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熱々干しぶどうとリンゴのパイ
熱々干しぶどうとリンゴのパイ9
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固まったアリシャに代わり、エドが口を開きかけた時「アリシャ!」と、戸口から元気一杯にアヴリルが入ってきた。
「あ……ら? お取り込み中だったかしら?」
アリシャは自分の手がまだエドのシャツを掴んでいるのに気が付いて、慌てて離して手を背に隠した。
「いえ、全然!」
一人あたふたするアリシャとは打って変わってエドは冷静そのものだった。アヴリルに近寄るとハグをし「結婚おめでとう。ウィンはイイ奴だよ」と結婚を祝い、部屋から出ていった。
「あーっと、絶対タイミングを間違えたわね。アリシャ、ごめんなさいね」
アヴリルはエドの背を見送った後、申し訳無さそうにアリシャに近づいてきた。
「タイミング? ……ほんと、なんにもないので」
必死に誤魔化そうとしたアリシャだが、アヴリルはアリシャの鼻の頭をツンと弾いて笑った。
「こんな真っ赤でなんともないの? アリシャってば嘘をつくのが下手だわ」
そこがまた可愛いのよねと付け足した。そうだっだとアリシャは自分の頬を両手で覆った。顔が赤くなっていて全てお見通しだろう。
「エドはホント格好いいわよね。私には若すぎるけど……ウィンだって若すぎるのに──」
「あ! ごめんなさい。まだ直接言ってなかった。ご結婚おめでとうございます。ウィンからパイを作って欲しいって言われてて……ああ! これナイショだったかしら?」
「パイのこと? いいえ、二人で決めたことよ」
アリシャの慌てっぷりにアヴリルはますます微笑んで否定した。そう言われるとウィンも二人で相談して決めたと言っていた。
ハグさせて欲しいと願い出たら心地良く受け入れてくれて、二人はギュッと互いを抱きしめ合った。
「ああ、アヴリル! ウィンはここに流れ着いた私にいつも優しかったわ。きっと幸せになれる」
アリシャは確信をもって伝えれば、アヴリルもはっきり淀みなく「私もそう思うわ」と答えた。
「私には若すぎるからお断りしたのだけど、生まれてくる赤ちゃんの事を考えるなら是非イエスと言ってくれって。女一人じゃ厳しいし、いくらサポートしてくれるボリスがいると言っても、ボリスだっていずれは家庭を持つだろうから僕と結婚したほうがいいってハッキリ言われちゃって……遇の音も出なかったわ」
アヴリルの身体からゆっくり身を引くと、アヴリルは「正論と生活の安定と、なによりウィンの優しさに負けたの」と嬉しそうに微笑んでいた。
確かに女一人では子育てしながら食べていくのは難しい。いや、男一人だって大変なのだ。ナジは立派に育てあげたと思うが、学びという点までは思いが至らなかったのはやはり余裕がなかったからだろう。
「私は二人を応援する! あ、パイを作らなきゃ」
それに燻製肉も今晩用に切っておきたい。まだ巨大な塊のままテーブルに鎮座している。
「パイ、楽しみにしてるわね。それと、アリシャ?」
「はい」
「好きって認めると、案外なんでも上手く回るものよ」
何を示唆しているのか、心当たりがあり過ぎてアリシャの顔が再び熱を帯びた。
「ふふ。人を好きになるって楽しいわよ。私もウキウキしてるの」
じゃあリンゴの選別に行くわねとアヴリルは去っていった。残されたアリシャはそんなアヴリルを羨ましく感じていた。
(相手がウィンならそうかもしれないけど……エドは心の内を見せてくれないもの)
そこでピシッと背筋を伸ばしてキビキビとテーブルに寄っていく。
(違う違う! 別にエドの事なんて好きじゃないわよ。何度も助けてもらったから気になるだけなの、そうよ)
調理用の大型ナイフを取り出すと、フンと鼻を鳴らして肉の燻製を睨みつけた。
(エドがもっといつでも優しくしてくれたら好きになるのに!)
燻されていい色に仕上がっている肉にナイフを入れた。薄く削ぎ落とし、大きな平皿に並べていく。後でカボチャを薄切りにし、素揚げして燻製肉のスライスと交互に並べていこう。燻製の仄かな塩気とカボチャの甘さがうまいこと互いを引き立ててくれるに違いない。それに人参のコンポートを添えたら彩りは完璧だ。
(パンを何個も焼かない分、こっちに時間が割けるわね)
次第に料理に熱中し、考え事は全て吹き飛んでいた。
出来上がった巨大なパイはアリシャ史上、最高の出来栄えになった。
格子状に渡したパイ生地の間からリンゴとぶどうが顔を覗かせ湯気を上げていた。いつもはやらない、生地にバターを塗りつけるという手法を使ったお陰でパリッとした生地なのに艷やかに光っている。
「さぁ、ナイフをどうぞ」
テーブルにパイを乗せた時の皆の歓声もアリシャには自信に繋がった。それになによりウィンとアヴリルが交わす幸せそうな笑みが嬉しかった。
ウィンはナイフを受け取り切り分けて、アヴリルの差し出す皿に盛ると、アヴリルに戻す。アヴリルはそれを一人一人に言葉を添えて渡していく。ありがとう。おめでとう。幸福な言葉たちが行き交って広間が笑みで満たされた。
カボチャを貰ったココが尻尾を盛んに振っているし、宿屋の客人たちにもパイが振る舞われて賑やかな夜だった。
「良いなぁ、結婚」
横で呟くボリスに「そうね」と、アリシャは応えた。視線はエドを追っていたが、エドはまたしてもアリシャの方を見ることはなくユーリと何かを話していた。そんなアリシャをボリスが見つめていたなど、アリシャはまるで気が付いていなかった。
「あ……ら? お取り込み中だったかしら?」
アリシャは自分の手がまだエドのシャツを掴んでいるのに気が付いて、慌てて離して手を背に隠した。
「いえ、全然!」
一人あたふたするアリシャとは打って変わってエドは冷静そのものだった。アヴリルに近寄るとハグをし「結婚おめでとう。ウィンはイイ奴だよ」と結婚を祝い、部屋から出ていった。
「あーっと、絶対タイミングを間違えたわね。アリシャ、ごめんなさいね」
アヴリルはエドの背を見送った後、申し訳無さそうにアリシャに近づいてきた。
「タイミング? ……ほんと、なんにもないので」
必死に誤魔化そうとしたアリシャだが、アヴリルはアリシャの鼻の頭をツンと弾いて笑った。
「こんな真っ赤でなんともないの? アリシャってば嘘をつくのが下手だわ」
そこがまた可愛いのよねと付け足した。そうだっだとアリシャは自分の頬を両手で覆った。顔が赤くなっていて全てお見通しだろう。
「エドはホント格好いいわよね。私には若すぎるけど……ウィンだって若すぎるのに──」
「あ! ごめんなさい。まだ直接言ってなかった。ご結婚おめでとうございます。ウィンからパイを作って欲しいって言われてて……ああ! これナイショだったかしら?」
「パイのこと? いいえ、二人で決めたことよ」
アリシャの慌てっぷりにアヴリルはますます微笑んで否定した。そう言われるとウィンも二人で相談して決めたと言っていた。
ハグさせて欲しいと願い出たら心地良く受け入れてくれて、二人はギュッと互いを抱きしめ合った。
「ああ、アヴリル! ウィンはここに流れ着いた私にいつも優しかったわ。きっと幸せになれる」
アリシャは確信をもって伝えれば、アヴリルもはっきり淀みなく「私もそう思うわ」と答えた。
「私には若すぎるからお断りしたのだけど、生まれてくる赤ちゃんの事を考えるなら是非イエスと言ってくれって。女一人じゃ厳しいし、いくらサポートしてくれるボリスがいると言っても、ボリスだっていずれは家庭を持つだろうから僕と結婚したほうがいいってハッキリ言われちゃって……遇の音も出なかったわ」
アヴリルの身体からゆっくり身を引くと、アヴリルは「正論と生活の安定と、なによりウィンの優しさに負けたの」と嬉しそうに微笑んでいた。
確かに女一人では子育てしながら食べていくのは難しい。いや、男一人だって大変なのだ。ナジは立派に育てあげたと思うが、学びという点までは思いが至らなかったのはやはり余裕がなかったからだろう。
「私は二人を応援する! あ、パイを作らなきゃ」
それに燻製肉も今晩用に切っておきたい。まだ巨大な塊のままテーブルに鎮座している。
「パイ、楽しみにしてるわね。それと、アリシャ?」
「はい」
「好きって認めると、案外なんでも上手く回るものよ」
何を示唆しているのか、心当たりがあり過ぎてアリシャの顔が再び熱を帯びた。
「ふふ。人を好きになるって楽しいわよ。私もウキウキしてるの」
じゃあリンゴの選別に行くわねとアヴリルは去っていった。残されたアリシャはそんなアヴリルを羨ましく感じていた。
(相手がウィンならそうかもしれないけど……エドは心の内を見せてくれないもの)
そこでピシッと背筋を伸ばしてキビキビとテーブルに寄っていく。
(違う違う! 別にエドの事なんて好きじゃないわよ。何度も助けてもらったから気になるだけなの、そうよ)
調理用の大型ナイフを取り出すと、フンと鼻を鳴らして肉の燻製を睨みつけた。
(エドがもっといつでも優しくしてくれたら好きになるのに!)
燻されていい色に仕上がっている肉にナイフを入れた。薄く削ぎ落とし、大きな平皿に並べていく。後でカボチャを薄切りにし、素揚げして燻製肉のスライスと交互に並べていこう。燻製の仄かな塩気とカボチャの甘さがうまいこと互いを引き立ててくれるに違いない。それに人参のコンポートを添えたら彩りは完璧だ。
(パンを何個も焼かない分、こっちに時間が割けるわね)
次第に料理に熱中し、考え事は全て吹き飛んでいた。
出来上がった巨大なパイはアリシャ史上、最高の出来栄えになった。
格子状に渡したパイ生地の間からリンゴとぶどうが顔を覗かせ湯気を上げていた。いつもはやらない、生地にバターを塗りつけるという手法を使ったお陰でパリッとした生地なのに艷やかに光っている。
「さぁ、ナイフをどうぞ」
テーブルにパイを乗せた時の皆の歓声もアリシャには自信に繋がった。それになによりウィンとアヴリルが交わす幸せそうな笑みが嬉しかった。
ウィンはナイフを受け取り切り分けて、アヴリルの差し出す皿に盛ると、アヴリルに戻す。アヴリルはそれを一人一人に言葉を添えて渡していく。ありがとう。おめでとう。幸福な言葉たちが行き交って広間が笑みで満たされた。
カボチャを貰ったココが尻尾を盛んに振っているし、宿屋の客人たちにもパイが振る舞われて賑やかな夜だった。
「良いなぁ、結婚」
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