーヌが愛されるべきなのに」と喧しい。
「人を待たせてしまっているのでここで失礼しますわ。ごきげんよう、ダンフォール様」
「…ぁ、イェルク、様…」
レアーヌの手が伸びる。けどエルはそれを一瞥して「では」と一言だけ残してエリザベスと共に踵を返した。
ざわざわと野次馬からの視線にレアーヌは俯き、体を震わせている。
「…現実と物語の見境がないのですね。ここはあなたのための世界ではないのですよ」
レアーヌの顔が勢いよく上がった。そして段々と醜悪な表情に変わっていくのを鼻で笑いながら、踵を返してエリザベスたちを追いかけた。
そんな出来事があった週末に、王室から呼び出された。
しかも招待主はレオではなく、マリア王妃 ―― この前母様が会いに行ったお相手 ―― である。待って。この場合ドレス?ドレス着ていくべきなの?いやでも騎士団に見習いとはいえ所属している立場だし制服でも…!
「イェーレ様、奥様より精霊の手紙で伝言が。『騎士の制服じゃなくてちゃんとおめかしして行ってね♡』だそうです。さ、準備しましょう」
…制服だったら良かったのにな~~!
というわけで、ある程度磨かれて、久々にドレスに袖を通して登城する。魔道具の眼鏡はあまりおしゃれなものでもないので、大抵のドレスが合わないことが多い。だから私は登城するときは制服のときが多いのだ。
侍従に案内された先は応接室。部屋に通されて、しばらく待っていると王妃陛下が来たとの知らせがあり、私は座っていたソファから立ち上がってカーテシーをした。
「王妃陛下へエレヴェド神の加護があらんことを」
「頭をあげて、ライズバーグ嬢。よく来てくれました」
王妃陛下が上座に座り、座るよう促されてから先ほどまで座っていた位置に腰を下ろす。
マリア王妃陛下。レオとイーリス第二王子の母君であり、社交界の華と呼ばれるお方だ。とてもお美しく、すでに成人間近の息子ふたりがいる女性とは思えない美貌。
かつて王妃陛下を巡って国王陛下と宰相が競ったことがあるとかなんとか、噂があったらしい。実際はどうだったか知らないけど。
さて。なんで呼ばれたのだろうか。
だがこういった本題は、しばらく雑談をしてから切り出されるものだ。案の定、王妃陛下から最近のモンスター関連の情勢や他大陸の国際情勢などの話があり、なんとか食いついていった。数日前に母様が「こういったことがあったのよ~」って雑談しに来たと思ったらこういうことだったのか。
話が一段落したあたりで、王妃陛下が紅茶を一口飲んで、カップが乗ったソーサーをテーブルに置いた。
「ライズバーク辺境伯と夫人から話がありました。レオナルドからの求婚を受けると」
「…はい。長らくお待たせいたしましたが…ようやく決心がつきました」
「本来ならそこまで待たないのだけれど、ライズバーグ夫人からある程度乙女ゲームについて聞いてましたから。レオナルドがあなたに一途な思いを抱いているのもあったけれど、何よりあなたが残したゲームに関するメモについても真実味がありましたから、様子見をしていましたけど…ふふ、受け入れてくれたようで何よりだわ」
母様、王妃陛下…これだと国王陛下にも話を通してるのか。
普通、王太子からの婚約の返事をこんな長期間保留にしていたら王室側から解消の申し出がありそうだけど、両陛下はゲームの内容メモを見て信じてくださったらしい。申し訳ない気持ちと、ありがたい気持ちでいっぱいだ。
前世の記憶持ちはさほど多くないって聞いたんだけど、まあ身近に最低ふたりはいるしな…意外と、隠れているだけでいるのかもしれない。
「此度の婚約については、公表時期はレオナルドが卒業をしたタイミングにしましょう。その頃には、例のご令嬢についても片付いているでしょうから」
「はい」
「レオナルドにはもう返事を?」
「いえ、恥ずかしながらまだです。最近は殿下はお忙しいようで、会えても会話がなかなか…」
「そう。今日はレオナルドには休むように伝えてあるの。この後にでも寄っていってちょうだい。レオナルドも喜ぶわ」
「…はい。ありがとうございます」
…うん。これはよ告れって言われてるな。
思いがけず会える時間ができたのであれば、急だけど今日は決行日だ。レオからは今までたくさん伝えてもらった。応えると決めたのだから、私からもきちんと言葉で伝えなくては。
王妃陛下との謁見時間が過ぎたので、退室の挨拶をする。
すると王妃陛下は微笑んで、私にこう言った。
「来週からよろしくね、イェーレ」
「…はい、よろしくお願いいたします、王妃陛下」
王妃陛下が言った意味を理解して、もう一度カーテシーをした。
うん。これ来週から王太子妃教育が始まるなこれ。
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