百合ハーレムファンタジー 婚約破棄された令嬢に転生したけど心は男のままだった

ブラックウォーター

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孕ませ百合ハーレム

幸せに向けて駆ける

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エピローグ

 「ちょっとごめんなさいよ!通して!」
 パトリシアは首都の中央通りを必死で走っていた。
 通行人の子供や老人をサッカー選手のようによけながら全力疾走する。
 「おーい!そっち行っちゃだめだ!戻ってこーい!」
 パトリシアは必死で呼びかけるが、追跡している対象は聞こえていないようだった。
 パトリシアはどんどん引き離されてしまう。
 「まずい!あの方向は…」
 息が切れて座り込みそうになるが、このまま投げ出すわけにはいかない。
 パトリシアは身体にむち打って走るのだった。

 首都中央、月照苑。
 一泊で労働者の月給が飛ぶと言われる高級ホテルの最上階で、ある非公式な会議が行われていた。
 「アメティスト島は我が国固有の領土です。
 貴国の船の領海侵犯をやめさせて頂きたい」
 「我が国の考えは違いますな。あの島は我が国の主権下にあると認識します。
 民間船舶の往来をやめろとは言いかねます」
 そこで行われているのは、公国と隣国ジルコニアとの外交交渉だった。
 公国の外務次官であるファルカスと、ジルコニア大使であるスダチェンコの話し合いは平行線だった。
 アメティスト島は南の虹海にある小島で、公国とジルコニア双方が領有権を主張している島だった。
 最近政権の支持率が低迷気味のジルコニアは、強気の外交を行うことで国民に誇りを与えたいらしい。
 今にも軍艦を差し向けると言い出しかねない強硬ぶりだ。
 「話し合いが決裂して困るのはそちらで…ん?」
 部屋の外のバルコニーになにかが降り立ったのが視界の隅に見える。
 スダチェンコはバルコニーを見やって飛び上がる。
 そこには二頭の巨大なドラゴンが身体を寄せ合っていたからだ。
 「な…ななななな…!」
 「なんでドラゴンが…」
 スダチェンコもファルカスも、開いた口が塞がらなかった。
 なんでこんなところにドラゴンが?逃げた方がいいか?しかし、下手に背中を見せると襲われるかもしれないし…。
 「おい君、ここは立ち入り禁止だぞ」
 「すみません、ドラゴンがお邪魔してるんです!
 帰らせますから通して下さい!お願いです!」
 その時、外がにわかに騒がしくなる。
 ドアが開き、一人の少女が慌ただしく駆け込んでくる。
 「はあ…はあ…やっと追いついた…」
 少女は汗をかきながら肩で息をしている。
 白い絹のブラウスと、ベージュの面のパンツルックは汗で身体に張り付いている。
 「君は誰だ…?」
 「ここでなにをしてる?」
 突然の部外者の侵入に、スダチェンコもファルカスもただ混乱していた。
 少女はそれには答えず、バルコニーに歩いて行く。
 そして、腰からダガーらしいものを抜くと、横笛を演奏するような形で吹き始める。
 バルコニーで肩を寄せ合っていた二頭のドラゴンが、ダガーの音色に反応する。
 「ちょっとあんたたち!
 こんなところで始めちゃだめだよ!子供が見てるだろ!
 他でやって他で!」
 銀と黒と緑のトリコロールのドラゴンが、難しい顔をしたような気がした。
 そばにいる金色の鱗をもつドラゴンと顔を見合わせる。
 「みんながびっくりしてるでしょ!
 とにかく、ここはホテルなんだから、ただで利用しちゃだめ!」
 少女の怒鳴り声に、二頭のドラゴンは「めんどくさいなあ」とため息をついたように見えた。
 だが、言葉は通じたらしい。翼を拡げ、郊外の方へと飛び去る。
 「まったく、ドラゴンのイチャコラとか、誰得なのよ…」
 少女は呆れた様子で、ダガーを腰のさやに戻す。
 ダガーには管楽器そのもののバルブがいくつもついている。
 あれで演奏していたのか、とスダチェンコは気づく。
 「いやあ、皆さん。
 私の相棒がご迷惑をおかけして申し訳ありません。
 発情期なもんですから…」
 少女は申し訳なさそうに頭を下げる。
 「い…いや、取りあえず帰るように言ってくれたのは礼を言うよ」
 「そ…そうだな。もしあんなところに巣を作られたらホテルも困るだろうし」
 あっけにとられているファルカスとスダチェンコは、そういうしかなかった。
 「本当にすみませんでした。
 今後はきつく言っておきますので。
 お邪魔致しました」
 そう言って少女はその場を辞する。
 後に残された外交官たちはただぽかんとするだけだった。
 「貴国ではドラゴンをペットとして飼うのか…?」
 「よして下さい!あんなでかくて物騒なペット、我が家では無理だ」
 スダチェンコとファルカスは、ただ顔を見合わせるばかりだった。
 アメティスト島の領有問題は、結局うやむやになるのだった。

 「参ったな。こんな大事な日に」
 パトリシアは走っていた。
 本来なら首都を股にかけてマラソンをする予定などなかったのだが、今朝になって警察から応援要請がかかったのだ。
 「ドラゴンをなんとかしてくれんか?みんなが不安がってるし…あれはちょっとなあ」
 龍帝が発情期を迎えたらしく、飛来した黄金のグレイトドラゴンの求愛を受けて、イチャつきながら首都中を飛び回っていたのだ。
 パトリシアは本日の予定に遅刻するのをやむなしとして、二頭を追って走り回るはめになったのだった。
 そして、よりによってホテルのバルコニーで事に及ぼうとするのを辛うじて阻止した。
 「龍帝がメスだったのは意外だったな。
 営巣するとなるとさらにエサが必要になるのか?どうしたものか?」
 最初てっきりオスだと思って龍帝と名付けたが、実はメスであったらしい。
 というのも、番であるグレイトドラゴンが、爬虫類によく似た収納式の陰茎を備えていたからだ。それはもう立派だった。
 奏獣剣を演奏して止めていなければ、二頭は交尾をしたまま終わるまで抜けなくなっていた可能性があった。
 (感性が男でなかったら、あんなもの見たら気絶してたかもな)
 まるでなにかの凶器のような禍々しい形のものを思い出して、パトリシアは青くなる。
 あんなもの入れて痛くないのかと下世話なことを考えてしまうのだ。
 (思考回路が完全にオッサンだな。まあ、心が男だからしょうがないけど)
 そんなことを思う。
 それよりも、問題は交尾の後だった。
 ドラゴンの習性についてはわかっていないこと多い。が、取りあえず卵がかえって雛が生まれたら、すさまじい大飯食らいだということは想像がつく。
 「どうやって養ったもんかな…」
 パトリシアは走りながら頭を抱えてしまった。
 前世の記憶を参考にしても、どうもいい案が浮かばないのだ。
 「ま、それよりも自分のことが先か」
 そんなことをつぶやきながら、パトリシアは目的地の総合病院に向けて走るのだった。

 「みんな、お待たせ!」
 病院のロビーに駆け込んだパトリシアは、前屈して肩で息をする。
 「うわ、すごい汗。どうしたの?」
 メリーアンが心配そうに声をかけてくる。
 「いや、後で話すよ…。話せば長くなりそうでね…」
 実際、どこから話したものかすぐには判断がつかなかった。
 (こんな大事な日に手を患わせないでくれ)
 パトリシアは内心で龍帝とグレイトドラゴンに悪態をついた。
 呼吸を整えたパトリシアは、四人の妻たちに向き合う。
 メリーアン、ターニャ、リディア、アリサは、四人とも胸に玉のような赤ん坊を抱いている。
 四人はほぼ同じ時期に出産し、本日めでたく退院となったのだ。
 しかも、偶然にも四人とも女の子だった。
 お産は幸い全員安産で、産後の肥立ちも問題なし。
 「本当に、お母さんも赤ちゃんも健康で良かったよ」
 パトリシアは自然と笑顔になる。
 分娩室から母親のうめきや悲鳴が聞こえてきたときは、どうしようかと思ったくらいだ。
 女の子なのに父親になるというのは、けっこう大変だ。
 「本当に感慨深いな」
 四人の母親が左手に薬指にはめている指輪を見て思う。
 全員の妊娠がわかると、パトリシアと愛おしい者たちは、五人で盛大に結婚式を挙げた。
 幸いこの国では百合には寛容な風潮が強い。
 みな祝福してくれた。
 問題は入籍だった。この国では同性婚はできても、重婚は法律上認められていない。
 「仕方ない、魔法で解決しましょう」
 アリサがさらりとそう言った。
 いわゆる認識操作魔法で、パトリシアが四人全員と入籍してもおかしくないと、役所の人間にも周囲にも錯覚させる。
 かなり高度で、魔法としては危険で不健全なものだったが、五人の幸せのためならと意思統一がされた。
 そんなわけで、パトリシアは四人全員と合法的に籍を入れることが叶ったのだった。
 「まあ、生まれるときは本当に苦しかったですけどね」
 とメリーアン。
 彼女の赤ん坊は、髪質こそ父親似だが、顔つきはお母さん似だ。
 「本当。あんまり記憶ないけど、“ぎゃーっ!”とか叫んでたかもね」
 とターニャ。
 胸に抱く子供は、一目で彼女の子とわかるほどそっくりだ。
 「でも、生まれてきた赤ちゃんとても可愛くて、嬉しかったな」
 とリディア。
 彼女の赤ん坊は、どちらかというとパトリシアによく似ている。
 「でも、出産の後体力が落ちて大変だったな。今後も運動するようにしないと」
 とアリサ。
 彼女が抱いている子は、褐色の肌と笹穂耳、銀髪とダークエルフそのものの姿だ。
 父親に似たところとしては、目の色が同じというところか。
 「いやあ、本当に、みんなよく頑張ってくれました。
 元気な赤ちゃんを産んでくれて、本当に嬉しいよ」
 パトリシアは感慨深い気持ちでいっぱいだった。
 
 帰りの馬車の中、「やっと退院できた」「いろいろやってみたいことがある」と、メリーアンたちは話が弾んでいた。
 「次のコスプレイベントまでに体型を元に戻さないと。
 この子が成長したら母娘でコスプレしたいな」
 パトリシアは、母になってもオタまっしぐららしい。
 「子育てのこと、子供の健康管理のこと、ちゃんと勉強しないとな」
 いつも勉強熱心なターニャは、子育てでも例外ではないらしい。
 「うーん…この子ちゃんと飲んでるのにおっぱいが張るんだよねえ」
 リディアは、子供がちゃんと栄養補給できているか心配らしい。その規格外の膨らみ、容量が多すぎて飲みきれないんじゃ?と密かに突っ込みが入る。
 「故郷の両親にもこの子の顔を見せてあげたいわね」
 アリサは、お腹を痛めて生んだ子供を自慢したいらしい。
 (本当にいいな、この雰囲気)
 楽しそうに話す妻たちを見て、パトリシアはそう思う。
 前世の記憶が蘇って、百合ち○ぽを得られて本当に良かった。
 そうでなければ、この幸せを手にすることはなかったのだから。
 が…。
 「そうだパトリシア、退院したんだから、今夜は、ね?」
 「そうだね。しばらくしてないから…ちょっと欲求不満で…」
 「うん。パトリシアの百合ち○ぽが恋しかったよ」
 「あたしたちもサービスするから、可愛がってね」
 母親らしい笑顔で談笑していた四人が、急に淫らで妖艶な表情を浮かべる。
 (出産すると感度が良くなるって言うしなあ…。
 まあ、私もさびしかったけど…) 
 もともとスケベだった妻たちが、さらに淫らになる。
 自分の体がもつかどうか。パトリシアは心配になる。
 だが、答えは決まっていた。
 「もちろん、みんな愛してあげるよ」
 パトリシアは、笑顔でそう宣言するのだった。

  了
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感想 6

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みんなの感想(6件)

YO
2018.08.28 YO
ネタバレ含む
2018.08.29 ブラックウォーター

感想ありがとうございます。
わかりましたか。
実は龍帝は、あの戦隊の緑の戦士の守護獣が元ネタです。

解除
佐藤一郎
2018.08.28 佐藤一郎
ネタバレ含む
2018.08.28 ブラックウォーター

恐れ入ります。
神妙には、観念しろというような意味です。
時代劇ではわりと使われます。
妊娠は、経済的にはみな金持ちの娘なので問題ないはず。
妊娠中も、愛の営みとしての行為は重要なのです!

解除
佐藤一郎
2018.08.27 佐藤一郎
ネタバレ含む
2018.08.28 ブラックウォーター

ありがとうございます。
マックスは金目当てのろくでなしなので、金持ちのお嬢様なら誰でも良かったのです。
学院は資産家の子供ばかりが通っているので、片っ端から粉をかけるも相手にされなかったのでしょう。
百合ハーレムの女の子たち以外も口説いているはず。
これからも使える作品をお届けしていきます。

解除

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