詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第25話 駆け出す理由

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「天気予報を見ていなかったの?今日は午後から雨が降るって、お天気お姉さんが散々テレビで言っていたでしょう?」
「……見ていなかったから、こんな状況になっているんだろうが」

 街に唯一ある、小さくて寂れたゲームセンターから出て来た大賀を待っていたものは、冬にしては珍しい激しい雷雨だった。

 最初は雨に打たれて帰ろうかと大賀は思ったのだが、クレーンゲームで取ったアニメのフィギュアの箱が濡れるのが、どうしても躊躇われた。

 どうしようかと思って店の前で悩んでいると、大賀の目の前を、図書館から帰宅途中の明博が傘を差して歩いているのが見えた。

 最初は明博に借りを作りたくなくて、目を逸らした大賀だったが、そんな大賀に気が付いた明博はにこにこと笑って大賀に近づいてくる。

 そして明博の厚意で、結局大賀は今、明博の傘の中に一緒に居るのだった。

「良かったね、大賀。僕がたまたま君の前を通りかかって」
「……そうだな」
「そう思うのなら、もう少し、嬉しそうな顔をしなよ」
「……お前と相合い傘じゃ無ければな」

 ざぁざぁと激しく降る雨の中、一つの傘の中に男子高校生二人が肩を並べて歩いている。

 時々すれ違う人たちが興味津々で自分たちの様子を見て行く度に、大賀は恥ずかしくて堪らなくなって、明博にフィギュアの箱を手渡して傘から出ようとした。

 そのたびに明博は「風邪をひくから止めておきなよ」と言って、大声で諭しては傘の中に大賀を戻すのだった。

「今度からは、朝、ちゃんと天気予報を見るんだよ?」と明博が呟いて、大賀の家の途中にある公園の前を通りかかった、その時だった。

 公園の入り口の前まで行くと、大賀が無言で、勢い良くフィギュアの箱を明博に手渡した。
 そして突然、明博の傘から飛び出して、大賀は公園の中へと駆け出して行った。

 突然の事で訳も分からず、明博は慌てて大賀からフィギュアの箱を受け取る。その手からはフィギュアの箱が今にも滑り落ちそうになっていて、危うく明博はフィギュアの箱を地面に落としそうになった。

 大賀が大事そうに抱きかかえていたフィギュアの箱が落ちて濡れなかったことに、明博は安堵する。

 一体何が起こったのか訳も分からずに面食らう明博だったが、大賀が走って行った方向を見てみると、大賀が駆け出して行ったその理由がすぐに分かった。
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