10 / 21
第一章 死んでないが死にかけた
第9話 決意
しおりを挟む
「ああ、『少年メノンの伝記』ですね? 私も幼い頃読みましたよ。自分は将来冒険者になるんだ!って両親に夢を語って笑われました。大人になると、現実が見えてくるというか……夢ばかり追ってられないというか……」
この人の場合はそんなのが理由で諦めたんじゃない気がする。
不思議とそんな気がした。
「……オレ、レティさんから少しだけサイラス医師の話を聞きました。オレ……目の前で苦しんでる人達見て……でも何も出来なくて悔しくて……だから、サイラス医師の活動のこと知ってとても感銘を受けたんです。こんな身体で何が出来るかなんて分からないけど……でも何でもいい、手伝いがしたいんです!」
「その気持ちだけで十分ですよ」
突き放されたかと思い、急激に落ち込んでいると大きな手が頭を包み込む。
誰かに頭を撫でられるなんて何十年振りだろう。
見上げるとサイラス医師は複雑そうな顔で微笑んでいた。
「君達は魔力がないという、たったそれだけで不遇な扱いを受けてきた。だからこれは私達からのほんの些細な贈り物です」
「……サイラス医師はやっぱりすごいです」
普通に生活することすら困難なだった人達に薬を実質無料で与え、仕事すら提供している。
さらに完治に向けて研究まで進めていて、でもそのことを誇示する素振りもなく、素性の知れないオレにまでこんなに親切にしてくれた。
それを些細だなんて、当事者からしたら到底思えない。
「私は私が出来ることをしているだけに過ぎませんよ。さてと、私は残りの仕事を片付けますから君はもう寝なさい。成長期の夜更しは良くありませんよ?」
サイラス医師に言われてハッとする。
そういえばこの身体はまだ子供だし、顔も悪くなかった。
遺伝子によるところもあるが、規則正しい生活を続ければ高身長のイケメンに成長するのでは──、なんて思ってニヤリと笑う。
「中々に悪い顔してますねえ……はは」
つい顔に企みが出てしまっていたらしい。
面白そうにサイラス医師は今日初めて声を立てて笑った。
この人はずっと仮面を付けていたのではないか、ただ一瞬だけでもその苦しみが溶けたのであれば幾らでも面白可笑しな子供を演じてみせよう。
「では、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい、サイラス医師」
「あ、あと一つ。そんな堅苦しく呼ばず、レティと同じく先生で構いませんよ。それでは」
サイラス“先生”は穏やかに笑って室内に戻っていった。
出来ることをやろう、自分にできる範囲で最大のことを──。
オレは幻想的に煌めく空を見上げながらそう決意を固めた。
この人の場合はそんなのが理由で諦めたんじゃない気がする。
不思議とそんな気がした。
「……オレ、レティさんから少しだけサイラス医師の話を聞きました。オレ……目の前で苦しんでる人達見て……でも何も出来なくて悔しくて……だから、サイラス医師の活動のこと知ってとても感銘を受けたんです。こんな身体で何が出来るかなんて分からないけど……でも何でもいい、手伝いがしたいんです!」
「その気持ちだけで十分ですよ」
突き放されたかと思い、急激に落ち込んでいると大きな手が頭を包み込む。
誰かに頭を撫でられるなんて何十年振りだろう。
見上げるとサイラス医師は複雑そうな顔で微笑んでいた。
「君達は魔力がないという、たったそれだけで不遇な扱いを受けてきた。だからこれは私達からのほんの些細な贈り物です」
「……サイラス医師はやっぱりすごいです」
普通に生活することすら困難なだった人達に薬を実質無料で与え、仕事すら提供している。
さらに完治に向けて研究まで進めていて、でもそのことを誇示する素振りもなく、素性の知れないオレにまでこんなに親切にしてくれた。
それを些細だなんて、当事者からしたら到底思えない。
「私は私が出来ることをしているだけに過ぎませんよ。さてと、私は残りの仕事を片付けますから君はもう寝なさい。成長期の夜更しは良くありませんよ?」
サイラス医師に言われてハッとする。
そういえばこの身体はまだ子供だし、顔も悪くなかった。
遺伝子によるところもあるが、規則正しい生活を続ければ高身長のイケメンに成長するのでは──、なんて思ってニヤリと笑う。
「中々に悪い顔してますねえ……はは」
つい顔に企みが出てしまっていたらしい。
面白そうにサイラス医師は今日初めて声を立てて笑った。
この人はずっと仮面を付けていたのではないか、ただ一瞬だけでもその苦しみが溶けたのであれば幾らでも面白可笑しな子供を演じてみせよう。
「では、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい、サイラス医師」
「あ、あと一つ。そんな堅苦しく呼ばず、レティと同じく先生で構いませんよ。それでは」
サイラス“先生”は穏やかに笑って室内に戻っていった。
出来ることをやろう、自分にできる範囲で最大のことを──。
オレは幻想的に煌めく空を見上げながらそう決意を固めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる