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イライザは長い尖った爪を自分の唇に持って行って口の端を掻いて、その後ニッコリを微笑んで見せた。
「見たであろう。攻撃の残虐な行為を。聞くところによると、そなたは心の弱い女だということだ。エクトルの元に居て怖くはないのか?」
まだアリシャの事を抱えていたボリスが一度力強くアリシャを抱きしめて、そっと後ろに退いた。アリシャが答えなければならないということだ。
「わかりません。ただ、私は誰かの元に居ようとは考えておりません」
アハハと声を上げ、さも可笑しい事を聞いたように笑う。
「せっかくエクトルが守ってくれておるのに、エクトルをあっさり見限るのか。なかなか肝の据わった女だ。なるほどな。聞くところによると男に媚びる所があるとか? ちょっと情報が誤っているようだ」
言い終えてから「あれを」と、イライザは部下に命じる。すると数人の男に抱えられてルクが姿を現した。久しぶりに見たルクは顔色が悪く頬までこけて一見すると別人のようだった。
「ルク……」
「アリシャ、動揺するな」
横からボリスの声が聞こえて、アリシャは唾を飲んで耐えた。駆け寄って手を貸したいくらい、足には力が入っていなかった。それだけじゃない。表情には生気がなく、目は一点を見つめている。
「なんでもコヤツは村を追い出されたとかで大層憤っておった。アリシャとかいう女に皆がたぶらかされているとか。さて、アリシャとはどこの誰なのか……おお、そうだった」
ふふと含み笑いをし「防御の主の名らしいな。要するにお前のことだ」と、楽しげだ。
アリシャの顔から血の気が引いていく。ルクがそこまでアリシャを恨んでいたことがショックだった。しかも、アリシャをイライザに売ったということだろう。
「ルク……」
思わず名を呼んだアリシャに、イライザが口を挟む。
「ああ、恨んでやるな。金に困って情報を売りに来たらしい。食えないのは辛いからな。防御の主が居ることを私に言えば金が貰えると信じておったらしい」
かつて、ジョゼフがアリシャを連れ去ろうとした理由も同じだった。ルクはひもじさからアリシャを売ったのだろうか。ジョゼフがしたことを思い出し、金になるだろうと踏んで。
ルクは自分の話をされているのに、無反応だった。否定も肯定も一切しないままうなだれて抱えられている。
去来する悲しみとあの楽しかった日々がないまぜになり、アリシャは気分が悪くなってきた。心のどこかで信じていたのだ。ルクが村に戻りたがっていて、また皆と仲良くしたいと願っていると。
「さて、本題に入るとしよう。私はスルシュア王国とここで揉め事を起こすつもりはさらさらない。防御の主が本物だと判明したし、防御の主を我が国に招きたいと考えている。兵を引き連れてきたのは詫びるが、私としては防御の主の真偽と保護を目的としておるだけだ」
要約するとアリシャの力が本物だから連れ帰ると言っているようだ。アリシャは攻撃の力を使うエクトルよりこの回復の主の方が数倍恐ろしいと感じていた。魔力云々ではなく、肌で感じる邪悪な精神が恐ろしかった。
「私はどこにも行きません。貴方様が国に戻るなら、私も私の村に戻ります。どちらにも力を貸すつもりはありません」
恐ろしい人間を前にカタカタと震えてしまうが、アリシャはキッパリ言い切ることが出来た。
イライザの眼差しは終始冷たく光、それでいて笑みを浮かべる。そのちぐはぐさに異様さを感じるのだ。
「アリシャよ。同意など求めておらんのだ。おい、ルクとやらの爪を剥げ」
直前までの口調を変えることなく、恐ろしい命令がくだされる。命令を聞いたルクが血相を変えて暴れだした。まるで息絶えた獣のように動かなかったのに、今は大声で絶叫し渾身の力で押さえつけている手から抜け出そうとしていた。
「おやめください! 正気の沙汰ではございません。ルクー!」
「やめてやってもいいのだぞ? 簡単なことだ。私の馬に乗せてや──」
その時シュンと風を切る音を聞いた。高らかに声を張り上げていたイライザがグラリと前のめりになり肩に刺さった矢を掴んだ。即座にストルカ国の弓兵たちが矢を街に向けて矢を放つが、火炎の風が全てをさらっていく。
「おのれ! この程度の傷で私をどうにか出来ると思うのか!」
勢いよく矢を引き抜くのを見たアリシャが我に返り、昨晩聞かされた作戦を思い出した。
『よいか、アリシャ。どのような形であれ、イライザに傷を負わせた時がお前の出番だ』
今もしっかり耳に残っている。エクトルはアリシャが居るからこそ出来ると言っていた。
矢を抜き終えたイライザの肩から血がタラリと落ちていく。手にしている矢を地面に落とすその時、アリシャは防御の力を行使した。イライザは思うように体を動かせなくなった事に目を見開いてアリシャにギロリと視線を投げた。
「貴様、私に力を使ったな! レオナルドか、レオナルドの入れ知恵か」
イライザはグラリと体を揺らす。
『毒矢を使う。もちろん外れることもあるが、当たれば大抵の人間はあっさり死ぬ。回復の力を使えなければイライザとて生きてはいられまい』
そう言いながらレオが見せた壺。この壺はこれまで見た壺とは形が異なっていた。その疑問をレオにぶつけるとレオは他のものと間違えない為に形状を変えてあるのだと説明した。
「見たであろう。攻撃の残虐な行為を。聞くところによると、そなたは心の弱い女だということだ。エクトルの元に居て怖くはないのか?」
まだアリシャの事を抱えていたボリスが一度力強くアリシャを抱きしめて、そっと後ろに退いた。アリシャが答えなければならないということだ。
「わかりません。ただ、私は誰かの元に居ようとは考えておりません」
アハハと声を上げ、さも可笑しい事を聞いたように笑う。
「せっかくエクトルが守ってくれておるのに、エクトルをあっさり見限るのか。なかなか肝の据わった女だ。なるほどな。聞くところによると男に媚びる所があるとか? ちょっと情報が誤っているようだ」
言い終えてから「あれを」と、イライザは部下に命じる。すると数人の男に抱えられてルクが姿を現した。久しぶりに見たルクは顔色が悪く頬までこけて一見すると別人のようだった。
「ルク……」
「アリシャ、動揺するな」
横からボリスの声が聞こえて、アリシャは唾を飲んで耐えた。駆け寄って手を貸したいくらい、足には力が入っていなかった。それだけじゃない。表情には生気がなく、目は一点を見つめている。
「なんでもコヤツは村を追い出されたとかで大層憤っておった。アリシャとかいう女に皆がたぶらかされているとか。さて、アリシャとはどこの誰なのか……おお、そうだった」
ふふと含み笑いをし「防御の主の名らしいな。要するにお前のことだ」と、楽しげだ。
アリシャの顔から血の気が引いていく。ルクがそこまでアリシャを恨んでいたことがショックだった。しかも、アリシャをイライザに売ったということだろう。
「ルク……」
思わず名を呼んだアリシャに、イライザが口を挟む。
「ああ、恨んでやるな。金に困って情報を売りに来たらしい。食えないのは辛いからな。防御の主が居ることを私に言えば金が貰えると信じておったらしい」
かつて、ジョゼフがアリシャを連れ去ろうとした理由も同じだった。ルクはひもじさからアリシャを売ったのだろうか。ジョゼフがしたことを思い出し、金になるだろうと踏んで。
ルクは自分の話をされているのに、無反応だった。否定も肯定も一切しないままうなだれて抱えられている。
去来する悲しみとあの楽しかった日々がないまぜになり、アリシャは気分が悪くなってきた。心のどこかで信じていたのだ。ルクが村に戻りたがっていて、また皆と仲良くしたいと願っていると。
「さて、本題に入るとしよう。私はスルシュア王国とここで揉め事を起こすつもりはさらさらない。防御の主が本物だと判明したし、防御の主を我が国に招きたいと考えている。兵を引き連れてきたのは詫びるが、私としては防御の主の真偽と保護を目的としておるだけだ」
要約するとアリシャの力が本物だから連れ帰ると言っているようだ。アリシャは攻撃の力を使うエクトルよりこの回復の主の方が数倍恐ろしいと感じていた。魔力云々ではなく、肌で感じる邪悪な精神が恐ろしかった。
「私はどこにも行きません。貴方様が国に戻るなら、私も私の村に戻ります。どちらにも力を貸すつもりはありません」
恐ろしい人間を前にカタカタと震えてしまうが、アリシャはキッパリ言い切ることが出来た。
イライザの眼差しは終始冷たく光、それでいて笑みを浮かべる。そのちぐはぐさに異様さを感じるのだ。
「アリシャよ。同意など求めておらんのだ。おい、ルクとやらの爪を剥げ」
直前までの口調を変えることなく、恐ろしい命令がくだされる。命令を聞いたルクが血相を変えて暴れだした。まるで息絶えた獣のように動かなかったのに、今は大声で絶叫し渾身の力で押さえつけている手から抜け出そうとしていた。
「おやめください! 正気の沙汰ではございません。ルクー!」
「やめてやってもいいのだぞ? 簡単なことだ。私の馬に乗せてや──」
その時シュンと風を切る音を聞いた。高らかに声を張り上げていたイライザがグラリと前のめりになり肩に刺さった矢を掴んだ。即座にストルカ国の弓兵たちが矢を街に向けて矢を放つが、火炎の風が全てをさらっていく。
「おのれ! この程度の傷で私をどうにか出来ると思うのか!」
勢いよく矢を引き抜くのを見たアリシャが我に返り、昨晩聞かされた作戦を思い出した。
『よいか、アリシャ。どのような形であれ、イライザに傷を負わせた時がお前の出番だ』
今もしっかり耳に残っている。エクトルはアリシャが居るからこそ出来ると言っていた。
矢を抜き終えたイライザの肩から血がタラリと落ちていく。手にしている矢を地面に落とすその時、アリシャは防御の力を行使した。イライザは思うように体を動かせなくなった事に目を見開いてアリシャにギロリと視線を投げた。
「貴様、私に力を使ったな! レオナルドか、レオナルドの入れ知恵か」
イライザはグラリと体を揺らす。
『毒矢を使う。もちろん外れることもあるが、当たれば大抵の人間はあっさり死ぬ。回復の力を使えなければイライザとて生きてはいられまい』
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