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第8話 俺、魔王の暴走を止める
しおりを挟む空が割れる音が聞こえる。
大地が鳴り、砂が跳ね、空気が焦げる匂い。
「……なんだこの世界崩壊みたいな状況は、このままーー」
冗談を言う暇もなく、ヴァンの身体から黒色の魔力が噴き出した。
それは、雷雲のように帯電音を立てながら浮遊し、揺らめき、震える。
――ドンッ!!
地面が割れ、土柱が上がる。
「純粋な魔力の塊ってだけで、あの威力はおかしいだろ!」
爆ぜた魔力がヴァンの肩を吹き飛ばす。
だが次の瞬間、焼け焦げた肉がむくむくと再生する。
魔力が、ヴァンごと世界を壊している。
「避けろ、ってこれのことか!? あんまお前から離れられないのに、広範囲即死の爆発攻撃は避けさせる気あるのか」
俺は爆発を避け、愛用の大鉈で魔力を斬り払う。
地面の隆起を跳び越え、割れ目に落ちないよう踏み込む。
霧のように広がる魔力の爆発を避け続けなければならない。
「血よ巡れ、骨よ支えよ。体は動く、俺の意のままに──《身体強化》!」
足元に魔法陣が走り、体が軽くなるのを感じる。
「久しぶりの強化魔法、あったまってきたぜ」
黒い魔力が空を上り、稲妻が天を裂く。大地がぐにゃりと浮き上がった。
「おい魔王! 王都に攻め込む前に世界を崩壊させる気か!?」
自然災害の人格化って、こういうのを言うんだろうな。
「って現実逃避している場合じゃねぇ。本格的にヤバいーーー俺が死ぬ」
強化魔法が切れたら避けきれなくなる。俺の魔力量は無尽蔵じゃない。
「このままだとジリ貧……ヴァンの首狩ったら止まんねぇかな。いやダメだ、あいつ再生する……考えろ俺!」
暴走の原因は、魔力の過剰噴出。
「……魔力が溢れてんのが原因なら、それを無くせばいい」
今、俺は強化魔法で魔力を消費中。
つまり、魔力が欲しい俺は、持て余したヴァンの魔力を奪えばいい。
「しかし、どうやって奪うか」
ヴァンの身体は全身ひび割れ、触れたら爆発する魔力が噴き出している。
「身体接触では無理だな。とすると……口から吸うか」
いや正気じゃねぇな。
「だが、いつ終わるかわからねぇ“触れたら爆発、即死の魔法避け大会、参加者俺ひとり”よりマシだろ……!」
爆発と落石を避けながら接近する。
「ずっと触れてはられねぇ。瞬間でどれだけ吸えるか、だな……」
ひび割れた顔、閉じた瞳。
それでも、どこまでも綺麗な顔。
(……やるしかねぇ)
攻撃を掻い潜り、ヴァンの頭を支える──
唇を重ねた瞬間
――熱が弾けた。
魔力が流れ込む。
熱い、濃い、そして……
(……気持ち……いい……!?)
身体の奥で快感が爆ぜる。
左目が、焼けるように熱い。
(やば……これクセになる……!)
貰えるだけ貰おうとしているその瞬間だった。
突然、巨大な魔法陣が空に描かれ、地面が裂け、空が黒く染まる。燃える岩が降ってくる。
「おい待て! まだスケール上がんのかよ! 冗談抜きでここ地獄にする気か!」
火の雨。岩の雨。土煙。
俺は一旦離れざるを得ない。転がり、切り、跳ね、走り続ける。
「はは、地獄にご招待ってか! 俺じゃなかったら死んでるぞこれ!」
避けきれない攻撃が当たる。
血の味がする。腕が裂ける。だがまだ動ける。
「心折れず、足止まらず、息絶やさずここに立つ……閉ざされた枷──《躯域解放》!」
再びヴァンへ。
「目が覚めたら俺が死ななかったことに感謝しろよ……!」
再びキス。
深く、強く。
魔力を喰らい続ける。
「━━━んんッ」
すん、と漂っていた黒い魔力が消える。ヴァンを見ると、ひびは消えていた。
天変地異が収まり、夕焼けの空が広がる。
「……転移した場所、魔王城の近くだったのか」
俺は砂と傷だらけの体にムチを打ち、ヴァンを背負う。
割れた大地を越え、魔王城へ入り──昨日寝たベッドに放り込んだ。
「暴走止めて、運んでやるとか……俺、まじでいいやつすぎる」
落ちていたマントをヴァンにかけ、椅子に崩れ落ちる。
◆◆◆
窓から朝日が差す部屋で、ヴァンの目が開く。
「気がついたか」
「……ここは」
「暴走終わっても意識が戻らないから運んだんだ」
「魔力が……落ち着いている」
「俺が魔力を奪ったからな」
「君が私の暴走を止めた? 生き残っただけでなく?」
「ああ。口から魔力を吸ったらすぐ収まったぞ」
急に空が曇り、雷光が走った。一気に部屋が暗くなる。
「随分急な雷だな!」
「私の魔法だ」
「ん?外に敵でもいたのか?」
「分からない。勝手に出た」
……そんな屁こきみたいなノリで天候変えられても。
「まさか、まだ暴走してんのか?」
「暴走はしていない。ただ……勝手に魔法が発動するようだ」
そのままヴァンは考え込むように目を伏せて黙った。すると、雷がやみ、外にはまた朝の明るい光が差し込んでくる。
「おそらく、意に反して奪われたおかげで別の魔力の出口が出来、勝手に魔力を発動するようになったのだろう。意識すれば止められる程度だ。天候が多少変化するだけで問題はない」
「問題ないか?いや、ンー……」
俺はヴァンのいるベッドに倒れ込む。どっと疲れが押し寄せて来た。
「……ノア。君は私の想像以上に優秀な人材だ。私の攻撃から生き残るだけではなく、突飛な方法で暴走を止めるとは。とてもCランクの冒険者とは思えない力量だ」
ヴァンが何か言っている。ぼやける思考で返す。
「まあ、国騎士団の見習い生に選ばれるぐらいには、俺、強いみたい……だから……」
「見習い?」
「……追い、出されたけどね」
「どういうことだ」
ああダメだ眠すぎる。
ヒビはなくなったものの、目を覚まさないヴァンを見て──また暴走するんじゃないかと警戒して眠れなかった。
傷の処置をして、ずっと気を張っていた。
「わりぃ、この話は、後、で……」
(何はともあれ、生き残って良かった)
一気に眠気に身を任せた。
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