異世界転生したけどそんな都合よく最強にはなれませんでした!?前途多難の駆け出し冒険者

蒼桜月薔薇

文字の大きさ
12 / 21
第一章 死んでないが死にかけた

第11話 聖堂への道すがら

しおりを挟む
 アフェトラウム診療所を出た時から、嫌な視線が纏わり付いている。
 それはきっとオレの首に付けられた"逆さまの五芒星"の飾りが付いたチョーカーのせいだろう。
 随分と皮肉が効いているではないか。

 六芒星なら魔術師協会に認定された魔術師、五芒星なら一般人、逆さまの五芒星は魔力喪失病の者──。
 自分のいた世界でも逆五芒星は悪魔崇拝者の証だとか悪魔の印だとか何だとか言われてるくらいで、それをわざわざ魔力喪失病の人間にあてがうとは──。

 視界が低いせいで見上げる形になるのだが、通り行く人の反応は様々だった。
 露骨に嫌悪感を露わにする者、敵意を剥き出しにする者、哀れみの視線を向ける者、魔物にでも出会したかのようにわざとらしく距離を取る者──。
 大衆が向ける様々な思惑にオレは晒されていた。

(これが、この街にいる魔力喪失病の人達が受けている扱いか……と言ってもこんなのまだ序の口だろうけど……)

 魔力喪失病の治療に向けた研究が始まったとはいえ、状況は一進一退だ。
 存在しないものとして扱われていた人達が個として認知されるようになったのは、良いことだけではなく悪い状況も引き起こした。
 彼らに悪意の矛先が向けられるようになったのだから。

 しかし、先程から一体何だというのだろう。
 何故か、街の人間達はレティの姿を見付けると、途端に佇まいを正し敬意を表するように頭を下げる。
 レティはそれに応えるでもなく、黙々と街道を進んだ。
 頑なに周囲の人達に目もくれようとしない姿、表情こそ変わらないものの彼女が胸の内に怒りを秘めているような、そんな気がした。

 触れてはならない、そう感じてオレも目立たないように下を向き、粛々と歩を進める。
 十分程して辿り着いたのは年代を感じさせる、小ぢんまりとした聖堂だった。
 まるで観光にでも来たかのような気分になり、オレはまじまじと建物を眺める。

 神殿が白、というのは定番のようでこの建物も経年による汚れと日焼けは見られるが、この建物も全体的に白い。
 それでいて至る所に蔦科の植物が巻き付き自然との融合を果たしているのが、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。
 敢えてそれらを刈り取らずありのままにしているのは、神は万物に宿るという東洋の価値観が今回もこの世界に投影されているからだろうか。

「マティス君、こっち」

 扉の前でレティが手招きしている。
 オレは彼女の元へと急いだ。

 木の軋む音と共に扉が開くと、ふわりと薬草の香りが漂う。
 それはけして顔をしかめたくなるような苦々しいものではなく、マスカットのような爽やかさを感じさせるものだった。
 恐らく多くの神殿で用いられている、魔物を寄せ付けないという言い伝えがあるエルダーフラワーの香りだろう。

 聖堂には幾つもの長椅子が通路に沿って並べられていて、その最奥には像が建てられている。
 眠る子供を腕に抱き慈愛の眼差しを向けているこの方こそ、女神・ジアシフォリア様だ。
 その姿は前作と変わらないようで美しさも健在だ。

(近所のオバちゃんみたいにふくよかで力強いお姿じゃなくて良かった……)

 美しさとは自己管理と努力の先にある、とオレは思っている。
 努力して己を磨いた結果がその姿に現れるというものならば、それを表現した女神様の姿にも納得がいくというものだ。
 来訪者と話していた神官は、こちらに気付くと話を切り上げてこちらにやってくる。
 そして深々と頭を下げた。

「レティ様、ようこそお越し下さいました」

(……様?)

 どう考えても神官の方が上の立場であろうに、何故敬称なのだろう。
 疑問に思ってレティを見ると彼女は笑顔を浮かべていた。
 短時間一緒にいたオレでも分かる、作り物の笑顔を。

「私に畏まるのはやめて頂くようお願いしたと思うのですが──」
「そうはいきません。何せ、あなた様はジアシフォリア様の加護を受けた聖女であらせられるのですから」
「候補、の間違いでは? 加護を受けた方は他にもいらっしゃいます」

 笑顔の応酬、どっちもニコニコと笑っているが、凄まじい圧を感じる。
 
 聖女候補とは聞こえはいいが、あまり良いものではないというのを裏側を見ているオレは知っている。
 聖女候補は生まれてすぐに強制的に神殿に籠められ、聖女としての在り方や力の使い方、学業、作法などを徹底的な教育を受けさせられるはずだからだ。

 けれど、レティはサイラス先生のところで手伝いをしていると聞いており、行動制限も特に無さそうに見える。
 二人もそのことについては一切言及していなかったし、レティが聖女候補だなんてここに来て初めて知った。
 色々疑問はあるが、七百年もあれば伝統も変わるのだろうか──。

「いい加減に意地を張るのはお止めなさい。あなた様の妹君のことは残念に思いますが、それもこれもすべては神のお導きによるもの。あなたは聖女としてより多くの生命を導く必要が──」

「魔力喪失病以外の──、ですか?」

 レティはもう笑っていなかった。
 内に滾る怒りを隠そうともせず、神官をきつく睨みつける。
 しばらくの沈黙の後、先に折れたのは神官の方だった。

「好きになさるといい。しかしあなたはけして宿命からは逃げられないことを、お忘れなきように」

 そう言って神官はレティの元を離れ、別室へと引き上げていく。
 その際、神官はオレを蔑みの目で一瞥し吐き捨てるように小声で呟いた。

虚無の石炭ニヒルタールめが……」

(っの……クソジジイが!!)

 聞こえなかった振りをしてツーンと澄ましながら、腹では絶大な声で悪態を吐く。
 何でこんな人間が聖職者なんかに就いてるんだ、と思ったけれど、それだけこの世界に魔力喪失病の人間に対する偏見が強く根付いているからだ。
 虚無は魔力が無いから、タールは熱すると有毒ガスが発生することから、陽の下で暮らすことを許されない彼らを揶揄したとても侮辱的な呼称だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...