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第一章 死んでないが死にかけた
第7話 一息ついて
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正直言って、初対面の人間と食卓を囲むなんて気を使い過ぎて疲れるんじゃないかって思っていた。
だけど、そんなことを気にする余裕など、すぐに吹っ飛んでしまった。
嗅いだこともない、見たこともない、美味しそうな異世界の料理を前に、空腹のオレはいとも容易く陥落した。
(うっ……うまッ!!)
噛めば味が滲み出る肉団子も、甘い果実が散りばめられたサラダも、豆のスープもすべてが美味しかった。
空腹なこともあって一気に完食してしまい、タダ飯はいかんとばかりに皿洗いを敢行しようとしたものの、そこはやはり魔法が使える世界。
一瞬にして皿はキッチンの洗い場へ、泡がブクブクと汚れを落とし始める。
オレは今日は疲れただろうからと、サイラス医師に別の部屋に案内されたところだ。
「やっと一人になれた……」
オレには状況の整理と考える時間が必要だった。
バタバタしていたから忘れていたけど、まずは持ち物を改めてチェックする必要がある。
テーブルの上にはオレのバッグが置いてあり、それを取るとベッドの縁に腰を掛け、中を覗く。
この世界に飛ばされた時に所持していたのは、ゲームの特典である地図、ゲーム資料、指輪、杖の4点だ。
指輪の方はゲームのキャラがはめていて何らかの力を秘めてるらしいが、現段階では一切不明、杖もRPGで駆け出し魔術師が持つような厳しくて粗野な物だった。
ここで驚くべきはゲームのそれぞれのアイテムの外観や中身が変化していることだ。
設定資料は光沢のある表紙でゲームの世界観を詰め合わせたようなカッコいいイラストだったけれど、今はゴツい装丁の魔導書のようになっている。
10cmはあろうかという厚さにも関わらず、重さをそこまで感じないのはこの本に魔法でも掛かっているからだろうか。
指輪はプラチナのように輝いていて、台座にはめ込まれた澄んだオーシャンブルーの宝玉の中には魔法陣が浮かび上がってる。
子供の指にはぶかぶかだな、と軽い気持ちではめてみる。
「うぉっ!?」
いきなり指輪が締まり、オレは飛び上がる。
どうやら、持ち主の指のサイズな合わせて伸縮するらしく、手を振っても外れることはないほどぴったりサイズに調節されていた。
(指が千切れるかと思ったぜ……。あと、選ばれた主以外がはめると災いが起こる、となじゃなくて良かった……)
迂闊にも何も考えずにはめてしまったけれど、今後は気をつけなければならない。
元の世界で言う『非現実的』なことが当たり前に起こる世界なのだから。
次にチェックしたのは杖だが、魔法が使えないので自分の役には立ちそうにないアイテムだ。
だが、それはあくまでこの世界での話だ。
コレクションとしての価値は無限大、大事にしまっておかねば。
次は地図、これまたどうしたことか、いかにも年季の入ったような古めかしいデザインになっている。
元々の特典はこんな風じゃなかったので、この世界に来たことで変化したとしか言いようがない。
初めて触るがこれは俗に言う羊皮紙、というやつじゃなかろうか。
前のゲームで見た世界から700年経っているだけあって、残っている街や廃村になってまったような場所、新しく出来たらしい場所など、様々な名称が記されていた。
その中で一つ気になったところ、少し離れた場所に見覚えのある名前が記されていた。
「……これ、前のゲームで同じ名前の街があったな……」
蟻塚のような形をした遥か天空に聳えるように立つ岩石を穿って作られた街だ。
その頂には古い歴史を持つ大聖堂があり、世界を構築したとされる十二神が祀られている。
聖堂では神の気紛れにより声が聞き届けられた無作為の人間達が信託を受ける場所だ。
「ゲームで行くとの実際に行くのとじゃあ、大変さが違うだろうなあ……。まあ、ここ以外にも十二神を祀る聖堂があれば別だけど……」
もし、そこに行けたならば或いは、自分がこの世界に飛ばされた理由が分かるかもしれない。
オレはベッドに広げていたアイテム類を再びバッグにしまい、子供には些か大きすぎるベッドの上に身を投げだした。
ふかふかでいい匂いがする。
初対面なのにこんなに良くしてくれるなんて、本当に感謝しかない。
そう思っているとふいに扉をノックする音がし、オレはベッドから立ち上がる。
「マティス君、お薬持って来たよ」
ドアを開けると、レティが小さな小瓶を持って立っていた。
透明で人差し指ほどの長さで、中身は透明、ではなく宝石のオパールみたいに光が漂っている。
「ちゃんと飲んで寝るんだよ? このお薬は飲みやすいし副作用もないから!」
めっ、と子供を諭すようにレティは人差し指を立てる。
また子供扱いするのかと言いたいが実際に子供になってしまった上、先程あれだけ盛大に暴れてしまったのだから仕方ない。
「そういえばオレ……お金持ってないし……受け取れないです」
「出世払い!」
「え?」
「出世払いで構いません、先生はいつもそう言って皆からお金を受け取らない。だけど、それだも皆が恐縮してしまうから5ゴールドって言ってるの」
だけど、そんなことを気にする余裕など、すぐに吹っ飛んでしまった。
嗅いだこともない、見たこともない、美味しそうな異世界の料理を前に、空腹のオレはいとも容易く陥落した。
(うっ……うまッ!!)
噛めば味が滲み出る肉団子も、甘い果実が散りばめられたサラダも、豆のスープもすべてが美味しかった。
空腹なこともあって一気に完食してしまい、タダ飯はいかんとばかりに皿洗いを敢行しようとしたものの、そこはやはり魔法が使える世界。
一瞬にして皿はキッチンの洗い場へ、泡がブクブクと汚れを落とし始める。
オレは今日は疲れただろうからと、サイラス医師に別の部屋に案内されたところだ。
「やっと一人になれた……」
オレには状況の整理と考える時間が必要だった。
バタバタしていたから忘れていたけど、まずは持ち物を改めてチェックする必要がある。
テーブルの上にはオレのバッグが置いてあり、それを取るとベッドの縁に腰を掛け、中を覗く。
この世界に飛ばされた時に所持していたのは、ゲームの特典である地図、ゲーム資料、指輪、杖の4点だ。
指輪の方はゲームのキャラがはめていて何らかの力を秘めてるらしいが、現段階では一切不明、杖もRPGで駆け出し魔術師が持つような厳しくて粗野な物だった。
ここで驚くべきはゲームのそれぞれのアイテムの外観や中身が変化していることだ。
設定資料は光沢のある表紙でゲームの世界観を詰め合わせたようなカッコいいイラストだったけれど、今はゴツい装丁の魔導書のようになっている。
10cmはあろうかという厚さにも関わらず、重さをそこまで感じないのはこの本に魔法でも掛かっているからだろうか。
指輪はプラチナのように輝いていて、台座にはめ込まれた澄んだオーシャンブルーの宝玉の中には魔法陣が浮かび上がってる。
子供の指にはぶかぶかだな、と軽い気持ちではめてみる。
「うぉっ!?」
いきなり指輪が締まり、オレは飛び上がる。
どうやら、持ち主の指のサイズな合わせて伸縮するらしく、手を振っても外れることはないほどぴったりサイズに調節されていた。
(指が千切れるかと思ったぜ……。あと、選ばれた主以外がはめると災いが起こる、となじゃなくて良かった……)
迂闊にも何も考えずにはめてしまったけれど、今後は気をつけなければならない。
元の世界で言う『非現実的』なことが当たり前に起こる世界なのだから。
次にチェックしたのは杖だが、魔法が使えないので自分の役には立ちそうにないアイテムだ。
だが、それはあくまでこの世界での話だ。
コレクションとしての価値は無限大、大事にしまっておかねば。
次は地図、これまたどうしたことか、いかにも年季の入ったような古めかしいデザインになっている。
元々の特典はこんな風じゃなかったので、この世界に来たことで変化したとしか言いようがない。
初めて触るがこれは俗に言う羊皮紙、というやつじゃなかろうか。
前のゲームで見た世界から700年経っているだけあって、残っている街や廃村になってまったような場所、新しく出来たらしい場所など、様々な名称が記されていた。
その中で一つ気になったところ、少し離れた場所に見覚えのある名前が記されていた。
「……これ、前のゲームで同じ名前の街があったな……」
蟻塚のような形をした遥か天空に聳えるように立つ岩石を穿って作られた街だ。
その頂には古い歴史を持つ大聖堂があり、世界を構築したとされる十二神が祀られている。
聖堂では神の気紛れにより声が聞き届けられた無作為の人間達が信託を受ける場所だ。
「ゲームで行くとの実際に行くのとじゃあ、大変さが違うだろうなあ……。まあ、ここ以外にも十二神を祀る聖堂があれば別だけど……」
もし、そこに行けたならば或いは、自分がこの世界に飛ばされた理由が分かるかもしれない。
オレはベッドに広げていたアイテム類を再びバッグにしまい、子供には些か大きすぎるベッドの上に身を投げだした。
ふかふかでいい匂いがする。
初対面なのにこんなに良くしてくれるなんて、本当に感謝しかない。
そう思っているとふいに扉をノックする音がし、オレはベッドから立ち上がる。
「マティス君、お薬持って来たよ」
ドアを開けると、レティが小さな小瓶を持って立っていた。
透明で人差し指ほどの長さで、中身は透明、ではなく宝石のオパールみたいに光が漂っている。
「ちゃんと飲んで寝るんだよ? このお薬は飲みやすいし副作用もないから!」
めっ、と子供を諭すようにレティは人差し指を立てる。
また子供扱いするのかと言いたいが実際に子供になってしまった上、先程あれだけ盛大に暴れてしまったのだから仕方ない。
「そういえばオレ……お金持ってないし……受け取れないです」
「出世払い!」
「え?」
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