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第一章 死んでないが死にかけた
第5話 幸先悪し?
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『あっ』
声が被った、三人同時に。
オレの伸ばした手は小瓶を掴み損ねて弾き飛ばし、宙にくるくると舞い上がる。
そして、天井にあった円環の照明にぶち当たって破裂した。
「うッ……ぎゃぁああ!!」
降ってくる、ヘドロの雨が。
瞬く間に喉からせり上がるような吐き気を催す臭いが充満し、オレは絶叫を上げ、床へ倒れながら悶絶することとなった。
「うん……この薬は気安く人に出せるものでは無いということが今回身を持って分かりました。これは悪魔に生贄を差し出すに近しい行為です……」
(今まで飲んだことなかったんかい!!)
二人きりの診療室内で、ゾンビのように酷い顔色をしたサイラス医師の言葉に、オレは憤慨して腹の中で文句を垂れる。
頭から湯気が出ているのは別に怒っているからではない。
先程、謝罪を繰り返すレティに無理やり風呂場に押し込まれたからだ。
青い顔をした彼女は今にもひっくり返りそうだったに違いないが、オレが風呂から出てくるまでずっと心配してくれていたようだ。
風呂から上がってくるとお詫びにと炭酸ジュースのような物を出してくれて、オレは味わったことのない美味なそれをちょうど堪能し終わったところだった。
(はぁ……見た目は子供、中身は大人、って……絶対言えねぇ……)
大人の男が薬一つ飲むくらいで大騒ぎし、錯乱のあまり母親に助けを求めるという醜態を晒してしまったのだ。
実はオレが成人している立派な大人だと知られたらきっと笑われるだろう。
「……それでは改めて、私はこのアフェトラウム診療所で医師を務めているサイラス・ルーズベルトといいます」
「オレは……」
自分も名乗ろうとして、ハッと我に返ったのは言うまでもない。
ここがあのゲーム『The Magic kingdom』の世界であれば、オレの本名を名乗ると違和感極まりないだろう。
それならばゲームで実際に使っていた名前を使用する方がいい。
「……マティスです。えっと……洞窟で倒れてて、それより前のことはほとんど思い出せないというか……」
嘘は言ってない。
トラックに轢かれる直前に気を失い、(恐らく頭を打ち付けて)この世界に飛ばされたのだ。
未プレイなせいで自分はゲームの主人公になったなのか、NPCキャラとして転生してしまったのかさえ分からない。
「そうですか……。医術であれ魔術であれ、人の記憶はとても複雑な領域です。魔法が掛かったの小箱と同様、無理に開こうとすれば二度と戻せなくなるでしょう。しばらくは様子を見つつ、今後のことを先に考えましょう」
サイラス医師の言葉にホッと安堵したのは言うまでもない。
すんなり信じてもらえたこともそうだし、また変な薬液を飲まされそうになっては溜まったものではない。
「ご両親のことは覚えていますか?」
「あ……」
そういえばオレはこの世界ではまだ6歳くらいの子供になっていたのだった。
当然、普通であれば親の庇護のもとに学校に通っているはずの年頃だ。
「両親はたぶんいないです……。亡くなったということ以外は何も覚えてないですけど……」
この世界にはいない両親を探されても困る。
実の両親は恐らくオレの事故を聞き病院を訪れている頃だろうが、悲しんでいるかどうかは分からない。
あの人達はオレにあんまり興味がなかったから──。
「……身寄りは? 何か覚えていませんか?」
「まったく覚えていません……」
どうしたものか。
これが現実だと認識すればするほど厄介なことになっていく。
めちゃくちゃ子供で記憶喪失、魔法が当たり前の世界で魔法を使えない身体。
(難易度HELLモードだろ、絶対……)
絶望して顔を覆ってオレは項垂れる。
魔力を持たない、それだけで異形扱いされること必至だ。
この世界て魔法を使えない者への待遇は残酷極まりない。
仕事も与えられず、物乞いをして生きるのだ。
住居を持つことも出来ないし、住処は橋の下だったり廃屋だったりする。
運が悪ければ盗賊や魔物、獣に襲われてジ・エンドだ。
「アンタ達もオレに触らない方がいいですよ……。魔力を持たない人間なんて気味悪いでしょ。呪いか穢れだかが伝染しますよ」
顔を覆ったまま、自虐気味に笑う。
散々触っておいて今さら気付いたというのなら実に滑稽だ。
何だか目頭が熱いような気がするのは気のせいということにしておこう。
「……安心しなさい。君は魔力を持てるようになりますよ」
「えっ……!?」
予想外の返答にオレは顔を上げる。
魔力喪失病が治せるなんて、そんな設定が盛り込まれてるってことはこれはThe Magic Kingdom ⅠじゃなくてⅡの方ではないだろうか。
「すみません。唐突で申し訳ないんですけど……アンブローシス・マーリーン様は没後何年経ってましたっけ?」
マーリーンはThe Magic Kingdom Ⅰ(以下、THM・Ⅰ)Ⅰに出てきた偉大な魔術師で、中盤には主人公に強大な魔法を授けることになる物語のキーパーソンだ。
各国の王も彼に弓を引けないほど、尊敬の念を集める凄い人だ。
しかし、Ⅰの時ですら90歳を超えた白髪白髭の賢者のようなお爺さんだった。
今も健在かとうか分からないが、とっくの昔に亡くなっているのだとしたら生きてますか、と聞くほうが違和感極まりない。
なるべく痛手の少ない方で聞いた方が無難だろう。
声が被った、三人同時に。
オレの伸ばした手は小瓶を掴み損ねて弾き飛ばし、宙にくるくると舞い上がる。
そして、天井にあった円環の照明にぶち当たって破裂した。
「うッ……ぎゃぁああ!!」
降ってくる、ヘドロの雨が。
瞬く間に喉からせり上がるような吐き気を催す臭いが充満し、オレは絶叫を上げ、床へ倒れながら悶絶することとなった。
「うん……この薬は気安く人に出せるものでは無いということが今回身を持って分かりました。これは悪魔に生贄を差し出すに近しい行為です……」
(今まで飲んだことなかったんかい!!)
二人きりの診療室内で、ゾンビのように酷い顔色をしたサイラス医師の言葉に、オレは憤慨して腹の中で文句を垂れる。
頭から湯気が出ているのは別に怒っているからではない。
先程、謝罪を繰り返すレティに無理やり風呂場に押し込まれたからだ。
青い顔をした彼女は今にもひっくり返りそうだったに違いないが、オレが風呂から出てくるまでずっと心配してくれていたようだ。
風呂から上がってくるとお詫びにと炭酸ジュースのような物を出してくれて、オレは味わったことのない美味なそれをちょうど堪能し終わったところだった。
(はぁ……見た目は子供、中身は大人、って……絶対言えねぇ……)
大人の男が薬一つ飲むくらいで大騒ぎし、錯乱のあまり母親に助けを求めるという醜態を晒してしまったのだ。
実はオレが成人している立派な大人だと知られたらきっと笑われるだろう。
「……それでは改めて、私はこのアフェトラウム診療所で医師を務めているサイラス・ルーズベルトといいます」
「オレは……」
自分も名乗ろうとして、ハッと我に返ったのは言うまでもない。
ここがあのゲーム『The Magic kingdom』の世界であれば、オレの本名を名乗ると違和感極まりないだろう。
それならばゲームで実際に使っていた名前を使用する方がいい。
「……マティスです。えっと……洞窟で倒れてて、それより前のことはほとんど思い出せないというか……」
嘘は言ってない。
トラックに轢かれる直前に気を失い、(恐らく頭を打ち付けて)この世界に飛ばされたのだ。
未プレイなせいで自分はゲームの主人公になったなのか、NPCキャラとして転生してしまったのかさえ分からない。
「そうですか……。医術であれ魔術であれ、人の記憶はとても複雑な領域です。魔法が掛かったの小箱と同様、無理に開こうとすれば二度と戻せなくなるでしょう。しばらくは様子を見つつ、今後のことを先に考えましょう」
サイラス医師の言葉にホッと安堵したのは言うまでもない。
すんなり信じてもらえたこともそうだし、また変な薬液を飲まされそうになっては溜まったものではない。
「ご両親のことは覚えていますか?」
「あ……」
そういえばオレはこの世界ではまだ6歳くらいの子供になっていたのだった。
当然、普通であれば親の庇護のもとに学校に通っているはずの年頃だ。
「両親はたぶんいないです……。亡くなったということ以外は何も覚えてないですけど……」
この世界にはいない両親を探されても困る。
実の両親は恐らくオレの事故を聞き病院を訪れている頃だろうが、悲しんでいるかどうかは分からない。
あの人達はオレにあんまり興味がなかったから──。
「……身寄りは? 何か覚えていませんか?」
「まったく覚えていません……」
どうしたものか。
これが現実だと認識すればするほど厄介なことになっていく。
めちゃくちゃ子供で記憶喪失、魔法が当たり前の世界で魔法を使えない身体。
(難易度HELLモードだろ、絶対……)
絶望して顔を覆ってオレは項垂れる。
魔力を持たない、それだけで異形扱いされること必至だ。
この世界て魔法を使えない者への待遇は残酷極まりない。
仕事も与えられず、物乞いをして生きるのだ。
住居を持つことも出来ないし、住処は橋の下だったり廃屋だったりする。
運が悪ければ盗賊や魔物、獣に襲われてジ・エンドだ。
「アンタ達もオレに触らない方がいいですよ……。魔力を持たない人間なんて気味悪いでしょ。呪いか穢れだかが伝染しますよ」
顔を覆ったまま、自虐気味に笑う。
散々触っておいて今さら気付いたというのなら実に滑稽だ。
何だか目頭が熱いような気がするのは気のせいということにしておこう。
「……安心しなさい。君は魔力を持てるようになりますよ」
「えっ……!?」
予想外の返答にオレは顔を上げる。
魔力喪失病が治せるなんて、そんな設定が盛り込まれてるってことはこれはThe Magic Kingdom ⅠじゃなくてⅡの方ではないだろうか。
「すみません。唐突で申し訳ないんですけど……アンブローシス・マーリーン様は没後何年経ってましたっけ?」
マーリーンはThe Magic Kingdom Ⅰ(以下、THM・Ⅰ)Ⅰに出てきた偉大な魔術師で、中盤には主人公に強大な魔法を授けることになる物語のキーパーソンだ。
各国の王も彼に弓を引けないほど、尊敬の念を集める凄い人だ。
しかし、Ⅰの時ですら90歳を超えた白髪白髭の賢者のようなお爺さんだった。
今も健在かとうか分からないが、とっくの昔に亡くなっているのだとしたら生きてますか、と聞くほうが違和感極まりない。
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