125 / 131
*
7
しおりを挟む
そこでイザクが「回復ですからね……兵力が読めません」と首を振った。レオが頷いたところでエクトルが横にあった羊皮紙を出した。テーブルの上に広げると、指で叩く。
「王から兵を派遣してもらっている。こちらも五百。時間がなくて少ないが仕方ない。そこでアリシャの力が重要になってくる」
「私の……」
「いきなり仕掛けてくるとは考えにくいが、あちらが到着したら街全体に防御を張ってほしい。出来るか?」
この街はドナ村が何個入るだろうか。アリシャは返事が出来なかった。一番大きなもので、宿屋から家畜小屋までのトンネルしかやったことがないのだから自信がなかった。
「アリシャ、君なら出来るはずだ。ただ、問題はどれくらいの時間維持せねばならないかだと私は思う」
レオの助け舟にアリシャが頷くと、イザクが「あちらが会話をするつもりがあるかどうかでしょうね」と答えた。エクトルも同意見なようでこのように話した。
「今のところ目的がわからぬから、なにかしら話をするだろうな。兵を連れてくるからといって戦う意志があるかどうかもわからんし」
「蓋を開けてみないことには、と言った感じですね。レオナルド様、イライザ女王は何を求めてやって来ているとお考えですか?」
イザクに話を振られて、フムと短く答えるとやや間を置いて口を開いた。
「なんらかの理由で防御の主がいることを知り、手に入れようとしているのかもしれんな。イライザはかなり前から防御の主探しに躍起になっておったし。若しくは単身、村に滞在しているエクトル王子の存在を知り、討ち取ってしまおうかと画策していたか。後者ならば、ここまで追ってこないように思うが……どうだろうか」
追ってきてますよね。と、イザクが言うとレオがそうなのだと返した。
「アリシャを追っているのかもしれんが、スルシュア王国の領地を侵せば間違いなく外交問題になる。それでも来る理由がわからないというのが本音だ」
そこでアリシャが「あの……」と、切り出した。
「もし、私を出せと要求してきたら私はあちらに行っても構いません。もちろんあちらに力を貸すつもりはありませんし、魔力を使って立て籠もるこ──」
「それはやめておくべきだ」
レオがいつになく険しい顔つきで話を遮った。
「どんなに強固な気持ちで居ても、イライザの残忍さにアリシャが折れることになるのは目に見えている」
ああ。と、エクトルが嫌なことを思い出したのか、肘をテーブルについたまま眉間を親指で押していた。
「あれの拷問は酷いらしいな。死ぬほど痛めつけて虫の息になると回復し、また始めから苦痛を与え直すらしい。痛みと苦しみでのたうち回り、やっと死という方法で解放されると思ったらまた始めからだ。それをアリシャは見ていられるか?」
「え?」
「苦しみ悶る人間を回復するかしないか、交渉相手に決めさせるのだ」
見ず知らずの人間でも苦しんでいるのを見るのは辛いことだ。確かにそんなことを交換条件に出されたら、アリシャは折れてイライザの言いなりになってしまうかもしれない。
「なんて恐ろしいことを……」
アリシャが口を押さえて震え上がると、レオは深い溜め息をついた。
「生まれ持った残忍な人間性は、イライザに良心すら与えなかった。人間を弄ぶことに快感を覚える質なのだ。そこに回復の力だ、残忍な遊びをどこまでも謳歌できる。金を払えば病を治す手法で有力者を掌握し、それに靡かぬものは拷問で恐怖を与えて手中に収める。昔から恐ろしい子供であった」
イザクもエクトルも驚くこととなく話に耳を傾けていた。このような悪魔の所業を聞いているのだろう。
重い空気が流れた。
「どのみちいつかは対峙せねばならぬ相手だ。ここで倒したい」
エクトルの言葉に反論する者はいなかった。
「私に案があるのだが聞いてもらいたい」
レオはそう言うと懐から革の包みを取り出した。紐で縛られているそれを開けて中身を皆に見せる。何かの粉末で黄土色をしていた。
「特にアリシャ。君の力が必要だ」
わけも分からず、ただかなり重要なことを話されるのだと思い、アリシャはゴクリと唾を飲んだ。
話し合いが行われた翌日、アリシャはエドとボリスの居る部屋を訪れた。二人とも暇だったらしく、三人は揃って塀の上にある高見台に行ってみることにした。
「ココを連れて行っても怒られないかしら?」
アリシャは昨晩ココが居ない部屋で眠った。思い返してみたらココが居ない夜なんて、ココをもらい受けてから初めての事だったのだ。エドも居ないココも居ない孤独な夜に、初めての羽毛布団の喜びなど吹き飛んでいた。もう藁の布団で十分だからドナ村に戻りたいと眠れぬ夜を過ごしたのだった。
「外だから問題ないんじゃねぇのか? リードした方がいいだろうけどな」
リードをした方がいいと言われてアリシャの顔が曇る。ココだってのびのび歩き回りたいだろうに。
「自由に歩かせちゃだめ?」
エドとボリスは顔を見合わせた。ボリスがアリシャに「兵士がピリピリしているからやめたほうがいい。ココだって慣れない土地だし居なくなったらこまるだろ?」と説得し、アリシャは渋々頷いた。
馬小屋に初めて赴いたアリシャは観察するのを止められなかった。この街の豪華さに慣れてきたと思っていたのに、馬小屋すら立派で感嘆の声が漏れていた。馬は個室を与えられているし、馬小屋の横には馬を専用に世話をする人間の部屋まであった。
「王から兵を派遣してもらっている。こちらも五百。時間がなくて少ないが仕方ない。そこでアリシャの力が重要になってくる」
「私の……」
「いきなり仕掛けてくるとは考えにくいが、あちらが到着したら街全体に防御を張ってほしい。出来るか?」
この街はドナ村が何個入るだろうか。アリシャは返事が出来なかった。一番大きなもので、宿屋から家畜小屋までのトンネルしかやったことがないのだから自信がなかった。
「アリシャ、君なら出来るはずだ。ただ、問題はどれくらいの時間維持せねばならないかだと私は思う」
レオの助け舟にアリシャが頷くと、イザクが「あちらが会話をするつもりがあるかどうかでしょうね」と答えた。エクトルも同意見なようでこのように話した。
「今のところ目的がわからぬから、なにかしら話をするだろうな。兵を連れてくるからといって戦う意志があるかどうかもわからんし」
「蓋を開けてみないことには、と言った感じですね。レオナルド様、イライザ女王は何を求めてやって来ているとお考えですか?」
イザクに話を振られて、フムと短く答えるとやや間を置いて口を開いた。
「なんらかの理由で防御の主がいることを知り、手に入れようとしているのかもしれんな。イライザはかなり前から防御の主探しに躍起になっておったし。若しくは単身、村に滞在しているエクトル王子の存在を知り、討ち取ってしまおうかと画策していたか。後者ならば、ここまで追ってこないように思うが……どうだろうか」
追ってきてますよね。と、イザクが言うとレオがそうなのだと返した。
「アリシャを追っているのかもしれんが、スルシュア王国の領地を侵せば間違いなく外交問題になる。それでも来る理由がわからないというのが本音だ」
そこでアリシャが「あの……」と、切り出した。
「もし、私を出せと要求してきたら私はあちらに行っても構いません。もちろんあちらに力を貸すつもりはありませんし、魔力を使って立て籠もるこ──」
「それはやめておくべきだ」
レオがいつになく険しい顔つきで話を遮った。
「どんなに強固な気持ちで居ても、イライザの残忍さにアリシャが折れることになるのは目に見えている」
ああ。と、エクトルが嫌なことを思い出したのか、肘をテーブルについたまま眉間を親指で押していた。
「あれの拷問は酷いらしいな。死ぬほど痛めつけて虫の息になると回復し、また始めから苦痛を与え直すらしい。痛みと苦しみでのたうち回り、やっと死という方法で解放されると思ったらまた始めからだ。それをアリシャは見ていられるか?」
「え?」
「苦しみ悶る人間を回復するかしないか、交渉相手に決めさせるのだ」
見ず知らずの人間でも苦しんでいるのを見るのは辛いことだ。確かにそんなことを交換条件に出されたら、アリシャは折れてイライザの言いなりになってしまうかもしれない。
「なんて恐ろしいことを……」
アリシャが口を押さえて震え上がると、レオは深い溜め息をついた。
「生まれ持った残忍な人間性は、イライザに良心すら与えなかった。人間を弄ぶことに快感を覚える質なのだ。そこに回復の力だ、残忍な遊びをどこまでも謳歌できる。金を払えば病を治す手法で有力者を掌握し、それに靡かぬものは拷問で恐怖を与えて手中に収める。昔から恐ろしい子供であった」
イザクもエクトルも驚くこととなく話に耳を傾けていた。このような悪魔の所業を聞いているのだろう。
重い空気が流れた。
「どのみちいつかは対峙せねばならぬ相手だ。ここで倒したい」
エクトルの言葉に反論する者はいなかった。
「私に案があるのだが聞いてもらいたい」
レオはそう言うと懐から革の包みを取り出した。紐で縛られているそれを開けて中身を皆に見せる。何かの粉末で黄土色をしていた。
「特にアリシャ。君の力が必要だ」
わけも分からず、ただかなり重要なことを話されるのだと思い、アリシャはゴクリと唾を飲んだ。
話し合いが行われた翌日、アリシャはエドとボリスの居る部屋を訪れた。二人とも暇だったらしく、三人は揃って塀の上にある高見台に行ってみることにした。
「ココを連れて行っても怒られないかしら?」
アリシャは昨晩ココが居ない部屋で眠った。思い返してみたらココが居ない夜なんて、ココをもらい受けてから初めての事だったのだ。エドも居ないココも居ない孤独な夜に、初めての羽毛布団の喜びなど吹き飛んでいた。もう藁の布団で十分だからドナ村に戻りたいと眠れぬ夜を過ごしたのだった。
「外だから問題ないんじゃねぇのか? リードした方がいいだろうけどな」
リードをした方がいいと言われてアリシャの顔が曇る。ココだってのびのび歩き回りたいだろうに。
「自由に歩かせちゃだめ?」
エドとボリスは顔を見合わせた。ボリスがアリシャに「兵士がピリピリしているからやめたほうがいい。ココだって慣れない土地だし居なくなったらこまるだろ?」と説得し、アリシャは渋々頷いた。
馬小屋に初めて赴いたアリシャは観察するのを止められなかった。この街の豪華さに慣れてきたと思っていたのに、馬小屋すら立派で感嘆の声が漏れていた。馬は個室を与えられているし、馬小屋の横には馬を専用に世話をする人間の部屋まであった。
55
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。
王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。
戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。
彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。
奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、
彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。
「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」
騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。
これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした
タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。
身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。
だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり――
それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる