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熱々干しぶどうとリンゴのパイ
熱々干しぶどうとリンゴのパイ5
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シーツを取ってきてレオに託すと、レオは代わりに木べらをアリシャに渡した。美味しそうだと一言呟きながら出ていった。
(パンは多めに作ってあるから、おかずを考えなきゃ。とはいえ、リンゴが売るほどあるのだからこれを活用しない手はないわね)
リンゴと玉ねぎ、それに生姜とニンニク、全部おろして塩で味を整えると甘じょっぱい香り豊かなソースが出来上がる。これを肉に合わせて焼くと、得も言われぬ極上の料理が出来上がるのだ。夕飯はそれに決めた。幸い、先日牛を一頭処理したばかりで新鮮な肉が食料庫にあった。
(だから……二個目の鍋のに玉ねぎ達を追加して煮込んだらいいんだわ。残ったらリリーさんのお店に置いてもらおう)
玉ねぎやニンニク、生姜は料理によく使う食材なので、料理部屋の片隅にストックしてある。これなら肉だけ取りに行けば済む。
決まったら即、行動に移す。でないと、その後にまだリンゴを処理しなければならないのに手が回らなくなってしまうのだ。
この村で料理を任されて半年以上。アリシャの料理の腕も少なからず上達したが、それよりも料理の段取りは格段に上がったはずだ。必要にせまられて成長したのだが、アリシャは段々この工程を楽しむようになっていた。
(いかに段取り良く出来るかが収入に直結するんですもの)
買い取ったリンゴと洋ナシを半分ほど処理したところで、今日は時間切れとなった。残りは広間に置いておき、明日やることにした。
アリシャはずっと刃物を使っていたので、布団に入ってから手首をぐるぐる回していた。あまりに同じ動きばかりしていると痛むのだ。
「あ、ちょっと! ココってば遊んでいるわけじゃないから、戯れないで」
布団が手の動きでモゾモゾ動くのでココが興味を示し、布団の上からじゃれついてきた。尻尾を振って様子を窺っては飛びついたり、飛び退いたり。爪を立てるものだから布団カバーがダメになりそうで手首を回すのを諦めた。
「大人しく寝てちょうだい。今夜はお客様も居るんだし」
ココは言葉を理解したのかため息をついて遊ぶのを諦め、くるりと丸くなってアリシャの横で寝る体勢をつくった。聞き分けの良いココを撫でてからアリシャは目を閉じた。
(今日のお客様……これまで来た人達とは雰囲気が違ったなぁ)
旅用の装束を身に着けているのは他の人と同じなのだが、どれ一つとっても仕立てが良いのは一目でわかる。特に主人と思しき男性の食事用のナイフは見たこともないほど豪華な品物だった。たかだか食事用なのに、柄に彫刻も施されていた。そのナイフを収める革のカバーも焼印で飾りが入っていた。
(レオさんとドクさんも主従関係だったみたいだけど、なんだか二人とは違うのよね。もっとピリッとしているというか……)
他の人と比べるといってもそもそもアリシャは生まれ育った村とその近くの比較的大きな村くらいしか知らなかった。よって上位階級の人に出会うことも少なかった。
(このあたりの村々もあまり大きくないし、前のところと似たような素朴さがあるのよね。旅人だって、そう。個室が使われることが少ないことをとっても……ね)
だから、今夜の客はアリシャにとって貴重なケースだった。気難しい人ではなかったが近寄り難い空気があった。
(それにしても、どんな用事でここまで来たのかしら? 疲れを癒やすために二日かそれ以上泊まると言っていたけど)
客のことが気になるが、段々と瞼が重くなってきた。明日もリンゴと洋ナシと格闘せねばならないし、それ以降はぶどうの収穫もすると聞いた。
(ぶどう……干しぶどう……。エドは暖炉作りだから私は宿屋に居たいかも──)
その後の事は夢の中。
翌朝目が覚めたアリシャは何も覚えていなかった。ただ、なぜか夢の中にエドが出てきて、ぶどうをせっせと摘んでいた。アリシャはエドの横で同じようにぶどうを摘みながらチラチラとエドを盗み見ている変な夢だった。エドはどうしてこちらを見てくれないのだろうとずっと思っていた自分に、変な恥ずかしさを感じて慌てて顔を洗いに行ったのだった。
アリシャが顔を洗いに井戸に行くと、そこでウィンに出くわした。いや、出くわしたと思ったがどうやらウィンはアリシャを待っていたようだった。
「やぁ、おはよう。君に……お願いがあるんだ」
「おはよう、ウィン。なにかしら?」
ウィンはアリシャに向けていた視線を地面に落として、はにかんでみせた。
「うん。僕は……アヴリルにプロポーズしたんだ」
「ええ!?」
驚いて申し訳ないが、露骨にビックリしてしまった。だって、アヴリルはウィンよりかなり年上なのだから。男性は自分より年の若い女性と結婚するのが常なのだ。しかも十近く年下などもザラ。それなのに、アヴリルは逆に年上で、違う男性の子を身籠っている。
「驚きすぎだよ、アリシャ」
「驚くわよ! だって、ほら……ほら」
「アヴリルには手を貸してくれる男が必要だろ? それに僕は早く結婚したかった。あ、それだけじゃないよ? アヴリルは美しい人だし話していてとても楽しいんだ」
「うん……そうね。そうかもしれないけど、驚いてしまうわ」
正直だね。と、ウィンが苦笑した。アリシャもここにきて正直に驚きすぎたとウィンを上目使いで見上げた。ウィンはこれまで見た中で一番輝いて見えたし、結果は聞くまでもない。きっと答えはイエスだったのだろう。アヴリルからしたら、嬉しい誤算だっただろうと簡単に予想できるのだから。
(パンは多めに作ってあるから、おかずを考えなきゃ。とはいえ、リンゴが売るほどあるのだからこれを活用しない手はないわね)
リンゴと玉ねぎ、それに生姜とニンニク、全部おろして塩で味を整えると甘じょっぱい香り豊かなソースが出来上がる。これを肉に合わせて焼くと、得も言われぬ極上の料理が出来上がるのだ。夕飯はそれに決めた。幸い、先日牛を一頭処理したばかりで新鮮な肉が食料庫にあった。
(だから……二個目の鍋のに玉ねぎ達を追加して煮込んだらいいんだわ。残ったらリリーさんのお店に置いてもらおう)
玉ねぎやニンニク、生姜は料理によく使う食材なので、料理部屋の片隅にストックしてある。これなら肉だけ取りに行けば済む。
決まったら即、行動に移す。でないと、その後にまだリンゴを処理しなければならないのに手が回らなくなってしまうのだ。
この村で料理を任されて半年以上。アリシャの料理の腕も少なからず上達したが、それよりも料理の段取りは格段に上がったはずだ。必要にせまられて成長したのだが、アリシャは段々この工程を楽しむようになっていた。
(いかに段取り良く出来るかが収入に直結するんですもの)
買い取ったリンゴと洋ナシを半分ほど処理したところで、今日は時間切れとなった。残りは広間に置いておき、明日やることにした。
アリシャはずっと刃物を使っていたので、布団に入ってから手首をぐるぐる回していた。あまりに同じ動きばかりしていると痛むのだ。
「あ、ちょっと! ココってば遊んでいるわけじゃないから、戯れないで」
布団が手の動きでモゾモゾ動くのでココが興味を示し、布団の上からじゃれついてきた。尻尾を振って様子を窺っては飛びついたり、飛び退いたり。爪を立てるものだから布団カバーがダメになりそうで手首を回すのを諦めた。
「大人しく寝てちょうだい。今夜はお客様も居るんだし」
ココは言葉を理解したのかため息をついて遊ぶのを諦め、くるりと丸くなってアリシャの横で寝る体勢をつくった。聞き分けの良いココを撫でてからアリシャは目を閉じた。
(今日のお客様……これまで来た人達とは雰囲気が違ったなぁ)
旅用の装束を身に着けているのは他の人と同じなのだが、どれ一つとっても仕立てが良いのは一目でわかる。特に主人と思しき男性の食事用のナイフは見たこともないほど豪華な品物だった。たかだか食事用なのに、柄に彫刻も施されていた。そのナイフを収める革のカバーも焼印で飾りが入っていた。
(レオさんとドクさんも主従関係だったみたいだけど、なんだか二人とは違うのよね。もっとピリッとしているというか……)
他の人と比べるといってもそもそもアリシャは生まれ育った村とその近くの比較的大きな村くらいしか知らなかった。よって上位階級の人に出会うことも少なかった。
(このあたりの村々もあまり大きくないし、前のところと似たような素朴さがあるのよね。旅人だって、そう。個室が使われることが少ないことをとっても……ね)
だから、今夜の客はアリシャにとって貴重なケースだった。気難しい人ではなかったが近寄り難い空気があった。
(それにしても、どんな用事でここまで来たのかしら? 疲れを癒やすために二日かそれ以上泊まると言っていたけど)
客のことが気になるが、段々と瞼が重くなってきた。明日もリンゴと洋ナシと格闘せねばならないし、それ以降はぶどうの収穫もすると聞いた。
(ぶどう……干しぶどう……。エドは暖炉作りだから私は宿屋に居たいかも──)
その後の事は夢の中。
翌朝目が覚めたアリシャは何も覚えていなかった。ただ、なぜか夢の中にエドが出てきて、ぶどうをせっせと摘んでいた。アリシャはエドの横で同じようにぶどうを摘みながらチラチラとエドを盗み見ている変な夢だった。エドはどうしてこちらを見てくれないのだろうとずっと思っていた自分に、変な恥ずかしさを感じて慌てて顔を洗いに行ったのだった。
アリシャが顔を洗いに井戸に行くと、そこでウィンに出くわした。いや、出くわしたと思ったがどうやらウィンはアリシャを待っていたようだった。
「やぁ、おはよう。君に……お願いがあるんだ」
「おはよう、ウィン。なにかしら?」
ウィンはアリシャに向けていた視線を地面に落として、はにかんでみせた。
「うん。僕は……アヴリルにプロポーズしたんだ」
「ええ!?」
驚いて申し訳ないが、露骨にビックリしてしまった。だって、アヴリルはウィンよりかなり年上なのだから。男性は自分より年の若い女性と結婚するのが常なのだ。しかも十近く年下などもザラ。それなのに、アヴリルは逆に年上で、違う男性の子を身籠っている。
「驚きすぎだよ、アリシャ」
「驚くわよ! だって、ほら……ほら」
「アヴリルには手を貸してくれる男が必要だろ? それに僕は早く結婚したかった。あ、それだけじゃないよ? アヴリルは美しい人だし話していてとても楽しいんだ」
「うん……そうね。そうかもしれないけど、驚いてしまうわ」
正直だね。と、ウィンが苦笑した。アリシャもここにきて正直に驚きすぎたとウィンを上目使いで見上げた。ウィンはこれまで見た中で一番輝いて見えたし、結果は聞くまでもない。きっと答えはイエスだったのだろう。アヴリルからしたら、嬉しい誤算だっただろうと簡単に予想できるのだから。
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