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☆第21話 加速する心
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ジリリリリと朝の訪れを告げる目覚まし時計を、右手でバンっと勢い良く止めると、小夜子はまた先程自分が居たベッドの布団の中へと潜り込んだ。
本当は目覚まし時計が鳴るずっと前から起きているのだが、立ち上がる気力が湧かず、朝からずっとベッドの中でゴロゴロとしている。
昨日の夜からずっと聞いていて、そのまま再生していた音楽プレイヤーの存在をふと思い出す。
ずっと同じ曲がリピート再生されている音楽プレイヤーの停止ボタンを押すと、小夜子は昨日の自分の非常に高揚した姿を思い出して苦笑した。
昨日高まっていた胸のときめきは、今では嘘の様にすーっと引いている。
今流行りの『Magical☆ Mint』という女性アイドルが歌う、『ベリー』という曲の歌詞をふと口ずさむと、小夜子は布団の中でもぞっと身体を動かした。
――この歌のように、私の恋も晴れやかで、賑やかなら良いのに。
そう思って枕にぐっと頬を当てる。いつもは柔らかな枕の感触も、この時ばかりは何だか固く思えた。
『だから、もう二度と私に関わるな』
恋に気が付いた瞬間に恋に破れるとは、なんとも滑稽な話である。
先日の自分の失態を振り返りながら、小夜子はベッドの中で何度も深い溜め息を付いた。
――完璧に、若菜先生に、嫌われてしまったなぁ。
そう思う度にじんわりと、心が後悔と失望感で満たされていく。
今、小夜子の心は深い海底に沈んでしまった船の様に、酷く暗くとても冷たい場所にあるのだった。
身体も鉛のように重たく感じられ、思うように身動きを取ることが出来ない。
――これから、どうしよう?
若菜には「もう二度と私に関わるな」と言われたのだ。
それならばここで、もうこの恋を終わらせることが筋なのだろうと、小夜子は思った。
しかし始まったばかりのこの恋の高まりを、鎮めてしまうことが小夜子にはどうしても出来なかった。
――若菜先生に会いたいなぁ。
わがままだと言われても、心がそう叫んでいるのだ。
この声の鎮め方を、幼い小夜子はまだ知らない。
鎮めるどころか時間が経てば経つ程、思いはどんどん加速して強くなっていく。
――あぁ!どうしよう!
瞳を閉じれば次々と浮かんでくる。
背の高いすらりとしたシルエット。
銀色の腕時計を見た時に目に入った、自分よりも大きな手。
じっと見つめられた時に気がついた、眼鏡の奥にある、切れ長の綺麗な黒の瞳。
そして自分に話しかけてくれた、無愛想な声。
そのどれもがいとおしくて。
思わず小夜子の瞳から涙が溢れ出そうになった。
もう自分では感情を押さえる事が出来なくなって、頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
そんなひどく混乱した状態の中でも、小夜子の心は強く若菜を求めていた。
その事実に、小夜子は心底途方に暮れるのだった。
「小夜子、日曜日だからって、いつまで寝ているつもりなの?いい加減起きなさい!」
一階のリビングから、母が大きな声で自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
しかし小夜子は寝ている振りをしてその声を無視した。とてもではないが、今すぐに起き上がる気持ちになれなかったのだ。
そんな小夜子の様子を察したのか、母は大きな声でこう付け加えた。
「日の出や書店の宮野さんから、さっきお電話があったわよ。注文していた本が届いているから、いつでも取りに来てくださいって。……小夜子、貴女、行かなくてよいの?」
その言葉を聞いた小夜子は、先程の様子とは打って変わって、急いでベッドから飛び起きた。
そして自身の身体から勢いよく布団をはぎ取ると、小夜子は夏季と会うべく、猛スピードで朝の身支度を行った。
本当は目覚まし時計が鳴るずっと前から起きているのだが、立ち上がる気力が湧かず、朝からずっとベッドの中でゴロゴロとしている。
昨日の夜からずっと聞いていて、そのまま再生していた音楽プレイヤーの存在をふと思い出す。
ずっと同じ曲がリピート再生されている音楽プレイヤーの停止ボタンを押すと、小夜子は昨日の自分の非常に高揚した姿を思い出して苦笑した。
昨日高まっていた胸のときめきは、今では嘘の様にすーっと引いている。
今流行りの『Magical☆ Mint』という女性アイドルが歌う、『ベリー』という曲の歌詞をふと口ずさむと、小夜子は布団の中でもぞっと身体を動かした。
――この歌のように、私の恋も晴れやかで、賑やかなら良いのに。
そう思って枕にぐっと頬を当てる。いつもは柔らかな枕の感触も、この時ばかりは何だか固く思えた。
『だから、もう二度と私に関わるな』
恋に気が付いた瞬間に恋に破れるとは、なんとも滑稽な話である。
先日の自分の失態を振り返りながら、小夜子はベッドの中で何度も深い溜め息を付いた。
――完璧に、若菜先生に、嫌われてしまったなぁ。
そう思う度にじんわりと、心が後悔と失望感で満たされていく。
今、小夜子の心は深い海底に沈んでしまった船の様に、酷く暗くとても冷たい場所にあるのだった。
身体も鉛のように重たく感じられ、思うように身動きを取ることが出来ない。
――これから、どうしよう?
若菜には「もう二度と私に関わるな」と言われたのだ。
それならばここで、もうこの恋を終わらせることが筋なのだろうと、小夜子は思った。
しかし始まったばかりのこの恋の高まりを、鎮めてしまうことが小夜子にはどうしても出来なかった。
――若菜先生に会いたいなぁ。
わがままだと言われても、心がそう叫んでいるのだ。
この声の鎮め方を、幼い小夜子はまだ知らない。
鎮めるどころか時間が経てば経つ程、思いはどんどん加速して強くなっていく。
――あぁ!どうしよう!
瞳を閉じれば次々と浮かんでくる。
背の高いすらりとしたシルエット。
銀色の腕時計を見た時に目に入った、自分よりも大きな手。
じっと見つめられた時に気がついた、眼鏡の奥にある、切れ長の綺麗な黒の瞳。
そして自分に話しかけてくれた、無愛想な声。
そのどれもがいとおしくて。
思わず小夜子の瞳から涙が溢れ出そうになった。
もう自分では感情を押さえる事が出来なくなって、頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
そんなひどく混乱した状態の中でも、小夜子の心は強く若菜を求めていた。
その事実に、小夜子は心底途方に暮れるのだった。
「小夜子、日曜日だからって、いつまで寝ているつもりなの?いい加減起きなさい!」
一階のリビングから、母が大きな声で自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
しかし小夜子は寝ている振りをしてその声を無視した。とてもではないが、今すぐに起き上がる気持ちになれなかったのだ。
そんな小夜子の様子を察したのか、母は大きな声でこう付け加えた。
「日の出や書店の宮野さんから、さっきお電話があったわよ。注文していた本が届いているから、いつでも取りに来てくださいって。……小夜子、貴女、行かなくてよいの?」
その言葉を聞いた小夜子は、先程の様子とは打って変わって、急いでベッドから飛び起きた。
そして自身の身体から勢いよく布団をはぎ取ると、小夜子は夏季と会うべく、猛スピードで朝の身支度を行った。
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