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第一章 死んでないが死にかけた
第8話 薬の中身
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「でも5ゴールドすら払えない、将来も払える見込みがない人だっているんじゃ……」
「あぁ、そこは先生も考えてるっていうか……受付のすぐ近くにお願いリストがあってそこから好きなお願いを叶えるだけでお薬と引き換えできるの!」
「お願いリスト?」
「そう。例えば近隣の自然公園から薬草になる花を詰んできて下さいとかお掃除お願いしますとか、お水を汲んできてください、とか! 思い付く限りのお願いを先生や私達がノートにいっぱい書くの。どれも簡単で安全なものだから、皆はその中から好きなものを選ぶだけ」
なるほど、簡単な仕事の引き換えにお薬を渡す、という仕組みのようだ。
しかし──。
「この薬、そんな安くないんじゃないですか?」
「えっ……なんでそう思うの?」
「だって……これ、妖精の暮らす森に湧く泉から汲んだ物で作ったんですよね?」
前作で錬金術を極めていたから分かる。
この遊色が見られる液体は一つしか存在せず、かつ妖精の女王が暮らす森にしか存在しない。
そして、妖精の女王は人間がとても嫌いなことで知られていた。
「君は……ううん、何でもない。えっとね、詳しくは話せないんだけど、ちゃんと許可は貰ってるよ。対価はいらないから好きに使いなさいって」
「はあ!?」
あの冴え凍るような美貌の女王が何の代価も無しに魔力の宿る泉の水を譲るだなんて、正直信じられない話だ。
何をしたらそんなことが可能になるんだろうか。
自分だって散々お使いクエストをやった挙げ句に、貰えるのは一日一回僅かな量だった。
女王がいる限りその泉の水は枯渇することがないという話なのに随分と心の狭い、と愚痴ったものだ。
「えへへ、驚いちゃうよね。そんな貴重なものを下さるなんて」
「あ……はい。でもここの近く、妖精の森って無いですよね……?」
妖精の森は人里離れた遥か遠い森の中に存在し、地図は存在せず、不要に立入ろうものなら二度と生きては出られない迷宮のような森だ。
どうやってそんな所から水を持ってきているのか──。
「これ以上は秘密、だよ!」
シーッと彼女は秘密のジェスチャーをしてニコニコ笑う。
どうやら薬を飲むのを見届けるまで退散する気はないようだ。
仕方なく蓋を開け、匂いを嗅ぐ。
中身は花のような微かな甘い香りがした。
どこか癒やされる、そんな香りだ。
クイッと軽く煽ると砂糖菓子のような甘い味が口内に広がる。
「よく出来ました!」
小さい子にするようにレティが笑顔で頭を撫でてくる。
ああ、もういい、ここは大人しく甘えておこう。
どうしたって彼女から見たらオレは子供にしか見えないし、反抗する理由などない。
「じゃあ、あとはしっかり寝ること! 明日になったらもっと体調良くなってると思うから」
オレが頷いて布団に潜り込むと、彼女は杖を軽く振って空中に漂うライトを消した。
ずげー、あんな風にオレも魔法使いてぇーとか色々な考えが次から次へと浮かんできてどうにも落ち着かない。
少し夜風にでも当たろうか、そう考えて立ち上がる。
部屋には庭園へと繋がる扉があり、その先にあるウッドデッキに俺は腰を下ろした。
見上げれば、見たことないような星雲と星が宝石のように空を美しく彩っている。
元の世界、自分が暮らしていた国では見られない壮大な光景に、違う世界に来たのだとぼんやり思った。
「……眠れませんか?」
気遣うような優しい声。
顔を上げると少し離れた場所にあるテラス席に先生が座っていた。
ふいに声を掛けても驚かないように配慮してくれたのだろうか。
サイラス医師の声は吹き抜ける風と虫に溶け込みそうなほど小さなものだった。
「あ、はは……目が冴えてしまって……」
「そうですか……。仕方ないことですよ、あなたの境遇、年齢を考えれば不安で泣いても仕方ないのに……君は将来大物になりそうですね」
まあ、確かにこの年頃なら或いは愚図っていたかもしれない。
中身が本当に子供ならば、だが。
生憎この中身は成人した大の大人だ。
「あっ! お薬ありがとうございました、この御恩は必ず返します!」
「ちゃんと飲めたようで良かったです」
「妖精の森の水を使って作られた薬なんて初めて飲みました。甘くて……でも何だか癒やされるような不思議な味で驚いたというか……」
「どうして、あの薬が妖精の森の水だと見抜けたんですか?」
「え……」
一瞬、強い風が吹き荒れる。
サイラス医師の表情からは笑顔が抜け、空気がピリつく程真剣なものになっていた。
「あの薬、悪用を防ぐため魔力のある人間には中身が分からないよう呪いが掛けてあるんです。魔力のない人達は魔力がない故、そもそも成分を知ることはできない。どちらにしてもただの水溶液にしか感じられないということです」
「……それ、は……」
鼓動が早まり、手のひらがじっとりと汗ばんでくる。
何か上手い言い訳を、と気ばかり焦って何も思いつかない。
(正直に話したとしても信じてもらえるはずがない……。でもこのまま何も言わなかったら悪人だって疑われるんじゃ……)
「……すみません……正直分からないです。でも中がキラキラして見えたのは事実だし、どこかで見た絵本に妖精の泉は輝いてるって書いてあったし……」
けして嘘ではない。
子供向けの絵本で、そういうシーンが描かれているものがあったのだ。
しかし700年も前だと現在も存在しているかは不明だが。
「あぁ、そこは先生も考えてるっていうか……受付のすぐ近くにお願いリストがあってそこから好きなお願いを叶えるだけでお薬と引き換えできるの!」
「お願いリスト?」
「そう。例えば近隣の自然公園から薬草になる花を詰んできて下さいとかお掃除お願いしますとか、お水を汲んできてください、とか! 思い付く限りのお願いを先生や私達がノートにいっぱい書くの。どれも簡単で安全なものだから、皆はその中から好きなものを選ぶだけ」
なるほど、簡単な仕事の引き換えにお薬を渡す、という仕組みのようだ。
しかし──。
「この薬、そんな安くないんじゃないですか?」
「えっ……なんでそう思うの?」
「だって……これ、妖精の暮らす森に湧く泉から汲んだ物で作ったんですよね?」
前作で錬金術を極めていたから分かる。
この遊色が見られる液体は一つしか存在せず、かつ妖精の女王が暮らす森にしか存在しない。
そして、妖精の女王は人間がとても嫌いなことで知られていた。
「君は……ううん、何でもない。えっとね、詳しくは話せないんだけど、ちゃんと許可は貰ってるよ。対価はいらないから好きに使いなさいって」
「はあ!?」
あの冴え凍るような美貌の女王が何の代価も無しに魔力の宿る泉の水を譲るだなんて、正直信じられない話だ。
何をしたらそんなことが可能になるんだろうか。
自分だって散々お使いクエストをやった挙げ句に、貰えるのは一日一回僅かな量だった。
女王がいる限りその泉の水は枯渇することがないという話なのに随分と心の狭い、と愚痴ったものだ。
「えへへ、驚いちゃうよね。そんな貴重なものを下さるなんて」
「あ……はい。でもここの近く、妖精の森って無いですよね……?」
妖精の森は人里離れた遥か遠い森の中に存在し、地図は存在せず、不要に立入ろうものなら二度と生きては出られない迷宮のような森だ。
どうやってそんな所から水を持ってきているのか──。
「これ以上は秘密、だよ!」
シーッと彼女は秘密のジェスチャーをしてニコニコ笑う。
どうやら薬を飲むのを見届けるまで退散する気はないようだ。
仕方なく蓋を開け、匂いを嗅ぐ。
中身は花のような微かな甘い香りがした。
どこか癒やされる、そんな香りだ。
クイッと軽く煽ると砂糖菓子のような甘い味が口内に広がる。
「よく出来ました!」
小さい子にするようにレティが笑顔で頭を撫でてくる。
ああ、もういい、ここは大人しく甘えておこう。
どうしたって彼女から見たらオレは子供にしか見えないし、反抗する理由などない。
「じゃあ、あとはしっかり寝ること! 明日になったらもっと体調良くなってると思うから」
オレが頷いて布団に潜り込むと、彼女は杖を軽く振って空中に漂うライトを消した。
ずげー、あんな風にオレも魔法使いてぇーとか色々な考えが次から次へと浮かんできてどうにも落ち着かない。
少し夜風にでも当たろうか、そう考えて立ち上がる。
部屋には庭園へと繋がる扉があり、その先にあるウッドデッキに俺は腰を下ろした。
見上げれば、見たことないような星雲と星が宝石のように空を美しく彩っている。
元の世界、自分が暮らしていた国では見られない壮大な光景に、違う世界に来たのだとぼんやり思った。
「……眠れませんか?」
気遣うような優しい声。
顔を上げると少し離れた場所にあるテラス席に先生が座っていた。
ふいに声を掛けても驚かないように配慮してくれたのだろうか。
サイラス医師の声は吹き抜ける風と虫に溶け込みそうなほど小さなものだった。
「あ、はは……目が冴えてしまって……」
「そうですか……。仕方ないことですよ、あなたの境遇、年齢を考えれば不安で泣いても仕方ないのに……君は将来大物になりそうですね」
まあ、確かにこの年頃なら或いは愚図っていたかもしれない。
中身が本当に子供ならば、だが。
生憎この中身は成人した大の大人だ。
「あっ! お薬ありがとうございました、この御恩は必ず返します!」
「ちゃんと飲めたようで良かったです」
「妖精の森の水を使って作られた薬なんて初めて飲みました。甘くて……でも何だか癒やされるような不思議な味で驚いたというか……」
「どうして、あの薬が妖精の森の水だと見抜けたんですか?」
「え……」
一瞬、強い風が吹き荒れる。
サイラス医師の表情からは笑顔が抜け、空気がピリつく程真剣なものになっていた。
「あの薬、悪用を防ぐため魔力のある人間には中身が分からないよう呪いが掛けてあるんです。魔力のない人達は魔力がない故、そもそも成分を知ることはできない。どちらにしてもただの水溶液にしか感じられないということです」
「……それ、は……」
鼓動が早まり、手のひらがじっとりと汗ばんでくる。
何か上手い言い訳を、と気ばかり焦って何も思いつかない。
(正直に話したとしても信じてもらえるはずがない……。でもこのまま何も言わなかったら悪人だって疑われるんじゃ……)
「……すみません……正直分からないです。でも中がキラキラして見えたのは事実だし、どこかで見た絵本に妖精の泉は輝いてるって書いてあったし……」
けして嘘ではない。
子供向けの絵本で、そういうシーンが描かれているものがあったのだ。
しかし700年も前だと現在も存在しているかは不明だが。
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