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凛としたイケメン女子だって可愛い女の子
私をもっと可愛くして
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07
パトリシアとターニャが女王様と奴隷になって、そして心から愛し合うようになってしばしの時が過ぎた。
「やっぱり恥ずかしいな…」
ターニャは、自室の姿見に映る自分を見て顔を赤くする。
パトリシアの勧めで女の子コーデを施したが、やはり似合っていないのではという疑念が拭えないのだ。
白の超ミニのプリーツスカートに花柄のキャミソール。その上にレモン色のカーディガン。
マグネットピアスやチョーカー、そしてヘアピンで嫌味でない程度に飾っている。
手首のシュシュと革ひものブレスレットが、実は縄の跡を隠すためなのは内緒だ。
(でも、いいよね。パトリシアは、女の子である自分に自信を持て。可愛いんだって言ってくれたし)
パトリシアは女王様で、意地悪だが愛情深い。そして、今まで嘘をついたことはない。
ターニャは、愛するパトリシアを信じて女の子コーデで出かけることに決めた。
「珍しいな。ターニャが遅れるなんて…」
待ち合わせ場所の駅馬車のターミナル。
パトリシアは時計塔の時間を確認して首をかしげる。
まだ待ち合わせの時間を5分過ぎただけだ。が、軍人の娘らしくいつも5分前行動を心掛けているターニャが遅刻とは。なにかあったのではないかと思えてしまう。
「ん?なんだ、あの喧騒は?」
なにやら、いくつもの黄色い声が響いている。しかも、どんどん近づいてくるようだった。
耳を澄ますと「ターニャ様」「可愛いです」「お待ちになって」と聞こえる。
(まさか…?)
パトリシアの予感は悪い方に当たった。
デモ隊か敵の軍団かと見まがうばかりの人の波が押し寄せて来るのだ。
当然のようにというか、その先頭にはターニャがいる。
いや、正確に言って逃げるターニャを、最近さらに増えたファンの女の子たちが大挙して追いかけているのだ。
「パトリシア、お待たせ!」
「ターニャ、また追いかけられてるの!?」
追いつかれるわけには行かないと、パトリシアもターニャと並んで走り出す。
ともあれ、このままでは追いつかれてしまう。
パトリシアは適当に馬車の一つを選ぶと、ターニャの手を引いて乗り込む。
「ご利用ありがとうございます。どちらまで?」
「いいから早く出して!目的地は後で指定するから!」
壮年の御者はパトリシアの言葉に振り向いて、「あらま」と後ろから押し寄せる女の子たちの大群に気づく。
状況を察した彼は、「わかりました、捕まって!」と馬に鞭を入れる。
制限速度ぎりぎりの、かなり荒っぽい走りで馬車は走り出す。
さすがにこれには女の子たちもついて来れず、喧騒がどんどん遠ざかる。
「とりあえず逃げられたかな?」
「わからないよ。ターニャがこんなに可愛いんだもの。
どこまでも追いかけて来るかもね」
「いやあ、女の子コーデしてみたら、むしろ前より追いかけて来る女の子たちが増えるなんて…」
「確かに予想外だったね。私もターニャがイケメン女子で男性的だから女の子たちにモテてるんだと思ってたし…」
馬車のシートに並んで座り、荒い息をつきながら、ターニャとパトリシアはそんな会話を交わす。
イケメン女子で有名なターニャが女の子らしくなったら、ファンの女の子たちが離れていくのではないか。パトリシアはそう思っていた。
(それはちょっと寂しいかもと思ってたけど…まさかこうなるとは…)
ターニャが積極的に女の子コーデを始めたことで、むしろ女の子たちに人気が出てしまったのだ。
(本当に、どんどん可愛くなるよね)
パトリシアは思う。
最初にワンピースを着せた時から思っていたが、ターニャは女の子コーデも本当に似合う。
最近では彼女なりに自身でコーデを追求するようになっている。
各種のアクセサリーやシュシュが、非常にあざとい。
「ねえパトリシア、本当にありがとう」
ターニャは輝くような笑顔でそう言う。
何に感謝してくれているのか、言葉がなくともパトリシアにはわかった気がした。
ドラゴンから母方の実家の農家を救ってくれて。
イケメン女子だとばかり思っていた自分が、実は可愛いものが好きだと、女の子コーデが好きだと気づかせてくれて。
そして、自分がマゾでふしだらな牝犬だと気づかせてくれて。
ターニャは全身全霊で感謝の気持ちを表していた。
「ターニャ、もっと可愛くなってね」
「うん…私をもっと可愛くして」
御者がこちらを見ていないのを確認して、二人は軽くキスを交わした。女の子同士の甘いキス。
「それで、今日はどうする?」
「せっかく馬車に乗ったんだ。ちょっと遠くまで行って、ぬいぐるみを買おうか」
パトリシアは、少し離れた住宅街にあるぬいぐるみの専門店に馬車を向けさせるのだった。
ターニャの手を握って、二人でいられる幸せを噛みしめながら。
パトリシアとターニャが女王様と奴隷になって、そして心から愛し合うようになってしばしの時が過ぎた。
「やっぱり恥ずかしいな…」
ターニャは、自室の姿見に映る自分を見て顔を赤くする。
パトリシアの勧めで女の子コーデを施したが、やはり似合っていないのではという疑念が拭えないのだ。
白の超ミニのプリーツスカートに花柄のキャミソール。その上にレモン色のカーディガン。
マグネットピアスやチョーカー、そしてヘアピンで嫌味でない程度に飾っている。
手首のシュシュと革ひものブレスレットが、実は縄の跡を隠すためなのは内緒だ。
(でも、いいよね。パトリシアは、女の子である自分に自信を持て。可愛いんだって言ってくれたし)
パトリシアは女王様で、意地悪だが愛情深い。そして、今まで嘘をついたことはない。
ターニャは、愛するパトリシアを信じて女の子コーデで出かけることに決めた。
「珍しいな。ターニャが遅れるなんて…」
待ち合わせ場所の駅馬車のターミナル。
パトリシアは時計塔の時間を確認して首をかしげる。
まだ待ち合わせの時間を5分過ぎただけだ。が、軍人の娘らしくいつも5分前行動を心掛けているターニャが遅刻とは。なにかあったのではないかと思えてしまう。
「ん?なんだ、あの喧騒は?」
なにやら、いくつもの黄色い声が響いている。しかも、どんどん近づいてくるようだった。
耳を澄ますと「ターニャ様」「可愛いです」「お待ちになって」と聞こえる。
(まさか…?)
パトリシアの予感は悪い方に当たった。
デモ隊か敵の軍団かと見まがうばかりの人の波が押し寄せて来るのだ。
当然のようにというか、その先頭にはターニャがいる。
いや、正確に言って逃げるターニャを、最近さらに増えたファンの女の子たちが大挙して追いかけているのだ。
「パトリシア、お待たせ!」
「ターニャ、また追いかけられてるの!?」
追いつかれるわけには行かないと、パトリシアもターニャと並んで走り出す。
ともあれ、このままでは追いつかれてしまう。
パトリシアは適当に馬車の一つを選ぶと、ターニャの手を引いて乗り込む。
「ご利用ありがとうございます。どちらまで?」
「いいから早く出して!目的地は後で指定するから!」
壮年の御者はパトリシアの言葉に振り向いて、「あらま」と後ろから押し寄せる女の子たちの大群に気づく。
状況を察した彼は、「わかりました、捕まって!」と馬に鞭を入れる。
制限速度ぎりぎりの、かなり荒っぽい走りで馬車は走り出す。
さすがにこれには女の子たちもついて来れず、喧騒がどんどん遠ざかる。
「とりあえず逃げられたかな?」
「わからないよ。ターニャがこんなに可愛いんだもの。
どこまでも追いかけて来るかもね」
「いやあ、女の子コーデしてみたら、むしろ前より追いかけて来る女の子たちが増えるなんて…」
「確かに予想外だったね。私もターニャがイケメン女子で男性的だから女の子たちにモテてるんだと思ってたし…」
馬車のシートに並んで座り、荒い息をつきながら、ターニャとパトリシアはそんな会話を交わす。
イケメン女子で有名なターニャが女の子らしくなったら、ファンの女の子たちが離れていくのではないか。パトリシアはそう思っていた。
(それはちょっと寂しいかもと思ってたけど…まさかこうなるとは…)
ターニャが積極的に女の子コーデを始めたことで、むしろ女の子たちに人気が出てしまったのだ。
(本当に、どんどん可愛くなるよね)
パトリシアは思う。
最初にワンピースを着せた時から思っていたが、ターニャは女の子コーデも本当に似合う。
最近では彼女なりに自身でコーデを追求するようになっている。
各種のアクセサリーやシュシュが、非常にあざとい。
「ねえパトリシア、本当にありがとう」
ターニャは輝くような笑顔でそう言う。
何に感謝してくれているのか、言葉がなくともパトリシアにはわかった気がした。
ドラゴンから母方の実家の農家を救ってくれて。
イケメン女子だとばかり思っていた自分が、実は可愛いものが好きだと、女の子コーデが好きだと気づかせてくれて。
そして、自分がマゾでふしだらな牝犬だと気づかせてくれて。
ターニャは全身全霊で感謝の気持ちを表していた。
「ターニャ、もっと可愛くなってね」
「うん…私をもっと可愛くして」
御者がこちらを見ていないのを確認して、二人は軽くキスを交わした。女の子同士の甘いキス。
「それで、今日はどうする?」
「せっかく馬車に乗ったんだ。ちょっと遠くまで行って、ぬいぐるみを買おうか」
パトリシアは、少し離れた住宅街にあるぬいぐるみの専門店に馬車を向けさせるのだった。
ターニャの手を握って、二人でいられる幸せを噛みしめながら。
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