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第7話 俺、収入が無くなる
しおりを挟む「ようこそ、冒険者ギルド《東の生命線》へ」
「買取お願いします」
「初めてのご利用ですね。身分を証明出来るものはありますか?」
「冒険者カードがあります」
受付嬢がカードを受け取り、魔道具にかざす。
ふわりと光が走り、表示された文字を覗き込んだ彼女の眉がぴくりと動いた。
「……申し訳ございません。こちらのカード、“付属物登録”になっております」
「つまり?」
「あなたは現在、別の方の所有下にある状態です。そのため、報酬の受け取り権限がありません」
「えっ、俺そのカードで六年も冒険者やってきたんだが?」
「最新の登録情報が優先されますので……」
「いやいや、そんな馬鹿な――」
「お前は、私の物ということだ」
ヴァンは迷いなく言い切った。
受付嬢と俺が笑い顔のままフリーズする。
「付属物登録とは、所有権と権利行使を主に一元化する制度だ。お前は私の奴隷だからな」
「……つまり、俺の報酬は全部お前のものってこと?」
「そうだ」
受付嬢がおずおずと口を開く。
「そ、その……そちらの旦那様からならば買取可能ですが」
「だ、旦那!?」
「ワイルドオーク四十四体分の素材を頼む」
「よ、四十四体!? それもワイルドオーク!? 一体でもCランク冒険者がパーティ組んでやっと倒す強さなのに……!」
ねえ、旦那様発言は流す感じなのか?
俺、ご主人様もだいぶやだけど、旦那様はもっとやだよ。
「報酬はアリステアの名で、王城財務部へ送ってくれ」
「は、はいっ! かしこまりました!」
――報酬を財務部に送るという言葉がが、俺の脳内で「バイバイ収入」と翻訳された。
「……なんで財務部に送ったんだよ」
「主から授かった任務で得た物は主に返す。それが当然だ」
「俺の報酬は!?」
「国家のために働ける悦びだ」
「それじゃ腹は満たされねぇよ」
その瞬間、俺の中で“経済的死”が確定した。
正直、多少の貯金はある。六年間冒険者として貯めた金だ。
けど、それは何が起るか分からない、ヴァンガ居なくなった後の、国からの“逃走資金”に取っておきたい。
今必要なのは、金ではなく――“収入”だ。
「……国のために働けて光栄だろう?」
「いや、俺はお前ほどこの国が好きじゃねぇんだ」
俺はカウンターに突っ伏した。
隣で受付嬢がそっと俺の冒険者カードを返す。
ヴァンが自分の騎士の身分を合わすカードを渡した。
「鑑定明細は必要ですか? もし発行するようであれば、明日の昼以降にもう一度起こしください」
「不要だ」
◇◇
ギルドを出ると、すっかり夜になっていた。
街灯が石畳を照らし、俺のしょぼくれた影が伸びている。
「まさか、収入がゼロになるとはな。宿代も払えねぇ」
「国家の宿舎に戻れば、費用は不要だ」
「お前はな。それ騎士専用だろ? 俺、お前の奴隷とはいえ、騎士じゃないから」
「私の所有物として申請すれば許可される。ただし時間がかかる」
「絶対にしないでくれ。その申請は俺がいたたまれなさすぎる」
どうしようもなくなり、ヴァンの所有物として一緒に生活する想像して、俺はそれを払うように頭を振った。
そんな俺にヴァンは静かに言葉を落とす。
「……“魔王城”なら、住居としてお前もすぐ使える」
「え、王城?」
「魔王城だ」
「は? お前そんなの持ってんの!?」
「主から賜った。王都西区の廃城だ。改築して“魔王城”とする予定だ。いずれ勇者を誘い込む。その時までは我々の拠点にする」
「いや色々言いたいことはあるが……まあ、屋根があるなら文句はねぇ」
俺は即答した。
ただの寝床は大歓迎だ。ふかふかのベットがあるなら尚いい。
◆◇◇
岩と砂が大部分をおおう荒野にポツンとそれは建っていた。
ヴァンの転移で辿り着いた“魔王城”は、瓦礫の山と崩れた塔の集合体だった。
壁には蔦、窓は板、扉は軋み、鳴くのはカラス。
「……ここ、廃墟だよな」
「雰囲気が出て良いと主は言っていた」
がらり、と板戸が外れかける。
中は広いが、空虚で、冷たい空気が漂っていた。
雨風はしのげる。寝られはする。……泣きたくも、なる。
「寝床は?」
「二階の部屋のいくつかは乾いている」
「ふかふかベットは?」
「ありそうに見えるか?」
「無いですよね!」
俺が叫ぶと、ヴァンは一瞬だけ煩わしそうに眉を動かした……気がした。
たぶん、風のせいだ。彼の表情筋の使用はまだ許可されていない。
◇◇
「なあヴァン。俺、これからどうやって稼げばいい?」
「稼ぐ必要はない」
「あるわ! 飯代と遊び代は必須項目だぞ!? 俺はそういう生き物なんだ」
「……ノアを奴隷にしたのは、君の命を繋ぐためだ。だが、私の任務の補助は別問題。働いた分の対価は払おうと思っていた」
「おおっ」
「月に金貨六十枚。それが私の誠意だ」
「それはーー」
ーー多すぎる。
金貨六十枚――王都の一般家庭が3年は遊んで暮らせる額だ。
これを個人に払うとか、何を考えているんだ?
「というか、お前お金持ちだったのか」
「使う宛もなく溜まっていた、役職手当込みの国王付き騎士団の給料だ」
「そういやお前、この国の花形騎士だったな。なんにせよエリートで、気前がいいご主人様に感謝だ」
俺は両手を合わせて拝んだ。ヴァンは静かに頷く。
金の心配が消えた瞬間、腹が本格的に減る。
「感謝の気持ちとして、オーク肉の絶品料理を振る舞おう!」
「不要だ」
「死にたてほやほやだぞ! 新鮮だと最低限の味付けで肉本来の美味さが引き立つんだ。珍味のメスオークの子宮もある、もちろんローストビーフも作るぞ!」
「魔王城に生活感を出すなと言われている。やるなら外で、1人でやってくれ」
契約の副作用で離れると俺がぶっ倒れると知って1週間、ヴァンは殆ど必ず5歩走れば手が届く位置にいる。
そして「作ってしまったから」と言って手渡せば、無表情で全て食べることも知っている。
「今日こそは、お前の口から『食える』以外の褒め言葉を出させてやるよ」
◇◇
翌朝、魔王城から王都へ転移し、報告のため王城へ向かう途中。
市街が妙にざわついていた。歩く人の顔がなんとなくピリついた感じに見える。
露店には「魔除け」や「勇者祈願」のお守りが並び、
泣く子には母親のあのセリフ。
「悪い子にしてると“魔王”が来るよ!」
……その魔王、今パン屋の行列に並んでるけど?
「……なんか魔物避けの札が目立つな」
「王都周辺の魔物被害が増えている。民が怯えるのは当然だ」
「お前、原因側だろ!?」
広場の掲示板には告知が貼られていた。
『近日、勇者選定の儀を執り行う』
「……勇者選定ってことは、やは魔王が復活したって話は本当なんだな」
「勘弁して欲しいぜ、ただでさえ最近、地方からの物品が届きにくくなって大変なのに」
「魔王を撃つ為だとかで、また税が上がるな」
「勇者が出来るだけ早く、魔王を殺してくれるといいな」
「本当にそう願うよ」
人々のざわめきが風に溶ける。
不安に鬱憤が混ざった空気の中――
「二十七番の方~。パンの準備が出来ましたー」
「ヴァン、受け取ってこい。俺はラビット串焼きの方並んでるから」
(……さて、勇者選定の儀、か)
そういえば国王にヴァンも参加するよう言われていたな。てことは俺も参加するのか……?
そう思った瞬間――ヴァンの頬に黒いヒビが走った。
「……おい、ヴァン。顔の、それ……さっきまでなかったよな」
「……ただの魔力暴走の予兆だ」
そう言ったヴァンが、次の瞬間――俺ごと転移した。
気づけば、晴天の下の荒野。風が砂を叩く。
ヴァンの顔のヒビが、音を立てて広がっていく。
「お前、それ“大丈夫なやつ”か!?」
「大丈夫だ。王都に被害を出さぬよう転移した。……が、お前に防御魔法をかける余裕はない。避けろ」
「全然大丈夫じゃねぇじゃん! 何が避けろ!? 今からなんか始まるの!?」
「――ッ」
ヴァンはそれに答えず、静かに目を伏せた。
次の瞬間、足元に魔法陣が広がり――轟音と共に、彼は魔力を撒き散らしながら地面に膝をついた。
空が、ざらりと色を変える。
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