モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

藤宮りつか

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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

Chapter 19

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(あれはもう、天馬とエッチしたも同然の濃ゆい体験だった……)
 天馬との初エッチなことをした翌日の俺は、その余韻から抜け出すことができず、暇さえあればその時のことを思い出し、幸せ気分に浸りながらぼーっとしてしまう一日を送っていた。
 最近の俺、なんだか余韻に浸ってばっかりである。
 いつもなら、俺がこんな調子だと天馬が心配してくれて
『どうかしたのか? 智加』
 って聞いてきてくれるところだけれど、今回は天馬も俺がこうなっている理由を充分わかっているから、俺のほうけている姿を見ても心配するどころか、逆に照れ臭そうに俺から視線を逸らせたりする。
 それがまた可愛いし、昨日のことは夢じゃなかったんだと実感させてくれるから、俺は益々幸せ気分に浸ってしまったり。
 大学でもバイト先でもそんな調子の俺を、当然周りの人間は“どうしたんだ?”という顔で見てくるわけだけど、今日の俺は他人の目が一切気にならないようで、誰にどんな目で見られていようと全くのお構いなしで呆け放題……といった感じなのであった。
 さすがに一臣や光稀には理由を説明……したのは天馬だったけれど、天馬から話を聞く前から、二人には大体の理由が既にわかっていたようだった。
 もちろん、天馬も何もかもを全て包み隠さず二人に説明したわけではなかったけれど、ようやく恋人らしいことをするようになった俺達の仲に、一臣も光稀もホッとした様子ではあった。
 だからまあ、大学で呆け放題な俺に不審な目を向けてくるのは、最近では一緒にいるのが当たり前になりつつある後藤さんと白石さん、それと、そこに新たに加わった水嶋さんと安西さんの四人くらいのもので、何万人という学生が在学している大学の中のたった四人から不審な目を向けられたところで、俺が気にしないのも当然と言えば当然という感じではあった。
 でも、バイト先ではさすがにそういうわけにもいかないっていうか、何かと俺に絡んできたがる溝口さんに捕まってしまったら“お構いなし”って顔もしていられなくなるから、その時ばかりは俺もそれなりの対応をした。
 ただ、俺は“浮かれている”のではなく“呆けている”わけだから、その理由がいいことなのか悪いことなのかが溝口さんには判断しかねる様子だった。
 俺が見るからに浮かれているのであれば、理由は当然いいことでしかなく、溝口さんも遠慮なく俺に絡んでこれたかもしれないけれど、呆けているとなると、その理由はいいことだとは限らないもんね。俺が一日中呆けてしまうほどのショックを受けている……と考えることもできるわけだから。
 万が一、俺がショックで呆けていた場合、あまりしつこく絡むと逆に俺が傷つくかもしれない、という心配をしてくれた溝口さんは、何を言っても心ここにあらずな反応しか返さない俺のことは“今日はそっとしておこう”と判断したみたいだった。
 呆けてはいるものの、一応仕事はちゃんと熟していたし。
 ところが――だ。いつも俺にウザ絡みしてくる溝口さんでさえ、今日の俺はそっとしておいてくれたというのに、そんな俺にお構いなしで絡んでくる人間もいるにはいる。
 しかも、その人間は俺がこうなっている理由なんてどうでもいいと言わんばかりに、話す内容と言えば自分と天馬のことばかり。
 更に
「ねえ、智加ちゃん。天馬とあの白石って子。高校の時はどれくらい仲が良かったの?」
 幸せ気分に浸っている俺にとってはあまり好ましくない内容なうえ、若干恋愛相談的な香りのする話を振ってくるから、俺としてはせっかくの幸せ気分ぶち壊しって感じでちょっと迷惑だった。
 その相手というのは、言わずもがな水嶋さんである。
 閉店して間もなく、仕事を終えて退勤した俺は、天馬との待ち合わせ場所である地下の休憩室にやって来て、まだ退勤していない天馬を休憩室の中で待っていた。
 そこに何故か水嶋さんがやって来て、俺の姿を見掛けるなり、沢山席は空いているのにあえて俺の正面の椅子に座り、俺に向かって一方的に喋り始めてしまったのだ。
 制服から私服に着替えているということは退勤しているはずなのに、どうして水嶋さんは休憩室に? 俺みたいに誰かと待ち合わせをしているわけでもないはずなのに。
 ひょっとして、俺と同じく天馬を待っているのかな。
 でも、天馬は俺と待ち合わせをしているわけだから、水嶋さんがバイト上がりの天馬を捕まえたところで、天馬は俺と一緒に帰っちゃうんだけど。
 おそらく、そんなことは水嶋さんもわかっていると思う。水嶋さんは俺と天馬が一緒に住んでいることを知っているんだから。
 だから、水嶋さんは天馬を待っているというより……いや、待っているには待っているんだろうけれど、それはバイト終わりの天馬を捕まえてどうこうしてもらうつもりがあるのではなくて、ただ帰る前に天馬と話がしたいだけなのかも。バイト中じゃ思うように天馬とお喋りなんてできないだろうし。
 そう考えると、水嶋さんにも健気な部分があるんだ、と思う。
「って、聞いてる? 智加ちゃん」
「へ? あ……う……うん。聞いてるけど……」
「だったらちゃんと質問に答えてよ。智加ちゃんってば今日一日中ずっとそんな感じだけどどうしたの? 寝不足?」
「えっと……ぅ、うん。そんな感じ……かな?」
 無遠慮に俺に話し掛けてきた水嶋さんは、ようやくここで俺の様子がいつもと違うことを突っ込んできたけれど、その原因はただの寝不足だとしか思っていないようだった。
 別にいいけどね。一臣や光稀と違って、水嶋さん相手に本当のところなんて話せないし。知られたら知られたで色々と面倒臭そうだから、俺もここは寝不足ってことで片付けてしまうことにする。
 初めてここで水嶋さんに会った時、遠慮なくズケズケとものを言う水嶋さんに気圧けおされて、思わず敬語になってしまったり、言葉遣いが変になってしまったけれど、今ではどうにか普通に話せるようになったものだ。
 言っても、まだしどろもどろになっちゃうこともあるけれど。
「ふーん、そうなんだ。なんか智加ちゃんって夜更かしできなさそうに見えるのに。夜なんて十時になったらすぐ寝ちゃいそうだよね。それなのに、寝不足になるほど夜更かしをすることもあるんだ」
「……………………」
 それ、どういう意味だろう。俺は夜更かしもできないお子様だと思われているってこと?
 確かに俺は夜更かしが得意じゃないし、わりと規則正しい生活を送っているけれど、いくらなんでも夜の十時は早過ぎ。現に俺、こうしてバイトがある日はその時間まで働いているんだから。
 その証拠に、今いる休憩室の壁に掛かっている掛け時計は午後十時半を指している。でも俺、全然眠そうになんかしてないもん。
「それで、どうなの?」
「ど……どうって? 何が?」
「だからっ! 天馬とあの白石って子のことっ! 高校時代にどれくらい仲が良かったのかって聞いてんのっ!」
「あぅ……そ……そうだったね。えっと……」
 それが人にものを尋ねる態度なの? と言いたいけれど、水嶋さんの中ではそうであることは充分にわかっている。
 こんな風にすぐ声を荒げられちゃうと、気の弱い俺はついついビクビクしちゃうんだけど、水嶋さんが本気で俺のことを怒っているわけじゃないこともわかってきたから、水嶋さんの怒鳴り声にも少しずつ慣れていかなくちゃ。
「えっとね……天馬と白石さんはそんなに仲がいいって感じではなかったけど、クラスメートとしては普通に話す間柄って感じだったかな?」
 水嶋さんからの質問に“答える”というよりは“答えさせられている”感が強い自分にそわそわしてしまう。
 だって水嶋さん、俺が何か気に入らないことを言ったらすぐ怒りそうなんだもん。答える方は緊張しちゃうよ。
「クラスメート……ね。天馬とあの子ってずっと同じクラスだったの?」
 ほら。早速怖い顔とかしてくる。俺はただ事実を述べているだけなのに理不尽だよ。
 多分、天馬と白石さんが同じクラスに在籍していたことが気に入らないんだろうけれど、学生をやっていればクラスメートがいるのなんて当たり前だし、同じ学年なら同じクラスになる可能性も充分にある。そこに不満を持たれても……って話だ。
 それに、たかがクラスメートであることに不満を抱かれるより、俺や白石さんからしてみれば、天馬と水嶋さんが幼馴染みであることの方がよっぽど面白くない。
「う……ううん。ずっと同じクラスだったわけじゃないよ。天馬と白石さんが同じクラスだったのは一年と三年の時だけで、二年の時は違うクラスだったよ」
「そうなんだ」
「うん……」
 一瞬、天馬と白石さんがクラスメートだった過去に機嫌を損ねそうになった水嶋さんだったけれど、二人が三年間ずっと同じクラスだったわけではないことが判明し、多少は機嫌も直ったみたいだった。
 全くもう……。相手の機嫌を窺いながら話すのもストレスを感じちゃうよね。
 実は今大学で行動を共にしている同じ高校出身者の中で、三年間ずっと同じクラスだったのは俺と天馬だけだったりする。
 白石さんは先に述べたように一年と三年の時が同じクラス。後藤さんは二年の時だけ同じクラス。いつも一緒にいるように思われがちな一臣や光稀も、三年の時は俺や天馬とは別々のクラスだった。
 でも、一臣と光稀の関係を俺達が知っていたことと、二人に俺の気持ちを知られてしまっていたから、三年の時にクラスが別々になってしまっても、俺達四人は今まで通りの交流を続け、しょっちゅう四人でつるんでいたわけだけどね。クラスも隣り同士だったから、お弁当も相変わらず四人で食べていたし。
 なんて話は、別に今ここで水嶋さんにわざわざ話すようなことではないから省略する。
 まあ、俺のことなんて全くライバルとして見ていなければ、白石さんのように敵対視もしていない水嶋だから、俺と天馬が三年間同じクラスだったと聞いたところで、特に何も思わないとは思うけど。
 だけど、一応は念のため。俺はまだ水嶋さんのことをよくわかっていないから、何が水嶋さんの地雷になるのかもわからないもん。水嶋さん相手に余計な発言は極力控えた方が良さそうだよね。
 それにしても
「あ……あの……天馬ってまだかな? 何してるのかわかる?」
 天馬が一向にバイトから上がってくる気配がない。お店が閉店してからもう三十分になるのに。まだ仕事が終わらないのかな?
 早く天馬に来てもらわないと、俺、ずっと水嶋さんに捕まったままになっちゃうよ。
「天馬ならまだ来ないんじゃない? なんか発注ミスがあったみたいでさ。明日大量の菓子パンが入ってくるんだって。で、その準備を手伝わされてるの。男手が必要だって言われてさ」
「そ……そうなんだ……」
 天馬の身にそんなことが……。なるほど。だから待てど暮らせど、天馬が一向にここに来てくれないんだ。
 俺は食品売り場担当じゃないから、食品売り場の業務内容はちょっとよくわからないんだけれど、食品売り場って賞味期限とかがあるから色々と大変そうだよね。
 仮に天馬が今やっている作業に一時間掛かるとして、その作業を閉店後に始めたのだとしたら後三十分は俺もここで天馬を待っていなくちゃいけないのか……。もし、それ以上時間が掛かったとしても、アルバイトの勤務時間は午後十一時半までだから、俺の待ち時間は最長で後一時間。
 それくらいなら全然余裕。余裕で待てる。俺はもともと待つのがそんなに苦痛ではない方だし、大好きな天馬を待つともなると、一時間でも二時間でも平気で待てちゃうと思う。
 ただね、ただ普通に待つわけではなく、俺と一緒に水嶋さんがいることがね……。俺が早く天馬にここに来て欲しいと願ってしまう理由だ。
「だから私、ここに来て天馬を待っている智加ちゃんから、敵の情報収集をしておこうかなって思ったんだよね」
「え?」
「智加ちゃんも一人で天馬を待っているより、私とお喋りしてる方が楽しいでしょ?」
「う……うん……」
 なんだ。水嶋さんはここで天馬を待っているわけじゃなかったんだ。俺はてっきり、水嶋さんは天馬目当てでここにいるものだとばかり思っていたよ。
 目当てが天馬ではなく、俺だったという事実には普通に驚いちゃったし、俺は水嶋さんとのお喋りを楽しいとは思わない……とも思ってしまっちゃったんだけど。
 せっかく天馬を待つのであれば、俺一人で待っていたかった。そしたら好きなだけ昨日の余韻に浸っていられたし、時間なんてあっという間に過ぎていたのにさ。
 だがしかし、俺のそんな気持ちは水嶋さんに気付いてもらえなかった。
「智加ちゃん。正直に言って欲しいんだけど、天馬って私とあの白石って子のどっちが好みだと思ってるの?」
 水嶋さんのことを若干迷惑にさえ感じている俺に向かって、水嶋さんはこれまた返答のしようがない質問を浴びせてきた。
 そんなことを俺に聞かれても……。俺、天馬が水嶋さんと白石さんではどっちの方が好みかなんて知らないよ。天馬とそんな話をしたことなんてないんだもん。そもそも俺、天馬の女の子の好みなんて聞いたことがないよ。
 でも、天馬は水嶋さんのせいで同年代の女の子が面倒臭くなったみたいだから、それを考えると、水嶋さんに比べておとなしいし控えめな白石さんの方が、天馬の中ではまだ好感度が高いのかな?
 なんて。そんなこと水嶋さん本人を目の前にして言えるはずもないけれど。
「ど……どうだろう? 天馬的には二人を比べてどっちがどうってことはないと思うよ? 天馬からそんな話を聞いたこともないし」
 俺は迷った挙句、一番当たり障りのない返事を水嶋さんに返したつもりだった。が――。
「それってつまり、天馬は私にもあの白石って子にも興味がないってこと?」
 この発言は失敗だったようで、水嶋さん的には不満でしかない回答だったらしい。俺はまたしても、水嶋さんからギロッと睨まれる羽目になってしまった。
 本当にもう……なんでこの人ってこんなに喧嘩腰なの? 天馬じゃないけど、俺も水嶋さんのせいで女の子のことが面倒臭くなっちゃいそうだよ。
「えっと……そういうことじゃなくて、天馬の中では二人とも可愛い女の子なんじゃないかなってことで……」
 水嶋さんの反応を見て、慌てて自分の発言を訂正する自分がちょっと情けなくもあったけれど、自分で言っておきながら
(それはなさそう……)
 と、内心思ってしまう自分もいた。
 だって天馬、水嶋さんにも白石さんにもなんの興味も抱いてなさそうだし、二人のことを“可愛い”と思っている様子すらもまるでない。
 天馬の意見も聞かず、勝手な発言をしちゃってもいいのかな? って心配になってしまったけれど、二人の悪口を言っているわけじゃないから別にいっか。
 それに、ここで少しでも水嶋さんの機嫌が良くなることを言っておかなくちゃ、水嶋さんからの怒りの矛先が全部俺に向くことになってしまう。それはできれば勘弁して欲しいから、天馬には申し訳ないと思うけど、ちょっとした嘘は大目に見てもらうことにしよう。
「なんかさ、凄く誤魔化されてるような気がするんだけど」
「え⁈」
「まあいいわ。確かに天馬ってそういう話を人としそうにないし、女の子の好みとかもなさそうだもんね。あいつ、人に対する興味が薄いからさ」
 焦った。俺の嘘を追究されちゃったらどうしようかと思ったけれど、そこは素直に折れてくれて。
 水嶋さんはなまじ天馬の性格を良く知っているぶん、天馬の言動にもそれなりに想像がつくみたい。
 だったら何故、天馬に面倒臭がられそうなことをするのかが謎なんだけど、そこには水嶋さんなりの理由があるってことなんだろうから、俺が気にすることでもないよね。
「でも、そっか。今のところ、私のアピールの仕方じゃ天馬には響かないのか。アピールの仕方を変えた方がいいのかな?」
 あ……。なんとなく自分の過ちに気付き始めてる?
「だけどさ、今更私の天馬に対する態度が変わったら、それはそれで天馬も気持ち悪がりそうよね」
 だからと言って、過ちを改めるつもりはないと見た。
 まあ、水嶋さんの天馬に対する態度は生まれ持っての性格故でもあるんだろうから、変えようと思っても、そう簡単には変えられないのかもしれないけどさ。
 でも、水嶋さんはこんな性格だけど、天馬のことは本当に好きなんだな。だから、どうにかして天馬に振り向いてもらおうと、水嶋さんなりに色々と考えているんだ。
 水嶋さんのそんな気持ちを知ってしまったら、本当は天馬と付き合っているのに、それを隠していることが少し申し訳ないし後ろめたいな。
「ねえ、智加ちゃん。どうしたら天馬は私のことを意識してくれるようになると思う?」
「え……」
「自分で言うのもなんだけど、私って結構イケてる女の子だと思うのよね。一応モデルとかやってたし」
「はあ……」
「でもさ、幼馴染みってことで天馬に異性として意識してもらえていないような気がするのよね」
「えっとぉ……」
 こ……これは一体どんな言葉を返せばいいの? そんなことを俺に言われても、俺は返す言葉が何一つとして思い浮かばないよ。
 そもそも、水嶋さんのいう“異性として意識”というのは、どういう状況のことを言っているんだろう。
 天馬だって水嶋さんが女の子であることはわかっているから、水嶋さんのことを全く異性として意識していないわけじゃないだろうし、天馬なりに女の子扱いもしていると思う。
 ただ、恋愛対象としての異性だとは見ていないようだから、水嶋さんの言う“異性として意識”というのは、“自分を恋愛対象として見て欲しい”ってことになるのかな?
 だとしたら、益々俺に言われても困っちゃうよ。天馬の恋愛対象がどういう人物になるのか……天馬から恋愛対象として見られている俺でもよくわからないのに。
 ついでに言うと、俺は天馬に水嶋さんを恋愛対象として意識して欲しくもない。
「そこでさ、智加ちゃんからも天馬に言って欲しいんだよね。私のこと、もっと天馬に意識して考えるようにって。天馬も一緒に住むほど仲がいい智加ちゃんの言うことなら、少しは聞く耳を持ってくれると思うんだよね」
「あぅ……そ……それは……」
 ついに……ついにこういうことを言われる日が来てしまった。
 水嶋さんからはいつかこういうことを言われる日が来ると思っていたけれど、本当に言われてしまうと心の底から困っちゃう。天馬と付き合っている手前、下手に協力的なことは言えないし。
「もちろん協力してくれるよね? 智加ちゃん。私、あの女に天馬を取られたくないし、天馬の彼女になりたいの」
「って……言われても……」
 今あなたの目の前にいる人間が、その天馬の彼女(?)なんですけども……。
 天馬の恋人である俺に
『天馬の彼女になりたいの』
 と言われても。俺が協力できることなんて本当に何もないよ。
(ほんと、どうしてこういう展開に?)
 ここで水嶋さんと顔を合わすまでは、天馬との初エッチなことをした余韻に浸り、幸せ気分全開だったのに。なんだかそれどころじゃなくなってきた感じだよ。
 それにしても
「っていうか、水嶋さんって白石さんのことはちゃんとライバル視してるんだね。俺、水嶋さんは白石さんのことなんて敵じゃないと思っているものだと思ってた」
 意外と水嶋さんが白石さんの存在を警戒していることが驚きだった。
 水嶋さんの白石さんに対する態度って完全に上からだから、白石さんなんて目じゃないと思っていそうだったのに。
「うーん……そう見える? まあ、そう見えるように振る舞ってはいるんだけどね。でも、実際は結構気になってるのよ。だって、天馬ってあの子と話す時は普通じゃない。私と話す時は面倒臭そうにする癖に」
「……………………」
 それはまあ……実際に水嶋さんが天馬から“面倒臭い”と思われているからで、天馬に面倒臭いと思われるようなことをしていない白石さん相手なら、天馬も普通に話すだけのことである。
 でも、そうやって天馬が女の子と普通に話していること自体、天馬が白石さんのことを特別視していない証拠って気がする。
 俺は天馬が好きな子の前ではどうなるのかがちょっとよくわからないんだけれど、男同士かつ友達から恋人同士になった俺とは違って、意中の相手が女の子だった場合、天馬もそれなりに照れ臭そうにしたり、好きな子と話せて嬉しい、みたいな感情が表に出そうな気がするんだよね。
 俺と話している時の天馬はまあ……普通っちゃ普通なんだけどさ。
「だからさ、本当はちょっと不安なんだよね。天馬は私よりあの子の方がいいのかな……って」
「……………………」
 ど……どうしよう。なんか本格的に恋愛相談みたいな流れになってきちゃった。天馬と付き合っている云々を別にしても、俺、こういう恋愛相談的な話を持ち掛けられたことがないから、本当にどうしたらいいのかわからないよ。
(て……天馬ぁ~……)
 かくなるうえは、一刻も早く天馬にここに来てもらうことを願うばかりだけれど、休憩室の外に人の気配はまだなく、天馬はもうしばらくの間はここに来そうにもなかった。
 このままどんどん話が深刻な方向に進んでいってしまったら、その空気に耐えられなくなった俺が何を言い出してしまうかがわからない。
「そういうわけだから、天馬と仲がいい智加ちゃんには協力して欲しいわけよ。私と天馬が上手くいったら、智加ちゃんにも誰かいい子を紹介してあげるから」
「いや……俺は別に……」
 紹介されてもね。俺が天馬を捨てて他の誰かと付き合うはずがないじゃんか。そうじゃなくても、天馬とファーストキスをして、初エッチなことまでした俺は、天馬のことしか頭にないくらい、天馬に夢中になっているのに。
「そうだ。由加奈なんてどう? 由加奈って可愛い子好きだから智加ちゃんとか結構タイプだと思うよ。前に天馬より智加ちゃんの方がいいって言ってたし」
「そ……そうなんだ……」
 これまでの人生の中で一度も女の子からモテた試しがない俺にとって、現役モデルの安西さんにそう言われていることは喜ぶべきこところのはずなのに、今の俺はそんな話を聞いても戸惑うばかりでちっとも喜べなかった。
「そうだ。今度四人で遊びに行くのはどう? Wデートってやつ。智加ちゃんも女の子と一緒に遊びに行きたいでしょ?」
「いや……俺は別に……その……」
 女の子と一緒に遊びに行きたくなんかない。っていうか、水嶋さんと天馬が上手くいく協力だってしたくないのに。
 でも、それをどうやって遠回しに上手く伝えたらいいんだろう。
 まさか
『俺、天馬と付き合ってるから水嶋さんには協力できないよ』
 とは言えないし。
 全く。本当にどうしてこんなことに……だよ。そもそも水嶋さんも一方的に話を進めないで欲しい。
 人見知りの傾向にある俺は、あまり積極的にグイグイ来られるのはちょっと苦手だし、押しにも弱いから負けそうになっちゃうよ。
「そうと決まれば早速日にち決めようよ。天馬と智加ちゃんって日曜はバイト入れてないんだよね? 私も日曜はバイト入れてないんだ。今度の日曜はどう?」
「え⁈ ちょっ……ちょっと待とうよ……」
 話の展開が早過ぎる。そうと決まれば、とか言ってるけど決まってないし。俺、天馬と水嶋さんと安西さんの四人で遊びに行くことを承諾なんかしていないのに。
 第一、そんな約束を俺が勝手にしちゃったら、天馬だって絶対に面倒臭がるし嫌がるよ。
 俺と天馬が日曜にバイトを入れていないのは丸一日休みの日が欲しいからで、その日は家でのんびり過ごしたり、天馬と一緒にお出掛けしたり、一臣や光稀と一緒に遊びに行ったりするための日にしてるんだもん。天馬を狙っている女の子に協力してあげるために、丸一日休みを作っているわけじゃないんだからね。
「ぉ……俺っ、天馬のいないところで勝手に約束なんてできないよ。天馬の希望だって聞かないと……」
 いくら水嶋さんが俺の協力を欲しがっても、天馬の気持ちを無視した約束はできないし、そもそも俺は水嶋さんに協力するつもりがない。
 だから、勇気を出して水嶋さんの話を断ろうとしたんだけれど……。
「だから、そこを上手く智加ちゃんに取り持って欲しいんだってば。私が言っても天馬は面倒臭がって付き合ってくれるはずがないんだから」
 水嶋さんはあえて天馬の気持ちを無視する方向だった。
 これでは俺が何を言っても水嶋さんを説得することは難しいって感じだ。
 でも、だからって俺も負けてはいられない。水嶋さんが俺のことをただの天馬のルームメイトとしか見ていなくても、俺は天馬の恋人なんだから。天馬の平穏な生活は俺が守ってあげなくちゃ。
「だっ……ダメだよっ! 天馬抜きで勝手に約束なんてできないっ! 俺、天馬が嫌がるようなことはしたくないんだからっ!」
 女の子相手にきっぱりと自分の意見を主張することは物凄く勇気がいったけど、水嶋さんは水嶋さんで好きなことを言っているわけだから、俺もこれくらいは言ってもいいよね。
 水嶋さん相手にこんなことを言ってしまったら、お返しにどんな言葉が返ってくるのかが少し怖くもあったけれど、俺も男だ。女の子相手にビビッてばかりもいられない。
「何よっ! 智加ちゃんのケチっ! 恋する乙女の協力もできないなんてモテないわよっ!」
「モテなくていいもんっ!」
「友達思いなのはいいことだけど、そこは協力するところでしょ⁈」
「俺にとって天馬はただの友達じゃないもんっ!」
「え……」
「あっ……!」
 し……しまった! 勢い余ってつい……。どうして俺、カッとなったらついつい余計なことを言っちゃうんだろう。
「ただの友達じゃないってどういうこと? もしかして智加ちゃん……」
 案の定、水嶋さんは俺の発言を不審に思ってしまったらしい。
「あの……だから……その……」
 どうしよう。天馬の許可もなく、俺が天馬と付き合っていることを水嶋さん言うわけにもいかないのに。
「もしかして智加ちゃん、天馬のことが……」
「たっ……ただの友達じゃなくて親友だからっ!」
「へ?」
「俺は天馬の親友だからっ! 親友の気持ちを無視することはできないのっ!」
「ああ……そういうことね。なんだ」
 危なかった。今ので本当に上手く誤魔化せたのかは疑問だし、本音を言うと、今ここで天馬との本当の関係を水嶋さんに言ってしまいたかったけれど、俺と天馬が付き合ってるって知ったら、水嶋さんが益々面倒臭いことになるのは確実だもん。
 それで天馬に迷惑が掛かってしまうんじゃないかと思うと、偽りたくない天馬との本当の関係を偽るしかなかった。
「もー。驚かせないでよね。いきなり“ただの友達じゃない”とか言い出すから、智加ちゃんも天馬のことが好きなのかと思ったじゃん」
「えっと……ごめん……」
 どうやら水嶋さんは俺の言葉になんの疑問も抱かなかったようだ。そこはもう少し疑ってくれてもいいのに。
 まあ、男の俺が自分と同じ男の天馬と付き合っているとはそう簡単に思えないのだろうし、水嶋さん的には自分が恋愛対象として見ている天馬が、男の俺と付き合っているとは考えたくもないんだろうけどさ。
 何にせよ、自分で“親友”って言っちゃった手前
『やっぱり天馬とは付き合ってます』
 とは言いにくくなっちゃったよね。
 水嶋さんには天馬との関係を知られたくないから、それはそれでいいのかもしれないけれど、俺と水嶋さんの間でそういう会話があったことだけは後で天馬に報告しておこう。天馬に隠し事とかしたくないし。
「智加ちゃんが親友思いなことはわかったけどさ。それでも私に協力して欲しいんだけど。ダメ?」
「え……」
 これだけ言っても、水嶋さんは俺からの協力を諦めてくれないらしい。今度は少し甘えた顔で両手を合わせ、お願いしてくるみたいな姿を見せるから、俺はほとほと困り果ててしまった。
 そこへ
「悪い智加。待たせた。なんか智加の保護者を名乗る謎の大学生らしき人に捕まって、ここに来るのが遅くなったんだけど……」
 ようやく天馬登場で、俺は心の底からホッとした。
 っていうか、俺の保護者を名乗る謎の大学生らしき人って……。それってどう考えても溝口さんじゃん。
 水嶋さんは水嶋さんで俺に手を焼かせてくれるけど、溝口さんは溝口さんで天馬に何してくれてるの? もしかして俺達、バイト先にここのスーパーを選んだことが間違いだった?
「ん? なんで智加と亜美が一緒にいるんだ? 亜美。お前もう帰ったんじゃなかったのか?」
「え? あー……うん。まあちょっと。智加ちゃんに用があるって言うか、智加ちゃんを口説いてたんだよね」
「智加を?」
 水嶋さんの口から俺を“口説いてた”なんて聞かされた天馬は、少しだけムッとした顔になって俺を見てきた。
 もしかして天馬、ヤキモチ焼いてくれているのかな?
 でも、口説いていたと言っても、それは天馬が心配するような口説かれ方ではなく、自分と天馬の仲を取り持て、と脅されていたようなものだから、どちらかと言えば俺がヤキモチを焼きたいところだ。
 もっとも
「口説いてたって言っても、私の協力者になってくれるよう口説いてたってだけなんだけどね」
 そこは水嶋さんも天馬に誤解をされたくないのか、正しい説明を付け加えてくれたから、俺がわざわざ説明しなくても済みそうだった。
「なんかよくわからないが、あんまり智加を亜美の都合に巻き込むなよ。前にも言ったと思うけど、智加は亜美と違っておとなしくて気が小さいんだから。亜美のテンションで絡まられると怯えるだろ」
「はいはい。わかってますよ。智加ちゃんは智加ちゃんで親友・・思いだけど、天馬は天馬で智加ちゃんにほんと過保護なんだから。男同士の友情・・ってあついのね」
「?」
 少し拗ねたように言う水嶋さんが、やけに“親友”やら“友情”という言葉を強調して言ったことに、天馬は不思議そうに首を傾げた。
「まあいいわ。じゃあ天馬も来たことだし私は帰るわ」
 だけど、今日はあっさり身を引く水嶋さんに、この場は「まあいいか」と思ったようだった。
「智加ちゃん。さっきの話、ちゃんと考えといてね」
 最後に俺に向かってそう言い残すと、水嶋さんは机の上に置いていた自分の鞄を掴み、俺と天馬を残して休憩室を出て行った。
 今回は本当に天馬を待っていたわけじゃなかったんだ。
 でも、さっきの話って? 一体どっちのことを言っているんだろう。
 俺が水嶋さんに協力するって話? それとも、俺、天馬、水嶋さん、安西さんの四人で遊びに行くって話?
 どっちにしても、答えは考えるまでもなく「ノー」なんだけど。
「智加。一体亜美となんの話をしていたんだ?」
「へ? あぅ……それは……」
 今日の水嶋さんとの会話は天馬にも報告しておこうと思っている俺だけど、一体何をどう話せばいいのか、ちょっとわからなくなってしまう俺なのであった。


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