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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!
Chapter 4
しおりを挟む視界がはっきりとしない薄暗い部屋の中、二人分の重みで沈むベッドに胸が高鳴る。
『緊張してる?』
優しい声で囁かれ、俺はこくんと小さく頷いた。
『俺も緊張してるよ。ほら、心臓がドキドキしてるのわかる?』
胸の前で頼りなく握り締められていた手を取られ、天馬の心臓の上に押し付けられたけど、自分の心臓がドキドキし過ぎて天馬の鼓動なのか自分の鼓動なのかがよくわからなかった。
(でも、ついに……ついにこの日が来たんだ……)
緊張で身体が固まっている俺のおでこにキスを落とした天馬は、そのままおでこから鼻、鼻から唇へとキスをして、俺をうっとりとした夢見心地へと誘う。
そのあまりにも心地良い感覚に天馬からのキスの感触がぼやけてしまう俺は、もっと天馬からのキスを感じようとするんだけれど、どうも上手くいかなかった。
(きっと緊張し過ぎて頭が真っ白になってるんだ……)
そう思うことにして、これから起こること全てを天馬に任せることにすると、緊張でガチガチになっていた身体も少しは楽になったような気がする。
『服、脱がしていい?』
もとよりそれを心待ちにしていた俺は天馬に聞かれるまでもなく、天馬の手で邪魔な服を早く取り除いて欲しいとさえ思った。
でも、初めてでいきなり「脱がせて」なんて催促するのははしたないし、節操なしだと思われても困る。多少は恥じらう姿も見せないと。
実際、天馬に服を脱がされて裸を見られるのが平気というわけでもない。天馬に比べて一回りも二回りも小さい小柄で幼い身体を、間近で天馬にまじまじと見られるのは恥ずかしいわけだし。
『うん……』
ほんのり赤く染まった顔で恥ずかしそうに頷くと、天馬は小さく笑ってまた俺にキスをしてくれた。そして、俺にキスをしながらも天馬の指は俺のシャツのボタンへと……。
プツッと一番上のボタンが外され、続いて二つ目、三つ目とゆっくり外されていくボタンに胸の鼓動は更に高鳴り、焦れったくも感じる時間に俺の興奮もマックスだった。
俺がずっと待ち焦がれていた天馬との特別な時間。恋人同士の夜の営み。天馬と迎える初めての夜……。
俺の妄想でしかなかった事態が今まさに現実になろうとしているんだ。
『あ……』
ボタンを外し終わったシャツを両腕から抜き取られると、乾いた部屋の空気が素肌に触れ、その感触に敏感に反応した俺は肩を竦め、頼りない瞳で天馬を見詰めた。
『恥ずかしい? 大丈夫。綺麗な身体だよ』
『天馬……』
自分の身体つきに自信がない俺は不安そうな顔でもしていたのだろうか。天馬に「綺麗な身体だよ」と言われ、内心ホッとする自分がいた。
『ほんと、小さくて、白くて、柔らかくて、もちもちしてて……』
露わになった俺の胸元を、うっとりした表情の天馬が大きな手で撫でていく。
初めて天馬に触ってもらう素肌に感動する俺は、感動のあまり自分が泣いてしまわないかが心配だったけど……。
『まるで白玉そのもので美味しそうだ』
次の天馬の言葉に「え?」となり、妙に心がざわついた。
(こんな時まで白玉?)
せっかくの雰囲気を台無しにされた気分で面白くない俺は
『俺、一度でいいから白玉の海に溺れてみたいんだよな』
なんて、変なことを言い出した天馬に激しく動揺する。
白玉の海ってなんだ。そんなものに溺れたら間違いなく窒息死だ。白玉の海というより白玉地獄だよ。
っていうか、天馬ってそんな馬鹿げたことを言う人間だったっけ? それもこんな時に。なんかちょっと違和感があるんだけど……。
『ほら。白玉の波が来るよ』
『え?』
益々変な展開に戸惑っていると、周りの景色が急に真っ白に変わり、どこからか本当に波のような音が聞こえてきた。
ザー……ザザー……ザッ……ザザッ……ザザザザッ……ゴッ……ゴゴゴゴゴゴ……。
最初はせせらぎだった波音は次第に強まって怒涛となり、その音に驚いた俺が音のする方を振り返ってみると……。
『なっ……!』
天馬の言う通り、本当に押し寄せてきた白玉の波が……。
『何事ぉぉぉ~っ⁈』
荒ぶる波の如く大量に押し寄せてくる白玉になす術がない俺は、逃げる間もなく白玉の中へと飲み込まれていった。
最早天馬の姿はどこにもなく、辺りを埋め尽くす大量の白玉の中に取り込まれてしまった俺は、わけがわからないまま、白しかない世界へと堕ちていった。
ゴンッ――。という鈍い音と一緒に痛みを感じて目を覚ました俺は、自分の上半身がベッドからずり落ち、フローリングの床に頭から落ちていることに気が付いた。
どうやら俺は夢の中で大量の白玉に押し流され、現実の世界でベッドから落ちたってことらしい。
何それ。夢の中の白玉にそんな力が? それもう呪いじゃん。白玉の呪いだよ。
天馬が俺を白玉とか言うから、俺の深層心理に白玉の存在が深く刻み込まれちゃったんだ。絶対そうだよ。そうに違いない。
「夢で良かった……」
せっかく天馬といい感じの夢を見れていたのに残念ではあるけれど、天馬との初めての夜を白玉なんかに邪魔されたのであれば、夢であった方がマシってものだ。
最初からおかしいとは思ったんだよね。俺が実際に体験していない感触は曖昧だし、視界もフィルターが掛かっているみたいにぼやけた感じがしたし。
「智加? なんか変な音がしたけど、どうかしたのか……って、随分と芸術的な格好だな。起きれるか?」
「……起こして」
「待ってろ」
ただ頭から床に落ちただけでなく、白玉の波から逃れるように身体を捻った状態でベッドから落ちたらしい俺は、足に布団が絡まり、手も変な角度になってしまい、自力で起き上がるのが困難な体勢になっていた。
おまけに寝起きで頭も身体もはっきりしていないから、自分で起きようという気すらない。
天馬は無様な格好で床に落ちている俺をひょいと軽々しく持ち上げると、俺をベッドの上に座らせてくれた。
「ありがと」
「どういたしまして。身体はなんともないか?」
「うん。平気だよ」
床に頭を打ったのは痛かったし、変な体勢にはなっていたけれど、幸いすぐに天馬が助けてくれたからどこか痛めたという感じではなかった。打った頭がちょっと痛いだけで、そのほかは健康そのものだった。
「全く。どういう寝相だ?」
「寝相が悪くて落ちたんじゃないよ。変な夢を見たからベッドから落ちたんだもん」
「変な夢?」
「そう。大量の白玉に流される夢」
「あははは。なんだそれ。可愛いな」
「~……」
俺の見た夢を聞いた天馬は心の底からおかしそうに笑ったけれど、俺からしてみれば笑いごとではない。
(くそー……夢の中の天馬が白玉って言葉さえ遣わなければ……)
今頃夢の中とは言え、天馬と熱い一時を過ごせていたはずなのに。
「ちょうど起こそうと思ってたところなんだ。タイミング良く智加がベッドから落ちてくれて良かった」
「良かったってなんだよ。好きで落ちたんじゃないのに」
「でもほら。智加の部屋に入る口実になるだろ。起きている時ならまだしも、人が寝てる部屋に入るのって気が引けるじゃないか」
「そう?」
むしろ俺は寝ている時にこそ入って来て欲しいんだけど。
天馬がそんなことを気にするとは思わなかった。恋人の部屋に入るのに遠慮なんてしなくていいのに。これじゃ天馬が俺に夜這いをかけてくれる日なんて夢のまた夢だよ。
俺と天馬が恋人同士のあれやこれをした後なら、天馬もそんなことをいちいち気にすることもなくなるとは思うけどね。まだキスも経験していない今の段階じゃ、無断で部屋に入るのは……って遠慮しちゃうってことなのか。
俺なんか、恋人同士じゃなくたって同じ男の部屋なら遠慮せずに入っちゃうけどな。そこに後ろめたさも引け目も感じない。相手が女の子だったら遠慮する気持ちはわかるし、勝手に部屋に入るべきじゃないとも思うけど、男同士なら構わなくない? お互い別に見られて困るものがあるわけじゃないし。天馬って意外と紳士的なんだな。
「別に入ってくれても構わないよ。天馬なら勝手に入られても嫌じゃないし」
「って言われてもなぁ……。勝手に人の部屋に入る習慣がないから、どうしても悪いことをしてる気分になっちゃうんだよ」
「ふーん……」
そういうもの? でも、そっか。天馬って確か妹がいるんだったよね。妹の部屋に勝手に入っちゃいけないっていう意識があるから、俺の部屋に入ることにも躊躇いがあるんだ。
かくいう俺にもお兄ちゃん――今はもう家を出ている――がいるけれど、わりと仲のいい兄弟だったから俺はお兄ちゃんの部屋には好きな時に出入りしていたし、お兄ちゃんも俺の部屋には勝手に入って来ることが多かった。だから、勝手に人の部屋に入ることにあんまり抵抗がないんだよね。
現に、俺は一緒に暮らし始めた天馬の部屋にもわりとよく入ってるもん。今のところは部屋の中に天馬がいる時に限るし、一応ノックもして入るけど、それは部屋の中に天馬がいて、天馬が起きているとわかっているからだ。天馬が不在だったり、寝ている天馬の部屋に入ることがあるのなら、当たり前のようにノックなしで入ると思う。
まあ、俺が無断で天馬の部屋に入ることがあるとしたら、それは夜這い目的になるんだろうから、今日明日の話にはならないだろうけどね。
「それより着替えて朝飯食おう。のんびりしてたら遅刻するぞ」
「うん。そうだね」
天馬との共同生活が始まって十日目。大学は既に始まっていた。
言っても、まだ始まったばかりの履修登録期間だから、必ずしも出なきゃいけない講義ばかりでもないんだけれど。履修期間中は出席を取らない講義がほとんどだし、試しに講義を受けてはみたけれど次からは出ないであろう講義もあった。
それでも、履修登録期間は大学に行かなくてもいい期間ではないし、最初にサボり癖がついちゃうと平気で大学をサボるようになりそうだから、履修期間中でも真面目に大学に通うようにしている。
今までと違って、大学をサボっても注意してくれる親がいないからね。自分のことは自分でしっかり管理しないと、とんでもなく堕落した生活を送ることになりそうだから気を付けないと。ただでさえ、うちは天馬が面倒臭がりだから。
と、思っていたんだけれど――。
「あれ? 今朝はパンじゃないの?」
実際に天馬と暮らし始めてみると、天馬はそこまで面倒臭がりでもなかった。
もちろん、面倒臭がりなところもあるにはあるんだけれど、家事は普通にやってくれる。
パジャマを着替えて顔を洗った俺がダイニングに顔を出すと、テーブルの上には二人分の朝食が用意されていた。
家事は当番制にしているから、今日の朝食係は天馬だった。
ここに引っ越してきた直後は外食が常だったけれど、それは自炊するための道具や食器の類、食材がまだ揃っていなかったから。道具や食器を揃えたら自炊をしようという話には最初からなっていた。毎日外食なんかしていたら仕送りがいくらあっても足りないし。
俺も天馬もこれまで料理をした経験なんてほとんどなくて、料理経験と言ったら学校の調理実習くらいではあったけれど、最近はネット上に簡単に作れて美味しいレシピがいっぱい上がっているから、料理未経験者と言ってもいい俺達にとってはとても助かるし、活用させてもらっている。
天馬は
『料理なんて面倒臭いから適当でいいだろ』
とか言って、本当に適当な料理ばかり作るのかと思いきや、そんなことはなかった。普通に料理と呼べるものを作ってくれるし、味も普通に美味しかった。
ひょっとして、天馬は食に関しては面倒臭さを感じないのかも。新しいスイーツのお店ができたらさり気なく行きたがったりするし。
「昨日炊いたご飯が残っていたからな。ついでに言うと、昨日光稀に美味しい味噌汁の作り方のコツも聞いたから試してみようと思って」
「俺、朝の味噌汁の匂いって好き」
普段朝はパン食ばかりなのに今朝はご飯食。それも、ご飯に味噌汁と焼鮭に卵焼きまで付いている。これはまさに絵に描いたような理想の朝食の姿なのでは?
「お茶でいいよな」
「うん」
しかも、お茶まで淹れてくれるらしい。なんか朝から至れり尽くせりだな。
今朝あんな夢なんかを見たから、今日は良くないことでも起こるのかと心配したけど。そういうことじゃなかったみたいでホッとした。
「あ。この味噌汁美味しい」
「それは良かった。料理上手な光稀に聞いた作り方だからな。そりゃいつもより美味しくもなるだろう」
「鮭も塩加減と焼き加減がちょうどいい~。卵焼きも美味しいし幸せ~」
「智加はそうやって俺が作ったご飯を美味しそうに食べてくれるから、俺も作り甲斐があるよ」
「だって本当に美味しいもん。俺、天馬の料理が美味しいとは思わなかったから、ちょっとびっくりしてるくらい。絶対面倒臭がって手抜き料理ばっかりになると思ってたのに」
「俺一人ならまだしも、智加がいるのに下手なものは作れないだろ。智加だって一緒に食べるんだから」
「そんなこと考えてくれてたの? 嬉しいっ」
なんかさ、こうした朝の仲睦まじい様子を見ると“俺達ってラブラブ?”とも思うんだけどさ。実際はキスもまだの健全過ぎるカップルなんだよね。
天馬は今はまだ俺と恋人らしいことするつもりがないみたいだし、しなくていいとも思っているみたいだけれど、それってこうして一緒に住んでいても気持ちが変わらないのかな。俺なんか毎日天馬と一緒にいられることで、天馬への好きって気持ちが日増しに大きくなっていく一方なのに。
天馬に好かれていないとは思わないし、一応俺のことは恋人だと思ってくれているのもわかるけど、天馬ともっと恋人らしくイチャイチャしたくて堪らない俺は
(こうなったらもう襲うしかない。天馬を……)
なんて、強行的な手段を考えるようになってしまう。
例えば、強引に天馬と一緒にお風呂に入ってみるとか、素っ裸で天馬のベッドの中に潜り込んでみようとか。
それは天馬を“襲う”ことにはならないかもしれないけれど、天馬とかなりの体格差がある俺は力で天馬に勝つことができない。力づくでどうにかしようと思っても、天馬にぺいってされたら終わりだもん。
それに、恋人の裸を見れば、さすがの天馬だってちょっとは「お?」ってなるだろうし、少しくらいは欲情してくれるんじゃないだろうか。同じ男でも恋人は恋人なんだから。
とか言って、全然なんとも思ってくれないうえ、「こいつマジ白玉みたいだな」って思われたら目も当てられない。泣くしかない惨事だけどさ。
っていうか、俺もすっかり白玉の呪いに囚われてない?
確かに、天馬は俺を白玉呼ばわりしたけれど、それは俺の顔が丸くて色白だからであって、俺の全身を見て白玉だと言ったわけじゃない。あくまでも、俺の顔が白玉みたいだと思っているんだ。多分。
俺の裸を見て白玉だと言ったのは夢の中の天馬であって、現実の天馬がそう思っているわけじゃない……はず。
「そうだ、智加」
「へ? あ、な……何?」
「俺、時間割が決まったらバイトを始めようかと思ってるんだけど。智加はどうする?」
「バ……バイト?」
天馬の作った朝御飯美味しいな~……から、天馬を襲うしかない……になり、延いては白玉の呪いに苦悩するまでに思考が飛び交った俺は、そんな俺に全く気付きもしない天馬に唐突に言われてきょとんとした。
(バイトですと?)
天馬がバイトをしようと考えているだなんて初耳だったし、俺はまだバイトのことなんて考えてもいなかったけれど、よくよく考えてみれば、そういう話が出てもおかしくはない。
俺も天馬も毎月親から仕送りを貰ってはいるけれど、その額は毎月生活するのに必要なぶんだけ。多少多くは見積もられているけれど、そんなに余裕があるわけでもなかった。
強いて言うなら、月々の小遣いぶんだけ余裕があることにはなるから、バイトをしなくても生活しようと思えば生活はできる。でも、それだと欲しいものはそんなに買えないし、思うように遊びにも行けない。「たまには外で御飯を食べよう」ってなっても、その外食の回数も限られてしまうだろう。だからこそ俺と天馬の間で「自炊をしよう」ってことにもなったんだ。
最初は何かと買い揃えなくちゃいけないものがあって物入りだからと、今月の仕送りは多めに貰っているけれど、来月からは定められた金額に戻ってしまう。遅かれ早かれ「バイトしなくちゃ」とはなっていたと思う。でも……でもさ……。
「親の仕送りがあるから、そこまでがっつりバイトをするつもりはないけど、週三ぐらいでバイトはした方がいいと思うんだよ。その方が生活に余裕ができるし、社会勉強にもなるだろ?」
「そ……そうだね……」
バイトもいいけど、まずは俺との生活をもっと恋人同士らしいものにしてからでも良くない? わかっているとは思うけど、俺と天馬ってまだキスもしてないんだよ? 前にされたおでこのキスだってまだ曖昧なままなのに。
天馬に確認できなかった以上、あのキスのことはあまり考えないようにしようと心に決めたものの、実は結構気になっているんだよね。あれはキスだったのか、偶然だったのか……って。
俺はあの時のことを思い出すたびにもやもやした気分になるし、気になって寝つきが悪くなる夜もあるくらい。また同じようなことが起これば……と思っているのに、それもないし。俺としては、バイトよりまずそっちの問題って感じなんだよね。
バイトを始めていない今の段階で何もないのに、バイトなんか始めたら益々何も起こらなくなるって気がするじゃん。バイトをしている時間は天馬と一緒にいられなくなるわけだし。
そう思った俺が
「でも、バイトを始めたら天馬と一緒にいられる時間が減っちゃうね」
と、寂し気にしおらしいことを言うと、天馬は
「一日のうちの数時間だけだよ。それも毎日じゃないだろ? バイト以外の時間はなるべく智加と一緒にいるから」
なんて、嬉しいことを言ってくれたわけだけど、俺にとって天馬と一緒に過ごせない時間ができてしまうことはやっぱり寂しい。
そんな気持ちの現われなのか、心なしか納得していない顔をしてしまう俺に、天馬が
「だったら、あらかじめバイトする曜日や時間を決めよう。そうすれば家を空ける時間が一緒になるから寂しくないだろ?」
とまで言ってくるから、俺もこれ以上駄々を捏ねても仕方ないと諦めた。
どのみちバイトをすることにはなるんだ。ここは潔く諦めてしまった方が天馬の手を焼かせなくて済む。俺が「四六時中天馬と一緒がいいっ!」なんて言い出したら天馬も鬱陶しいよね。
「わかった。じゃあ、時間割が決まったらバイトの時間も決めようね」
本来、天馬とこうして一緒に住めていること自体が俺にとっては幸運なんだ。一臣が俺達にルームシェアの話を持ちかけてくれなかったら、俺と天馬は実家から大学に通うことになっていたし、実家暮らしじゃお互いの家に頻繁に行き来なんてできないから、天馬と一緒に過ごせる時間は今より断然少なかったはずだもん。
それを考えると、一日数時間のバイトがなんだ。余裕で我慢できるもん。
それに、バイトをして貯めたお金で天馬に誕生日やクリスマスのプレゼントを買ってあげたり、たまには天馬と旅行なんかできたら最高じゃん。バイトしたお金で買うプレゼントとなると、毎月の小遣いを節約して買っていたプレゼントより断然いいものが買える。
(生活のためというより、天馬のためにバイトしようっ!)
そう思うと、俄然やる気が出てくるし、バイトをするのも楽しみになってきた。面倒臭がりの天馬がバイトしたお金で俺と旅行に行ってくれるかどうかは謎だけど、お願いすれば年に一度くらいは付き合ってくれるだろう。
そして、九月二十六日の天馬の誕生日までにはまだ時間もある。今年の天馬の誕生日プレゼントはバイトしたお金でグレードアップできること間違いなしだよね。
「ねえ、天馬」
「どうした?」
でも、その前に――。
「俺、バイトを始めるにあたって天馬に一つお願いがあるんだけど……」
ちょっとだけ我儘を言ってみてもいいだろうか。
俺と天馬がバイトを始めることは決定でいいし、今更反対する気もなければ俺もやる気になっている。
でも、一日の中で天馬と一緒にいられない時間ができてしまうことがどうしても寂しいと思ってしまう俺は、寂しさを紛らわせてくれる何かが欲しかった。
その何かを思いついた俺は、勇気を出して天馬にお願い事をしてみようと思ったんだけど……。
「お願い? なんだ?」
いざそのお願いが何かと聞かれると、恥ずかしくて言いづらいものがある。
いや。でも、これぐらいの我儘は言ってもいいと思う。むしろ、こんなものは我儘のうちに入らないんじゃないか……とすら思う。俺と天馬は恋人同士なわけだし。
「あの……あのね……」
言え。言うんだ。言って少しでも天馬との恋人らしい生活を手に入れるんだ。
「て……天馬におはようとおやすみのキスをして欲しいっ! そしたら俺、バイト頑張ろうって気持ちになれるからっ!」
言った。物凄く恥ずかしかったし勢い任せではあったけど、なんとか俺のお願い事というやつを口にすることができた。
「も……もちろん、おでこでいいから……」
出だしの勢いが強かったぶん、目に見えて失速していく俺に天馬の目は点だった。
引かれちゃったんだろうか。「何を言い出すんだ。こいつは」って思われた?
でもでも、俺だって天馬とイチャイチャしたいもん。せっかく一緒に住んでいるのにこのまま何もないままなんて嫌だよ。せめて、一日一回でもいいから天馬と触れ合える時間が欲しい。
そんな切実な願いが天馬に届いたのか、天馬はしばらく無言のまま俺をまじまじと見詰めていたけれど――。
「じゃあ……今日からする?」
そう言ってくれた。
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