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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!
Chapter 25
しおりを挟む「うーん。六月とは思えないほどのいい天気っ! 梅雨入り前の最後の快晴って感じかな。まさに絶好のお出掛け日和っ!」
六月最初の日曜日。俺達男女八人は某大型遊園地に遊びに来ていた。
よりによって遊園地……。ここの遊園地は初めてだけど、別の遊園地になら子供の頃に家族で何度か遊びに行ったことがある。が、俺はこの遊園地というものがあまり好きではなかった。
何故ならば、まず遊園地の乗り物が好きじゃない。遊園地に来て「乗り物が好きじゃない」は結構致命的だと思う。
別に乗り物に乗れないってわけじゃないし、乗り物酔いするわけでもないんだけれど、絶叫マシーンとか普通に怖いじゃん。あんなものに乗りたがる人間の神経が俺にはちょっとよくわからない。
あと、お化け屋敷とか言語道断。あんな人に恐怖を与えるだけの空間の何が楽しいの? 心臓にも絶対良くないよ。
俺はこのお化け屋敷という、心身ともに悪影響しか与えてくれない空間へと無理矢理お兄ちゃんに連れ込まれては、いつも大泣きしながら出てきていた。
更に、昔から小柄で影が薄く、人混みに紛れやすい俺は、こういう広くて人が多い場所に来ると、必ずと言っていいほど迷子になる。
子供の頃は今よりもっと小心者で頼りなかった俺は、何度も親に必死の形相で探し回られ、半ベソ状態で歩き回っているところを心優しい見知らぬ人に保護されたりで、園内アナウンスを流されることが定番みたいになっていた。
今はもう大学生になったし、スマホも持っているから、必死に探し回られることもなければ、園内アナウンスを流されるような迷子になる方が難しいって感じだけれど。
しかし、子供の頃に何度も迷子になったせいか、人が多い場所は今でも苦手のままである。
さっき後藤さんも言ったように、今日は六月に入ったわりには物凄くいい天気。来週の予報から一気に雨マーク増えるところを見ると、今日が梅雨入り前の最後の快晴というのは間違っていないと思う。
で、そうなると人の足は自然と外に向くものである。
ここの遊園地の休日における平均集客数がどれくらいのものなのかはわからないけれど、今日の遊園地内はかなりの人の数だった。
これだけ人が多かったら、水嶋さんや白石さんが天馬を連れて人混みに紛れ込むのも簡単そうだよね。
「さて。まず最初は何から乗る? ここ、絶叫系の乗り物が多くて楽しいよね~」
「~……」
俺と違って絶叫系の乗り物は好きなのか、後藤さんの声はうきうきとしていた。
これは何かで見たか聞いたかした話で、真相はどうなのかがよくわからなかったりもするんだけれど、絶叫系の乗り物って意外と男より女の子の方が平気な子が多いんだとか。
本当かどうかはわからないにせよ、とりあえず今ここにいる女の子の中で後藤さんの意見に反対しそうな子は一人もいなかった。
ってことは、みんな絶叫系の乗り物は平気ってことか。
そりゃそうだよね。みんなが絶叫系の乗り物が苦手だったら、そもそもみんなで遊園地に行こうって話にならないもんね。
だったら、どうしてそこに俺の意見が反映されていないんだろう、って思うけど、俺と天馬が結局八人でどこに遊びに行くことになったのかを教えてもらったのって昨日の話だし。それまでの間に後藤さんはおろか、一臣や光稀にも俺と天馬は行き先の希望なんて一度も聞かれてはいなかった。
多分、例の女の子だけの話し合いをした時に行き先も決めちゃったんだろうな。このメンバーの中で俺が一緒に遊園地に行ったことがある人間なんて一人もいないから、みんなは俺が遊園地が苦手だってことなんて知らなかったもんね。
「とりあえず、比較的待ち時間が少なそうなところから回って行こうよ。ここって人気のアトラクションがいくつもあるから、並ぶ列も自然とバラけてくれるしさ」
「そうだね。やっぱりここに来たら絶叫系は制覇しないとだよね」
え……嘘嘘。みんなそんなに絶叫系ばっかり乗るつもりでいるの?
確かに、ここの遊園地は乗り物の大半が絶叫系みたいだけど、中にはそうじゃない乗り物だってあるんだよ? 最初はいきなり絶叫系にしなくても、ウォーミングアップも兼ねてもっと平和で安全な乗り物に……。
「じゃ、まずはあそこに並ぼっか。あの列の感じだと待ち時間は十五分から二十分ってところかな」
「っ⁈」
ってことにはならないらしい。既に園内の至るところから悲鳴が上がっている中、後藤さんが目を付けて指差したアトラクションは、初っ端から物凄い角度で急上昇し、空へと向かって伸びたレールを昇りきった直後に、これまた物凄い角度で急降下するうえ、いくらもしないうちに縦に大きく回転……それも、連続して二回転するという、見ているだけでも背中がぞわぁ~っとしてくるアトラクションだった。
待って待って。いきなりアレはハードル高過ぎじゃない?
っていうか、みんなあんなものに乗るのが本当に平気なの? この中には俺みたいに絶叫系の乗り物が怖いと思う人間って一人もいないの?
誰も何も言わないってことはそうなんだろうな。誰か一人くらいは俺と一緒にビビッてくれるかと思ったのに。誰一人としてビビッている様子がないと、俺一人だけ肩身が狭いよ。
「どうした? 智加。顔が今にも泣き出しそうだぞ?」
絶叫マシーンに乗ることより、列に並ぶことの方が面倒臭くて嫌だ。とでも言いたそうな顔をしていた天馬は、移動し始めるみんなから早速遅れだした俺に気が付くと、不思議そうな顔になって、すっかり眉毛の下がった俺の顔を覗き込んできた。
「天馬……」
今日の天馬には大事なミッションがあるから、あんまり俺のことで気を遣わせたくなかったのに。早々に天馬に気を遣わせてしまっている自分がちょっと情けない。
「もしかして智加、絶叫系がダメなのか?」
「ダメっていうか……乗れないわけじゃないんだけど、怖くって……」
逆に
『どうしてみんなは平気なの?』
と聞きたい俺は、自分が絶叫系の乗り物が苦手であることを素直に認めた。
だけど、乗り物の大半が絶叫系の遊園地に来て「絶叫系が苦手」なんて言ったら、みんなのテンションが下がっちゃうよね。一人だけ乗り物に乗らずに見ているのもノリが悪いってなっちゃうし。
「そうなのか? だったら乗るのやめとくか?」
でも、天馬は他の人間のテンションより俺の心配をしてくれて、「乗るのやめとくか?」って言ってくれた。その気持ちだけで俺は充分って感じだよ。
「ううん。さすがに遊園地に来て“乗り物に乗りたくない”はないと思うし、乗れないわけじゃないからちょっとは頑張る」
「そうか? でも、あんまり無理はするなよ。怖いなら俺が手を握っててやるから」
「あ……」
俺を気に掛けてくれるだけじゃなく、まだ乗り物に乗ったわけでもないのに俺を手を握ってきてくれた天馬に胸がドキッとした。
周りにこんなに沢山人がいるのに。天馬ってば当たり前みたいに俺の手を握ってきてくれた。
(どうしよう。俺、めちゃくちゃ嬉しいかも……)
そのまま俺と手を繋いで歩き始めた天馬に付いていく俺は
(今ならどんな乗り物に乗っても怖くない気がする)
と、内心かなりの浮かれっぷりであった。
「ちょっと! そこでイチャついてどうすんの? 今日の目的わかってるんでしょうねっ!」
みんなに少し遅れて列に合流した俺と天馬は、肝心な天馬の姿が見当たらなくて辺りをキョロキョロと見回していた後藤さんにすぐさま見つかり、みんなと完全に合流する一歩手前で後藤さんから鬼のような形相で怒られた。
もちろん、他のみんな……特に、女の子達には聞こえないくらいにボリュームを落とした声だったし、後藤さんは何も俺と天馬の関係を知っていて、俺達にそんな言葉を浴びせてきたわけでもなかったけれど。
ただ、いないと思って探していた天馬が俺の手を引いて呑気に現れたものだから、そのことに多少苛ついてしまっただけのことだろう。
後藤さんにとっては今後の大学生活が懸かっている今日の計画だもんね。思わず必死になってしまうのも無理はない話かも。
それにしても、最近の俺と天馬って周りの人間の目にはイチャイチャしているように映っちゃうものなのかな。俺達にイチャついているつもりはないのに、この前も溝口さんから「イチャつくな」的なことを言われちゃったし。
それだけ俺と天馬も恋人らしくなってきたってことかな。だったら素直に嬉しい。
きっと、俺と天馬がエッチなことをするようになったからだろうな。
俺とエッチなことをするようになって以来、天馬は俺に触れることに躊躇いがなくなったし、愛情表現もいっぱいしてくれるようになった。俺も天馬と恋人同士なんだって自覚がしっかりできて、天馬に愛されている自信もついた。今まで以上に天馬のことを好きだと思うようになって、天馬に向ける好き好きオーラもパワーアップしたって感じだもんね。
「別に目的を忘れているわけじゃない。ちゃんとわかっているし、心の準備もできてるよ。でも、作戦実行は午後からで、午前中は普通にしていてもいいんだろ?」
「まあ……確かにそう言ったけど……」
「智加が絶叫系の乗り物に弱いんだ。だから、乗り物に乗る時は一緒にいてやってもいいだろ?」
「え? 桐生って絶叫系ダメなの? でもまあ、言われてみれば確かにそんな感じかも」
「ご……ごめん……」
別に謝ることではないと思うけど、後藤さんがちょっとだけ残念そうな顔をしたように見えたから、思わず謝罪の言葉が口から出てしまった。
「いや、いいよ。そこを確認しなかったこっちも悪いし。でも、そっか。苦手じゃ仕方ないね。いいよ。高杉は桐生と一緒にいてあげても」
「悪いな。助かる」
「でも、たまには高城や藤岡に桐生を任せて、あの二人とも一緒に絶叫マシーンに乗ってね。絶叫マシーンのドキドキ感と、隣りに高杉がいるってシチュエーションで二重にドキドキさせて、二人に高杉への気持ちを昂らせる必要があるんだから」
「わかってるよ。そんなことであの二人の俺への気持ちが昂ぶるかどうかはわからないけど」
「昂るっ! そのための遊園地チョイスでもあるんだからっ!」
「はぁ……わかったよ。最低でもあの二人と一回ずつは一緒に乗るよ」
「頼むわ。一回と言わずに二回ずつほど」
「そんなにか⁈」
後藤さんから俺と一緒にいる承諾は得たものの、水嶋さんや白石さんとも最低二回は一緒に絶叫マシーンに乗ってくれと頼まれた天馬は素っ頓狂な声を上げた。
ここで天馬の言う“そんなに”とは、二回も二人と一緒に絶叫マシーンに乗らなければいけないのか? という意味なのか、最低でも四回以上は絶叫マシーンに乗らなくちゃいけないのか? という意味で言われたのかがよくわからない。
でも、後藤さんの発言を聞いて「そんなに乗るつもりなの⁈」と思った俺は、天馬に握られた手で上がっていたテンションが一気に下がってしまいそうだった。
まさかとは思うけど、午前中はひたすら絶叫マシーンに乗り続けるとかじゃ……ないよね?
そのまさかだった。
園内に十三個はあると言われている絶叫マシーンを午前中だけで制覇してしまった俺達は、制覇しただけではなく
『あれ、もう一回乗ろうっ!』
と、気に入ったアトラクションは二回、三回と繰り返し乗り、少し遅めになってしまったお昼ご飯までの間に少なくとも二十回は立て続けに絶叫マシーンに乗り続けた。
いくら絶叫系の乗り物が売りで豊富だからって、ここまで絶叫マシーンにばっかり乗り続けるお客さんっているの? みんなちょっと全力で遊びすぎだよ。
しかも、こんなの人が沢山いるのにアトラクションに並ぶ列がそんなに長くなくて、次から次へと乗り物に乗れちゃうあたりがもう……一息吐く間もなかった。
絶叫系が苦手な俺が悲鳴を上げていたのは最初の五つくらいまで。その後からは最早悲鳴を上げる元気さえなくなっていた。
言ってしまえば、完全なる無。無我の境地状態だった。
「大丈夫か? 智加」
「うぅ……大丈夫じゃないかも……」
乗り物酔いしたわけじゃないけれど、とにかく疲れた。疲れ果てて、せっかく「お昼にしよう」ってなってもちっとも食欲が湧かないよ。
いろんなお店が入っているフードコートにやって来た俺達は、みんなそれぞれ自分のお昼ご飯を買いに行ったんだけど、俺はようやく腰を落ち着けることができたテーブルの上にぐったりと突っ伏し、しばらくは動きたくない気分だった。
「智加は昼飯買いに行かないのか?」
「うーん……今はあんまり食べたい気分じゃなくて……」
「そうか。なら俺の少しやるから食べな。智加がぐったりしてるからそういうことなんだろうと思って、ちょっと多めに買ってきた」
「天馬ぁ……」
なんて恋人想いの出来た彼氏なんだろう。同じ遊園地に遊びに来るなら天馬と二人っきりで来たかった。そしたら俺もここまでぐったりなることなんてなかったと思うし。
天馬は俺の隣りに椅子を寄せて座ると、俺と自分の間にお昼御飯の乗ったトレーを置き、テーブルに上から身体を起こした俺の口許にフライドポテトを差し出してきた。
ちょうど塩気のあるものがちょっと欲しかった俺は、天馬に差し出されるままに口を開けてポテトに齧りついたわけだけど――。
「だから、そこでイチャついてどうすんのよ」
またしても後藤さんに見られてしまい、半ば呆れた顔をされてしまった。
器からはみ出しそうなくらいに具がたっぷり乗った大盛りラーメンにチャーハン、更に餃子までという、「君、本当に女の子?」と聞きたくなるようなメニューをチョイスした後藤さんは、ずっしりと重みがありそうなトレーを俺の正面に置いて座ると
「いただきま~す」
みんなが来るのを待つこともなく、早速割り箸を割った。
「んっ! ここのラーメンなかなか美味いっ!」
ああ、そう。それは良かったね。って感じである。
まあ、こういうあんまり性別を感じさせない後藤さんみたいな子の方が、俺的には付き合いやすくて好ましくもあるんだけどね。
後藤さんが自分の買ってきたお昼ご飯にその食欲旺盛っぷりを発揮し始めても、天馬はそれに釣られることなく、俺の前にストローを挿したウーロン茶を置き――天馬は俺の飲み物まで買ってくれていた――、袋を破って取り出したウェットティッシュを俺に渡してきたりと、俺のお世話に忙しい。
ラーメンを啜りながらそんな俺達の様子を眺める後藤さんは
「高杉ってさ、桐生にはめちゃくちゃ過保護だよね。私の中で高杉って面倒臭がりなイメージが強いからちょっと意外」
大きな器の中のラーメンを半分ほど食べ終わったあたりで、感心したような顔と声で言ってきた。
男の俺が見ても大きいと思える器に入ったラーメンを半分食べるまでの時間、僅か二、三分。異性の前で随分と豪快な食べっぷりを見せる女子である。
「ねえ、なんで? なんで高杉は桐生にだけそんなに過保護なの?」
「なんでって……そりゃまあ、俺と智加がつ……」
「え? 何? つ?」
「……………………」
あ。今うっかりバラしそうになったよね? 後藤さんに自分と俺の関係を。
なんか最近、俺と天馬の関係が周囲の人間にちょっとずつ明かされていくから、天馬の警戒心も少し下がっちゃっているのかもしれない。
でも、さすがに後藤さんに知られるのは不味い。なんてったって後藤さんは白石さんの友達だもん。俺と天馬が付き合っている話が後藤さんの耳に入っちゃったら、白石さんの耳にも入っちゃうもんね。
「……………………」
天馬は一瞬フリーズし、自分の発言をどうやって誤魔化そうかと考えた末
「まあ、俺と智加は付き合いが長いし、一緒に住んでもいるからな。智加はちょっとのんびりしたところがあるから、俺もついつい過保護になってしまうところがある」
とまあ、もっともらしい言葉で難なく後藤さんを誤魔化した。
「あー、確かにね。桐生っていつもぽやぁ~っとしてるもんね」
そして、あっさり天馬の言葉を信じてしまう後藤さんだった。
俺ってそんなにいつもぽやぁ~っとしているように見えちゃうのかな。自分では全然そんなつもりはないんだけれど。
「もしかして、高杉が女子と付き合う気がないのって、桐生のお世話に手一杯だから、なんて理由じゃないよね?」
後藤さん的には少し天馬をからかったつもりだったんだろうけれど
「ん? ああ。それはあるかもな」
一体何を思い出したのか、意味深な思い出し笑いを浮かべて答える天馬に
「え。マジ?」
後藤さんは驚きを隠せない様子だった。
「今の俺には女と付き合うより智加の面倒を見る方が楽しいのは事実だ」
「そ……そう……」
天馬が女の子と付き合う気がないのは既に俺と付き合っているからではあるけれど、それをここではっきり言ってしまうわけにもいかない。
だけど、俺の存在が原因で女の子と付き合う気がないことを認めるような発言をした天馬に、後藤さんはちょっと引いたようにも見えた。
しかし、そのへんの事情を深く追究する気がないらしい後藤さんは
「男の友情ってよくわからないね」
結局、自分にはわからない世界だと割り切ることにして、天馬との会話に気を取られて止まってしまっていたお箸を再び動かし始めた。
そこへ、お昼を買い終わった白石さん、一臣、光稀がぞくぞくと現れ、最後に水嶋さんと安西さんがお昼を乗せたトレーを持ってやって来たから、ようやく八人揃ったって感じだった。
「あれ? 智加ちゃん、お昼は?」
天馬の正面の席に白石さんが座ってしまったから、水嶋さんは天馬の隣りの席に腰を下ろすなり、お昼を買いに行った形跡がない俺に聞いてきた。
「あんまり食欲がなくて。天馬のお昼をちょっと貰うことにしたんだ」
既に天馬の持ってきたトレーの上からポテトを摘まみ、「これは智加の分」と言わんばかりに俺の前に置かれたナゲットを摘んでいた俺は、天馬のお昼を貰っていると言うよりは、天馬が買ってきてくれた俺用のお昼を食べていると言った感じである。
「相変わらず智加ちゃんには過保護よね、天馬は」
天馬の俺への過保護っぷりを何度か目の当たりにしている水嶋さんは、今日の天馬の過保護っぷりにも何も思わなかったみたいだけれど、白石さんの方は一瞬眉をしかめた。
やっぱり俺、白石さんには邪魔者だと思われているらしい。
「前半はかなりハードに動き回ったから、後半はちょっとのんびりまったりしようね。絶叫系の乗り物も乗り尽くしたことだし」
今からみんながお昼ご飯を食べ始めるところだというのに、大盛りラーメンをスープまで綺麗に飲み干して完食し、チャーハンまでほぼ食べ終わっている後藤さんが言った。
「そうだね。後半は巨大迷路とかお化け屋敷とか、そういうのんびり歩きながら楽しめるものにしよう」
後藤さんの提案にしれっと賛成する光稀だったけど、これが作戦開始の合図でもあった。
迷路やお化け屋敷となると、八人全員でぞろぞろ行動するわけにはいかないから、自然と「何組かに分かれて行動しよう」ってことになる。そこで水嶋さんや白石さんを天馬と二人っきりにさせる作戦なのだ。
「じゃあさ、お昼の後はお化け屋敷に行こうよ」
今日一日、天馬と二人っきりになれるチャンスを虎視眈々と狙っていた水嶋さんは、ここぞとばかりにそう提案して
「天馬。私と一緒にお化け屋敷に入ろうよ」
真っ先に天馬を誘った。
天馬は一瞬だけ戸惑いを見せたけれど、自分をジッと見詰めてくる後藤さんの視線で悟ったのか
「別に……いいけど……」
と、なんとも言えない顔でそう答えた。
そりゃなんとも言えない顔にもなっちゃうよね。それが今回の本当の目的に繋がっちゃうんだから。
水嶋さんがどういうつもり――もしくは、どういう目的で天馬を誘ったのかは俺にはわからないけれど、結果が水嶋さんの望み通りにはいかないかもしれないことを知っている俺としては胸が痛い。
「え~? そこは男女のペアになるの? だったら智加ちゃんは私と一緒にお化け屋敷に入ろうよ」
「え⁈」
もし、水嶋さんが二人っきりになれたチャンスに乗じて天馬に告白しちゃったら、水嶋さんは天馬に振られちゃうのかな……なんて、ちょっと心苦しく思っていた俺は、次にペアを作ろうとした安西さんに指名されてしまい、思わず驚きの声を上げてしまった。
水嶋さんの影響なのか、安西さんも俺のことは“智加ちゃん”と呼ぶ。もう好きにしてよ、って感じである。
っていうか、そこのペアって男女じゃないといけないの? 俺、お化け屋敷なんて大嫌いなんですけど。
多分、物凄く怖がっちゃうし悲鳴も上げちゃう。だから、二人一組のペアになるなら一臣か光稀のどっちかが良かったんだけど。
「お? いいねいいね。それでこそ男女八人で来た甲斐があるってものだよ。そういうリア充っぽい展開も大事だよね~」
もともと午後からの行動はグループ分けをするつもりだった後藤さんは、水嶋さんに続いてすぐさま二人一組のペアを作った安西さんに乗っかった。
「じゃあ私は高城と一緒に入ろうかな。お金持ちのお坊ちゃんはお化け屋敷なんて入ったことなさそうだから、どういう反応するのか見てみたいし」
「いやいや。俺もお化け屋敷くらいは入ったことがあるから」
「ああ、そう? でも、ここのお化け屋敷、怖いって有名だよ。高城のビビり度チェックしてあげるよ」
「俺、そんなにビビりでもないと思うけど」
水嶋さんと天馬、安西さんと俺、後藤さんと一臣……となると、残るは白石さんと光稀の組み合わせになるのか。
まあ、その二人ならお互いに特別な感情や不満もなく、無難に行動を共にできそうだよね。
「なんで安西が智加を指名するんだ?」
あっという間に男女四組のペアができあがってしまった直後、天馬が俺の耳元に唇を寄せて小声で聞いてきたんだけれど、その理由は俺にもよくわからない。
でも、前に水嶋さんから安西さんは格好いいより可愛い系が好きで、俺なんかはわりと安西さんのタイプなんじゃないかって言われたことはある。安西さん的には天馬より俺の方がいいという話も聞いた。
だけど、だからって安西さんが俺をそういう意味で意識しているようには見えないし、なんなら俺を異性として見ている感じですらもない。安西さんにとって俺の存在がどういうものなのかは、はっきり言って謎だった。
そんなによく喋るわけでもないから、友達って感じでもないしなぁ……。
「わ……わからない。なんでかな?」
安西さんが俺を指名してきた理由は、天馬に「なんで?」と聞かれても答えようがない俺は、他に返事のしようがなかった。
強いて言うなら
「多分、俺が一番異性として意識しなくてもいいから気が楽なんじゃない?」
ってことなんじゃないかな? と思うくらいだった。
「ふむ」
で、何故かそれで納得してしまう天馬は
「智加は可愛いからな。そういうものなのかもしれないな」
俺の言葉で納得した理由みたいなものを口にした。
うーん……。そういうものなのかどうかはよくわからないけど。天馬がそう言うならそういうことにしておこうかな。安西さんが俺を指名した理由なんて、安西さん本人に聞かなきゃわからないし。
「それじゃ、お昼の後は団体行動はやめにして、個人交流の時間にでもしますかね。あ、もちろん、高杉の独り占めはダメだからね、水嶋さん。交流相手はちゃんとシャッフルすること」
「はいはい。わかってるわよ」
まるで午後からの方針がたった今決まったかのように振る舞う後藤さんだったけれど、全ては最初から仕組まれていたこと。
でも、女の子側から特に動揺や反対の声が上がらないところを見ると、この流れは女の子同士の話し合いの席でも事前に打ち合わせがあったことなのかもしれない。
よくよく考えてみれば、今の今まで水嶋さんが俺達の目を盗んで天馬を強引に連れ出して二人っきりになろうとしなかったこともおかしな話だし。
それを言ったら、水嶋さんに「私と一緒にお化け屋敷に入ろうよ」と誘われて、一瞬戸惑いはしたものの比較的あっさり天馬が承諾したことだっておかしな話ではあるんだけどね。
今日の計画について、後藤さん、一臣、光稀の三人は全てを知っているのかもしれないけれど、俺と天馬は必要最低限のことしか知らされていない。計画の全てを知っているわけじゃないから、計画が出来上がるまでの過程もよくわかっていなかった。
もしかしたら、昼食の席で水嶋さんが天馬をお化け屋敷に誘ったことも、あらかじめ予定されていた流れの一つだったのかもしれないよね。
天馬は優しいからさ。あまり詳しい計画の内容やらその過程を聞かされてしまったら、罪悪感に苛まれて計画が失敗すると思われたのかもしれない。だから、後藤さんや一臣や光稀も、天馬や俺には簡単な事後報告しかしなかったんじゃないかと思われる。
「そうと決まればさっさとお昼ご飯なんか食べちゃって、さっきとは違う絶叫をしに行こうっ!」
食べちゃって、ではなく、既にあの量のお昼を綺麗さっぱり完食してしまっている後藤さんは、空になった器の乗ったトレーを持って意気揚々と立ち上がった。
ちょっと待とうよ。誰も後藤さんのペースに付いて行けていないから。むしろ、みんな今お昼を食べ始めたところだから。
「ふんふふ~ん♪」
鼻歌交じりで空いた食器を返却口に置きに行く後藤さんの後ろ姿は上機嫌といった感じで、その上機嫌の理由は、純粋に遊びに来た遊園地を満喫できて楽しいからなのか。はたまた、予想外に美味しかったラーメンにお腹が満たされて満足なのか。はたまた、ここ数日間の間、一臣や光稀と練り上げた計画を実行に移せることが楽しみなのか……。
何はともあれ、今日の計画の全てを知っていながらも、普通に遊園地を楽しめてしまう後藤さんの神経は相当に図太いと思う。
「前から思ってたけど、後藤ってちょっと変わってるよな」
これから友達が振られるかもしれないというのに、底抜けに明るい後藤さんの姿は天馬もちょっと理解ができないようで、食べ終わったハンバーガーの包みをクシャクシャに丸めながら、俺と同じような顔で後藤さんの背中を見送った。
でも
「ん? そう言えば智加、怖いの苦手じゃなかったか? お化け屋敷とか大丈夫なのか?」
この後お化け屋敷に入ることになったのを思い出したと同時に、俺が怖がりだということも思い出した天馬は、そっちの方が気になり始めたようだった。
「う……うぅー……」
大丈夫なわけがない。俺がこの世で最も嫌いな遊園地のアトラクションがお化け屋敷なんだから。
絶叫系の乗り物も怖くて苦手だけど“嫌い”とまではいかない。まだ苦手の域に留まっている。だけど、お化け屋敷は“苦手”じゃなくて“嫌い”……それも“大嫌い”なんだ。
あんなもの、ただひたすら怖い思いをさせられるだけの苦痛な空間でしかないのに、何が楽しいのかさっぱりわからない。本当、あんなものに入りたがる人間の気持ちはもちろんだけど、あんなものを作ろうと思った人間の気持ちが心の底から理解できないよ。
「大丈夫じゃないー……」
これがまだ天馬と一緒に入れるのであれば、俺もまだちょっとは前向きな気持ちで挑めていたかもしれない。どんなに建物内がおどろおどろしい雰囲気に包まれていても、天馬にしっかりくっ付いていれば怖くないって気がするし。
それなのに、一緒に入る相手が安西さんという、そんなに言うほど親しいわけでもない女の子ってなると、俺は一体どうしたらいいんだよ。
多分俺、安西さんがドン引きするくらいのビビりっぷりを披露しちゃうよ。
いくら安西さんが俺の中では特別な感情を一切持たない普通の女の子でも、男としてはあまり女の子に見られたくない姿だよね。お化け屋敷ごときに本気で恐怖し、悲鳴を上げながら逃げ回る情けない姿なんて。
「智加……」
絶叫系の乗り物に乗る時とは違い、ここでは全く頑張るつもりがなさそうな俺の姿を見て、天馬は憐れみに満ちた目で俺を見下ろしてくると
「今回一番災難だったのは智加かもしれないな」
と、俺の頭を優しく撫でてきてくれた。
本当にもう
『なんでよりによって遊園地なんだよっ!』
って、俺は今回の行き先に遊園地を提案した人間に言ってやりたい気分だよ。
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