詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第18話 お詫びに何でも

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「若菜先生!」

 小夜子の目の先には黒いロングコートを羽織はおり、ポケットに手を突っ込んで、河川敷をすたすたと歩く若菜の姿があった。

 若菜は小夜子の声に気が付くと歩みを止める。

 突然呼び止めたのにも関わらず、表情を一切変えずに、ゆっくりと自分の方へと振り返った若菜を、小夜子は慌てて呼び止める。

 そして小夜子は、全速力で若菜の方へと駆け寄った。

「わ、若菜先生……、あ、あ、あの……」

 いきなり若菜の方に向かって全速力で駆け出して行った為か、小夜子の息は激しく上がり、静かだった河川敷に、ぜぇぜぇという音が響き渡った。

 若菜に懸命に話をしようとするが、持久力のない小夜子は、途切れ途切れに言葉を発する事しか出来ない。

 そんな小夜子をしばらく黙って見つめていた若菜は、小夜子の呼吸がある程度整うようになると、チラリと小夜子の顔を見てこう言った。

「……何だ、昨日の一年生」

 ぶっきらぼうと捉えられてもおかしくない態度で、若菜は小夜子に冷ややかな口調で話しかけた。

 その態度に、びくりと身体をのけぞらせた小夜子だったが、ありったけの勇気を出して、若菜に話しかけた。

「た、立花小夜子と申します。き、昨日は本当にすみませんでした!」

 そして小夜子は勢いよく上半身を前に倒して、深々と頭を下げる。

 そんな小夜子の様子を一瞥いちべつすると、若菜は首に巻いて口元を隠していた黒いマフラーに手をかけた。そしてゆっくりと口元を出した。

「……もういい」

 その声に、小夜子は恐る恐る頭を上げる。

 すると「時間を取られるのは余り好きではない」と言って、マフラーの位置を元に戻すと、若菜はきびすを返して歩き出した。

 若菜と話がしたい小夜子は、慌ててその後を追いかける。

 見上げるほど背の高い若菜の足並みに揃えて歩こうとすると、自然と小夜子の足が早足になった。

 いつもより早く足を動かしながら、小夜子は困惑する思考の中で若菜にこう言った。

「あ、あの、先程、何て……」
「……聞こえなかったのか?もういい、と私は言ったんだ」
「ど、どういう意味なのか、よくわからないのですけれど……」
「……君の耳は節穴か?」

 急に大股で歩いていた足を止めると、若菜は小夜子の方を振り返った。

 いきなりの事で面食らう小夜子に、溜め息を付きながら若菜はこう告げた。

「もう一度言おう。昨日の件は、もういい。だから、もう二度と私に関わるな」

「以上だ」と言いながら、若菜はまた歩き出す。

 だが心の清算が付かない小夜子は、自分の前を行く若菜に食い下がった。

「あ、あの、若菜先生!私に何か出来る事はないでしょうか?」

「お詫びに何でもします」と言う小夜子に、若菜はまた深い溜め息を付く。

 外気に触れて白くなった息が、ゆっくりと天へと上っていく様子を、小夜子は黙って見ていた。
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