異世界転生したけどそんな都合よく最強にはなれませんでした!?前途多難の駆け出し冒険者

蒼桜月薔薇

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第一章 死んでないが死にかけた

プロローグ

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 今、オレは天にも昇る心地心地だった。
 何せ今日は世界が熱狂するオープンワールドゲーム『The Magical kingdomⅡ』の発売日で、その限定版を手にすることが出来たのだから。

 限定版はサウンドトラック2枚、ゲーム資料集、地図、ゲームで登場する魔法の杖と指輪がセットになった超豪華特典が付いていて、その価格も驚きの6万円だ。
 あまりの人気ぶりに豪華特典付きの予約自体が抽選となった、ファンなら喉から手が出る程欲しい幻の商品だろう。

 成人して初めて貰った給料でこのゲームを買って以来、オレはこのゲームの大ファンと化していた。
 広大な世界とメインストーリー、各地に住む人々それぞれにサブストーリーが存在し、選択肢次第で個別好感度や名声度が変わる。

 家や装備や衣装、食事を作ったり、スキルを磨いたり、自分の見た目だってカスタムできるし、どこかに所属して働くもフリーでクエストを請け負って稼ぐも自由、学校にすら通うことも可能なのだ。
 まさに、これはもう一つの世界に暮らす自分を創造出来る最高傑作だった。

「ふふ……おっしゃーーー! 今回もやり込むぜ!!」

 開発チームは発売後もコンテンツのアップデートやイベントの追加などを予定しており、10年は楽しめる内容に仕上げたということでかなりの期待ができる。
 大きめのショルダーバッグには先程店頭で受け取ったばかりのゲームが大切に収められている。

 成人して就職して真面目に働いていて良かった、と思う。
 こんな高価な商品、学生でバイトをしていたとしても中々手が出せないだろう。
 心身軽すぎてスキップしてしまいそうだが、周囲からドン引きされるので我慢するとしよう。

 そうして横断歩道までやってきて、信号が青になるのを待っている時だった。

「おい」

 突然後ろから男性に声を掛けられる。
 何だろうか、と思って振り向いた時だった。
 突然ショルダーバッグをひったくられそうになり、慌ててバッグを抑える。

 周囲から悲鳴が上がるものの、遠巻きに見ているだけだ。
 自分が頑なに抵抗していると男が舌打ちし、思い切り道路に突き飛ばされた。

「えっ……」

 視界には逃げようとしてようやく周りに取り押さえられる男、そしてクラクションを鳴らしながらこっちへ向かって走ってくる大型のトラック。

(あ……これ死ぬな)

 まるで他人事のようにそう実感する。
 そしてテレビの電源を落とすように、プツッとそこでオレの意識は途絶えた。




 「うっ……」

 自分の呻き声でオレは目を覚ました。
 頭がズキズキして、吐き気がする。
 オレは痛みが少しでも和らげばいいと、片手で抑えるがまったく無意味だった。

 大型トラックが突っ込んできたのに生きているのが不思議だ。
 即死かと思ったけど頭痛がする以外は、特に出血とかはないような気がする。

 だが、安心はできない。
 打ち所が悪くて内部出血していたら、時間経過で死ぬ可能性も考えられる。
 まさか、自分が事件に巻き込まれるとは思ってもいなかった。

「何なんだよあいつ……」

 狙われた理由として、最も可能性が高いのは今日発売されたこのゲームだろうか。
 たかがゲームと思うことなかれ、何せ全世界が熱狂し、販売されるグッズは高額で転売されるほどの人気なのだから。

 
(だからと言って普通、人を殺すとか有り得ないだろ)

 しかし、ここにまだ倒れているということはそんなに時間が経っていないのか。
 誰の声もしないし、救急車も警察も来ていないようだ。
 可笑しくないだろうか、普通こういう時は人だかりが出来て大騒ぎになるものだが。

 起き上がろうと力を込めた手元を見て何だか妙だと首を捻る。
 茶色くてゴツゴツした岩肌が眼下にあった。
 それに、どこからか水滴が滴るような音も反響している。

「はあ?」

 顔を起こしぼんやりと周囲を見回した瞬間、自分が先程いた場所とはまったく異なる場所にいることに気付いた。
 空気はひんやりと湿りを帯び、不気味なほど静かな空間が広がっている。

 まるで鍾乳洞の中のように天井からは無数の岩が垂れ下がり、そのどれもが不規則で歪な形をしていた。
 そして、周りの大きな窪みには透き通った水が静かに溜まっている。

「どこだ? ここ……」

(ヤバイヤバイヤバい。目が覚めたら変なとこにいるんだが)

 慌てて体を起こそうとした瞬間、鋭い痛みが頭を貫き、思わず顔をしかめる。
 頭の中がぐらぐらと揺れ、意識が朦朧とする。
 あまりの痛みにしばらく動けなかった。
 どうにか落ち着いた頃、ようやく自分の置かれている状況の判断に入る。

 幸い、カバンはどこにも行っていなかった。
 慌てて中を探るが、スマホがどこにもない。
 というカバンの中身はほぼ空だった。

 今日買ったばかりのゲームも、スマホも財布も無くなっていて、出てきたのは杖と指輪と地図とゲーム資料だけだった。
 まさか気絶している間にすべて盗まれたのだろうか。

 早くここから出て警察に盗難届を出さないとだ。
 立ち上がって辺りを見回すが、どちらも似たような感じでどっちに行けば出口へと繋がっているのか分からない。

(ゲームでよくあるパターンだと風が吹いてたりするんだけど……)

 ウロウロと近くを歩き回ってみると案の定、風が流れてくるのが分かった。
 幸いなことにこの洞窟は一本の道のようになっていて、迷うことはなさそうだった。
 仮に逆方向に進んでいたとしても元に戻ればいいだけだ。

 そうと決まったら行動あるのみ。
 暗く湿った洞窟の中といえば、毒蛇が這い回っていたりコウモリが飛び出してくることもあるだろう。
 そのすべてに目を光らせ静かに、しかし確実に前へ進むしかない。
 体の奥底から湧き上がる緊張と共に、オレは息を深く吸い込み、覚悟を決めて足を踏み出した。

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