初恋♡DESTINY☆

藤宮りつか

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Episode3

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   噂の新入生



「由依ちゃーんっ!」
「あ、奈美。どうしたの? っていうか、由依ちゃんって呼ばないでって言ってるのに」
「いいじゃん。その方が呼びやすいんだもん」
「俺、男なんだよ? ちゃん付けされるのは嫌だよ」
「大丈夫大丈夫。由依ちゃん可愛いから。ちゃん付け全然オッケーでしょ」
「それは奈美の勝手な言い分じゃん」
「そんなことないって。由依ちゃんは可愛いよ」
「だから、可愛いって言われても嬉しくないから」
 鷹夜の家に遊びに行った翌日。大学の門を潜ったところで南奈美みなみなみと遭遇した俺は、奈美から元気良く声を掛けられた。
 南奈美。上から読んでも下から読んでも“みなみなみ”。それが本人的にはちょっとした自慢らしい。
 自慢にもなんにもならないと思うのは俺だけ? むしろフルネームで呼びにくいと思う。印象には残りやすいけど。
 奈美とは大学に入ってから一番最初に行った新歓の席で出逢った。奈美が新歓に参加した目的は、俺と同じく出逢いを求めて。
 なかなか可愛らしい子だから、勇気を出して声を掛けてみたんだけど、喋ってみると彼女にしたい感じではなく、普通に仲良くなっただけだった。
 俺のことは“神木君”とか“由依君”ではなく、“由依ちゃん”と呼ぶ。なんでも、奈美の従姉妹に俺と漢字違いの“唯ちゃん”がいるらしく、俺も“由依ちゃん”と呼ぶ方が呼びやすいのだとか。
 従姉妹だかなんだか知らないけれど、男の俺が女の子からちゃん付けで呼ばれるのは気に入らない。
 言ってもやめてくれるつもりはないみたいだから、俺もそろそろ諦めようかとも思っている。
「そんなことより、由依ちゃん昨日は学生達の注目の的だったんだって? どういうことなのか聞かせてよ」
「注目の的……って! なんでそんなことを奈美が知ってるの⁈」
「だって噂になってるもん。由依ちゃんが大学内で噂の新入生君と熱い抱擁したって」
「噂の新入生?」
 一晩ぐっすり寝て、すっかり忘れてしまっていた。そうだった。俺、昨日は鷹夜と十三年振りの再会を果たし、その時、鷹夜に思いっきり抱き付いちゃったんだった。
 思い出したら恥ずかしい。しかも、それが噂になってるだなんて更に恥ずかしい。
 それはそうと、噂の新入生って? それって、もしかしなくても鷹夜のこと? 鷹夜って噂の新入生なの? 俺、全然知らなかったけど。
 鷹夜が俺と同じ大学に通っていること自体、昨日初めて知ったくらいなんだから。
「飛鳥井鷹夜君。女の子の間ではキャーキャー騒がれてるよ。彼、背も高くてモデル並みにスタイルいいし。顔もめちゃくちゃ格好いいじゃん」
「あー……」
「結構話し掛けてる女の子いるんだけど、いつも笑顔でやんわり拒まれちゃうのよね。そのつれなさがまたいいって人気でさ。モテるのに全然調子に乗ってないところが好感持てるのよね」
「ふーん……そうなんだ」
 なんだ。鷹夜って女の子からモテるんだ。
 ま、確かにあの長身は格好いいし羨ましい。爽やかな好青年に見える顔は整ってるし、笑った顔なんか可愛いもんね。「モデルです」って言われてもすんなり納得できそうなスタイルだし、そりゃ女の子も騒ぐか。
「その鷹夜君が、大学内で由依ちゃんとハグしたとなると、そりゃ噂にもなるってものよ」
「~……」
 そんなことで噂にならないで欲しい。たかが男同士で再会のハグしたくらいで騒がないでよね。キスしたわけでもないのに。
(キ……キス……)
 キスもしたけども。あの後行った鷹夜の家で。
 でも、あれはキスじゃなくて事故なんだ。たまたま唇同士がぶつかっただけの事故なんだから、俺もいちいち反応しないでよね。
「由依ちゃんと鷹夜君って一体どういうご関係?」
「どういうって聞かれても……ちょっと説明しにくいんだけど」
「何それ。意味深~」
「子供の頃にちょっと……ね」
「幼馴染みってこと?」
「いや……そういうわけでも……」
「何よ。ハッキリしないわね」
「ハッキリさせようがないの」
 昨日のことは俺の失態だし、俺も恥ずかしいと思っている。だから、そのことを話題にされたくもないんだけど……。
 どうやら鷹夜は女の子から注目の的のようだから、昨日のことも噂になってしまい、こうして真相を知りたがる輩も出てくるのかもしれない。
 ほんとにもう。いい迷惑なんですけど。
「由依」
「た、鷹夜⁈」
 噂をすればなんとやら。俺と鷹夜との関係を聞きたがる奈美に困っていると、そこへ問題の鷹夜が爽やかな笑顔で現れたから、俺は思わずギョッとしてしまった。
 どうしてこのタイミングで現れるんだよ。タイミング悪過ぎ。
「おはよ、由依」
「んん……おはよ……」
「ん? どうしたの? 元気ない?」
「いや……そうじゃなくて……」
「?」
 元気云々の問題じゃないんだよ。元気はあるよ。全然元気。
 俺の元気がある、なし、の問題じゃなくて、今まさに鷹夜の話題が出たところに、タイミング悪く鷹夜が現れたから困ってるだけなの。俺は。
「由依ちゃん。ちょっと」
「え……わっ……ちょっと! 何っ⁈」
 俺が鷹夜の前で決まり悪そうにもじもじしていると、奈美がいきなり俺の腕を掴んで、俺を鷹夜から引き離したから、俺は更にびっくりして慌てた。
 鷹夜から充分に距離を取った奈美は
「今日の新歓、鷹夜君連れてきてっ! お願いっ!」
 鷹夜には聞こえない声で、だけど必死な声になって俺に手を合わせてきたりする。
「えぇっ⁈」
 履修登録期間も終わっていないこの時期――今日で終わるけど――は、毎日どこかの部活やサークルの新歓が行われており、奈美はそのほぼ全部に参加している強者だったりする。
 俺が奈美を彼女対象外にした理由の一つがそれである。
 彼女候補との出逢いを求めて新歓に参加している俺が言える立場でもないけれど、奈美の意欲は俺以上。それはもう、獲物を狙う肉食獣のような目で男を見漁る姿が、俺に「無理」と思わせた原因であった。
 そこ以外は問題はなく、友達として付き合うぶんには構わない。奈美自身は至って素直ないい子だし。
 でも、こうして面倒な頼み事をされてしまうと、付き合いもほどほどにした方がいいのかな? と思わなくもない。
 奈美も俺のことは異性として見ていないようではあるけれど、俺の周りの男は狩りの対象になるようだから、鷹夜みたいな上物と付き合っていると、狩りの手伝いをさせられるようだった。
「俺に言うんじゃなくて、直接鷹夜を誘ってよ」
「今までどんな女の子が誘っても全然乗ってくれなかったのよ? 私が誘ったところで、鷹夜君が新歓に参加してくれるわけがないじゃんっ!」
「俺が誘っても一緒だと思うけど? きっと鷹夜はサークルに入る気がないし、興味もないんだよ」
「そこをなんとかっ! 一生のお願いっ! 鷹夜君ってめちゃくちゃタイプなのっ! 是非仲良くなりたいし、できればお付き合いしたいと思ってるくらいなのっ!」
「だから、それは鷹夜に直接……」
「鷹夜君が誰かに声掛けてる姿なんて見たことないもんっ! 由依ちゃんって鷹夜君と仲良しなんでしょ? 鷹夜君を誘える人間がいるとしたら、由依ちゃん以外にいないもんっ!」
「そう言われても……」
 奈美は必死にお願いしてくるけど、今まで誰が誘っても新歓に参加しなかったというのであれば、俺が誘ったところで結果は同じだとしか思えない。
「とにかく……頼んだからねっ!」
「え⁈ ちょっ……奈美っ!」
 俺が首を縦に振らないうちに奈美はそう言い残すと、バタバタと足を鳴らして俺の前から走り去って行った。
「……………………」
 俺に断らせないようにするためか、断る前に言い逃げされてしまった。
 勝手な頼み事だけ押し付けられた俺は、返す言葉も返せなくなってしまい、唖然として奈美の背中を見送ることしかできなかった。
「今の子は?」
「へ? あ……うん。友達なんだけど……」
「ただの友達? 彼女とかじゃないんだ」
「違うよ。奈美は可愛いけどタイプじゃないし」
「ふーん……。可愛いとは思ってるんだ」
 奈美が去った後、少し離れた場所から様子を窺っていた鷹夜が俺のところにやって来たけど、その顔は少し面白くなさそうであった。
 一体何が気に入らなかったんだろう。鷹夜に隠れて内緒話するみたいにしたことが嫌だったのかな?
「で? なんの話してたの?」
「えっとぉ……」
 自分に隠れてコソコソされた会話の内容が気になるのか、鷹夜はちょっとだけ怖い目になって聞いてくるから、俺もついついたじろいでしまった。
 ここで奈美が鷹夜に気があるって話をするのもなぁ……。
「あ、そう! 今日の新歓にね! 一緒に行こうって誘われたの!」
 ナイス俺! こう言えば、その流れで鷹夜を「一緒に行こう」って誘いやすいじゃん。
「新歓? 由依って部活かサークルに入るの?」
「いや……まだ決めてないけど……。楽しそうなところがあるなら入ってみてもいいかなって……」
 ぶっちゃけ、俺は部活やサークルなんかには一切興味がなく、興味があるのは女の子との出逢いだけ。それだけが目的で新歓に参加しているわけだけど……。
 それを鷹夜には言いたくない。言ったらなんか軽蔑されそうだもんね。
「鷹夜も一緒に行かない? 鷹夜って運動神経良さそうじゃん」
「うーん……。俺、部活やサークルに入るつもりはないんだ。そこに時間を使うよりは、バイトしようと思ってるから」
「でも、行くだけ行ってみない? 経験の一つとして」
「だけど、そういう集まりってお酒を飲まされたりとかするんじゃないの? そういうのはちょっと……」
「平気平気。そこはしっかりしてるみたいだよ。新歓はアルコール禁止なんだってさ、うちの大学。先輩達は飲むこともあるけど、新入生に勧めたり飲ませるのは絶対禁止。見つかったら一ヶ月の活動停止とかにもなるらしいから」
「へー。ほんとにちゃんとしてるんだ。ちょっと意外」
「ね? だから一緒に行こうよ」
 結局、奈美の希望通り、鷹夜を誘うことにしている俺だけど、何も奈美の希望を叶えてあげる必要もないと思うんだよね。勝手に頼んで言い逃げしていった相手に対し、そこまでの義理はないと思う。
 でも、頼まれた以上はちょっとくらい力になってあげよう、と思ってしまう、お人好しな俺なのであった。
「まあ……一回くらいなら行ってもいいけど。今回だけにするよ?」
「全然オッケー」
 おっと。まさかのオッケーを貰ってしまった。オッケーを貰ったら貰ったでどうしたらいいの?
 っていうか、一体どこの新歓に参加すればいいんだよ。新歓っていっても、一つだけとは限らないよね? 確か、今日新歓を行う部活やサークルって……。



「まず最初に、新入生諸君。入学おめでとう。そして、我がフットサルサークルの新歓に参加してくれてありがとう。この中から一人でも多くの新入生が、我がフットサルサークルに入ってくれることを願って……乾杯っ!」
 結局、奈美に連絡してどこの新歓に参加するのかを聞いた俺は、鷹夜を連れ、大学の近くにある居酒屋で開催されるフットサルサークルの新歓に参加したわけだけど……。
「飛鳥井君って何かスポーツやってたの?」
「中高ではバスケをやってました」
「それで背が高いんだぁ~。格好いい~」
「はあ……ありがとうございます」
「ねえねえ、彼女とかいるの?」
「いえ……いませんけど」
「もったいな~い! こんなに格好いいのにっ!」
 最初の挨拶と乾杯が終わった途端、鷹夜に群がる女性陣に、俺は呆気に取られて呆然としてしまったものである。
 鷹夜を連れてきて欲しいと俺に頼んできた奈美も
「先輩に捕まっちゃったら声掛けられないじゃない。ここのサークルは無しね」
 開始早々、戦意喪失といった感じ。
 一方――。
「お姉さんと付き合わない? 私、飛鳥井君みたいな子タイプなんだよね」
「お気持ちはありがたいですがご遠慮します」
「やぁ~んっ! つれなぁ~いっ! でも、そういうつれなくてクールなところが逆にいいっ!」
「そ、そうでしょうか?」
 女子先輩達に囲まれてしまった鷹夜もややタジタジで、始終困った苦笑いを浮かべっ放しである。
 こんなにモテてるんだから、ちょっとくらい嬉しそうな顔をすればいいのに。普通、ここまで女の子にチヤホヤされたら、大概の男はしまりのない顔になるものだと思うけど?
「やっぱり鷹夜君ってモテるんだね。鷹夜君と付き合うとなると、敵が多くて大変そう」
「そうみたいだね」
 鷹夜のモテっぷりを目の当たりにしてしまうと、奈美じゃないけど俺も全然楽しむ気になれなくて、無理矢理鷹夜を連れてきておいてなんだけど、既に帰りたい気持ちでいっぱいになった。
 こんなことなら連れてこなきゃ良かった。鷹夜がモテるのは仕方ないにしても、それを間近で見たくはなかった気がする。
「スゲー人気だな、あの一年。お前らの友達?」
 最早出逢いに期待する気持ちもなくなった俺と奈美が、二人並んで黙々と料理に箸を進めていると、それを見つけた先輩が声を掛けてくれた。
「この子の友達です」
 唐揚げで口がいっぱいな俺に代わりに奈美が答える。その奈美は、さっきからつまらなさそうな顔で軟骨の唐揚げをお菓子のように口に運んでいた。
「ふーん。随分凸凹コンビなんだな。お前、身長いくつ?」
 ムッ……初対面で失礼な人だな。そりゃ、俺は鷹夜に比べたらだいぶ背が低いけど、そこをいきなり突っ込んでこないでよね。俺だって気にしてるのに。
「163センチですけど」
 ただでさえ面白くないところに、更に面白くない話題を振られた俺がブスッとして答えると
「ちっせーな。成長期がこなかったのか?」
 先輩はおかしそうに笑い、俺の機嫌はますます悪くなった。
 ここのサークルだけは絶対に入らない。この人に悪気はないんだろうけど、いくらなんでも失礼過ぎる。
「でもま、お前可愛い顔してっから、ちっせーくらいがちょうどいいのかもな。その顔でデカくても変だし」
「~……」
 重ね重ね失礼だ。俺の顔と背が低いのは関係ないじゃん。それに、男に向かって“可愛い”って言葉を遣うこと自体が失礼だよ。なんか物凄く子供扱いされてる気分。
「ですよね~。由依ちゃんって可愛いですよね~」
 “小さい”だの“可愛い”だの言われてすっかり機嫌を損ねてしまった俺の隣りで、退屈していた奈美が先輩の言葉に乗っかった。
 どうやら俺は新歓運がないらしい。なかなかいい子にも出逢えないし。もう新歓参加するのやめようかな。
「由依ちゃん? 名前も女みてーなんだな。もしかして女だった? だったら悪い。男かと思っちまって」
「男ですっ!」
「ははは。やっぱそうか。いやな、どっちかな~、とは思ったんだけどさ」
「なんでそこで迷うんですかっ! どっからどう見ても男でしょっ!」
「いやいや。微妙なところだぜ? 服装で辛うじてわかったって感じ」
「失礼っ! 失礼だと思うんですけどっ!」
「まあまあ、そんな怒るなよ。友達がモテモテで面白くないのはわかるけどさ」
「そんなんじゃないですっ!」
 もう最悪。今まで参加した中で一番最悪な新歓だよ。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないの? 納得がいかないんだけど。
 先輩と一緒になって笑う奈美にもイラついた俺は、手元のコップと乱暴に掴むと、グラスの中身を一気にグイっと喉に流し込んだ。
「おい待てっ! それ……」
「え?」
 俺が乾杯をした時に持っていたグラスだと思って飲んだ飲み物は、さっきまで俺が飲んでいたコーラとはちょっと違う味がして……。慌てて俺を止めた先輩にきょとんとなった次の瞬間、口の中に甘苦い味が広がった。
「うぇ……なんか変な味……」
「馬鹿っ! そりゃ俺が飲んでたコークハイだっつーのっ!」
「コークハイ? ってことは……お酒?」
「そうだよっ! 大丈夫か? 気持ち悪くなってないか?」
「別になんとも……。口の中が変な味で支配されてますけど」
「とりあえず水飲んどけ。ほら」
「はい」
 初対面から俺に嫌なことばっかり言ってきた先輩だけど、根は優しくていい人みたいだ。俺の手からコークハイの入ったグラスを取り上げると、代わりに水の入ったグラスを渡してきた。
 俺は受け取った水を素直に飲むと、口の中の変な味も薄れていってくれた。
 思いがけずに人生初飲酒をしてしまったけど、飲もうと思って飲んだわけじゃないからしょうがないよね。
 大体、コーラとコークハイじゃ見分けなんてつかないんだから、先輩もそんなところにお酒なんか置かないで欲しい。これで俺が未成年飲酒で捕まったらどうしてくれるの?
 もちろん、そうなったらお店側にも迷惑が掛かって、この新歓自体が大問題になっちゃうけど。
「ったく。ちゃんと確認してから飲めよ。一年に飲ませたってなると俺達の責任にもなるんだからな」
「すみません」
 俺だけが悪いわけじゃないのに怒られた。もし、一年生に飲ませたと知られれば、一ヶ月の活動停止を言い渡されるから仕方ないのかもしれない。先輩は別に俺に「飲め」って勧めたわけじゃないもんね。
 それにしても、お酒って全然美味しくないな。俺、成人してもあんまりお酒を飲みたいとは思わないかも。
「んで? お前の友達とはどういう関係? 同じ高校出身か?」
「違います」
「んじゃ中学? それとも、小学校の頃の同級生か?」
「鷹夜とは同じ学校だったことは一度もありません」
「おん? じゃあ大学に入ってから仲良くなったのか?」
 どうして鷹夜との関係を聞かれるのかがよくわからないけど、この中で一番目立ってしまっている鷹夜のことが気になるのかもしれない。
 鷹夜って男女関係なく、興味をそそられる存在なんだろうか。
「大学で鷹夜と会ったのは昨日です。でもまあ、これから仲良くするつもりだから、大学に入ってから仲良くなった、が一番近いのかなぁ?」
「なんだそりゃ。よくわかんねー言い方するな」
 鷹夜との関係を説明しろと言われると、どう説明していいのかがわからない。子供の頃に旅行先で一週間だけ一緒に過ごした相手のことを、どうやって説明したらいいんだろう。
 幼馴染みとは呼べないし、友達と呼ぶには付き合いが短過ぎる。まさか、“旅行先で出逢った初恋の相手”だなんて説明もできないしで、俺の返事はどうしても曖昧なものになってしまう。
「それ、私も聞いたんですけど、由依ちゃんの答えがいまいちよくわからないんですよね。由依ちゃん。もうちょっとわかりやすく説明してよ」
「えー……」
 今朝。俺に鷹夜との関係を聞いてきた奈美も、そこはずっと気になっているのか、ここぞとばかりに追及してきた。
 いつの間にか、三人で顔を突き合わせる形になっている俺、奈美、先輩に、俺は渋々鷹夜との出逢いを話すことにした。
 もちろん、都合の悪い部分はカットして。
「じゃあ、鷹夜君とは五歳の時に会ったきりだったんだ」
「うん」
「それが大学で再会だなんて、運命的だな。これが男女の話なら、間違いなく恋に発展するくらいに夢があるじゃん」
「そう……なのかなぁ?」
 俺が二人に話した内容は、俺と鷹夜の出逢いは五歳の時で、場所はたまたま一緒になった旅行先であること。その時、鷹夜とは毎日一緒に遊ぶほどに仲良くなったこと──くらい。
 鷹夜が俺のファーストキスを奪ったこととか、いつか必ず俺に会いに行く、って鷹夜が約束してくれたことまでは言わなかった。そんな話をしたら、面白おかしく冷やかされるに決まってるんだから。
 あの時の思い出は、俺の中で忘れてしまいたいと思うと同時に、俺にとっては忘れたくても忘れられない大事な思い出でもあるから、他の人間に知られたくないって思ってしまう。
 恭一は知っているけど、そこは例外。俺は鷹夜との大事な思い出を、恭一以外の人間に話すつもりはない。
「なるほどね。ひと夏を一緒に過ごした相手と十三年振りに再会したら、驚きと喜びでハグもしちゃうよね」
「あ、あれは……自分でも意外だったし恥ずかしいからもう言わないでよ」
「ああ。昨日中庭で熱い抱擁をしたってのはお前らのことだったんだ。誰がそんなバカップルみたいなことしたのかと思ってたんだよな」
「~……」
 なんでここにまで知れ渡ってるんだよ。そんなに噂になるようなこと?
 そんな噂が広まるなんて、他によっぽど話題がなかったんだろうな。
「でもま、良かったじゃん。昔の友達と再会できて。お前も会いたかったんだろ?」
「多分……」
「おいおい。冷たい奴だな。そこは“うん”だろ」
「う……うん……」
 鷹夜と出逢った旅行の話をすると、嫌でも鷹夜に奪われたファーストキスを思い出してしまう。おまけに、昨日はちょっとした事故のせいで、鷹夜と二回目のキスをしてしまった俺は、なんだか急に恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
「ん? お前、顔赤いけど大丈夫か? もしかして、アルコールが回ってきた?」
「へ?」
 俺は特に変化があったように感じなかったんだけど、言われてみればなんだか頭がぼーっとするし、身体もちょっと熱いかも。
「ヤベーな。一年が酔っ払ってるの見られたら不味い。ちょっと外出るか? 夜風に当たったら酔いも覚めるかもしれないし」
「そうします」
 先輩に促された俺は、俺を外に連れ出そうとする先輩について行こうとしたんだけど、立ち上がる際に足が縺れてよろめいてしまった。
「っと……気を付けろよ」
「うん……」
 倒れそうになった俺の腕を掴み、そのまま俺を支えて外に連れていく先輩の姿を、各自盛り上がっている面々は気にしていない様子だった。
「気分はどうだ? 吐きそうになってないか?」
「それはないです。頭がぽぉーってします」
「他は?」
「身体がちょっと怠くて熱いです」
「他は?」
「他……眠い……かな?」
 店の外にはちょうど椅子が並べてあったから、先輩は俺をそこに座らせ、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
 最初は失礼で嫌な人かと思ったけど、やっぱりこの人いい人だ。
「家ってどの辺? 送ってってやろうか?」
「えっと……でも、鷹夜が……」
 こんな状態の俺を、これ以上新歓に参加させるわけにはいかないと判断したのか、先輩は俺を家まで送ってくれようとした。が、無理矢理鷹夜を誘った俺としては、鷹夜を置いて帰るわけにもいかなくて……。
 帰るにしても、鷹夜には一言伝えてから帰りたい。
「あいつには俺が伝えといてやるよ。お前の荷物取ってくるからちょっと待ってろ」
「だったら俺も一緒に……」
 先輩は鷹夜に伝えてくれるって言ったけど、俺は鷹夜に自分の口で伝えたい。再び店内に戻ろうとする先輩の後を追おうとした俺は、椅子から立ち上がった瞬間に身体のバランスを思いっきり崩してしまい……。
「危ねっ……」
 すかさず俺に駆け寄った先輩の腕の中に倒れ込んでしまった。
「おとなしく座ってろって。足元ふらついてんだから」
「でも……」
「でも、じゃねーよ。世話焼かせるなって」
「はい……」
 まるで子供をあやすような先輩にしょんぼりして頷くと、先輩の手が俺の頭をよしよしって撫でてきた。その時である。
「由依っ!」
 店の中から鷹夜が飛び出してきて、先輩の腕の中からサッと俺を奪い取った。
「どうしたの? 由依。大丈夫?」
「鷹夜……俺、ちょっと酔っ払っちゃったみたいで……」
「酔っ払った?」
 俺の赤くなった顔ととろんとした目に、鷹夜は怖い顔になって先輩を睨み付けた。
「新入生にアルコールの提供はご法度なのでは?」
「違う違う。俺が飲ませたんじゃねーよ。こいつが間違えて勝手に飲んだんだ」
「え……そうなの? 由依」
「うん。俺が間違えたの」
「……………………」
 正直、口を開くのも億劫に感じてきた俺だけど、俺を介抱してくれた先輩が疑われるのは申し訳ないから、そこはちゃんと誤解を解いてあげた。
 コーラを飲んでる俺のところに、コークハイを持ってやって来た先輩は不注意だったのかもしれないけど、よく確認せずに飲んだ俺も悪かったからお互い様だ。
「すみません。俺はてっきり由依が無理矢理飲まされたのかと……」
「んなことしねーって。大体、男酔わせても面白くもなんともねーだろが」
「そう……ですか……」
 身の潔白を証明したいのかもしれないけど、その言い方はどうなんだろう。男じゃなくて女の子なら、酔わせて楽しもうって心積もりがあるってこと? それはそれで最低なんだけど。
「酔っ払ったまま新歓に参加させるわけにもいかないから、こいつの家まで送ってやろうと思ったんだけど。お前が送った方がいいなら任せるぜ?」
「俺が送ります」
「そうしてもらえると助かる。荷物持ってきてやるから待ってろ」
「ありがとうございます」
 結局、酔って足元が覚束ない俺は鷹夜に送ってもらうことになったんだけど。鷹夜って俺の家知ってたっけ?
「すみません。ご迷惑をお掛けして」
「いいって。こういうハプニングは今までなかったわけじゃねーし。あんま飲んではいないから、そのうち酔いも覚めると思うけど。なんかあったら連絡してくれ。これ、俺の番号な」
「何から何まですみません」
「んじゃ、こいつのことよろしくな。噂の新入生君」
「はい」
 鷹夜に身体を預けた俺は、ぼんやりした頭で二人のやり取りを聞いていた。
 鷹夜って先輩達の間でも噂になるくらいに有名なんだ。それなら、新歓で女の先輩に囲まれちゃうのも当然なのかな。
「帰るよ、由依。歩ける?」
「んー……大丈夫……」
「無理だったらおんぶしてあげるから。遠慮なく言って」
「じゃあおんぶ」
「はいはい」
 鷹夜は二人分の荷物に腕を通し、そのうえ俺をおんぶして歩きだした。
 背が高いと体力もそれだけあるんだろうか。
「とりあえず、俺の家に連れて帰るけどいいよね?」
「うん」
 昨日鷹夜と再会し、鷹夜の家にお邪魔したばかりだというのに、今日も鷹夜の家にお邪魔することになってしまった俺だった。
 なんか俺、せっかく鷹夜と十三年振りに再会したのに、いいとこなしって感じ。
 頼りなくてだらしない俺に、鷹夜がガッカリしちゃったらどうしよう。
 それはちょっと嫌だなぁ……。



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