美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
29 / 131
トリの柔らか煮込み

トリの柔らか煮込み

しおりを挟む
 過ごしやすかった春が過ぎ、太陽が照りつける季節がやってきた。

 ボリスは約束通り春中大工仕事に明け暮れて、村を後にした。アリシャはこのままボリスが居付くのではないかと思っていたので、少しばかり寂しく感じていた。気障なところを除けば一緒にいるのが楽しい人だった。

 村を去る前にボリスとドクを中心にエドも手伝いアリシャの部屋を作り上げてくれた。流石に時間のかかる石造りとはいかなかったが石灰石を混ぜ込んだ漆喰は、十分に素晴らしい出来だった。

「部屋の住心地はどうだい? アリシャ」

 ドクは農作業の合間に料理部屋にやってきて声をかけてきた。

「ええ、凄くいいです。白い壁だとそれだけで明るく感じますね。ありがとうございました」

 実際、塔の家から移りたくないと思っていたはずなのに、今の部屋は住心地が良すぎてまるで王族のようだと思っていた。

「ひび割れを見つけたら言ってくれよな。塗り直せば大丈夫だから」

「はい。お願いします」

 麦わら帽子を取り、胸に抱えたドクは頭を掻く。

「ジャンのも比較的傷みの少ない家を選んだからそんなには時間はかからんはずだが、なんせエドにやらしてるだろ? あれは大工仕事は好きじゃないから想像以上に進まんな」

 今はエドだけで家の修繕を行っている。ジャンはまだ療養中で動けないし、この村には鉄を打つ工場こうばもまだない。よってまだウィンも農作業を手伝っているが、工場を作る為の石を掘り出したりして農作業は片手間になっている。だからドクは急ぎではない家作りはエドに任せることにし、農作業に復帰したのだった。

「宿屋にリアナ達が寝泊まりしてくれると、なんとなく私は安心できます」 

 そうなんだがな。と、ドクはまた頭を掻いた。

「泊まりたいという人が来たら困るしな。せっかくの現金収入のチャンスだろ? 出来れば早いところ移ってもらうに越したことない。それにジャンには階段がキツイだろうしな」

 それはそうですねと返しながら、ジャンの姿を思い出していた。足を引きずっては居るが一人で歩けるようになり、先日はアリシャの馬であるスリに蹄鉄をつけてくれた。蹄鉄以外に鉄はないが傷んだ道具の修理をしてくれたりして動けないなりに働き始めている。

「家は早くやっちまわないとなぁ。エドもそろそろ我慢の限界が近そうだし」

「我慢の限界?」

「ずっと狩りに行けてないだろ? それが不満で不満で仕方ないんだよ」

 ボリスが村を後にし自分の家に戻るとなったとき、エドは見送りに行くと譲らなかった。しっかり弓を担いでいたのだから目的は狩りだったことは誰の目にも明らかだ。それなのにちょっとそこまでついて行くだけだと言い張り、最終的にはレオにやるべきことをやりなさいと諭されて不貞腐れていた。

「最近、元気もないですもんね」

 口は悪いが何も話さないエドはちょっと物足らない。会うたびにイラッとさせられても、元気なエドの方がアリシャは良かった。

 そんな話をしていたから、エドが狩りに行くことになったと聞いても驚かなかった。まだジャンの家はおわってないがそろそろ大工仕事がしたいから代われとドクに言われたらしい。

「んでさ、レオさんは狩りに行くのにアリシャを連れてけって言うんだよ」

 戸口に現れて干し肉を噛りながらエドは不満そうに言う。足元にはちゃっかりお座りをしてエドの干し肉を見上げているアリシャの愛犬ココ。

「え? 私を? 狩りなんてしたことないわ」

「狩りはしなくていい。ここらの地理を少し覚えたほうがいいだろうってさ。だから俺には遠くに行くなって」

 今日もエドは口の中で干し肉を噛み、柔らかくしてからココに与えていた。もう大きいから柔らかくしてあげなくてもいいんじゃないの? と聞いたら、犬にはしょっぱ過ぎるからということだった。

「元から遠出なんてするつもりなかったのになぁ。俺だけじゃ大物は狙えないし」

「私もを連れて行くのが不満なのね?」

 言葉の端々から伝わってくる不満を、ウィンならばなんとか誤魔化してそんなことないと言うだろう。しかし相手はエドだ。

「まあな。気が散るじゃん」

 連れて行きたくないことを全く隠しもしない。

 フンッと鼻を鳴らして腰に手をやる。

「邪魔なんてしないわ。空気のように存在を消しておきますからお気遣いなく!」

 アリシャが不機嫌に返してもエドはまるで気にしない。

「そうしてくれ」

 でも、狩りをしないとなるとアリシャは何をして待っていればいいのだろうか。ただ黙ってエドを眺めているだなんて時間の無駄使いだ。

「地理を覚えるだけの為に行くのは無駄よね?」

「ああ、ベリーの茂みがあるからずっと採ってりゃいいさ」

「えー、でも持てるだけしか摘めないわ」

 エドは残りの干し肉を口の中に押し込んで「スリがいるじゃねぇか」とモグモグする。

「え! スリ? 連れて行っていいの?」

「ああ。だからちょっと離れたところにいろよな。あと、ココは置いていけよ。コイツにはまだ早い」

「ココは置いていくわ。ねぇ、いつ行くの? いつ? パンを多めに焼いとかなきゃ」

 急激に機嫌を直してソワソワしだすと、エドが呆れ顔で「明日だな」と答えて、用意しとけと言い残すと出ていった。

 一緒に逃げて来た栗毛色の馬スリはアリシャの財産であり恩人でもあった。優しい目をしたスリはアリシャの姿を認めると耳をパタパタ揺らして挨拶してくれる。スリに跨がるのは久しぶりだ。艷やかな身体はいつでも温かくて幸せな気持ちにしてくれる。

「ココはお留守番よ。キティに負けない働きをして皆を驚かせてね」

 頭を撫でてやるとココの目は輝くのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

処理中です...