モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

藤宮りつか

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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

Chapter 28

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 高城家の送迎車と言えばリムジン。これは最早俺達の中では定番になっていて、俺はこの自分には一生無縁だと思っていたピカピカに磨き上げられて黒光りする大型高級車に乗せてもらうたびに、なんとも言えない居心地の悪さを感じてしまったりもする。
 そして、座り心地は物凄くいいのに、ちっとも落ち着くことができないリムジンに乗って向かった先は、俺達の住むマンション……ではなく、今日は久し振りに家族と一緒に夕飯を食べることになっているという一臣の実家でもなく、先月オープンしたばかりの高城グループが経営するホテルだったものだから、俺はもう何がなんだか……。
 これも今回の計画と何か関係があるんだろうか。一臣が言うには、今日の計画はまだ全てが終わったわけじゃないらしいし。
 でも、既に四人の女の子達を帰しているわけだから、今更計画も何もあったものじゃないよね?
 一臣も光稀も、俺と天馬に今回の計画の全てを教えてくれるって言ったのに。遊園地から目的地であったらしいこのホテルまでは車で一時間以上も掛かったっていうのに、車の中での会話ときたら今日のこととは全く関係ない話ばかりで、車がどこに向かっているのかはもちろん、今回の計画の話すら何一つ話してくれなかったんだよね。
 まるで今回の計画について、わざと触れないようにしているかのような不自然ささえ感じたけれど、それがまさかこんな展開に繋がっていくとは思わなかった。
 二人には“天馬と智加を驚かせてやろう”という悪戯心があったのかもしれないけれど、こっちにだって心の準備があるんだから。それとなくでもいいから、今日一日の流れみたいなものは教えておいて欲しかったよ。そうじゃないと、驚く以前に混乱し過ぎて途方に暮れちゃうもん。
 ホテルの正面玄関の前でリムジンから降ろされた時点で、最早何がなんだかわけがわからなくなっていた俺と天馬は、とりあえず二人に促されるままに二人の後をついて行き、ホテルのロビーで一臣の両親に声を掛けられた時は、頭の中が真っ白になりながらも、とにかく失礼がないようにと振る舞った。
 その後
「じゃあ光稀。後はよろしくね。俺も用が済んだら合流するけど、とりあえず二人には今日のあれこれを説明してあげといて」
「わかった。一臣も久し振りに会う家族の前で粗相のないようにね」
「うーん……大丈夫だとは思うけど」
 光稀に何かを手渡しながら、そんな会話を交わす一臣と別れ、俺と天馬は光稀に連れられ、エレベーターで上の階へと向かった。
 向かった先は三十七階の展望レストラン。
 待って待って。そんな話は本当に聞いてないよ。夕飯をホテルのレストランで食べるって聞いていたら、もうちょっとちゃんとした格好で遊びに出ていたのに。遊園地に行くって言うから、物凄くラフな格好で出て来ちゃったじゃん。
 まあ
『今日の夜はホテルのレストランで食べることになってるからね』
 と言われたところで、気の利いた服なんて持っていなかったわけだけどさ。
 光稀が先頭に立ち、レストランの入り口でさっき一臣から受け取った何かを渡すと
「藤岡様三名様ですね。お待ちしておりました。お席までご案内致します」
 少し前までまだ高校生だった俺達にも、至極丁寧でにこやかな対応をしてくれるスタッフさんに連れられて、ホテルからの夜景が一望にできる窓側の席に案内された。
 なるほど。さっき光稀が一臣から渡されていたのはレストランの食事券だったんだ。一体なんだって一臣は俺達にこんなサービスを?
 ひょっとして、今日の計画に付き合わせた天馬へのご褒美だったりするのかな。それが一臣や光稀にとっての最後の計画……ってことだったりするの?
 それなら何もこんな高いところの料理をご馳走してくれなくても、ファミレスとかファーストフードで充分だったと思うんだけど。今日一番の功労者だった天馬だって、きっとそう思っているに違いないと思う。
 村瀬さんの運転するリムジンに乗った時からずっと緊張続きの俺だったけれど、ここで一つだけホッと胸を撫で下ろすことがあった。
 それは何かと言うと、ここの展望レストランがコース料理が出てくるような堅苦しいレストランじゃなくて、バイキング形式のわりと気を遣わなくてもいいタイプのレストランだったことだ。店内には俺達よりだいぶ小さい子供の姿もあったから、俺の緊張もいくらかは和らいでくれた。
「さて。色々聞きたいことはあるだろうし、僕も全部説明してあげるつもりではあるけれど、まずはその前に飲み物と食べ物を取ってきちゃおうか。智加はちゃんとお昼を食べてないからお腹空いてるでしょ?」
「え? えっと……どうだろ……うっ⁈」
 自分ではあんまりお腹が空いているという自覚はなかったんだけど、俺達を席まで案内してくれたスタッフさんの姿が消え、俺、天馬、光稀の三人だけになると、安心したのと同時にお腹がぐぅ~って鳴ったから物凄く恥ずかしかった。
 どうやら俺、お腹が空いているらしい。そのことに自分でも今気が付いた。
「あはは。お腹が鳴るくらいに食欲が戻ってるってことは、智加の体調も完全回復ってことだね。安心したよ」
「うぅ……そうみたい……」
 くぅっ! いつもはお腹が空いていてもお腹が鳴ることなんて滅多にないのに。どうしてこういうところに来た時に限ってお腹が鳴ったりするんだよ。俺のお腹の意地悪っ。
「智加のお腹も“お腹が空いた”って言ってるし、まずは料理を取りに行こ。話はそれから。話の途中に席を立たなくて済むよう、ちょっと多めに料理を取っておいた方がいいかもね」
「そうだな」
 俺同様、何がなんだかわからなくてすっかり口数が減ってしまっていた天馬も、ようやくいつものメンバー(一臣は除く)だけになると、いつも通りの天馬に戻ったらしく、恥ずかしそうに俯く俺の頭をよしよしって撫でながら席を立った。
 今日は何かと良くないことばかりに見舞われる俺は
(こうなったらやけ食いでもしてやろうかな……)
 なんて、内心ふて腐れたい気持ちでいっぱいになってしまいそうだった。



「つまりね、今回の計画は男性陣と女性陣でそれぞれ似たような計画を立てていたってことなんだよね」
「と、言いますと?」
 じっくり腰を据えて話を聞くために充分な料理を取ってきた俺達は、ちょっと行儀が悪かったかな? と心配になったものの、周りのテーブルの上はもっと凄いことになっていたから、自分達はまだ可愛いものなんだ、と安心した。
 まあ、バイキングってそうなっちゃうよね。食べたいものがいっぱいあって、ついつい取り過ぎちゃったりするものだもん。
 特にここのレストランはびっくりするほどメニューが豊富だし、どれも美味しそうだから、食べたいものを控えめにお皿に盛っていっても大きなお皿があっという間にいっぱいになっちゃって、とても一枚では事足りないって感じだった。
 結局大皿二枚と、それよりは少し小さめな中皿一枚分の料理を取ってきてしまった俺は、これで光稀の話を聞き終わるまでは席を立つ必要もないだろうと満足した。
 飲み物はウーロン茶とスープをそれぞれ一杯ずつ取ってきただけだけど、元々俺は食事中にあまり飲み物を飲まないから、二杯あれば充分だった。
 三人が三人とも料理と飲み物をしっかり取ってくると、まずは三人で「いただきます」をしてから、光稀の話を聞きながらの夕食が始まった。
 もちろん、最初の二、三分は初めて来たレストランの雰囲気やら窓から見える景色、料理の味についての感想を言い合ったり
『後でデザートも食べようね』
 なんて話もしたけれど。
「僕達側の計画は、水嶋さんと白石さんの二人に天馬と二人きりになるチャンスをそれぞれ与えて、天馬にはその二人を振ってもらおうって計画だったよね」
「うん」
「ああ」
 俺と天馬は光稀の言葉に同じタイミングで首を振って頷いた。
 それが俺と天馬が事前に知っていた今回の計画の全てでもあった。
「でも、向こうは向こうで水嶋さんと白石さんの二人に天馬と二人きりになるための計画を立てていて、その方法や、天馬と二人きりになるタイミングと順番を決めさせていたんだよ。目的はもちろん、二人が天馬に告白するため……とまでは言わないけど、せめてさり気なく自分の気持ちを天馬に伝えるくらいはしてみたら? って話にはなっていたみたいだよ。言うまでもなく、そう言い出したのは後藤さんだけどね」
「ふーん……そうだったんだ」
 光稀はまず、後藤さんとどういう話し合いをしたのか、計画を実行に移す今日がどういう流れで進むことになっていたのかを説明してくれた後、計画そのものについても全部話してくれた。
 既に知らされている内容もあれば、なんとなくそうなんじゃないかって気付いたものもあって、今更驚くようなものはなかったけれど、こうして最初から全部聞かせてもらうことで、心の中に僅かに引っ掛かっていた謎も解けてくれるから助かる。
 だけど
「水嶋さんがよくそんな計画に従ったね」
 そこはもう少し詳しく聞いてみたかった。
 最初から天馬と二人きりになるチャンスを狙っていたであろう水嶋さんの性格なら、天馬と二人きりになるタイミングや順番を決められるのは嫌だっただろうし、決められたところで無視しそうなものなのに。
「そこはまあ、水嶋さん的にも後藤さんに逆らえない事情ってやつがあったんだよ」
「水嶋さんが後藤さんに逆らえない事情?」
 なんだ、それ。あの水嶋さんをおとなしく従わせるほどの凄い事情が、後藤さんにはあったっていうの? その事情とは一体……。
「水嶋さんはこれまでに何回も天馬をデートに誘っているみたいだけど、天馬がちっとも首を縦に振ってくれないから、天馬と遊びに行きたくても、天馬と遊びに行けなかったんだってね」
「っ⁈」
 光稀はさらりとそんなことを言ったけど、水嶋さんが何回も天馬をデートに誘っているなんてことを知らなかった俺は、思わず物凄い勢いで天馬を見てしまった。
「……………………」
 天馬は俺の視線にすぐさま気が付くと、決まり悪そうに鼻の頭をぽりぽりと掻いたりする。
 そう言えば、前に水嶋さんが言ってたっけ? 天馬は水嶋さんと二人じゃ遊びに行ってくれないって。だから、俺にダブルデートの話を持ち掛けてきたんだったよね。
 その後もめげずに天馬をデートに誘い続けていたのだろうか。多分、バイトで一緒になった時にでも誘っていたんだろうな。何回断られても誘い続ける水嶋さんのめげない精神って本当に凄いな。
「そんなところに後藤さんが僕達と一緒に遊びに行く話を持ってきたわけだから、天馬と二人きりってわけじゃなくても水嶋さんは嬉しいわけ。で、そんな約束を取り付けてくれた後藤さんの言うことには逆らい辛いものがあったんだと思うよ。今後もし、天馬と一緒に遊びに行きたいと思ったら、後藤さん経由でまた約束を取り付けてもらえるかもしれないでしょ?」
「なるほど。そういう打算的な考えが水嶋さんにあったなら、確かに後藤さんには逆らえないかもね」
「後藤さんは水嶋さんの恋敵である白石さんの友達でもあるからね。下手に後藤さんに逆らうと、逆に白石さんと天馬が上手くいくように動かれると思ったのもあるんじゃない?」
「後藤さんにそんなつもりはないのにね」
 今回、水嶋さんは後藤さんに対して多少なりとも感謝する気持ちがあったみたいだけれど、そもそも、この計画が立てられた理由だったり、真の目的を知ったら、水嶋さんも感謝どころの話じゃなくなるんだろうな。それは白石さんにも言えることだけど。
 なんだかんだと恋敵同士の水嶋さんと白石さんが行動を共にしているのもおかしな話だけど、あの二人には“天馬”という同じ目的があるからまだわかる。それよりも、それぞれの友達である安西さんや後藤さんが、友人の片想いに非協力的なところはやっぱり不思議だ。あそこの四人の関係って本当に謎だよ。
「最初から行き先は後藤さんに任せることにしていたんだ。言い出しっぺは後藤さんだからね。で、たまたま三限目が休講だったあの日、後藤さんに“女の子同士で打ち合わせしてきたら?”って言って、そこで行き先やその他諸々の決まったことを後で報告してもらったんだ」
「じゃあ、その時に行き先が遊園地に決まって、お化け屋敷のペアも決まったの?」
「そうだよ。あと、巨大迷路のペアもね。せっかくみんなで遊びに行くんだから、前半はみんなで一緒に行動して、お昼を食べてから計画開始って流れが決まったのもその時だよ。そこで安西さんが智加と二人きりになりたいって言い出したことは僕達や後藤さんにとっても予想外ではあったんだけどさ。智加と安西さんが二人きりになったところで問題はないと判断したから、安西さんがそう言うなら……って僕達も承諾したんだよね。今日も安西さん本人から直接お願いされちゃったし」
「ああ、そう。そうだったんだ……」
 問題がないどころか大問題だったよ。俺、まさか安西さんがあんな肉食系女子だとは思わなかったもん。あれはもう肉食系というより野獣だよ。女の子が男相手に“ベッドの上で思う存分泣かせたい”だなんて、どう考えても絶対におかしいよ。見た目は可愛い普通の女の子なのに、中味が男前過ぎるでしょ。完全に騙されたって感じ。
「こっち側の計画は当然向こうには知られていないんだよな?」
 耳元で囁かれた安西さんの卑猥な言葉と、それと一緒にお尻を撫でられた感触を思い出した俺は、ついついしかめっ面をしてしまう。そんな俺の隣りで、天馬は念のためにと光稀にそこの確認をする。
「それはもちろん。知っていたら、そもそも今回の計画は成立していなかったよ。ただまあ、普段の天馬の性格を考えたら女の子と二人きりになるのを面倒臭がりそうだから、そこは後藤さんが上手く説得するなり、僕達に協力してもらうってことにはなっていたけどね。それ以外は何も。後藤さん以外の女の子達の中では、僕達は後藤さんからの誘いに乗っただけってことになってるよ」
「そうか」
「心配しなくても、僕達側の計画が向こうにバレることは絶対にないよ。後藤さんも“口が裂けても言えない”って言ってたしね」
「それならいい」
 当然と言えば当然だとは思うけれど、やっぱりそこは最後に確認しておきたいところではあるよね。
 言い出しっぺは後藤さんだけど、今回の計画の本当の目的を知って尚、その計画に乗ったことが知られてしまったら、俺達の人間性が疑われちゃうもん。
 だけど、光稀の言うようにそこの心配はしなくても大丈夫だろう。後藤さんが普通の神経の持ち主なら、たとえどんなに口が軽くても、そこだけは絶対に口にしないと思うから。
「計画についてはよくわかったよ。じゃあ、今度はその計画がどうなったのかを教えてよ。天馬と水嶋さんが計画通りに二人でお化け屋敷に入って行ったところまでは知ってるけど、俺が医務室で寝ている間も計画は続行されていたの?」
 今回の計画についてはまだ一つ謎が残っているけれど、それはまた別件って感じがするから、今ここではとりあえず保留にしておく。保留にしておいて、計画についての説明が終わったとなると、次に聞きたいことは、その計画がどうなったのか、だよね。
 そこは本当に俺が全く知らないところでもあるわけだから。
「智加が倒れたって聞いた時、天馬的には“計画なんてどうでもいい”ってなったんだけどね。智加は気絶したまま寝ちゃっててしばらくは起きる気配がないし、医務室の先生も“疲れて寝てるだけだろうから大丈夫”だって言うし。安西さんは安西さんで“智加ちゃんが倒れたのは私のせいだから、私が智加ちゃんに付き添う。みんなは遊園地を楽しんで”って言って譲らないしでさ。仕方なく安西さん以外のメンバーは一度医務室から出たんだよね。あそこの医務室ってそんなに広くなかったし、ちょうど転んで怪我した子供が母親に連れられて怪我の手当てをしに来たから」
「そうなんだ。確かに、あそこに全員いたら邪魔になっちゃうし、医務室に用がある人の迷惑になっちゃうもんね」
「それでも、天馬は最初“だったら俺が智加に付き添う”って聞かなかったんだけどね。計画が中止になることを避けたかった後藤さんと、女の子側の計画を知っている安西さんの二人から説得されて、渋々智加を安西さんに任せることを承諾したんだよ。後藤さんにしてみれば、あっちはあっち、こっちはこっちで計画を立てておいたことが功を奏した結果になっただろうね」
「そうだったんだ。それで……」
 それで俺に付き添っていたのが安西さん一人ってことになっていたんだな。
 その時の俺には意識がなくて拒否権なんてものはなかったわけだけど、今聞くとちょっとゾッとする。もし、俺に辛うじて意識があったのなら、俺に付き添ってくれる相手は「天馬がいい」って言っていただろうな。
 まあ、医務室には常に患者の様子を気にする看護師さんがいたわけだから、安西さんも俺に手出しなんかできなかったはず……だよね?
 そのへんはあまり深く考えないでおこう。考えれば考えるほど怖くなっちゃうから。
 でも、最初は天馬が俺に付き添ってくれようとしていたんだ。天馬のその気持ちは物凄く嬉しいな。
「で、智加のことは安西さんに任せた後の僕達は、そのまま次の予定、巨大迷路に行くことにしたんだよ。どうせ次の巨大迷路も智加と安西さんはペアだったから、ペア同士の二人がいなくても問題はなかったしね」
「え……」
 ちょっと待って。どうしてそこのペアは変更なしだったの? 他のペアは変更されていたよね?
 お化け屋敷で天馬とペアになった水嶋さんに代わって、巨大迷路で天馬とペアを組むのは白石さんだっただろうから、少なくとも光稀と水嶋さんはペアになる相手が変わる。
 だけど、本能的に光稀が苦手っぽい水嶋さんは光稀とペアを組みたがらなかっただろうから、水嶋さんがペアを組むとしたら一臣か俺。
 ところが、友達の安西さんが俺と二人きりになりたがっていることを知った水嶋さんは、俺と安西さんのペアはそのままにして、一臣とペアを組むことにした……ってことなのかな。
 安西さんには水嶋さんの片想いを応援するつもりがあまりないのに、水嶋さんの方は安西さんの恋(?)を応援するつもりがあるっぽいところが、なんだかちょっと可哀想な気がするな。
 それにしても、お化け屋敷の後もずっと安西さんとペアを組まされ続けていたのであれば、俺はある意味気を失って良かったのかもしれない。
 あのままずっと安西さんと一緒にいたら、いつ、どこで、どんな間違いが起こっていたかわかったものじゃないし、何もなかったとしても、あの調子で絡まれ続けていたら、今頃俺はこんなに元気になっていなかったと思うし。
 そう考えると、お化け屋敷の中で気を失ってラッキーだった、とさえ思えてくるよ。
 情けない姿を晒すことにはなったけれど、気を失ったことでその後の自分の危機を回避することができた俺は
(これも怪我の功名ってやつなのかな?)
 と、自分の怖がり具合をちょっとだけ褒めてあげたい気分だった。
「そ……それで、天馬は結局二人のことをどうしたの? 天馬はあの二人から告白されたりとかしたの?」
 そして、話は元に戻る。
 俺が医務室ベッドの中ですやすやと眠っている間にも進行していた計画の結果は如何に?
「結論から言うと、俺はあの二人から告白されたわけじゃないけれど、二人を振ったことにはなると思う」
 これまでは光稀が俺と天馬に計画についての説明をしてくれていたから、天馬は俺と一緒に光稀の言葉に耳を傾けているだけだった。でも、計画の結果の話になると、自分が説明した方が早いと思ったのか、光稀に代わって説明役を引き受けることにしたみたいだった。
「告白はされてないけど振ったって? それってどういう状況だったの? それらしいことを二人から言われたってこと?」
 この問題は今後の俺達の大学生活だけでなく、俺と天馬の平穏無事な恋人生活にも関わってくる問題だから、俺もついつい詳しく知りたがってしまう。
 天馬も俺のこういう反応は予想できていたようで、特に戸惑う様子もなく
「まあ、そういうことかな。亜美からは“付き合って”って言われて、白石からは“好きな人がいるの?”って聞かれた」
「ああ……」
 天馬は落ち着いた口調で淡々と話してくれたわけだけど、ここでもさり気なく天馬の恋愛音痴っぷりが窺えた。
 天馬は「告白されたわけじゃない」って言ったけど、白石さんはともかく、水嶋さんの方は告白したも同然じゃん。「付き合って」って言われているんだから。「付き合って」なんて言葉、普通は好きでもない相手には絶対に言わない言葉だよね?
 それとも何? 天馬の中では「好き」って言葉を使われないと告白されたことにはならないのかな。
 良かった。俺はちゃんと天馬に「好き」って言って告白しておいて。もし「好き」って言葉で告白していなかったら、俺も天馬に「告白されたわけじゃない」と思われてしまい、俺と天馬の関係もどうなっていたかがわからなかったかもしれないんだ。
「亜美には“好きな奴がいるから付き合えない”って言って、白石には“好きな奴はいる”って答えた」
「そ……それで、二人はなんて?」
「亜美はなんか怒ってたな。白石には“そうなんだ……”って悲しそうな顔をされた」
「そう……」
 それはまあ……天馬が二人を振ったことにはなるよね。水嶋さんに関しては完全に振られてるって感じだし。白石さんにしても、天馬の言う“好きな奴”が自分じゃないことはわかっただろうしな。
 天馬がどのタイミングで二人とそういうやり取りをしたのかはわからないけれど、そうなった後の俺と安西さんを除く六人はどうなったんだろう。
 さすがにそれまでと同じノリやテンションでは遊べないだろうから、さぞかしギクシャクしたようにも思うけど……。
 でも、一応みんな閉園時間までは一緒にいたんだよね? 水嶋さんなんかは怒ったついでに帰っちゃいそうな気もするのに。そのへんの状況がまだちょっとわからないな。
「確か、先に白石さんの方を振ったんだよね。水嶋さんを振ったのはその後で、水嶋さんを振った後は“役目は終わった”と言わんばかりに早々に智加の元に駆けつけちゃったんだよね、天馬は。おかげで僕と一臣は水嶋さんと白石さんの二人から物凄い剣幕で、天馬の好きな相手は誰なのか、って問い詰められちゃってさ。いや、ほんと、あの時はちょっと困っちゃったよ」
「悪かったな。でも、俺としてはずっと智加のことが心配だったからな。目的を果たしたなら智加の傍にいてやりたかったんだ」
「はいはい。わかってるし怒ってないよ。なんとなくそうなる予想はできていたし」
 どうやらそういうことらしい。俺には好きな奴がいる、と言うだけ言って、天馬本人はその場から姿を消してしまったなら、天馬の好きな相手が気になる水嶋さんと白石さんは、当然その相手のことを一臣や光稀から聞き出そうとする。それで、結局閉園時間まで全員が遊園地内に残ったままになっていたんだな。納得した。
「でも、水嶋さんより白石さんを先に振ったってことは、水嶋さんは最初のお化け屋敷で天馬と二人きりになった時には、そういう話をしてこなかったってこと? っていうか、水嶋さんってお化け屋敷が怖くて苦手らしいけど、水嶋さんと二人で入ったお化け屋敷ってどうだったの?」
 水嶋さんと白石さんの二人が、どういう状況とタイミングで天馬にそういう話を振ってきたのかも気になるけれど、俺と同じくお化け屋敷が苦手だという、水嶋さんと一緒にお化け屋敷に入った天馬のことも気になる。
 散々安西さんにしがみついていた俺がヤキモチを焼くのもどうかとは思うけれど、普通に聞こうとしても、後半になるにつれて拗ねた顔と口調になってしまう自分が嫌だ。
「ん? あー……まあ、とにかく煩かった。どさくさに紛れてすぐ俺に抱き付いてこようとするから、腕一本貸してやるから抱き付くのはやめろ、って言ったよ。お化け屋敷の中じゃそんな調子だからロクに会話なんかしてないし、お化け屋敷から出た後も、しばらくは“怖かった”って騒いでるだけだったぞ。ようやく亜美が落ち着いてきて、なんとなくそういう話になりかけた時に一臣と後藤がお化け屋敷から出てきたのと、光稀から智加がお化け屋敷の中で倒れたって聞いたから、それどころじゃなくなったんだよ」
「あぅ……」
 決してわざとではないんだけれど、ちゃっかり計画の邪魔をしていた俺だった。
「亜美の話が中途半端になったまま、白石と巨大迷路に入ることになったから、迷路の中で俺に“好きな人がいるの?”って聞いてきた白石を先に振るみたいな形になったんだ。亜美が話の続きを俺に振ってきたのは、みんなで景品が貰えるゲームをしている時だったな。正直、その時の俺は既に智加の様子を見に行きたくて仕方がなかったんだけどな」
「それが閉園時間の三十分前くらいだったかな。僕と一臣は三十分ほど、水嶋さんと白石さんからの質問攻めに遭っていたわけだけど、閉園のアナウンスが流れ始めたタイミングで、天馬の好きな相手については今度天馬に聞いておく、ってことにして、先に女の子達を帰すことにしたんだ」
「はあ……俺が寝ている間にそんなことになっていたんだね」
 謎は全て解けた。まだ俺達がここにいる理由は謎のままだけど、後藤さんに持ち掛けられた計画に関する謎は全て解消したよ。
 ちょっとしたアクシデントがあったものの、一応当初の目的が達成されて、後藤さんはさぞかし満足していることだろう。
 後藤さんと一緒にあれこれ計画を詰めていった一臣や光稀も、ひとまずは無事に計画を遂行できてホッとしているのかもしれない。
 だがしかし、これで本当に俺達は水嶋さんと白石さんのいざこざから解放されたことになるんだろうか。
 白石さんはおとなしく身を引いてくれそうな気もするけれど、水嶋さんの方はそう簡単には天馬のことを諦めてくれそうにない気がするよね。
 それに、二人とも天馬の“好きな奴”が気になっているままだから、それを聞き出すまでは天馬から離れてくれそうにない気もする。
 俺も天馬も大変な思いをしたのに、これで何一つ変化のない大学生活だったら目も当てられないよ。
 まあ、天馬の言う“好きな奴”が自分達ではないことくらいは二人もわかっただろうから、そこの二人で争う必要はなくなっているとは思うけどさ。
 天馬に振られたも同然の二人が、今後どういう行動に出るのかはまだ謎である。
「さて、これで智加が聞きたかったことも全部話したと思うから、今度は智加が僕達に話をする番だよ」
「へ?」
 事は計画通りに進んでも、それで終わりじゃない気がしてならない俺が、ちょっとだけ難しそうな顔をしていたら、光稀にそう言われたからきょとんとなってしまった。
「惚けないでよ。僕達、お化け屋敷の中で智加と安西さんの間で何があったのかをまだ聞いてないよ?」
「あ……ああ……」
 そうだった。俺は俺で自分の意識がない間のことが気になっていたけれど、天馬や光稀は俺が気を失う前のことが気になっているんだよね。
 別に隠すつもりはない。むしろ、あんな恐怖体験は聞いて欲しいくらいだった。
 これまで極々普通の女の子だと思っていた安西さんの豹変っぷり。俺にとってはショックで衝撃的な出来事でもあったから、自分一人の中にしまっておくには耐えがたいものがある。
 でも、その前に――。
「もちろん、その話はするけど……。その前にデザート取ってきてもいい?」
 最初に取ってきた料理はちょうど綺麗に食べ終わり、今度は甘いものを欲する俺のお腹は、その欲求を果たして欲しそうに俺に催促してくるようだった。
 俺の言葉に、天馬と光稀が立ち上がったタイミングは全く同じだった。
 どうやら俺達三人のお腹はまだまだ完全に満たされてはいないようである。


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