英雄譚の裏側で、俺は魔王に恋をした~国家が作った魔王と、勇者落第の俺がうっかり世界を壊す~

佐々木鳥

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第6話 俺、魔王と共闘する

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 俺とヴァンは王都の門をくぐり、二日かけてワイルドオークの被害が出ているという東の街道へ向かった。

「……森の中の道って感じだな」

 街道は森を真っ二つに切り込むように敷かれている。整備は行き届いているが、一歩脇に逸れればすぐ迷子になれそうだ。

「オークたちが集団で目撃されたのはこのあたりだ。実際に襲撃被害が出たのは、もう少し先の地点からだ」
「了解。緊張度を高めとく」

 ヴァンの瞬間転移で飛ぶこともできたが、群れの巣がどこにあるのか不明だし、俺自身、東側はほとんど来たことがない。観光がてら歩きで進むことにした。

 いつの間にか、ヴァンは被害の詳細をやけに把握していた。迷いなく歩を進めながら、淡々と目撃情報やオークの知識を話してくれる。

「オークの急所は首だ。頭と胴を分ければ人間と同じくすぐ絶える。ただし図体が大きいぶん、狙いを工夫する必要がある」
「足や胴を撃って跪かせ、首を狩る――それが基本。ただし傷が増えるほど肉の鮮度は落ちる。美味い肉を食うなら、一撃で首を刈る技量が必要……俺も冒険者だ、それぐらい知ってる」
「……そうか」

 オークを解体し、肉を料理するのは久しぶりだ。
 楽しみすぎて、俺はローストビーフ用の鍋まで持ってきている。旅の荷が妙に重いのはそのせいだ。後悔はしていない。肉のためだ。

「報告から推測するに、この辺りに群れの拠点があるはずだ」
「わかった。道から逸れるなら、迷子防止に印付けとく」
「不要だ」

 ――は?

 眉を上げた瞬間、ヴァンの足元に魔法陣が展開された。

「――燃えろ」

 背に熱風がぶち当たり、思わず肩をすくめる。振り返ると、ついさっきまで森だった一帯が、見事なまでの“更地”になっていた。

 ーー森が、“討伐”されている。

「……え」
「オークの骨は残る程度に焼いた。骨が密集して落ちていれば、群れの討伐証明になる」
「いや、お前、さっきまでのオーク殺害講座はなんだったんだ? これ、焼き……え?」
「森の中で探すのは非効率だ。王命を効率よく果たすことも、王国騎士のあるべき姿のひとつだ」

 言いたいことは山ほどあるのに、口から出たのは――

「……俺の肉、消し飛んじまったな」
「お前はよく肉の話をするな」
「旨い肉を食うのが大好きなんだよ」
「そうか」

 更地となった地面には、ホーンラビットやゴブリン、その他の獣の骨が散乱している。そこに“居ただけ”の面々も、ヴァンの「効率焼却」の巻き添えになったらしい。

「オークの骨はないな。予想が外れたか。次はあちらを焼く」
「待て待て待て! このまま任せたら森がハゲ山になる! 森林破壊反対! 地道に探そう。俺、伊達に冒険者やってねぇし。こういうの得意だから任せろ」
「……日没までに終わるなら」
「もう昼過ぎなんだが!?」

 ……これでも六年、冒険者をやってきた。ソロで多くの魔物を狩ってきた自負がある。旨い肉を求めて生態系を少し荒らしたこともある。胃袋に正直に生きてきた結果だ。反省はしている。少しだけ。

 思い出せ、ワイルドオークの習性を。

「なぁ、群れってどのくらいの規模だったっけ?」
「先ほど話した」
「確認だって」
「オスが二十体ほどで街道を襲撃。群れの生息圏内で狩る――その習性を考えれば、メスと子を含め五十体前後の集落がある」
「そう、けっこうな規模なんだよ」

 それだけの口を賄うなら、大きな水源が必要だ。

「この辺の水源は……川だな」

 ギルドで買っておいた地図を広げる。

「上流は地形が険しすぎる。集落に向くなら下流のこの辺かこっち。こっちはさっきヴァンが焼いたから、この辺……目撃情報も“ここから下ってきた”と仮定すれば筋が通る……よし、行く」

 俺たちは川下へ向けて駆けた。

 ◆ ◇◇

 川沿いの茂みを抜けた先、獣臭と湿った土。低いうなりと枝の折れる音が重なる。

(良かった、いた。)

 ちょうど群れが生活拠点から離れるところらしい。五、六体ずつ固まって、どこかへ向かっていく。

「合図で突っ込む。私が『今』と言ったら右から回って、あの倒木の陰に誘導しろ。あとは私が首を切る」
「了解。……お前、指示し慣れてるな。動きやすいよ」
「私は国王付き魔法騎士団、副団長だ」
「そうだったな」

 見張りのオークが鼻を鳴らす。俺は石を一つ投げ、倒木の陰へ注意を逸らす。三、二――

「今だ」

 飛び出した俺を先頭のオークが見つける。俺は言われた指示どおりに動く。ヴァンの剣閃が走る。音は、風より薄い。

 ――首が一撃で、落ちた。

「お見事。鮮度の確保はバッチリ。その調子でお願いするぜ」
「……状況次第だ」

 群れが気づき、怒号が上がる。三方向から突進の気配。

「右は俺が受ける。左と中央は任せる」
「三方向のうち二方向!? 割合おかしくない?」

 左から棍棒を振りかぶって集団が来る。俺は愛用の大鉈を斧の要領で振り、進路を塞ぐように木を切り倒す。

「こっちは通行止めだっと。あの怖ーい魔王さんの所に行ってどうぞ」

 追いかけていた俺への道がたたれ、やむなくヴァンへ向かったオークたちの首が、面白いように転がっていく。

「首を一撃、鮮度に留意」

 剣を振るう姿まさに一騎当千。ぼんやりと眺めているだけで、どんどん敵がいなくなっていく。

「副団長の名は伊達じゃないな」

 中央の群れが吠え、子どもを庇って後退し始めた。
 去り際にメスのオークが石を投げた。俺の鍋にクリーンヒット。少しへこんだ。

「お前の肉をローストする鍋だぞ!」
「オークは我々と言語系統が違う」
「ただの愚痴だよ! 別に伝えようと思ったわけじゃねえ」

 苛立ちの勢いで地を蹴る。枝を伝ってメスオークの背後へ回り込み、首をはねる。その背後にいた子供も狩っておく。子供は肉が少ないが、骨からいいダシが出る。

 俺が一体倒す間に、隣でヴァンは三体の首を落としていた。

「ノア、右上」
「わかってる!」

 投げられた岩を身を伏せて避ける。その上をヴァンの魔法が通り過ぎた。

「あー、土手っ腹に雷が貫いてら」
「あと一匹」

 最後のオスオークが吠えた。
 俺は深呼吸して一歩踏み込む。視界の端でヴァンが動いた。
 俺は手前に躍り出て、オスが持っている武器に攻撃を当て、視線をこちらへ固定――その瞬間に、ヴァンが滑り込む。

 風より薄い音が、もう一つ。

 こうして、多少のアクシデント(主に鍋)を除けば、初めての共闘は驚くほど、俺のやることがなかった。
 というよりもヴァンが強すぎたため、俺は邪魔しないだけで良かった。


 ◆ ◇◇

「ワイルドオーク四十四体分の死体……全部を解体するのは無理だな。親父のとこに運べれば――なあヴァン、これ――」
「――瞬間転移は無理だ」
「――了解」

 視線で察したらしく、言い終える前に返事が来た。

「食える分の肉と、高値がつく爪と角、魔石だけ持ってくか」
「売るのか?」
「ああ。まだ時間がある。ちょっと進めば街があるし、そこのギルドに寄ろう」

 厳選したとはいえ、それでも荷は結構な量になった。二人分の背に積めるだけ積んで、俺たちは街道沿いの冒険者ギルドへ向かうことにした。

 夕暮れの中、大荷物を背負って歩き出す俺たちの背に、赤く沈む陽が差していた。
 背後には一部更地になった森と、大量のオークの死体。

 ――それでも、不思議とその光景が綺麗だと思った。

となりに夕日を浴びてさらに美しく見える男が立って居るからだろうか。

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