美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
65 / 131
熱々干しぶどうとリンゴのパイ

熱々干しぶどうとリンゴのパイ7

しおりを挟む
 レゼナは大喜びでボリス相手に話を続けていたが、アリシャはなんとなく気持ちが落ちていくのを止められなかった。

(またエドに誤解されたかもしれないわ……私はボリスのことを好きではないのになぁ。それにウィンの結婚より、エドが自分のせいでウィンが結婚するのを焦ったという話ばかりが頭の中をぐるぐるしているのに)

 忙しいからと断って、レゼナのお喋りに付き合わずに料理をすることを選んで場から離れた。

 こんな時は料理に没頭した方がいい。答えの出ない疑問を悶々と考えるのは無意味だ。それでも考えてしまうのだから、頭を空っぽにしてひたすら時間が経つのを待ったほうがいいはず。

 大量に切ったリンゴを炒め始めると白い湯気が上がり、幸福な香りに包まれた。バターの香りにシナモンを加えると格段に上等な匂いに変化する。てんさい糖とリンゴの果汁が混ざり合いながら焦げる匂いも最高だ。

 中身を作り終えるとパイ生地を捏ねて寝かせ、豚肉の燻製を取りに食料庫に向かった。

 途中、家畜小屋で見慣れぬ馬を見て、宿泊客の馬だと気が付き足を止めた。客は朝食を食べてから用事をたしに出掛けたはずだったので、馬が残っていたのは意外だった。

(キレイな馬)

 アリシャのスリだって若いしキレイなのだが、客の馬は何かが違う。しげしげと眺めているとその違いに気がついた。

(脚が細いんだわ。まるで貴婦人のように)

 アリシャはこのような馬を初めて見た。しかし噂では聞いたことがあった。

「金持ちの乗る馬は荷物を運んだり労働する為のものじゃない。早く走る為のものだ」

 誰だったか、アリシャにそう教えてくれたのは。隣の村の鍛冶屋だったような、旅の行商人だったか、記憶が混同していてハッキリは思い出せなかった。

(こんな馬に乗ってきたのね。やはり、ただの旅人とは違うのかもしれない)

 いつだったか、あまり栄えてくると近くの領主に目をつけられるかもしれないとドクが話していた。ここは領主がいないからこそ、皆自由に生活できているし、金の心配もせずに済んでいる。

(このまま平穏な日々が送れるといいな。領主様が立派な方なら、どこかの国に属していても税金に苦しめられることがないらしいし、それならレオさんが領主様になってくれたらいいのかも)

 アリシャは首を振り、食料庫の中へと入っていった。今はまだその段階まで来ていないだろうし、先の事はアリシャよりレオやドク達のほうが考えているだろう。

 食料庫の一番太い梁に豚の燻製肉が何個か吊るしてあるのを見上げると、壁に立て掛けてある脚立を取ってきた。脚立を組み立て上り始めると、視界の端でユラユラと揺れるものを感じてそちらに目を向ける。

「あら、キティ! えっと、ここのお肉を貰うわね」

 食料庫の守りを一手に担っている猫のキティが目を光らせていた。おまけに尻尾を振っていて、あまり機嫌が良くなさそうなのでアリシャは身振り手振りで肉が欲しいことをアピールしてみた。

「大丈夫よ、ちゃんと許可は得ているから。だから……飛びつかないでね? お願いよ」

 言葉を理解したようにキティがプイッと横を向いたので、アリシャは恐る恐る燻製を吊るしてあるロープを解きだした。キティの横顔は見て見ぬ振りをするという合図だ。時々そうやって見張りながらも荷を出すのを許してくれるのだ。

「キティ。たまには宿屋に遊びに来たらどう? 時々なら肉や魚をお裾分けするわよ?」

 アリシャが話し掛けている間中、キティの尻尾は揺れていた。それでもアリシャの方に顔を向けない天の邪鬼っぷりだ。

「寒い日は炉の近くに来て暖をとったらいいのに」

 食料庫以外寄り付かないキティは、宿屋になんて顔を出したこともない。仲良くしたいのはどうやらアリシャの方だけらしい。

「最近ココ用のカゴを作っているの。一緒に寝るのは暖かいけど、ベッドが狭くてね。それでね、キティのも編むって言ったら来てくれる?」

 返事はしてくれないがアリシャはキティのも編んでみることに決めた。キティが来なかったら違う用途に使えばいいのだ、無駄になることはない。

 重い燻製肉を両手で持ってヨロヨロと食料庫から出ていくと、宿屋の客がそこに居たので挨拶する。

「あ、こんにちは。従者の方とは別行動ですか?」

 三十代、いや二十代だろうか。落ち着いた面持ちの男性は口角を上げてみせた。それは愛想笑いだと一目でわかるが、嫌な感じでもなかった。それにしてもガッシリとした胸板だ。エドに似ている。この人も弓を扱う人なのかもしれない。

「ああ、ちょっと買い物に行ってもらったんだ。君は宿屋の子だね。名は?」

「アリシャです」

 どちらかというと鋭い視線の持ち主なのに、話し方は穏やかだった。黒髪は長く、緩く結って片方の肩から下がっている。

「私はイザクだ。この村はいい。時々寄らせてもらうよ」

 村を褒められれば無条件に嬉しい。アリシャは喜びを隠せずに返事をする。

「はい! お待ちしております」

 元気に答えて、動き出そうとした。話すのは構わないのだが、手に持っている燻製肉がどうにも重くて、このままでは肩が抜けてしまいそうだった。

「あ、待ってくれ。ちょっと聞きたいことがある」

 呼び止められるとは思っていなかった。困ったアリシャは「あの、荷物を置いてからではダメですか?」と、無遠慮に言ってしまった。何かを配慮する余裕などなかったのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

処理中です...