ぽっちゃり精霊王は推しを幸せにしたい

かわもり かぐら(旧:かぐら)

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本編

第八話 どんとこーい!


 アルスが、あの子がいる東屋に入ろうとうろついているのには気づいていた。
 他の野良精霊たちも主人公を気にかけていたからだ。

 ―― 闇属性の精霊を甚振いたぶる危険人物として。

 私がフランソワに話して認識阻害の魔法をかけてもらったのも、ユリウスが東屋への道を開く手順を見様見真似でやろうとしたから。
 幸いにも、そのときには手順ミスってた上、次の授業までの時間もなかったから諦めて戻っていった。
 二段構えの防御として準備しといて損はないじゃん?まあ、ちょっと過激だったかもしれないけど。

 そんな私の言い分(人前上、野良精霊が関わってた部分は省いた)を聞いたみんなは納得してくれた。
 良かった。神様には連絡するらしいけど、事情説明してくれるって。良かった。
 怒ると怖いんだもん、神様…。


 というわけで。
 てっててーん。ジェーン(とその侍女ヴァネッサ)が仲間になった。
 ちなみにユリウスはすでに仲間判定である。この前、綺麗な花束ももらっちゃった。えへへ。
 おふたりにも名前呼びOKもらった。イエイ。

 ジェーンと話せば話すほど「いい子だなぁ」という感想しかない。
 もちろん、高位貴族?独特の回りくどい話し方だけど、根本はいい子。こういう子は精霊がよく懐く。
 相性がいい子がいれば、きっとすぐにでも仲良くなるだろう。ミランとミストみたいに。


 ジェーンは、友人関係もあり東屋に来るのは稀だ。
 そしてユリウスやミランと一緒に来ることはない。まあ、男子生徒とうかつに行動するのはあまり良くないだろうね。
 今日は昼休み時間に暗めな東屋で、カンテラを灯してジェーン、私、リオルの三人でお昼ごはんだ。かごにいる闇の精霊も分け与えられた魔力に満足したのか、ぷぅぷぅと小さく寝息を立てている。

「えっ、ジェーン先輩って婚約者いるの?」
「貴族社会だと、わたくしぐらいの年齢ではいるのは当然なのよ」

 おかしいな。
 ゲームではいなかったと思うけど…やっぱりこの世界はゲームとは違う世界なんだなぁ。

「お相手はどなたなんですか?」

 リオルがそう聞いたのは自然の流れだと思う。
 だって、平民にはどこの誰と誰が婚約者同士かなんて分からないもの。

 ただ、その質問に珍しくジェーンは思い切り表情を崩した。嫌そうに。

 驚いたリオルに自分がどんな表情をしたのか自覚したのか「あなたにじゃないわ」とジェーンは先んじて答えた。
 そして苦笑いを浮かべながら「テオドール第一王子殿下よ」と答え、紅茶を口にする。

 ……テオドール第一王子殿下?

「アルスってひとの引っ付き虫?」
「こらメディ」
「あなたって本当に怖いもの知らずね…でもあながち間違いではないわ。最近のあの方は、暇があれば彼のところに顔を出すもの」

 たぶん、今もカフェテリアにいるんじゃないかな。あの王子様たち。

「婚約後は特になんの問題もなく、わたくしの王子妃教育も順調。婚約者同士としての交流もきちんとあったのよ。昨年まではね」
「…彼が入学してからですか?」
「そうね。気づけば、彼に夢中だわ。わたくしのことなんかすっかり忘れたかのよう」
「お嬢様…」

 ヴァネッサが思わず、といったふうに声を出せば、ジェーンはにこりと微笑んだ。
 それがちょっと、痛々しい。

「だからわたくしとグランツ様は、同盟者なのよ」
「同盟者」
「他にもいるわ。あなたたち、この子を迎えに行ったときのクラスでわたくしの側に居た彼彼女らを覚えていて?同じよ」

 そういえば、教室に入ったときジェーンの傍に男女数人いたな。
 友人関係だと思ってたけど、単純にそうじゃなくて同じようにアルスの方に傾倒している婚約者がいる人たちだったのか。
 …え?四人はいたよね?

「それは…なんというか。魔法でも使ってるんじゃないかと思えますね」
「そうなのよ。でもこっそり計測したときは特になにもない。何か手作りのようなものを食べさせてる気配もない。…純粋に、彼に惹かれてるように見えるから困ってるの」

 ミランもなんかそんなこと言ってたな。
 うーん。ゲームとは違う世界だとは思ってたけど…実は関連があったりするのかな?
 正直、そこまで惹かれるものはないけど。

「…リオルは、アルスってひと見ててなんか惹かれるのあった?」
「何も…というか、第一印象が悪いし、接点もないから好転する理由もないね」
「誰も彼も惹かれるってわけじゃないってことか~~」

 神様も特に何もしてないって言うしな。
 というかあの神様、よっぽどの理由がない限りは人には干渉しないって言ってるし。
 …なんか今回めっちゃ関わってる気がするけど、まあ、神様なんて気まぐれだよね。
 今回本腰入れて神父業始めてみたら意外と楽しいって言ってたし。いつ飽きるか分からないけど。

「メディこそ気にならないの?」
「この子を捕まえた元凶でしょ?こんなことする人は嫌い。反省しても許さない」
「まあそうなるか」
「アルスってひとの引っ付き虫たちも嫌い」
「…あなたの感情はあなたのものだから、他人からどうこう言うべきじゃないとは思うけど、なるべく言葉に出さないようにね」

 心配そうな眼差しを私に向けながらジェーンに言われた内容は、分かる。
 たぶん貴族に対して不敬だなんだって話なんだろうな。引っ付き虫の中には王族もいるし。

「態度はいいんだ?」
「あからさまでなければいいのよ」
「ふーん。じゃあそうしよ」
「あと、わたくしやツェルンガ皇子殿下、グランツ様が許してるからいいものの、その言葉遣いも公の場では避けた方がいいわ」
「…がんばる」

 敬語使うとボロが出そうだからやりたくないんだよなぁ…。
 まあ、リオルがサポートしてくれるだろう。きっと。
 「なんか僕に変な期待してない?」ってリオルに聞かれたけど誤魔化しといた。
 そんな私たちのやり取りに、ジェーンとヴァネッサがふふと笑う。


 ―― 嵐の前の静けさ、という諺がふと、頭をぎった。


 ◇◇


 ハイグレード、ローグレードが一堂に会する機会はほとんどない。
 新入生は入学式、卒業生は卒業式でそれぞれ会う機会はあるものの、在校生は魔法技術発表会の年一回だけ。

 魔法技術発表会とは、その名のとおり自分が持ちうる魔法技術を広く知らしめる機会のことだ。
 ローグレードとってはハイグレードにいる貴族子女に顔を売る機会だし、低クラスはハイグレード高クラスの魔法技術を目の当たりにできる絶好の機会。
 事実、ローDクラスだった生徒が魔法技術発表会で披露されたハイAクラスの技術を見てなにかに目覚め、ローAクラスにまで駆け上がり卒業後は王宮の中でも高官に上り詰めた人もいるらしい。
 ハイグレード側も、ローグレードで埋もれている逸材を見つけることが目的となっている。なんとお貴族様方も来るらしい。マジか。

 それが三日かけて開催される。
 一日目、二日目はローグレード。
 三日目はハイグレードが対象。まあ、ローグレードの方が人数多いからこの日程なんだけど。

 例に漏れず、私とリオルもこの魔法技術発表会には参加する。
 Aクラスにいるんだもん、参加しないなんて選択肢はないのだ。

 開催二日目、参加するローグレードの生徒たちが控える待機室。
 こそっとリオルが話しかけてきた。

「メディ、わかってると思うけど」
「うん。がんばって実力出さないようにする…」

 魔法なんて、精霊にとってはお茶の子さいさい。
 未だ人間が実現できていない、曲芸的なこともやってのけてしまう。
 …リオルには闇の上級精霊だって思われてるけど、その実は精霊王だ。ぶっちゃけ、複数属性を操ることだって可能なのである。
 そんなことした瞬間にどうなるかなんて、想像したくもない。

 私はほどほどでいい。
 私なんかより、リオルの実力を皆に知らしめたい。
 リオルは闇の精霊でもやったことがないことを実現できてるんだから。まあ、精霊たちはやる気がないだけかもしんないけど。


 さて。私とリオルはペアで参加する。
 この発表会、別にソロでもペアでもグループでも問題ない。
 ひとりひとりの役割を理解し、その技術を発表する場なのだから。

「次、ローグレードAクラス所属、一学年リオル、メディア」

 教師の声が聞こえてきたので立ち上がる。
 に、とリオルと笑いあった。

 教師に導かれて通された場所は、学園が管理している訓練場だ。
 ここなら、魔法をどんだけぶっ放しても結界がなんとかしてくれる、らしい。
 ここをこっそり見に来た神様からは「メディフェルアは全力でやっちゃダメだよ。たぶんここら一体焦土化させちゃう」って言われてるから私は全力出さないけど。

 訓練場は、コロッセオのようにぐるりと周囲に観戦できるエリアがある。
 中央には訓練のために整えられたエリアがあり、その中であればある程度の怪我は自動回復してくれるし、過剰な怪我をした場合は中にいる人間を一時的に動けなくすることもできるらしい。
 何度かリオルと授業で中に入ったことがあるけど、なんか動きづらくて嫌だったなぁ。

 周囲を見渡せば、フランソワたちがいた。
 彼女らの周りが不自然に空いてるのでわかりやすい。手を振れば「がんばれー!」と応援の声が返ってきた。
 その反対側、ハイグレードが多く集まる観戦エリアにはユリウスとミランがいる。ジェーンは見当たらないけど、どこだろう。
 手を振りたいけど、ジェーンにも注意されたことだ。平民が貴族に気軽に手を振るなんてことは目立つから、避けた方がいいかな。

「それでは、発表始め!」

 教師の掛け声に応じて、リオルと私は距離を取って向かい合う。

 リオルが詠唱すると、リオルの手元に真っ黒な粒子が集まり始めた。
 ざわつく場内に気にせず、詠唱に集中するリオル。私も詠唱を開始すれば、リオルと同じように真っ黒な粒子が手元に集まり始める。

 やがてその粒子は形となり、リオルの手元には真っ黒な槍、私の手元には大きな盾が出来上がった。
 リオルが構える。

「メディ、行くよ!」
「どんとこーい!」

 リオルが地面を蹴った。
 穂先が私にまっすぐ突き出される。それが私に届く前に、私は盾を構えた。
 槍と盾がぶつかり合う、と同時に周囲の地面に真っ黒な稲妻が散った。視界の端で、結界に阻まれて審査を担当する教師たちには届かなかったものの、悲鳴をあげているのが見える。

 槍の動きに合わせて盾を振るう。
 ガンッ、という衝撃を何度も受けると腕が痺れた。う~~ん、リオルってば強くなっちゃって!私もほどほどに頑張っちゃうぞ!
 攻撃に合わせて、盾で払う。一歩間違えば刺さるこの状況でそれを成功させた私、と驚くリオル。
 その場から飛び退いて、盾を構成していた粒子を解いた。そして次の瞬間には手元に弓矢を形成させる。
 私の意図に気づいたリオルは槍の粒子を解いて、盾を形成する。それの完成に間に合うように溜めを作って、幾本もの矢を同時に放つ。

 闇魔法で作られた複数の黒い矢は、重力を無視してまっすぐリオルに向かった。
 リオルの盾に触れたと同時に矢が爆発。砂煙が周囲を舞って、リオルの姿を隠す。
 …そんなに強く爆発させないようにしてたので、案の定リオルはすぐに砂煙から飛び出してきた。その手に槍を持って。
 普段の私であれば、すぐ盾を形成するのは容易い。なんなら飛んで避けれる。でも学園で見せているではそれは難しい。

 つまり、客観的に見れば私は詰みである。

「参った!!」

 両手をあげて降参のポーズ。これはこの世界でも変わらないらしい。
 ビタリ、と私の鼻先で槍の切っ先は止まった。

「…しゅ、終了!」

 教師の掛け声で、お互い手を下ろす。
 しんとした空気は想定内だったけど、ある一角で拍手が起きた。
 その方向を意外に感じて振り返れば、拍手をしているのはユリウスとミラン。それから、段々とまばらにハイグレード側でも拍手が起こった。
 …主に拍手してるのは闇属性の生徒たち。でも、中には闇属性じゃない生徒も拍手してくれている。ローグレードの方ではさほど忌避されてないので普通に拍手されてるし、フランソワたちが「すごいすごい!」とまるで自分のことのようにはしゃいでいた。

「…なんか、照れるね。メディ」
「ふふ、そうだね」

 ローグレードのみんな以外から拍手を貰えるとは思ってなかったから、ちょっと意外だ。
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