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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!
Chapter 3
しおりを挟む「なんだ、智加。まだ寝てなかったのか?」
「うん……」
一臣達の引っ越しが終わった後、綺麗になった一臣達の部屋で夕飯を一緒に食べた俺と天馬は、日が変わる少し前に自分達の部屋に戻って来た。
帰宅するなりお風呂を入れに行った天馬は、一臣に説教された影響なのか、俺に一番風呂を譲ってくれた。
一臣に何を言われたのかは知らないけれど、自分が入れたお風呂を先に譲ろうと思う程度には罪悪感みたいなものがあるのだろうか。俺が欲しいのは罪悪感じゃなくて恋人としての愛情なんだけど。
お風呂を出た俺は髪の毛を乾かし、電源を入れたテレビから流れる映像と音声をBGMにぼーっとしていた。特にすることがないのであれば、自分の部屋に戻って寝てしまっても良かったのかもしれないけれど、まだ天馬に「おやすみ」を言っていなかった俺は、せめて天馬に「おやすみ」を言ってから部屋に戻ろうと思ったのだけれど……。
「眠たくないのか? 顔は眠そうにしてるけど」
「うん。まだ眠くない」
いざ天馬の顔を見ると、もう少し天馬と同じ空間にいたいと思ってしまい、「おやすみ」という言葉が口から出てこなかった。
天馬はクッションを抱き、ソファーの上に足を乗せて座る俺の隣りに腰を下ろしてくると、ソファーの前のテーブルの上に置かれたドライヤーに手を伸ばし、濡れた髪を乾かし始めた。
こうして当たり前のように隣りに座ってはくれるんだよね。微妙な距離があるものの。
(どうせならもう少しくっついて座ってくれればいいのに……)
こうしたちょっとしたことでも恋人らしさを感じられない天馬にふて腐れたくなる。天馬に悪気がないことはわかっていても。
天馬が髪を乾かしている間、俺と天馬の間に会話はなかった。ドライヤーの音が煩いからなのもあるけれど、お互い何を話していいのかわからなかったからかもしれない。
「わぷっ……なっ、何するの⁈」
と思いきや、髪の毛を乾かし終わった天馬がいきなりドライヤーの風を俺に当ててきたから、俺はびっくりして大きな声を上げてしまった。
「いや。なんか元気がないと思って」
「そ……そんなこと……」
ない……こともない。確かに今の俺にはあまり元気がない。
天馬と一緒に暮らせることになったのは嬉しいし楽しいけれど、そればっかりじゃないのも複雑だな……と思うと多少元気もなくなるってものだ。
「もしかして、今日の俺と一臣の会話を気にしているのか?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「けど?」
「~……」
どうしよう。ここは素直に「そうだ」と認めてしまった方が、天馬も俺が何を求めているのかがわかっていいのかな。でも、それを認めて天馬に“こいつ、付き合ったはいいが面倒臭いな”って思われるのだけは絶対に嫌だ。
何せ天馬は面倒臭がりの物臭男。面倒臭いことが何よりも嫌いなんだ。天馬が俺のことを“面倒臭い”と思った時点で俺は天馬に嫌われちゃう。せっかく苦労して恋人同士になったのに、一緒に暮らし始めた途端に嫌われちゃったら目も当てられないよ。ああっ! 俺は一体どうしたらっ!
「天馬って俺のこと本当に好きなのかなって不安になっちゃって……」
天馬の性格を考えたら、俺の胸の内は口にしない方が得策だと思うけど、自分の素直な気持ちを伝えてみたいという気持ちもある。
言おうかどうしようか悩んだ挙げ句、ちょっとだけ本音を零してみようと思った俺は、一番面倒臭がられそうなことを言ってしまった自分にすぐさま後悔をした。
「……………………」
俺の本音を聞いた天馬は何を考えているのかわからない無表情な顔で俺を見詰めてきたかと思うと
「好きじゃなかったら付き合わないよ」
と言った。
「え……」
自分から言い出したことなのに、天馬の言葉に驚いてしまった。まさか天馬がそんなことを言ってくれるなんて思ってもみなかったから、驚いたのもあるけど嬉しくもなった。
「まあ、俺はこんな性格だし、感情が外に出にくいから智加が不安になる気持ちはわかる。でも、少なくとも俺は智加と恋人同士になってもいいと思うくらいには智加のことが好きだし、智加のことは可愛いと思ってるよ」
「天馬……」
これは夢? 今、初めて天馬が俺に向かって恋人らしいことを言ってくれた。天馬があまりにも淡々とした様子で話すものだから、恋人同士らしい雰囲気はなく、ただ普通にお喋りしてるだけって感じにはなっているものの。
これが天馬の言う“こんな性格”であり、“感情が外に出にくい”ところなんだろうか。
でも、これは俺にとって紛れもなく嬉しい発言、嬉しい出来事で、もし俺が日記なんてものをつけていたとしたら、今の天馬のセリフを一言一句間違えずに記録していたことだろう。
いや、日記なんてつけていなくても今の天馬のセリフは一生忘れない。
だって、天馬が俺のことを「可愛い」って言ったんだよ? ちゃんと「好き」とも言ってくれた。俺はその言葉だけで天にも昇る気分だよ。
天馬もこういうことが言えるなら、普段からもっと言ってくれたらいいのに。そしたら俺も「天馬って俺のこと好きなのかな」って不安になる必要がないのにさ。
「一臣にも言われたけど、俺のこういう相手のことを好きかどうかがわかりにくいところが智加を不安にさせるんだろうな。不安にさせてごめんな」
「ううん」
「でも、智加のことは好きだからな」
「うん。嬉しい」
ああ……どうなることかと思ったけど、思い切って本音を言ってみて良かった。天馬は俺のことを面倒臭がったりしなかったし、天馬の口から俺への気持ちを聞けたしで一石二鳥だよ。
まあ、若干“好き”の気持ちに温度差があることを感じなくもなかったけれど。それも天馬にしては上出来っていうか、天馬も俺のことを好きだと思ってくれているだけでも良しとしよう。
俺と天馬は付き合い始めてまだ一ヶ月ほどしか経っていないし、もともと友達同士から始まっている俺達だから、恋人同士になったからといって、天馬の俺に対する恋愛感情が爆発的に大きくなることもないんだろう。
天馬は俺が好きだから俺と付き合ったというより、俺に告白されて“智加のことは好きだから付き合ってみるか”って気持ちになったから、俺と付き合うことにしたんだ。
言ってみれば、今は天馬にとってお試し期間のようなもの。天馬の俺への恋愛感情はこれから大きくなっていくわけだから、今の時点では俺と恋人らしいあれこれをしたいって気持ちが薄いのも仕方ないことだよね。
三年間という片想い期間がある俺としてはそれがちょっともどかしくもあるけれど、よくよく考えてみたら俺と天馬が恋人同士になれたこと自体が奇跡みたいなものだもん。あまり欲を出すのも良くないよね。
天馬が俺のことを「好き」だと言ってくれた。「可愛い」って言ってくれた。だったら俺は、これからもっともっと天馬に好きになってもらう努力をしなくちゃ。
「ごめんね。俺、面倒臭いこと言ったよね」
「別に。俺は智加のことを面倒臭いなんて思ったことは一度もないよ」
「ほんと?」
「ああ。だから智加とは付き合えると思ったんだ」
くぅ~っ! 生きてて良かった! っていうか、お風呂から出た後すぐに自分の部屋に引き籠らず、天馬が出てくるのを待ってて良かった! 俺、これまでに一度も天馬から“面倒臭い”って思われたことがないんだ。それって最高の褒め言葉みたいなものじゃない?
面倒臭がりの天馬にとって、相手のことを面倒臭いと思うかどうかは重要なポイントになる。天馬が自分と同じ男の俺と付き合うことにしたのは、身近に一臣と光稀という同性カップルがいたから、男同士で付き合うことにそこまでの抵抗がなかったからなのかもしれないけれど、一番の理由は“面倒臭いと思ったことがない”からだったのかも。
「多分、智加のことを可愛いと思っているから、普通なら面倒臭いと思うことも智加だと面倒臭くないと思うんじゃないかな。だから、智加も俺に言いたいことがあるなら遠慮なく言っていいよ。今みたいに一人で思い悩んでないで」
あと、天馬が俺のことを可愛いと思っているのも理由になるらしい。あまりそう思っているようにも見えないんだけれど、俺を可愛いと思っている天馬は、俺の言動については面倒臭さを感じなくなるらしい。
それって相当好かれてるってことじゃない? え? 俺ってちゃんと天馬に愛されてる?
でも、言われてみればここに引っ越してきた二日目の夕方。部屋着で髪もぼさぼさのまま外にご飯を食べに行こうとした天馬を俺が咎めた時、いつもの天馬なら絶対に面倒臭がると思ったのに面倒臭がらなかった。面倒臭がらずに俺の言葉に従ってくれた。あれってつまり
『可愛い智加のお願いなら聞いてやろう』
って思ってくれたってこと?
だとしたら尋常じゃなく萌えるんですけど。っていうか、今この場で盛大にガッツポーズをしたくなるくらいの歓喜なんですけど。
「うん。そうする」
今まで恋人らしいやり取りが一切なかったぶん、急にこういう展開になられてもちょっと戸惑う。天馬に「言いたいことがあるなら遠慮なく言っていいよ」と言われても、そう簡単になんでも言おうとも思えなかった。
全くもう……展開が唐突過ぎるんだよ。嬉しいけどついていけなくなるじゃん。この間だけで、俺は何回天馬に「好き」って言葉を遣われて、何回「可愛い」って言って貰えたんだっけ?
確か、“好き”が四回で“可愛い”は二回だったと思う。どちらの言葉も一回口に出されただけでも有頂天になっちゃうのに、それ以上口にされたら舞い上がり過ぎて酸欠になっちゃいそうだよ。でも……。
「ねえ、早速聞いてもいい?」
「うん」
「天馬って俺のどういうところが可愛いと思ってるの?」
俺のことを可愛いと思ってくれているのであれば、もうちょっと何かしたいって気になってくれても良くない? と、早く天馬から手を出してもらいたいという願望を捨てきれない浅ましい俺だった。
だって、可愛いって感情があるなら、それは“何かしたい”っていう欲望に繋がっていくはずだもん。
「そうだなぁ……」
さあ。果たして天馬の答えは如何に……。
「なんかころころしてて可愛い」
「え……」
こ……ころころ? まさかの球体? 俺、そんなに丸いつもりはないんだけど。
俺の身長は年齢別の平均身長から見たらちょっと下回っているけれど、身長別の平均体重からも下回っている。だから、太めってわけでもないと思うんだけど……。
もしかして、顔の形が丸いから、首から上を見た時に球体に見えちゃうのかな。この丸い顔のせいでなんか童顔に見えるし、俺は結構気にしてるんだけどな。
丸は丸でも光稀みたいに綺麗な卵型の顔の形をしていたら、俺も自分の顔の形にコンプレックスを感じなくて済むのに。
でも、天馬が俺のこの丸い顔の形を可愛いと思っているのだとしたら、丸い顔に生まれてきて良かったと思わなくもないしで複雑。
というより何よりも
(顔が好みで可愛いとかじゃないんだ……)
そこですよ。
そりゃ確かに、俺も自分の顔が特別可愛いとは思ってないし、どこにでもいそうな極々普通の顔の作りをしているとは思うよ。それでも、格好いい天馬と釣り合うようにって努力はしてるもん。
天馬に一目惚れをしてから、自分に似合う髪型や服装を研究するようになったし、お肌のお手入れだってするようになった。俺はもともとの容姿がパッとしないから、ただ普通に立っているだけでも格好良く見える天馬と一緒にいても無様に見えないようにするためには相当な努力が必要になる。
それなのに、顔が可愛いとかじゃなくて、ころころしてるのが可愛いって……。それもう容姿じゃなくて雰囲気じゃん。雰囲気とか動作の話じゃん。素直に喜べないよっ。
「俺の中で智加は……あ、ほら。あんな感じ」
「え?」
つけっぱなしにしていたテレビのことなんかすっかり忘れていた俺は、ちょうどテレビにいい例が映ったと言わんばかりに、テレビの画面を指差す天馬に促され、視線を天馬からテレビへと移してみた。
《ここは先月オープンしたばかりの白玉専門店です。見てください。白玉を使ったメニューがこんなに沢山ありますよ~》
なんの番組かは知らないけど、話題のお店を色々と紹介する番組なのだろう。画面いっぱいに映し出された大量の白玉達に、俺は最早唖然となるしかなかった。
「白……玉……?」
真ん丸で、つるつるもちもちしている真っ白な白玉は、確かに見ていて心が和むし、可愛いと言えば可愛いのかもしれない。でも……。
(俺がこの白玉と一緒だとでも?)
いくらなんでも白玉はあんまりじゃない? 自分の恋人を白玉みたいで可愛いってどういう感性なんだよ。人間どころか生き物でさえもないじゃん。食べ物じゃん。スイーツじゃん。だったらいっそのこと俺のことも食べちゃってよ。シロップ漬けにでもなんでもなってあげるから。
「知ってるか? 人間は白くて丸いものを本能的に可愛いと思うらしい。智加は色白だし顔も丸いだろ。ほっぺたも柔らかそうだから、前から白玉みたいで可愛いと思ってたんだよ」
「ああ、そう……ははは……」
嬉しくない。全っっっ然嬉しくない。俺、今まで天馬から食べ物として見られていたってことなんだ。それも、こんなにまんまるな白玉として。
それもう言葉の暴力レベル。俺は深く傷ついたよ。
《そして、このお店には白玉をキャラクターにしたオリジナルグッズもあるんですよ。その名も“白玉ちゃん”です。これがそのキャラクターなんですが、見てください。とっても可愛いと思いませんか? 結構いろんな種類のグッズがあるんですね~》
ショックのあまり頭がクラクラしてきた俺は、紹介された白玉ちゃんなるキャラクターを見た天馬に
「おー。智加にそっくりだ。今度買いに行くか?」
と言われ、こめかみの辺りがプチッとなった。
何が「智加にそっくり」だよ。ただ丸の中に顔があるだけのキャラクターじゃん。こんな誰にでも描けるような顔をしてるってこと?
「うわぁ~んっ! 天馬の馬鹿ぁっ! 俺、白玉なんかじゃないもんっ!」
せっかく天馬に可愛いと思われていることを喜んでいたのに。そういう意味で可愛いと思われているのだと知ったら怒りたくもなるよ。それじゃ天馬が俺に何かしようって気にならないのも当然だよね。白玉だもん。人間として見られてないんだもん。
「こらこら、暴れるなよ。冗談……でもないけど、俺はちゃんと智加の顔も可愛いと思ってるよ」
「っ……」
泣きそうな顔になって天馬の胸をぽこぽこ殴る俺は、そんな俺を宥める天馬におでこにちゅっ、とキスしてこられて時が止まった。
「て……天馬……?」
「ん? なんだ?」
「いや……なんでもない……」
今……キスした? 俺のおでこにちゅってキスした? しかも、俺のこと可愛いって言いながら……。
「お。この店ここからそんなに遠くないぞ。これはもう行けってことか?」
「……………………」
気のせい……かな? おでこと言えど俺にキスしてきたわりに天馬の反応が普通過ぎる。
怒ったついでに暴力的な行動に出た俺を止めようとして、偶然天馬の唇が俺のおでこに当たっただけなのかな?
(でも……)
おでこにキスされる前、天馬の腕が俺の身体を抱き寄せてきたような気がする。だから俺も一瞬暴れるのをやめて、その隙にキスされたって感じだったと思うんだけど……。
「なあ、智加。今度行ってみよう。ここのオリジナルグッズ買ってやるぞ」
「~……」
だから、俺は白玉じゃないってば。いい加減“俺=白玉”から離れてよ。そんなグッズ買ってどうするんだよ。俺に使えとでも? 白玉みたいな俺が白玉ちゃんグッズを使っている姿でも見たいの? 俺の頭の中は今それどころじゃないのに。
「って、聞いてるか?」
「ぅ、うん……聞いてるよ……」
さっきのキスは偶然なのか故意なのか。それを確認したいのにまるでそんな空気ではない。天馬はテレビで見た白玉専門店が甚く気になるようで、俺が天馬に白玉扱いされて怒ったことすら忘れている雰囲気だった。
そう言えば、天馬って見掛けによらず甘いものが大好きなんだよね。白玉専門店なんて聞いたら行きたくなっちゃうのかも。
ついでに言うと、天馬はキャラクターものも結構好きだったりする。グッズを買ったり集めたりはしないけど、よくスマホで画像検索して眺めている。
特にゆる~い感じのキャラクターがお好みのようで、さっきテレビに出てきた“白玉ちゃん”なるキャラクターは天馬のストライクゾーンだ。
甘いものもゆるキャラも置いている店となると、面倒臭がり屋の天馬でも重い腰を上げる気になるらしい。
「そうだね。今度行ってみようか。近いなら」
結局、それどころじゃないと思いつつも、心なしかうきうきしているような天馬の顔を見ると、キス云々の話なんかできなくなってしまった。
天馬はそうしていいって言ってくれたけど、言いたいことを遠慮なく言うのって結構難しいんだよね。その場の空気っていうものがあるし。今日はちょっとだけ恋人らしい会話ができたからもういいとしよう。
それに、天馬からのおでこへのキスは記念すべき俺達の初キスにはなるものの、ファーストキスというわけでもない。初めての天馬からのキスが有耶無耶になってしまうのは残念だけど、しっかり記憶に残したいのはやっぱり唇へのキス……天馬に奪われるファーストキスの記憶だよね。
「見てろよ、天馬」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。別に」
今度はおでこなんかじゃなく、ちゃんと唇にキスしてもらうんだから。そして、天馬には俺のことが好きで好きで堪らないって気持ちになってもらうんだから。
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