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眼鏡の優等生の苦しみを救え
堪え忍んでいたわけ
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05
その日、パトリシアは健康のため町を歩いていた。
貴族の称号を持つ商人の娘とはいっても、箱入りというわけではない。
幼いころから移動は主に徒歩だった。
のんびり歩きながら町の様子を散策するのもなかなか楽しい。
「あら?」
そこで、パトリシアは意外な光景を目にする。
髪型を変えてごまかしているが、その規格外の胸の膨らみは見間違いようがない。
リディアだった。
アラサーと思しいイケメンの男となにやら話しながら歩いている。
気になって後をつけると、二人で個室カフェへと入っていく。
(どう見てもデートだよね…)
ちくん。
パトリシアは胸が痛くなるのを感じる。
(リディアは女の子だし…好きな男ができても不思議はないけど…。
もしかしたら、落ち着いた年上の男の人が好みなのかな…?)
気にし始める止まらなかった。
リディアと自分は愛し合っている。そう思っていた。
リディアを何度も抱いて、愛を囁きあった。
(でもそれって、リディアの心まで私のものにできていなかったってこと?)
切なく、疑心暗鬼に捕らわれたパトリシアは、楽しそうに男と話すリディアの表情が頭から離れなかった。
「やあリディア、こんにちは」
「あ…!パトリシア…?こ…こんにちは…」
パトリシアが声をかけると、個室カフェから出てきたリディアは明らかに動揺していた。
意外にも、一緒にいた男の姿はなくリディア一人だった。
「ねえねえ、一緒にカフェに入っていった人、イケメンだったね。リディアの彼?」
「え…あら…見てたの…」
パトリシアはストレートに質問をぶつけてみる。
別にあの男が彼氏でも気にしていないという調子だが、本当は切なさで胸がつぶれそうだった。
(もしあれが彼氏だって言われたら、私壊れちゃうかも…)
自分はメリーアンやターニャを愛して抱いているのを棚に上げて、パトリシアはそう思う。
「その…誤解しないで。あの人は別に…彼というわけではなくて…」
リディアは完全に目が泳いでいる。
「じゃあ教えてよ。あの人誰なの?リディア」
リディアはしばらく考え込んだ後、口を開く。
「パトリシア、中で話そう。ここじゃなんだから」
そう言って、リディアはパトリシアの手を引いて、今出てきたばかりの個室カフェに引き返す。
「あの人はノイマンさん。出版社の人。わたしの担当の編集さんなの」
紅茶で口を濡らしたリディアはためらいがちに口を開く。
「え…もしかしてリディア、本出すの?すごいじゃない!」
パトリシアは驚きと同時に、意外さも感じていた。
ガリ勉というわけでもないが、いつも勉強しているイメージしかないリディアが本を書いている。
なかなかイメージしづらいことだった。
(なにを書いてるんだろう?
詩かな?あるいは漫画?恋愛小説?ひょっとして、学術書とか?)
パトリシアはいろいろ考えを巡らせる。
だが、リディアはなぜか顔を真っ赤にしている。
「ね…ねえリディア?差し支えなければ、どんな本を出すのか教えてくれない?」
リディアの事情を斟酌して、パトリシアは控えめなトーンでお願いする。
ひょっとしたら人に見られたくないものかも知れないのだ。
「ええと…こ…これなの…」
リディアが差し出したものは、なにかの印刷物のようだった。
(ああ、ゲラ刷りというやつか)
仮に印刷してその出来具合を見るものだ。パトリシアは納得する。
「え…これって…」
パトリシアはタイトルを見て凍り付く。
アレクス・レイン著。
“黒下着兄嫁の淫らな美肛”
しばらく、パトリシアは固まったまま動けなかった。
アレクス・レインは知っている。
官能小説の老舗、フランク書院でソフトな調教ものに定評のある作家だ。
具体的に言うと、いわゆる即堕ち二コマシリーズ、あるいは“ち○ぽには勝てなかったよ”というところか。
夫がある身でありながら、強引に男と関係を結ばれ、そのままズルズルと不倫セックスの快楽の虜になっていく。
感情移入しやすいストーリーは、パトリシアも好きだったりする。
主人公とヒロインは背徳的な関係ながらも愛し合っているのだが、プレイの内容はかなり過激で、オカズとしても申し分ない。
特に、浣腸やア○ルセックスの描写は、何度オカズにしても飽きないほどに巧みだ。
具体的すぎる表現は避けながら、ヒロインが色っぽく悶え苦しみながらも屈辱と快楽に堕ちていくのをうまく表現する。その描き方が秀逸なのだ。
確か、以前ちらっと見た、かの出版社のランキングでは上位だったと記憶している。
それが、よもやリディアだったとは
「本当に…リディアがアレクス・レインなの…?
てっきり男だとばっかり…」
「まあその…自分が男だったらって想像しながらいつも書いてるから…」
リディアは耳まで真っ赤になりながら返答する。
(うーん…。あれだけ書けるのってすごいかも…)
アレクス・レインの作品は、男の感性で読んだ場合、書き方は男性的に思えた。
愛しているからこそ全てを自分のものにしたい。身体の奥、心まで支配したい。奴隷にしたい。
そして、女として一番恥ずかしい姿を自分の前で見せてもらいたい。
その感性は男のものだと思えたのだ。
「ねえ、読ませてもらってもいい?」
「どうぞ…」
リディアの許可を得たパトリシアは、早速ゲラ刷りに目を通し始める。
「いやー…すごく官能的で…エロかった…」
斜め読みしただけだが、パトリシアは真っ赤になっていた。
密かに憧れていた兄嫁は、夫が忙しいせいで三十路の女盛りの身体をもてあましている。
ついに思いを抑えられなくなった主人公は、兄嫁が自分を慰めているところに押し込み、強引に男女の関係になってしまう。
兄嫁はそんな義弟の思いを拒むことができない。
やがて、彼女は女として最も恥ずかしく屈辱的な姿を義弟の見ている前で強制される。
それも愛ゆえの行為だとわかっているから拒むことができない。
ノーパンで買い物に行かされ、自慰をしている姿を動画に撮られ、ついには女としてもっとも恥ずかしい姿を見られてしまう。
そして、愛欲と倒錯のおもむくままア○ルの処女を捧げてしまう。
それだけでなく、密かに主人公のことが好きだった兄嫁の妹も、成り行きで関係を結んでしまう。
プライドもモラルも貞操観念もはぎ取られ、姉妹で身も心も奴隷に堕ちていく。
アレクス・レインの作品は好きだったが、今までの作品にくらべてもさらに官能的だった。それに切ない愛欲の描写が素晴らしかったと思う。
「その…パトリシア…わたしが官能小説を書いてることは秘密にして欲しいの…」
リディアが涙目になりながら懇願してくる。
「もちろん。誰にも言わないよ。安心して」
そう返答したパトリシアは、ふとある可能性に思い当たる。
(もしかして…)
「ねえリディア。
もしかしていじめに抵抗せずにやられっぱなしだったのって、このことがあったから?」
なにか根拠があるわけではないが、パトリシアにはそう思えたのだ。
そして、それは的外れではなかったらしい。
「実はそうなの」とリディアは語り始める。
下手に抵抗して時間を無駄にするより筆を進めていたかった。
裁判で争ったり警察に告訴するとなったら、当然時間が取れなくなる。
万一締め切りに間に合わなかったら、自分を支えてくれる編集部の人たちに申し訳ない。
「それに…」
リディアは一度言葉を切って紅茶を口に含む。
「パトリシアの言うとおり、あいつらは狂った野獣たちだった。
官能小説書いてるなんて…万一知られたらと思うと…」
リディアの言葉に、パトリシアは確かにと思う。
なにか根拠があっていじめをするんじゃない。
他人をいじめ、おとしめることをしないと自分を保てない者たち。
どんなところからもいじめの理由を見つけ出し、やり玉に挙げる。
パトリシアはエグゼニアたちいじめグループの、腐りきった目を思い出す。
もしリディアが官能小説を執筆していると知ったら、いじめのかっこうの理由としていたことは想像に難くない。
いじめがエスカレートするばかりか、リディアの仕事の邪魔をしかねなかったろう。
「本当に大変だったんだね。
でも、だからってやられっぱなしっていうのは…」
「うん。だから、パトリシアには本当に感謝してる。
正直、もうどうしていいかわからなくなってた。
それを助けてくれたのはパトリシアだよ」
まだ顔は赤いままだが、にっこりと笑うリディアに、パトリシアも自然と笑顔になる。
(あの後学院からいろいろ言われたけど、私は間違っていなかった)
パトリシアは改めて胸を張る。
いじめが解決し、学院が謝罪した後、教師たちからいろいろとお節介を焼かれた。
「生徒だけで動くことはなかった」「今後は相談して欲しい」「あまり強硬手段に走りすぎるのはどうなのか」
教師たちとて、自分たちの保身や面子のためだけに言っているわけではなかったろう。
全員が全員、ナッソーのような教師のクズであるわけではない。
パトリシアのことを思って言ってくれているのは理解している。
万一パトリシアの作戦が失敗していたら、もっとひどいいじめが起きていた可能性もあったのだから。
(でも、今は自分は正しかったと言える。
リディアを、こんな素晴らしい作品を守ることができた)
そう思えるのだった。
(でも、ちょっと待てよ)
改めてゲラ刷りに目を通して、さらに過去のアレクス・レインの作品を思い出してみる。
ふと疑問に思うことがあったのだ。
「ねえリディア。
その…あれだ…浣腸とかア○ルの描写がすごく上手なんだけど…。
こだわりとかあるの?」
リディアが、赤く上気した顔をさらに真っ赤にする。
目が泳いでいるのは肯定の証だった。
「ええと…実は読み手のがわだったころ、そういうのが大好きで…」
なにかの枷が外れたのか、真っ赤になりながらもリディアは語る。
浣腸液がゆっくりと意地悪く注ぎ込まれてくる。
限界まで我慢させられて悶え苦しんで、最後には見られながら全部出してしまう。
“見ないで見ないで”と叫ぶ。
そして、お腹の中がきれいなったところで、男の剛直が排泄のための場所に挿入される。
そう言う描写に目がなかった。つい感情移入してしまったのだという。
「自分でも書いてみたいなって思って。
それが、官能小説の新人賞に応募したきっかけだったの」
リディアはパトリシアの目を見ることができないまま、全部を話す。
(本当は、誰かに話したかったのかな?)
パトリシアはそう思う。
官能小説を書いているとは、表だって自慢する事でもないかも知れない。
だが、本人にとっては密かな自慢。
誰かに感想や意見を求めたいこともあったことだろう。
(これは…もしかして…)
パトリシアは、リディアに対する黒くよこしまな感情が、ふつふつと湧いてくるのを感じた。
「ねえ、その…リディアは浣腸された経験あったりする?」
「そ…それは…」
口ごもるリディアだが、パトリシアに「教えてくれないかな」と言われると隠し事はできない。
(ふうん…いいこと聞いたかも…)
パトリシアは妖艶な表情を浮かべ、ぺろりと唇を舐めた。
その日、パトリシアは健康のため町を歩いていた。
貴族の称号を持つ商人の娘とはいっても、箱入りというわけではない。
幼いころから移動は主に徒歩だった。
のんびり歩きながら町の様子を散策するのもなかなか楽しい。
「あら?」
そこで、パトリシアは意外な光景を目にする。
髪型を変えてごまかしているが、その規格外の胸の膨らみは見間違いようがない。
リディアだった。
アラサーと思しいイケメンの男となにやら話しながら歩いている。
気になって後をつけると、二人で個室カフェへと入っていく。
(どう見てもデートだよね…)
ちくん。
パトリシアは胸が痛くなるのを感じる。
(リディアは女の子だし…好きな男ができても不思議はないけど…。
もしかしたら、落ち着いた年上の男の人が好みなのかな…?)
気にし始める止まらなかった。
リディアと自分は愛し合っている。そう思っていた。
リディアを何度も抱いて、愛を囁きあった。
(でもそれって、リディアの心まで私のものにできていなかったってこと?)
切なく、疑心暗鬼に捕らわれたパトリシアは、楽しそうに男と話すリディアの表情が頭から離れなかった。
「やあリディア、こんにちは」
「あ…!パトリシア…?こ…こんにちは…」
パトリシアが声をかけると、個室カフェから出てきたリディアは明らかに動揺していた。
意外にも、一緒にいた男の姿はなくリディア一人だった。
「ねえねえ、一緒にカフェに入っていった人、イケメンだったね。リディアの彼?」
「え…あら…見てたの…」
パトリシアはストレートに質問をぶつけてみる。
別にあの男が彼氏でも気にしていないという調子だが、本当は切なさで胸がつぶれそうだった。
(もしあれが彼氏だって言われたら、私壊れちゃうかも…)
自分はメリーアンやターニャを愛して抱いているのを棚に上げて、パトリシアはそう思う。
「その…誤解しないで。あの人は別に…彼というわけではなくて…」
リディアは完全に目が泳いでいる。
「じゃあ教えてよ。あの人誰なの?リディア」
リディアはしばらく考え込んだ後、口を開く。
「パトリシア、中で話そう。ここじゃなんだから」
そう言って、リディアはパトリシアの手を引いて、今出てきたばかりの個室カフェに引き返す。
「あの人はノイマンさん。出版社の人。わたしの担当の編集さんなの」
紅茶で口を濡らしたリディアはためらいがちに口を開く。
「え…もしかしてリディア、本出すの?すごいじゃない!」
パトリシアは驚きと同時に、意外さも感じていた。
ガリ勉というわけでもないが、いつも勉強しているイメージしかないリディアが本を書いている。
なかなかイメージしづらいことだった。
(なにを書いてるんだろう?
詩かな?あるいは漫画?恋愛小説?ひょっとして、学術書とか?)
パトリシアはいろいろ考えを巡らせる。
だが、リディアはなぜか顔を真っ赤にしている。
「ね…ねえリディア?差し支えなければ、どんな本を出すのか教えてくれない?」
リディアの事情を斟酌して、パトリシアは控えめなトーンでお願いする。
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「ええと…こ…これなの…」
リディアが差し出したものは、なにかの印刷物のようだった。
(ああ、ゲラ刷りというやつか)
仮に印刷してその出来具合を見るものだ。パトリシアは納得する。
「え…これって…」
パトリシアはタイトルを見て凍り付く。
アレクス・レイン著。
“黒下着兄嫁の淫らな美肛”
しばらく、パトリシアは固まったまま動けなかった。
アレクス・レインは知っている。
官能小説の老舗、フランク書院でソフトな調教ものに定評のある作家だ。
具体的に言うと、いわゆる即堕ち二コマシリーズ、あるいは“ち○ぽには勝てなかったよ”というところか。
夫がある身でありながら、強引に男と関係を結ばれ、そのままズルズルと不倫セックスの快楽の虜になっていく。
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主人公とヒロインは背徳的な関係ながらも愛し合っているのだが、プレイの内容はかなり過激で、オカズとしても申し分ない。
特に、浣腸やア○ルセックスの描写は、何度オカズにしても飽きないほどに巧みだ。
具体的すぎる表現は避けながら、ヒロインが色っぽく悶え苦しみながらも屈辱と快楽に堕ちていくのをうまく表現する。その描き方が秀逸なのだ。
確か、以前ちらっと見た、かの出版社のランキングでは上位だったと記憶している。
それが、よもやリディアだったとは
「本当に…リディアがアレクス・レインなの…?
てっきり男だとばっかり…」
「まあその…自分が男だったらって想像しながらいつも書いてるから…」
リディアは耳まで真っ赤になりながら返答する。
(うーん…。あれだけ書けるのってすごいかも…)
アレクス・レインの作品は、男の感性で読んだ場合、書き方は男性的に思えた。
愛しているからこそ全てを自分のものにしたい。身体の奥、心まで支配したい。奴隷にしたい。
そして、女として一番恥ずかしい姿を自分の前で見せてもらいたい。
その感性は男のものだと思えたのだ。
「ねえ、読ませてもらってもいい?」
「どうぞ…」
リディアの許可を得たパトリシアは、早速ゲラ刷りに目を通し始める。
「いやー…すごく官能的で…エロかった…」
斜め読みしただけだが、パトリシアは真っ赤になっていた。
密かに憧れていた兄嫁は、夫が忙しいせいで三十路の女盛りの身体をもてあましている。
ついに思いを抑えられなくなった主人公は、兄嫁が自分を慰めているところに押し込み、強引に男女の関係になってしまう。
兄嫁はそんな義弟の思いを拒むことができない。
やがて、彼女は女として最も恥ずかしく屈辱的な姿を義弟の見ている前で強制される。
それも愛ゆえの行為だとわかっているから拒むことができない。
ノーパンで買い物に行かされ、自慰をしている姿を動画に撮られ、ついには女としてもっとも恥ずかしい姿を見られてしまう。
そして、愛欲と倒錯のおもむくままア○ルの処女を捧げてしまう。
それだけでなく、密かに主人公のことが好きだった兄嫁の妹も、成り行きで関係を結んでしまう。
プライドもモラルも貞操観念もはぎ取られ、姉妹で身も心も奴隷に堕ちていく。
アレクス・レインの作品は好きだったが、今までの作品にくらべてもさらに官能的だった。それに切ない愛欲の描写が素晴らしかったと思う。
「その…パトリシア…わたしが官能小説を書いてることは秘密にして欲しいの…」
リディアが涙目になりながら懇願してくる。
「もちろん。誰にも言わないよ。安心して」
そう返答したパトリシアは、ふとある可能性に思い当たる。
(もしかして…)
「ねえリディア。
もしかしていじめに抵抗せずにやられっぱなしだったのって、このことがあったから?」
なにか根拠があるわけではないが、パトリシアにはそう思えたのだ。
そして、それは的外れではなかったらしい。
「実はそうなの」とリディアは語り始める。
下手に抵抗して時間を無駄にするより筆を進めていたかった。
裁判で争ったり警察に告訴するとなったら、当然時間が取れなくなる。
万一締め切りに間に合わなかったら、自分を支えてくれる編集部の人たちに申し訳ない。
「それに…」
リディアは一度言葉を切って紅茶を口に含む。
「パトリシアの言うとおり、あいつらは狂った野獣たちだった。
官能小説書いてるなんて…万一知られたらと思うと…」
リディアの言葉に、パトリシアは確かにと思う。
なにか根拠があっていじめをするんじゃない。
他人をいじめ、おとしめることをしないと自分を保てない者たち。
どんなところからもいじめの理由を見つけ出し、やり玉に挙げる。
パトリシアはエグゼニアたちいじめグループの、腐りきった目を思い出す。
もしリディアが官能小説を執筆していると知ったら、いじめのかっこうの理由としていたことは想像に難くない。
いじめがエスカレートするばかりか、リディアの仕事の邪魔をしかねなかったろう。
「本当に大変だったんだね。
でも、だからってやられっぱなしっていうのは…」
「うん。だから、パトリシアには本当に感謝してる。
正直、もうどうしていいかわからなくなってた。
それを助けてくれたのはパトリシアだよ」
まだ顔は赤いままだが、にっこりと笑うリディアに、パトリシアも自然と笑顔になる。
(あの後学院からいろいろ言われたけど、私は間違っていなかった)
パトリシアは改めて胸を張る。
いじめが解決し、学院が謝罪した後、教師たちからいろいろとお節介を焼かれた。
「生徒だけで動くことはなかった」「今後は相談して欲しい」「あまり強硬手段に走りすぎるのはどうなのか」
教師たちとて、自分たちの保身や面子のためだけに言っているわけではなかったろう。
全員が全員、ナッソーのような教師のクズであるわけではない。
パトリシアのことを思って言ってくれているのは理解している。
万一パトリシアの作戦が失敗していたら、もっとひどいいじめが起きていた可能性もあったのだから。
(でも、今は自分は正しかったと言える。
リディアを、こんな素晴らしい作品を守ることができた)
そう思えるのだった。
(でも、ちょっと待てよ)
改めてゲラ刷りに目を通して、さらに過去のアレクス・レインの作品を思い出してみる。
ふと疑問に思うことがあったのだ。
「ねえリディア。
その…あれだ…浣腸とかア○ルの描写がすごく上手なんだけど…。
こだわりとかあるの?」
リディアが、赤く上気した顔をさらに真っ赤にする。
目が泳いでいるのは肯定の証だった。
「ええと…実は読み手のがわだったころ、そういうのが大好きで…」
なにかの枷が外れたのか、真っ赤になりながらもリディアは語る。
浣腸液がゆっくりと意地悪く注ぎ込まれてくる。
限界まで我慢させられて悶え苦しんで、最後には見られながら全部出してしまう。
“見ないで見ないで”と叫ぶ。
そして、お腹の中がきれいなったところで、男の剛直が排泄のための場所に挿入される。
そう言う描写に目がなかった。つい感情移入してしまったのだという。
「自分でも書いてみたいなって思って。
それが、官能小説の新人賞に応募したきっかけだったの」
リディアはパトリシアの目を見ることができないまま、全部を話す。
(本当は、誰かに話したかったのかな?)
パトリシアはそう思う。
官能小説を書いているとは、表だって自慢する事でもないかも知れない。
だが、本人にとっては密かな自慢。
誰かに感想や意見を求めたいこともあったことだろう。
(これは…もしかして…)
パトリシアは、リディアに対する黒くよこしまな感情が、ふつふつと湧いてくるのを感じた。
「ねえ、その…リディアは浣腸された経験あったりする?」
「そ…それは…」
口ごもるリディアだが、パトリシアに「教えてくれないかな」と言われると隠し事はできない。
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