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01 尾張、美濃の制覇編

ロケットおっぱいと尾張統一

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03

 一夜明けて。墜落したOH-1の回収作業は順調に進み、乗員2名もヘリによって沖合に停泊する任務部隊に帰っていった。
 「ほら、危ないから近づかないで!」
 今正にCH-47JAによって吊り上げられ、回収されようとしているOH-1。物珍しさに、周辺の村からも人が集まっている。自衛隊員たちは彼らが作業の邪魔にならないように現場を封鎖し、大声で「下がって」「近づかないで」「危ないから」と連呼している。
 一方、偵察救難隊指揮官の田宮は、任務部隊の旗艦である“はぐろ”とヘリの無線で連絡を取っていた。無線の相手は陸自の統括である木場一佐だ。本来なら直属の上司を経由して報告する予定だったが、とにかく情報が欲しいという司令部の意向で直接会話することになった。
 『そうか、さしあたって現地人と友好的な関係を結ぶことはできたか』
 「まあ、手放しで信用するのはまだ危険とは思いますが。
 ただ、あちらさんも状況は厳しい。今は他人を支援できる余裕はないそうです。せめてこの尾張の統一がならないかぎりはと…」
 木場が無線の向こうでうなるのが聞こえる。
 『今の我々には受け入れ先が必要だ。尾張の統一くらいなら協力するのもやぶさかではないと思うが、君はどう思うね?』
 田宮は少し考える。この場所、この時代は、自分たちが暮らしていた国、時間の過去というわけではなさそうだ。パラレルワールドか異世界か。
 なんせ織田信長が赤い髪と大きく柔らかい胸の膨らみを持つすごい美少女なのだから。どういうわけか。
 とならばタイムパラドクスの類いを心配する必要もない。さらに言えば、シビリアンコントロールの問題も云々する必要はないだろう。なにせここには国会も内閣も防衛相もない。今のところ孤立しているから、全ては自分たちの責任で判断することになる。
 だが…。
 「たしかにおっしゃるとおり、“尾張の統一”に限ればそうです」
 『わかっているとも。その先のことも考えておく必要がある。そうだな?』
 田宮のほのめかしに、木場は言葉遊びは不要とばかりに端的に応じる。
 何かがちがうとは言え、ここは戦国時代の日本だ。尾張を統一すればそれで万々歳ということは絶対にない。周辺からの侵略を警戒しなければならない。そして、侵略を許さないために一番効率のいい方法はこちらから敵地に攻め込んで無力化することだ。
 さらに言うなら、織田上総介信長と名乗った赤毛の少女が自分たちの知る織田信長とパラレルな存在であるとするなら、いずれは美濃、伊勢に進出し、そして天下布武を実行しようとすることだろう。
 そうなったとき、自分たちも無関係ではいられない。受け入れの見返りとして、必ず協力を求められる。
 自分たちの知る歴史を顧みれば、織田信長は周辺全てを敵に回したに等しい状況を戦い抜き、最終的になんとか勝てたと言えた。
 その覇業に協力する。それが自分たちに可能か。そして可能だとしてやるべきか。難しいところと言えた。
 「まずいことに、この世界での東海、甲信地方は我々が知る戦国時代ほど安定していません。尾張統一がなった後は、どこが敵になるか予想がつきません。
 というより、尾張を統一したらしたで周り全てが敵になると思った方がいいかと」
 無線の向こうで木場が考え込むのが伝わって来る。
 『わかった。懸念は残るが、今はとにかく尾張に我々を受け入れて頂くのが最優先だ。
 そうしないと次のことも考えられないのも確かだ。
 田宮三尉。君の部隊には新たな任務を命じる。
 尾張を織田信長氏の元に統一し、我々と友好的な関係を結ぶためにあらゆる行動を許可する』
 「は、了解しました。
 通信終わります」
 田宮はそう言って無線のヘッドセットをフックにかける。
 「さて、当面やるべきことは決まっているが…」
 田宮はそう言って、CH-47JAによって運ばれてきた車両を眺める。
 高機動車。パジェロこと73式小型トラック。RWS(遠隔操作式無人砲塔)の50口径重機関銃を屋根に装備した軽装甲機動車。
 この3台が偵察救難隊の陸上戦力だった。
 これだけあれば、尾張の統一は力尽くでも可能なはずだった。信長は順調に尾張国内の反抗分子を制圧しつつある。反抗分子の1つは、昨日田宮率いる偵察救難隊が殲滅したところだ。残る組織的な反抗勢力は、尾張北部の城を拠点とする勢力のみ。
 だが、力でその勢力をつぶせない事情があったのだ。
 それは他でもない、信長の意向だった。

 「では敵将をなんとしても生かして捕まえたいと?」
 「うむ。あやつの武勇と器量は必ず必要になる。殺すのは惜しい。
 それに、恭順しなかったとして、首をはねるにしろ追放するにしろ、まずきちんと話をしてからと思っているのだ」
 信長の宝石のような目は真剣だった。田宮は、“効率を考えれば殲滅してしまうべし”と主張するタイミングを逸してしまう。
 「理由を伺ってもよろしいですか?」
 「あやつが私に怒りを抱いたのは他でもない。わが妹信行を私が討ったからだ。
 あやつは信行の後見役でもあり、小さいころから仲も良かった。
 尾張統一のために信行を捨て置くわけにはいかなかった。それは事実だし、私も後悔はしておらん。
 だが、理屈ではないのだ。大切な物を奪われた無念、悲しみというものは」
 信長が言うには、以前なら敵将が信行を討たれた恨みを抱えていても交渉や恫喝で何とかなったかも知れない。が、“邪気”に取り憑かれてしまった今、言葉が通じる状態ではないという。
 「あやつが“邪気”に取り憑かれたと聞いた時、私も一度は諦めた。
 だが、お前ならばやつを“邪気”から解放できよう。私の時のようにな」
 田宮はなるほどと思う。
 歴史の成績はいつも良かったが、戦国時代のことは戦国シュミレーションゲームを想起した方が理解しやすい。どの勢力で天下統一を目指すにせよ、人材は重要だ。例え一時は敵であっても、味方として用いられるなら用いるに越したことはない。
 信長は人材の確保を望んでいるというわけだ。先々を見越して。
 「ただ、もし物の怪と化してしまった場合、生け捕るのは大変ですね?俺も誰かさんに殺されかけましたから」
 「うぐ…それを言わないでくれ。
 だから知に相談しているのではないか。今回の作戦に関して、借りたいのは貴君らの力より知恵なのだ。敵の拠点を落とすところまでは我らの力だけで充分。問題は敵将をどうするかだ」
 「わかりました。乏しい知恵を絞ってみましょう。
 ところで、その敵将の名は?」
 「柴田権六勝家だ」
 その名前に、田宮は得心がいく。
 自分たちの知る歴史でも猛将にして優れた政治家として知られる。信長がなんとしても味方に引き入れたいと考えるのも当然と思えたのだ。
 (しかし、かの人物女性のようだが、“鬼柴田”“かかれ柴田”のあだ名を頂戴しているのは我々の歴史と同じか。
 やっぱり女子プロレスラーか重量挙げの選手みたいにごつい女なのかね?)
 田宮は漫画的に、マッチョで男とほとんど見分けがつかない女を想像してしまうのだった。

04

 2日後。
敵拠点への攻撃は速やかに開始される。すでに連日信長の軍勢による攻撃が繰り返され、敵軍は疲労している。拠点を落とすこと自体は手間がかからないはずだった。
 「敵はこちらの思惑通り打って出てきていますね?」
 「もちろんですとも。この鬼五郎左にお任せあれ」
 田宮の言葉に応答したのは、この作戦の責任者である丹羽長秀だった。一見すると温和な中年の男という印象だが、自信に満ちた表情は歴戦の将の貫禄を感じさせる。
 実際作戦は予定通りに進んでいた。こちらは今朝からふき始めた風を利用して、あの手この手で火攻めをかけている。火はたちまち燃え広がり、敵は拠点にこもることができずに不利を承知で打って出て来るほかないのだ。
 「丹羽殿、確認願います。あの馬印でしょうか?」
 「失礼…。む、間違いない!権六の馬印です!」
 田宮から双眼鏡を受け取った長秀が敵将の馬印を確認する。
 「しかし、厄介なことになってますな」
 「同感ですな」
 敵の軍勢を眺めた田宮と長秀はそろって渋面を浮かべる。敵の軍勢は大半が“邪気”に取り憑かれて“鬼”と化している。矢を受けようが槍で突かれようが、かまわずに進んでくるのだ。こちらの兵たちも弱点である頭を狙った攻撃を行っているが、そうそう当てられるものではない。
 「よし、敵の数も所期の目標まで減らした。距離も良し。
 捕獲作戦開始だ!」
 田宮はそう言って、信号弾を打ち上げる。
 打ち合わせ通り、信長が寡兵を率いて勝家の軍勢の前を横切る。
 「権六!私はここだぞ!」
 そう言った信長は手にした火縄銃を敵陣に向けて放つ。驚いたことに、その銃撃は馬印をかすめて大きく揺さぶった。火縄銃であることを考えると恐るべき腕だった。
 挑発としてはそれで充分だった。
 「ノブナガアアアアアッ!」
 遠目にもわかった。鎧兜をまとった将と思しい人影が、怖ろしい声を発しながら変貌し始めたのだ。
 身体はみるみる大きくなり、4メートルはあろうかという筋骨逞しい体格に変わって行く。全身には見事な毛並みが生えて、大型の肉食動物のような風体になる。きれいな毛並みに覆われた見事な耳としっぽが印象的だが、秋葉原のネコミミメイドさんのようでは全くない。
 どちらかと言えば劇団四季のミュージカルに登場する、猫らしく特殊メイクをした役者というところか。まあ、大きさと剣呑さはその比ではないが。
 「ノブナガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
 物の怪と化した勝家は、人間離れした速さで疾走し、信長との距離を詰めていく。矢を射かけ、槍を突き出して進路を阻もうとする兵たちが、まるで紙細工のようになぎ倒され、はじき飛ばされる。
 「隊長、あれやばいんじゃ…?」
 「俺たちの出番はまだだ!」
 側に控えている小野陸士長が89式小銃を構えようとするのを、田宮は制止する。自衛隊とて無限の力を持つわけではない。この程度の難局を切り抜けられなければ、信長に天下布武など到底覚束ないだろう。
 だが、そうしている間にも、勝家は地面を蹴って信長に跳びかかろうとする。
 「かかったな」
 「!?」
 だがその瞬間、信長が不適な笑みを浮かべる。そして、勝家は突然体が宙に浮く感覚を覚え、次いですさまじい衝撃を感じる。
 信長が手をつかねているように見えたのは罠だった。兵たちが倒されて進退窮まっているように見せかけ、勝家をいくつか堀った落とし穴に誘い込む。古典的だし、あからさますぎて疑われはしないかと心配したが、うまく行った。“邪気”に取り憑かれ、理性も英知も失って獣となり果てていた勝家に、罠にかけられる危険性を想像することはできなかったらしい。
 「予定通りだ!行くぞ!」
 勝家が落とし穴に落ちたことを確認した田宮は、部下3名を連れて勝家の側に走り寄る。
 「今だ!権六を捕らえよ!」
 信長の合図で、兵たちが勝家の捕獲にかかる。竹と荒縄で作られた捕獲棒を持った兵たちが勝家の首や腕を捕らえにかかる。
 これこそが、信長が自衛隊に求めた“知恵”だった。物の怪と化した勝家をできるだけ傷つけずに捕らえたい。信長の要求に、田宮が考えた策がこの捕獲棒だった。
 太さのちがう2本の竹を組み合わせ、中に輪っか状にした荒縄を通す。竿の後端、細い方の竹を引くと、戦端に突き出た縄が締まり、腕や首を締め付けることができるという構造だ。
 「腰を落とせ!はね飛ばされるな!」
 兵たちは首尾良く勝家の首と両腕を拘束するが、大型の肉食獣なみの力を持つ物の怪は一筋縄ではいかなかった。
 暴れる勝家に、兵たちは棒を放さず、かつ体ごと持ち上げられないようにするだけで精一杯だった。両の肘と手首を4本の捕獲棒で拘束されているにも関わらず、勝家は逞しい腕を振り回して逃れようと暴れる。
 「うわああああああああああああっ!」
 ついに、右腕を拘束していた兵2人が力任せに持ち上げられ、そのまま遠心力によって投げ飛ばされてしまう。勝家は自由になった右手を使って、まずは落とし穴から出ようとする。
 「なんの!まだだあ!」
 だが、その時信長が右手首に巻き付いた捕獲棒を掴み、泥だらけになりながらも勝家の右手を再度捕らえる。油断していた勝家は、右腕を完全に伸ばされたまま拘束されてしまう。柔道やレスリングの決め技で、腕を伸ばされたまま決められてしまうとまず外すことができないのと同じだ。勝家は動きが取れなくなってしまう。
 「知!今だ!勝家の胸を!」
 「りょ…了解!ごめん!」
 田宮は信長の指示に応じて勝家に走りより、胸の膨らみをためらいがちにつかむ。
 「きゃあああああああああーーーーーーーーーーっ!」
 先ほどまでの低く不気味な声とは打って変わって、勝家が黄色い悲鳴を上げる。
 「うおっ!」
 同時に、勝家の膨らみをつかんだ田宮の指の間から“邪気”がものすごい勢いで抜けていく。黒いガスとも液体とも影ともつかない、不気味でおぞましいものがまるでスプリンクラーのような勢いで放出されていく。
 「あ…あああ…」
 同時に、美しい毛並みに覆われた巨大な肉食獣のような姿だった勝家が、急速に人の姿に戻っていく。体は小さくなり、全身を覆っていた毛も、立派な耳も頑丈そうなしっぽも消えていく。
 “邪気”はやがて勢いを弱めていき、ついに放出は収まる。
 “邪気”を出し切った後は、なにもなかったように裸の女の姿があるだけだった。
 人間の姿に戻った勝家は、意外なほどの色白の美人だった。
背は田宮より高く、175センチはあるだろうか。肩幅が広く、全身が筋肉で引き締まってしなやかだ。
 とはいえ、黒くみずみずしい長い髪、高級な磁器のように白く美しい肌、そして何より、大きく張りのある胸の膨らみは充分女らしい。つんと上を向いた弾丸型の胸の膨らみ、言わば”ロケットおっぱい”など田宮にとって見るのは初めてで、目を奪われる。
 「私は…一体なにを…?」
 勝家は、今まで自分が何をしていたのか自覚がないらしい。が、取りあえず田宮に胸を揉まれていることはわかったらしい。
 「あ…あの…。離してもらえないだろうか…?」
 「あ…ああ…ごめん」
 田宮は慌てて勝家の膨らみから手を引っ込める。“名残惜しいなんて断じて思っていないぞ”と、心の中で誰ともなく言い訳をしながら。
 「勝家、そんな姿ではなんだ。取りあえずこれを着るがいい」
 信長がそう言って羽織を差し出す。だが、勝家は受け取ろうとしない。
 「信長様…。それには及びません。私は謀反人。この場でこの首お召し下さい」
 「私に使えるのは嫌か?それとも、あんな醜く理性をなくした化け物になり果てていた自分が恥ずかしいか?はたまた、信行のいない世に生きていても仕方がないか?」
 被せられた信長の言葉に、勝家ははっとして顔を上げる。“それは逃げだ”と言外に付け加えられていることを察したからだ。
 「謀反人として罪を償う気があるなら、生きて私に仕えよ。私とともに歩め。私のために力を尽くせ!
 それがお前への罰だ。いいな?」
 信長の言葉に勝家は困惑した顔になる。
 だが、すぐに四の五の考えていても仕方ないと腹を括った。生き延びたなら、次に何をするか考えなければならない。そして、主である信長が死ぬことを許さず、生きて自分のために働けというなら、それは是非もないことなのだ。
 ついでに言うなら、どれだけ辛くても恥ずかしくても惨めでも、生きられるものなら生きたいという素直な気持ちもあった。
 自分を邪気から解放した、まだら模様の服をまとった見慣れない男にも興味があったこともある。
 「は。柴田権六勝家。今このときよりこの体と心、信長様に捧げます」
 勝家は信長から羽織を受け取って袖を通すと、平伏して忠誠を誓う。
 「うむ。しっかり励むように。
 早速だが支度をしろ。清洲城に帰るぞ」
 「は!」
 信長の言葉に従い、勝家は荷物をまとめるために一度下がる。
 その背中には、先ほどまでの沈みきった雰囲気はなかった。
 あれなら大丈夫。恩讐を乗り越えて、信長のために力を尽くしてくれるだろう。信長と勝家のことをよく知っているわけではないが、田宮にはそう思えたのだった。
 さらに、勝家が“邪気”から解放されたのと連動するように、“鬼”と化していた反乱兵たちは息絶えるか元に戻っていく。
 戦いは決した。ここに尾張統一がなったのである。

05

 「さて、知。勝家のおっぱいはどんな感触だった?」
 「え、なにを藪から棒に…?」
 「いいから言うてみい」
 信長のぶしつけな質問に田宮は面食らうが、実を言えば勝家の素晴らしい膨らみの感触を言葉にしたい気持ちはあった。というより、日記につけておきたいほどの素敵なさわり心地だったのだ。
 「ええと…大きいのに張りがあってぷよぷよ。指が押し返されるようでした。ついでにけっこう重かったです」
 「ほう、私のおっぱいとどちらが素敵だったかな?」
 「甲乙つけられません!(キリッ!)
 いで!」
 即答した田宮の尻を、信長が思いきりつねる。
 「そこは嘘でも“信長のおっぱいのほうが素敵だ”というところだろう!」
 信長がぷくっとほっぺを膨らませる。
 (きれいな顔でほっぺを膨らませないで欲しいんだけど)
 「だって本当にどっちも素敵なんだもん!」
 そこに関しては田宮は譲れなかった。
 信長の膨らみは大きくひたすら柔らかく、指が吸い込まれるようだった。まるでマシュマロのように。
 一方、勝家の膨らみは同じように大きく柔らかかったが、張りがあって形が良くつんとしていた。触った感触も弾力があった。
 それぞれちがう良さがあり、どちらが素敵だとは決められなかったのだ。
 信長はだめだこりゃと嘆息するとともに。おっぱい好きもそこまでになると感動するな、とも思っていた。
 「いいか、勘違いしてはならん。
 今回は勝家を救うためにやむなくやつのおっぱいを揉むことを許したのだ。
 知の妻はこの私ぞ!私以外のおっぱいを揉むことは妻として許さぬ!」
 「は…はい…」
 真っ赤になりながらも真剣な眼で釘を刺す信長に、知はそう返答せざるを得なかった。
 (でも、それってつまり信長のおっぱいなら揉んでもいいってことか?
 それは嬉し…いやいや自衛官として人としてそれはどうなのか…?
 それに信長の言い分を認めると言うことは信長を妻と認めることになるわけだし…)
 なにやら遭難したOH-1の捜索に出てからいろいろあり過ぎて、田宮はまだ思考と状況の整理が全く追いついていなかった。
 なにやら嬉しいシチュエーションが続くが、本当にそれでいいのか?と思わずにはいられないのである。

 「さてわが夫よ。私は清洲城に戻る。
 お前も部下たちを率いて同行してくれ。今後のことを話し合いたい。
 今度は勤務中などと言わず、酒宴に付き合え。皆がお前たちを待っている」
 「わかりました。お相伴に預かります」
 信長の言葉に、田宮は即答する。
 尾張統一のために信長を支援するという任務は終了した。だが、尾張に自衛隊を受け入れさせるという本来の目的はまだこれからだ。
 織田家の者たちと親睦を深め、今後のことを離しておくのは悪いことではない。信長や長秀らは自衛隊の力を知った。戦うよりは味方にして利用する方が得策だと判断していることだろう。お招きに預かっても、いきなり後ろから斬られたり、毒を盛られたりということはないはずだ。
 「雨は上がったな。
 知、貴君らの乗り物、屋根をたたむことができるのだったな。
 尾張の民や織田の兵たちにお前たちの顔を見せてやって欲しい」
 信長の言うとおり、ぱらついていた雨はいつの間にかやんでいた。
 「しかし、よろしいので?民を怖がらせるかも知れませんが?」
 「凱旋するときは顔を見せるものだ。
 それに、謀反を鎮圧し、自分たちの生活を守ってくれた者たちを怖れるような民はこの尾張にはおらぬよ。
 “むしろ、じえいたいの頭はこんな顔だ”と皆に見せてやるがいい。それで兵たちも民たちも安心する」
 「それもそうですね。わかりました」
 信長の自信たっぷりの物言いに感服した田宮は、部下に指示して高機動車と73式のソフトトップをたたみ、フロンドガラスも倒してしまい、自衛隊員たちの姿が見やすいようにする。
 
 清洲城までの道のりは、拍手と歓声に迎えられながらのものとなった。
 「おお、あれがじえいたいか」
 「物の怪をいとも簡単に退治したというぞ」
 「戦をなくしてくれて、なんとありがたいことだろう」
 正直なところ、田宮以下自衛隊員たちにとっては意外だった。てっきり好奇の目を向けられるか、それならまだましで、得体の知れないやつらだと怖れられる可能性をまだ考えていたからだ。
 だが、尾張の民たちは、素直に自衛隊に畏敬と感謝の念を向けてくれているようだった。
 「これは尾張という土地柄だからか。はたまた信長の治める国だからか…」
 田宮は尾張の民たちの順応性に驚きながら、興味深いとも思っていた。
 なにはともあれ、民や兵たちに怖れられ、受け入れられないという最悪の事態は避けることができた。これなら自衛隊の任務部隊を尾張に受け入れてもらうのもスムーズにいくことだろう。
 隊員たちも感謝の念を向けられるのは悪い気持ちではないらしく、車両の上から手を振っている。
 タイムスリップ(?)で飛ばされてきてから不安を抱えたまま任務に当たることが続いていたが、田宮は希望を持つことができるようになっていた。
 “可愛い女の子の柔らかくて素敵なおっぱいのためなら、この時代、この土地に根を下ろすのも悪くないか”などと思っていたわけではない。
多分。
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