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03 甲信の死闘編
阿鼻の終わりと姉妹の絆
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10
相模、小田原城。
「氏康、上野攻めを考え直してはくれませんか?」
「くどいです。いくら母上のお言葉でも、もはや決めたことです!」
小田原城の廊下では、母性溢れる妖艶な妙齢の美女と、活発で気の強そうな美少女が押し問答をしていた。
「今川義元殿と氏実殿からも、自重されたいという文を頂いているのでしょう?
もう少し様子を見てからでも遅くないのではないですか?」
「なにをおっしゃいます!今こそ武田の劣勢に乗じて上野西部を切り取る好機ではありませんか!
武田に引導を渡す意味でも、越後の軍神気取りの上杉に対応する意味でも、上野の領有は必要なことです」
理屈では正にその通りだ。だが北条家先代当主、北条早雲には、現当主にして娘である北条氏康が足下のことしか見えていないように思えた。
「その火事場泥棒のようなやり方が問題だと言っているではありませんか。
織田と武田の戦は織田有利で進んでいると聞いています。上野の領有を既成事実化して強弁すれば、織田に北条を攻撃する口実を与えてしまうかも知れません。
せめて織田と使者を行き来させて、上野の占領に関して交渉してみるべきです!」
だが、氏康はあからさまに不快な顔をして、早雲の言葉を一笑に付す。
「ふん!織田が敵になると言うなら、この相模の獅子が相手になろうではありませんか!
聞けば、織田の御当主や重臣たち、今川や徳川の方々も、じえいたいとか申す集団の若き武将に夢中になっているとか。
男にたぶらかされ、色ボケにされてしまったものたちなどもはや武将ではありません!なにほどのことがありますか!」
唾棄するように言い切ったその言葉に、氏康の本音が凝縮されていた。
北条氏康。自他ともに認める男嫌い。北条家にも当然のように男はいるから、普段から男に露骨に悪意を向けるようなことはない。
だが、彼女を知るものなら、誰しもが氏康は男に対し、嫌悪感を通り越して敵意さえ抱いていることを知っている。
「男なんてみんなこの世からいなくなればいいのに」
と言ったというのは噂だろう。噂のはずだ。噂だと思いたい。
「わかりました。そこまでいうのなら思う通りにしてみなさい」
早雲は、この場で氏康を説得するのは不可能と判断して一歩引く。ともあれ、今の状況は問題だ。なんとかしなければならない。
氏康はもともと気が強く頑固なところがあった。だが、北条家の当主ともあろうものが、男が嫌いだというごく個人的な感情だけで分の悪い戦を始めていい道理がない。
織田勢は早晩武田を打ち破る。そうなれば、次に彼らと境界線を接するのは北条家だ。織田勢は恐ろしく進んだ兵装と兵法を持つ。その織田を支援するじえいたいという集団は、空を飛ぶ鉄の竜や、とてつもなく巨大な戦船、地を走り、矢も鉄砲も通じない鉄の車を保持していると聞く。
そんなものと戦えばどうなるか。難攻不落で知られるこの小田原城も結局は持たないだろう。
相手の気分にもよるだろうが、男たちは殺され、女は、自分と氏康も含めて敵の兵たちの慰み者にされる。それだけは絶対に避けなければならない。
幸いにして、北条家は傀儡とはいえ、鎌倉公方を擁している。なんの理由もなく一方的に攻め込んでくれば、鎌倉府に対する反逆と言う汚名を敵に着せることが出来るのだ。
それは逆に言えば、北条が先に手を出した場合、いくら鎌倉公方の命令書を提示しようと戦の責任は北条にあることを意味した。
「隠居した身でなんですが、氏康の個人的な好悪と北条家を心中させるわけには行きませんね」
氏康に当主の座を譲ったとき、この先国の経営に口を出さないと誓った。だが今、早雲はその誓いを破る決意をする。たとえ老害とそしられようと、我が子に恨まれようと、北条を活かすためだった。
所変わってこちらは甲斐。
『やばいです!また武田兵が”鬼”と化しています!今の内に撤退の許可を!』
「許可する!射撃を行い、相互援助しつつ後退!誰も残すな!」
陸自空挺部隊の指揮官である亀井一等陸尉は「くそ!」っと腹の中で毒づく。
UH-60JAのドアからも、下界の様子がよく見える。
追い詰められた武田の兵たちが、またしても”邪気”に取り込まれ、苦痛も恐怖も感じない、ただ敵を切り刻むことだけを繰り返す妖怪。通称”鬼”と化してしまったのだ。
こうなってはまともに相手をするだけばからしい。なにせ、”鬼”は頭を撃ち抜くか首を切り落とさない限り動き続けるのだ。
火縄銃では頭を正確に撃ち抜くのは難しい。自衛隊の89式小銃でも、ピンポイントで頭を狙うのは困難だ。敵がものすごい勢いで屍をまたぎ越して襲ってくるからなおのこと。
部隊を相互援助をおこないつつ撤退させ、上空のヘリから炸裂弾や火のついた油壷を投げ落として”鬼”たちを足止めする。”鬼”の数が減ったら攻勢に出て地道に1人ずつ潰していくしかない。
「くそ!古府を目の前にして!」
亀井はヘリの壁をこぶしで叩く。全体として見れば、戦いは織田、今川、徳川連合軍の勝利に決している。
だが、局地戦においては、武田兵が”鬼”と化してしまうため、決定的な勝利を得ることが出来ないのだ。
このままでは自衛隊は燃料と弾薬を意味もなく浪費していくばかりだ。
ついでに、最初は戦いを静観していた東の北条が、武田の敗北が秒読みだと読むや、厚かましくも上野に侵攻してきていると聞く。
もちろんこちらの勝ちが決まっているという考えが傲慢なのは理解している。だが、大勢から見れば風前の灯火の相手が往生際悪く抵抗を続けている。
“さっさと降参すればいいものを、意味もなく戦いを長引かせ、余計な血を流しやがって!”
そんな怒りをいらだちを、多くの者が抱かずにはいられないのだった。
11
信濃南部、高達城の座敷牢。
「まだ気は変わりませんか、武田信廉様」
田宮は、床に正座してこちらを見ようともしない金髪の美少女に今日も話しかけていた。だが反応はない。
最初からこの調子だった。いや、最初より頑なになっているかも知れない。
“人違いです”“武田信玄?お戯れを”と、最低限の返事を返すだけでこちらの尋問にも全く黙して語らず。
“どう見ても武田信玄殿だが。
そう言えば、こんな話を小耳に挟んだことがある”
甲斐国境で捕らえられた美少女の面通しを買って出た今川義元は、“確たる証拠はないが”と前置きして語り始めた。
武田の先代に生まれた子供は実は双子で、片方は生まれてすぐに後難を怖れて殺されたという噂がある。
それと、今川義元個人として、武田信玄に会うたびに微妙な違和感を感じていた。話にところどころかみ合わないことがあるのは記憶違いの範囲内とも思える。だが、“武田信玄”のまとう雰囲気や仕草が微妙に違う。
武田信玄に影武者がいて、しかも双子だったと考えれば説明はつく。
義元にそう言われた少女は、意外に素直に自分が信玄の双子の妹、信廉であると認めた。
だが、本当の大ごとはそれからだった。
自傷防止用のマットを張りつめた部屋に、首を吊れるようなものを一切与えずに閉じ込めても、少女はあの手この手で自分を終わらせようとした。
「武田の捕虜たちです。今後、あなたが自ら命を断とうとするごとに、彼らの指や耳をあなたに送り届けて差し上げます」
捕虜になった武田兵の写真と、血まみれの指を見せられ、さすがに信廉は自殺を思いとどまった。
まあ、指は樹脂とシリコンで作った偽物に鶏の血をかけたものだったが。
ともあれ、その後も織田家は信廉をもてあました。食事を一切取ろうとせず、手足を縛って鼻から流動食を流し込むことが続く。風呂を進めても全く反応せず、結局本多忠勝や酒井忠次と言った腕っぷしの強い女性が押さえつけて無理やり湯あみをさせることになった。
ここまで頑なだと、いよいよ従わせるのは困難かと思えて来る。
「ごらんなさい。織田の兵も武田の兵も、今この瞬間も血を流し続けています。
それに引き換えあなたはどうですか?毎日何もせず座り込んでいる。終わらせられる戦を終わらせることもないまま」
田宮は、一見ポーカーフェイスを決め込んでいる信廉が激しく動揺しているのを感じる。
自分の役目と個人的な感情の狭間で葛藤しているのだ。
武田の当主の影武者として、武田に降伏を勧告するなどプライドが許さない。だが、武田信廉個人としては、兵たちが“鬼”と化し凄惨極まりない戦いを繰り広げている状況を放っておけない。
(いつまでこんな意地悪を続けなきゃならないのさ!?)
任務だとは思っていても、かわいい女の子を恫喝し続ける仕事は田宮には苦痛だった。できればこんなやり方はしたくないのだ。
だが、その苦行は突如終わりを告げる。
「お兄ちゃん!大変大変!」
そこに、金髪おさげのロリ美少女、今川氏真が泡を食って走りこんでくる。
「どうした、氏真?」
「どうしたもこうしたも…。とうとう来る時が来た!
武田信玄さまが物の怪になっちゃったんだよお!」
「なんだと!?」
「…!?」
氏真の言葉に、田宮だけでなく信廉も慌てた顔になる。
氏真が見せたノートパソコンに映った光景に、信廉は凍り付く。
「信廉様、ご足労いただきます。あなたの姉上を止められる人物を、私は他に知りません」
「指示には従います。でも、結果は期待しないでくださいね」
信廉は田宮の目を見ることなくそう返答し、腰を上げる。
甲斐、古府から西5キロ。
それはもはや戦場ですらない。阿鼻叫喚の地獄だった。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーッ!」
“邪気”に憑りつかれ、異形の存在と化した武田信玄が織田、今川、自衛隊の連合軍に対して猛威を振るっていたからだ。
「引けー!引くんだーっ!」
「た…助けてくれー!」
「化け物だ!殺さないでくれーっ!」
かつて武田信玄であったものは、すでに人の形を全く留めていなかった。
全長15メートルに達するかという白い毛並みを持つ虎の物の怪。その首の付け根に、武田信玄の上半身がちょこんと乗っている。まあ、肌は死人のように白くなり、腕や背中は白い毛におおわれてほとんど人の形を留めていないが。
「ウゴオオオオオオオオオッ…!」
その爪が閃くと、誰のものともわからない腕や足がぼとりと地に落ち、その牙は兵たちを鎧ごと噛み砕き、血肉の塊に変えていく。
そして、その後ろを鬼と化した、あるいは鬼と化しつつある武田の将兵たちが続く。
「信廉様の弔い合戦だあ!織田、今川のやつらを一人でも多く殺せえ!」
「我ら武田、悪霊になり果てようとも敵を倒す!」
武田信廉が自衛隊の捕虜になった日、武田信玄は将兵たちに全てを打ち明けた。その結果、武田の将兵たちは正常に狂った。
“武田信玄様が二人いたとは”“もう一人はすでに落命されている”“ああ、どれだけの過酷な運命であったろうか?”“信廉様の仇を討つべし!それが、彼女を知らぬ間に利用していた我らの贖罪だ!”
悲しみ、悔恨、贖罪の気持ち、そして、それらと表裏一体の狂気。それがそのまま“邪気”となり、武田勢を物の怪の軍団に変貌させてしまったのだった。
とっくに“邪気”に憑りつかれ、人であることを放棄している武田兵は、まるでゾンビのように織田、今川勢に襲い掛かる。それはもはや戦闘でも、殺し合いでさえない。
「ぎゃあああああああああっ!」
「来るな!来るなああああっ!」
人と物の怪との、食うか食われるかの生存競争だった。
『こちら第4中隊!物の怪により被害甚大!支援を…。
早良!小原!しっかりしろ!意識を保て…!』
『こちら第2偵察隊!すでに3人を失いました!負傷者多数!このままでは壊滅してしまいます!』
指揮通信車の中で自衛隊の指揮を執る仰木三佐の元に入る通信は、物の怪によって被害多数と言うものばかりだった。
「なんということだ…」
指揮通信の狭い窓からも、暴れまわるかつて武田信玄であったものの様子ははっきりと見える。
巨大で力強いだけではない、怖ろしく敏捷で、柔軟でもある。急な坂やがけも難なく上る。そして圧倒的な脚力で、助走もなしで500メートルも跳躍して回り込み、こちらの兵の戦略的撤退を許さない。
織田、今川の連合軍はあっさりとうっちゃられ、劣勢に立たされる。
なにより、今まで苦戦することはあっても死者は出さずに来た自衛隊に戦死者が出始めている。
その心理的なダメージは大きかった。
「くそ!攻撃ヘリと戦車の攻撃を信玄に集中させろ!やつを倒すことができれば、武田兵たちも勢いを無くすはずだ!」
仰木が下した命令は、極めて平凡なものだった。
仰木は口惜しかった。これが自分の限界か。
こんなとき、あの天然ジゴロで破天荒でやたら悪運の強いあの男。田宮ならどうしただろうと思う。
『信玄への攻撃待て!繰り返す、信玄への攻撃待て!』
不意に、仰木の疑問の答えが無線から返ってくる。
「田宮二尉か?なにか策があるのか?」
『策と言うほど上等じゃありませんが、試して見たい作戦があります』
仰木が指揮通信車のディスプレイに目をやると、V-22が急速に近づいてくるのが確認できた。なにを持ってきたか知らないが、信玄への有効打になり得るものらしい。
「織田、今川軍及び自衛隊!後退しつつV-22を支援しろ!負傷者の後送も急げ!」
どんな手であれ、物の怪と化した信玄と力技で渡り合うよりはまし。そう判断して、仰木は田宮を支援する命令を下したのだった。
「やれやれ!後退も何も、既に逃げている最中だぞ!」
「仕方あるまいよ!あなたの旦那様があれを何とかしてくれると信じよう!」
物の怪と化した信玄からなすすべもなく逃げ回るだけだった信長と義元は、体勢を立て直して隊伍を整えることにする。
信玄をどうにかするのは田宮に丸投げするしかなさそうだ。
だが、戦そのものに勝利するのは自分たちの役目だという自負と責任があったのだ。
12
「姉さん…。おいたわしい、なんという姿に…」
V-22の窓から変わり果てた姉の姿を認めた信廉は、思わず目を逸らす。
「信廉様、しっかりして下さい。お姉様に呼びかけて正気に返らせることができるのは恐らくあなただけだ」
田宮は、こちらの間諜の情報によれば、信玄が“邪気”に取り憑かれたきっかけは信廉の遭難であったらしいと告げる。
「なんということでしょう…」
信廉には、先ほどまでの全てがどうでもいいという感情はもはやなかった。甲斐の虎、武田信玄が、大好きな姉があんな醜く理性をなくした獣のなり果てているのがひたすら悲しかった。
「どうすればいいのです?どうすれば姉さんを助けられるのですか!?」
「とにかく呼びかけて下さい。少しでも理性を取り戻せば、後は俺が何とかします」
田宮はそう返答して、信廉にヘッドセットを渡す。聡明な信廉は、それが信玄に呼びかけるための道具だとすぐに推測する。
『姉さん!お鎮まり下さい!わたくしです。信廉です。信廉が参っております!』
信廉からスピーカーで呼びかけられた言葉に、信玄の動きが止まる。理性をなくし、猛り狂っているように見えても、信廉の声に反応するくらいの思考と情は残っていたのだろうか。
「機長!高度を下げて下さい。信廉様の姿を信玄様に見せたい!」
「おいおい!V-22は不安定な機体なんだ。あれにぶつかってこられたら墜落だぞ!」
テイルトローター機であるV-22は、他のヘリに比べるとどうしても低速飛行性能やホバリング性能は見劣りする。加えて、揚力を発生させるローターが左右の離れた位置にある。1カ所にダメージを受けただけでバランスを崩して墜落する危険は常にあるのだ。
「そう言わずにお願いしますよ!下じゃ味方がやられてるんだ!」
「ちっ!了解!」
味方の命がかかっているとなれば是非もないと、機長はホバリングしつつV-22の高度を下げていく。大きく開いた後部のカーゴドアから、信廉の姿が信玄に見えるように。
『姉さん!わたくしはここです!』
「ノブ…カド…アアア…アアアアア…」
暴れ回っていた信玄の動きがぴたり止まる。そして、虎の背中の上に生えた上半身が突然苦しみ始める。
「なんだ?」
「小さくなっていくぞ…?」
巨大な虎の姿をした信玄の下半身が、風船がしぼむように急速に小さくなっていく。
「何が起きているんでしょう?」
「確かめないと。信廉様、武田軍に停戦命令を!」
同乗している偵察救難隊の副隊長である安西曹長の疑問を受けて、田宮は信廉に向けて停戦命令を依頼する。
『ええと…。
武田の全軍に伝えます!わたくしは武田信廉です。我が姉、武田信玄の代行として命じます。
武田軍はただちに全ての戦闘を中止しなさい。
繰り返します。武田軍はただちに全ての戦闘を中止しなさい!』
信廉の呼びかけに、“鬼”と化していた武田兵たちが足を止める。
“信廉の弔い合戦”という一念が、武田兵たちに命をも惜しまない覚悟を決めさせ、同時に狂気へと駆り立てていた。武田信玄が自分たちの主であるなら、信廉もまた主だ。
失ったと思っていたものがにわかに戻って来たことで、急に冷静になったらしい。
「姉さん!」
着陸したV-22から、信廉が偵察救難隊のエスコートを受けて、人の姿を取り戻しつつある信玄に駆け寄る。が…。
「ノブカド…キテハイケナイ…!」
低く大きく、不気味な声で信玄が信廉を制止する。よく見れば、信玄は人の姿にもどったのではなかった。
全身を銀と黒の毛で覆われ、犬歯は肉食獣のように長い。そして、その目は鮮血を思わせる赤い光を放っている。
なにより、体のあちこちに“邪気”に取り憑かれていることを示す幾何学模様が入れ墨のように走り、蛇のように蠕動している。
(“邪気”を精神力で抑え込んでいるのか?)
田宮は武田信玄という少女の心の強さに驚愕した。こういうのは初めて見る。一体どれだけ強い精神力が必要になっていることだろうか。
「ワタクシヲ…コロシナサイ…!イマノウチニ…」
信玄が信廉に訴える。見れば“邪気”が再び信玄を支配し、物の怪に変えようとしているのが伺えた。
信玄の体が再び大きくなろうとするのを、すさまじい精神力で抑え込み押しとどめている。
「姉さん!できません!やっと再び会えたのに…そんな悲しいこと…!」
「ヤリナサイ…!コレイジョウ…オサエキレナイ!」
「信廉様、かまいません。お姉様に声をかけ続けて下さい」
田宮に背中を押された信廉は、信玄に近づいていく。
「ノブカド…!キキワケノナイ…!」
「姉さん、わたくしを見て下さい!姉さんは“邪気”ごときに屈するお方ではないはずです!」
信玄と信廉の会話は押し問答の様相を呈していく。だが、有効であるらしい。
「ちょっとごめんなさいよ」
「ヒ…きゃああああああああああーーーーーーーっ!」
こっそり信玄の後ろに廻っていた田宮が、決して大きいとは言えないが形のいい膨らみを後ろからつかむ。
信玄の黄色い悲鳴が周囲に響いて、田宮の指の間からどす黒いほとばしりがものすごい勢いで放出されていく。
信廉も、周囲で見ている織田、今川、武田の兵たちも、あっけに取られていた。
“邪気”の放出に同調するように、信玄の体から毛と黒い幾何学模様が消えていく。やがて“邪気”の放出は弱まり、止まる。
13
信玄はすっかり元のほっそりした美しい体を持つ美少女の姿に戻っていた。
「姉さん!」
「おっと」
生まれたままの姿の信玄は、意識を失ったらしく倒れ込もうとする。信廉と田宮は、その細い体を2人がかりで支える。
(これは?)
田宮は信玄の体を支えて妙な違和感を感じる。その体はやけに冷たいのだ。首に指を当てると、脈も何かおかしい。
「市原二曹、来てくれ!」
「はい!ただいま!」
田宮は看護師資格を持つ市原操子二曹を呼ぶ。
25歳。自衛隊病院での勤務経験もあり、訓練成績優秀。こちらにタイムスリップした当初は経験不足もあって実力を出し切れなかったが、毎日のように運び込まれてくるけが人を担当している内にすっかりベテランの貫禄を身につけている。
「どうだ?」
「体温がやたらと低いし心音がおかしい。心疾患の可能性があります。
信廉様、お姉さんはもしかして胸の病を患っておいでで?」
田宮に胸を揉まれたらどす黒いものを吐き出して、姉が元の姿に戻った。その状況を理解できずあぜんとしている信廉は、市原の言葉にやっと戻ってくる。
「胸の病かどうか…。姉は幼いころから体が丈夫でなかったのです。
いろいろな医者に診せましたが、根本的な治療は困難だと口を揃えて言われました…」
「くわしく聞かせて下さい」
市原は、信廉に質問しながら手帳にメモを取っていく。そして、タブレット端末で何かを調べ始める。最近は分厚い本をめくらなくとも、電子辞書に情報を入力するだけで医療や応急処置に関する情報が得られるらしい。
「二尉、やはり手術が必要と思われます」
「そんなに悪いのか?」
「くわしく調べて見ないとなんとも…。投薬でなんとかなるのか、外科手術が必要か…」
“心臓移植をするレベルか”という言葉を市原は呑み込む。その辺に転がる戦死者の心臓をしっけいして移植するところを想像してしまったからだ。実際視野に入る可能性だから、よけいにおぞましい。
「信濃南部の野外医療設備は恐らく全部塞がってるな…。
“しもきた”に搬送する以外にないか」
「賛成ですね。“しもきた”はかなり充実した医療設備があります。
それに、信濃じゃ薬も輸血用の血液も足りない可能性があります」
そこかしこに横たわる侍や自衛隊員の負傷者たちを見回して、市原は田宮に同意する。心臓の手術となれば、人手も資材もしこたま必要になる。今の信濃にはとてもそんな余裕はないだろう。
「知!」
「田宮殿!」
かけられた言葉に田宮が振り向くと、そこには信長と義元がいた。
「信長様、義元様、ご無事でしたか」
「誰かさんが来るのが遅いお陰で、危うくくたばりかけたがな」
「そりゃないですよ。信廉殿を引っ張り出すのにどれだけ苦労したことか」
「すまんすまん、冗談だ。よく来てくれた。そして、将兵たちの命を救ってくれた。さすがは私の夫だ」
田宮と信長はにっこりと笑い会う。いかにも2人だけのフィールドという雰囲気の中で。
「それで、信玄はどんな具合だ?」
「良くないようです。これから“しもきた”に運んで検査をして、必要なら手術を行うつもりです。かまいませんな?」
「ああ、任せる。
聞いての通りだ、武田の諸君。信玄公のお体、しばしお預かりする」
信長の言葉に、信廉はじめ武田がたのものたちはぎょっとする。自分たちの主君がなにをされるのか、想像もつかなかったからだ。
「お預かりすると簡単におっしゃられても…?姉をどうするおつもりです?」
「どうするかは調べて見ないことには。ただ、このまま放っておいたら多分死にます」
市原の冷徹な返答に、信廉は選択の余地がないことを悟る。姉がなにをされるかはわからない。だが、このままでは死ぬならお任せするほかない。
「では、せめてわたくしを付き添わせていただけませんか?」
「だめだ。貴公には君主代行として、武田に停戦命令を守らせてもらう必要がある」
信廉の申出を、信長がぴしゃりと遮る。
周囲を見回せば、“鬼”と化していた武田兵たちは元に戻るか息絶えている。が、まだ織田に心の底から下る気はないのが見て取れた。
「わしが行こう」
そう言って進み出たのは、いつの間に来ていたか、隻眼の老将山本勘助だった。
「しかし良いのか?停戦が成立したとは言え敵地ではないか?」
脇にいた山県昌影が疑問を呈する。
「なにかあったとして、この老体のしわ首1つ。痛くもかゆくもなかろうよ。
文で状況は知らせる。
じえいたいの方々、わが君、信玄公とともにお世話になる」
そう言って、勘助は一礼する。
「ああ、田宮殿」
「はい?いて!」
歩み寄ってきた信廉が、田宮の手の甲を思いきりつねる。
「姉を救って頂いたことは感謝します。ただ、乙女の胸を断りもなく揉んだ罰です」
「ご無礼致しました」
田宮は素直にそう返す。信玄を“邪気”から解放するためには必要なことだったが、乙女を辱める行為であったことに変わりはない。信廉も理解してくれているから、この程度で済ませてくれたとも言える。
信玄と勘助、そして偵察救難隊を乗せて、V-22は甲斐を後にし、遠江沖に停泊する輸送艦“しもきた”に向かう。
搬送されてきた信玄の体をレントゲンとCTスキャンにかける。
「先天性の心疾患と見て良さそうだな。
ただ、心臓の肥大はわずかだし、組織の痛みも少ない。これならなんとかなるな」
主任医官の中原三等海佐が、検査結果と本で調べた心臓手術の要領を照らし合わせ、CGモデルで手術のシュミレーションを行っていく。
あまりに本格的な心臓の手術となれば当然のように専門の心臓外科医の仕事になる。心臓とはそれほどに複雑で面倒な機関なのだ。
だが、信玄の心疾患が思ったより重篤でないのが、中原たち医療担当者に安心と自信をもたらした。これなら心疾患には詳しくない自分たちにもなんとかなる。
「3Dプリンタを動かせ。人工弁を作るんだ。
心臓が血液を押し出す圧力を確保できていないだけだ。なら圧力を上げてやればいい」
「わかりました。
ただ、血液が足りるかどうか」
助手である二尉が心配そうに言う。武田との戦いが始まってからこの方、けが人だらけで輸血用のストックは慢性的に不足している。
「仕方ない。かき集めてきます。血液型はA型ですか?」
「ああ、Rh+A型だ。すまんが頼むわ。ラベル、張り替え間違えないでよ」
田宮は燃料補給の済んだV-22に乗り込み、“人使いが荒い”とぶーたれる偵察救難隊を引率して、遠江の町や村を廻り、献血を募る。
遠江の住人たちは意外なほど献血に協力的だった。一向一揆や武田の侵攻に際して、自衛隊に命を救われた者たちが多かったのだ。自分たちが少しずつ血を供出することで、今にも事切れそうな命が助かるならと、笑顔で協力してくれたのだ。
献血の代価として米や酒が配られたこともある。信玄の手術に必要な血液はすぐに集まった。そして、A型以外の血液は大量の負傷兵を抱える信濃、甲斐に搬送されたのだった。
心房と心室の間の筋肉に疾患があり、動脈の血圧を確保できないという信玄の持病は、心房がわに樹脂で作った人工弁を埋め込むことで解決される。
手術は成功し、3日後信玄は意識を取り戻したのだった。
その知らせは、勘助の書状によって甲斐にも知らされた。武田の将兵や、甲斐の民たちは大いに喜び、涙を流した。
もはや信玄にも武田がたにも戦う意思はなく、武田は正式に織田に降伏し、臣従することを選択するのだった。
相模、小田原城。
「氏康、上野攻めを考え直してはくれませんか?」
「くどいです。いくら母上のお言葉でも、もはや決めたことです!」
小田原城の廊下では、母性溢れる妖艶な妙齢の美女と、活発で気の強そうな美少女が押し問答をしていた。
「今川義元殿と氏実殿からも、自重されたいという文を頂いているのでしょう?
もう少し様子を見てからでも遅くないのではないですか?」
「なにをおっしゃいます!今こそ武田の劣勢に乗じて上野西部を切り取る好機ではありませんか!
武田に引導を渡す意味でも、越後の軍神気取りの上杉に対応する意味でも、上野の領有は必要なことです」
理屈では正にその通りだ。だが北条家先代当主、北条早雲には、現当主にして娘である北条氏康が足下のことしか見えていないように思えた。
「その火事場泥棒のようなやり方が問題だと言っているではありませんか。
織田と武田の戦は織田有利で進んでいると聞いています。上野の領有を既成事実化して強弁すれば、織田に北条を攻撃する口実を与えてしまうかも知れません。
せめて織田と使者を行き来させて、上野の占領に関して交渉してみるべきです!」
だが、氏康はあからさまに不快な顔をして、早雲の言葉を一笑に付す。
「ふん!織田が敵になると言うなら、この相模の獅子が相手になろうではありませんか!
聞けば、織田の御当主や重臣たち、今川や徳川の方々も、じえいたいとか申す集団の若き武将に夢中になっているとか。
男にたぶらかされ、色ボケにされてしまったものたちなどもはや武将ではありません!なにほどのことがありますか!」
唾棄するように言い切ったその言葉に、氏康の本音が凝縮されていた。
北条氏康。自他ともに認める男嫌い。北条家にも当然のように男はいるから、普段から男に露骨に悪意を向けるようなことはない。
だが、彼女を知るものなら、誰しもが氏康は男に対し、嫌悪感を通り越して敵意さえ抱いていることを知っている。
「男なんてみんなこの世からいなくなればいいのに」
と言ったというのは噂だろう。噂のはずだ。噂だと思いたい。
「わかりました。そこまでいうのなら思う通りにしてみなさい」
早雲は、この場で氏康を説得するのは不可能と判断して一歩引く。ともあれ、今の状況は問題だ。なんとかしなければならない。
氏康はもともと気が強く頑固なところがあった。だが、北条家の当主ともあろうものが、男が嫌いだというごく個人的な感情だけで分の悪い戦を始めていい道理がない。
織田勢は早晩武田を打ち破る。そうなれば、次に彼らと境界線を接するのは北条家だ。織田勢は恐ろしく進んだ兵装と兵法を持つ。その織田を支援するじえいたいという集団は、空を飛ぶ鉄の竜や、とてつもなく巨大な戦船、地を走り、矢も鉄砲も通じない鉄の車を保持していると聞く。
そんなものと戦えばどうなるか。難攻不落で知られるこの小田原城も結局は持たないだろう。
相手の気分にもよるだろうが、男たちは殺され、女は、自分と氏康も含めて敵の兵たちの慰み者にされる。それだけは絶対に避けなければならない。
幸いにして、北条家は傀儡とはいえ、鎌倉公方を擁している。なんの理由もなく一方的に攻め込んでくれば、鎌倉府に対する反逆と言う汚名を敵に着せることが出来るのだ。
それは逆に言えば、北条が先に手を出した場合、いくら鎌倉公方の命令書を提示しようと戦の責任は北条にあることを意味した。
「隠居した身でなんですが、氏康の個人的な好悪と北条家を心中させるわけには行きませんね」
氏康に当主の座を譲ったとき、この先国の経営に口を出さないと誓った。だが今、早雲はその誓いを破る決意をする。たとえ老害とそしられようと、我が子に恨まれようと、北条を活かすためだった。
所変わってこちらは甲斐。
『やばいです!また武田兵が”鬼”と化しています!今の内に撤退の許可を!』
「許可する!射撃を行い、相互援助しつつ後退!誰も残すな!」
陸自空挺部隊の指揮官である亀井一等陸尉は「くそ!」っと腹の中で毒づく。
UH-60JAのドアからも、下界の様子がよく見える。
追い詰められた武田の兵たちが、またしても”邪気”に取り込まれ、苦痛も恐怖も感じない、ただ敵を切り刻むことだけを繰り返す妖怪。通称”鬼”と化してしまったのだ。
こうなってはまともに相手をするだけばからしい。なにせ、”鬼”は頭を撃ち抜くか首を切り落とさない限り動き続けるのだ。
火縄銃では頭を正確に撃ち抜くのは難しい。自衛隊の89式小銃でも、ピンポイントで頭を狙うのは困難だ。敵がものすごい勢いで屍をまたぎ越して襲ってくるからなおのこと。
部隊を相互援助をおこないつつ撤退させ、上空のヘリから炸裂弾や火のついた油壷を投げ落として”鬼”たちを足止めする。”鬼”の数が減ったら攻勢に出て地道に1人ずつ潰していくしかない。
「くそ!古府を目の前にして!」
亀井はヘリの壁をこぶしで叩く。全体として見れば、戦いは織田、今川、徳川連合軍の勝利に決している。
だが、局地戦においては、武田兵が”鬼”と化してしまうため、決定的な勝利を得ることが出来ないのだ。
このままでは自衛隊は燃料と弾薬を意味もなく浪費していくばかりだ。
ついでに、最初は戦いを静観していた東の北条が、武田の敗北が秒読みだと読むや、厚かましくも上野に侵攻してきていると聞く。
もちろんこちらの勝ちが決まっているという考えが傲慢なのは理解している。だが、大勢から見れば風前の灯火の相手が往生際悪く抵抗を続けている。
“さっさと降参すればいいものを、意味もなく戦いを長引かせ、余計な血を流しやがって!”
そんな怒りをいらだちを、多くの者が抱かずにはいられないのだった。
11
信濃南部、高達城の座敷牢。
「まだ気は変わりませんか、武田信廉様」
田宮は、床に正座してこちらを見ようともしない金髪の美少女に今日も話しかけていた。だが反応はない。
最初からこの調子だった。いや、最初より頑なになっているかも知れない。
“人違いです”“武田信玄?お戯れを”と、最低限の返事を返すだけでこちらの尋問にも全く黙して語らず。
“どう見ても武田信玄殿だが。
そう言えば、こんな話を小耳に挟んだことがある”
甲斐国境で捕らえられた美少女の面通しを買って出た今川義元は、“確たる証拠はないが”と前置きして語り始めた。
武田の先代に生まれた子供は実は双子で、片方は生まれてすぐに後難を怖れて殺されたという噂がある。
それと、今川義元個人として、武田信玄に会うたびに微妙な違和感を感じていた。話にところどころかみ合わないことがあるのは記憶違いの範囲内とも思える。だが、“武田信玄”のまとう雰囲気や仕草が微妙に違う。
武田信玄に影武者がいて、しかも双子だったと考えれば説明はつく。
義元にそう言われた少女は、意外に素直に自分が信玄の双子の妹、信廉であると認めた。
だが、本当の大ごとはそれからだった。
自傷防止用のマットを張りつめた部屋に、首を吊れるようなものを一切与えずに閉じ込めても、少女はあの手この手で自分を終わらせようとした。
「武田の捕虜たちです。今後、あなたが自ら命を断とうとするごとに、彼らの指や耳をあなたに送り届けて差し上げます」
捕虜になった武田兵の写真と、血まみれの指を見せられ、さすがに信廉は自殺を思いとどまった。
まあ、指は樹脂とシリコンで作った偽物に鶏の血をかけたものだったが。
ともあれ、その後も織田家は信廉をもてあました。食事を一切取ろうとせず、手足を縛って鼻から流動食を流し込むことが続く。風呂を進めても全く反応せず、結局本多忠勝や酒井忠次と言った腕っぷしの強い女性が押さえつけて無理やり湯あみをさせることになった。
ここまで頑なだと、いよいよ従わせるのは困難かと思えて来る。
「ごらんなさい。織田の兵も武田の兵も、今この瞬間も血を流し続けています。
それに引き換えあなたはどうですか?毎日何もせず座り込んでいる。終わらせられる戦を終わらせることもないまま」
田宮は、一見ポーカーフェイスを決め込んでいる信廉が激しく動揺しているのを感じる。
自分の役目と個人的な感情の狭間で葛藤しているのだ。
武田の当主の影武者として、武田に降伏を勧告するなどプライドが許さない。だが、武田信廉個人としては、兵たちが“鬼”と化し凄惨極まりない戦いを繰り広げている状況を放っておけない。
(いつまでこんな意地悪を続けなきゃならないのさ!?)
任務だとは思っていても、かわいい女の子を恫喝し続ける仕事は田宮には苦痛だった。できればこんなやり方はしたくないのだ。
だが、その苦行は突如終わりを告げる。
「お兄ちゃん!大変大変!」
そこに、金髪おさげのロリ美少女、今川氏真が泡を食って走りこんでくる。
「どうした、氏真?」
「どうしたもこうしたも…。とうとう来る時が来た!
武田信玄さまが物の怪になっちゃったんだよお!」
「なんだと!?」
「…!?」
氏真の言葉に、田宮だけでなく信廉も慌てた顔になる。
氏真が見せたノートパソコンに映った光景に、信廉は凍り付く。
「信廉様、ご足労いただきます。あなたの姉上を止められる人物を、私は他に知りません」
「指示には従います。でも、結果は期待しないでくださいね」
信廉は田宮の目を見ることなくそう返答し、腰を上げる。
甲斐、古府から西5キロ。
それはもはや戦場ですらない。阿鼻叫喚の地獄だった。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーッ!」
“邪気”に憑りつかれ、異形の存在と化した武田信玄が織田、今川、自衛隊の連合軍に対して猛威を振るっていたからだ。
「引けー!引くんだーっ!」
「た…助けてくれー!」
「化け物だ!殺さないでくれーっ!」
かつて武田信玄であったものは、すでに人の形を全く留めていなかった。
全長15メートルに達するかという白い毛並みを持つ虎の物の怪。その首の付け根に、武田信玄の上半身がちょこんと乗っている。まあ、肌は死人のように白くなり、腕や背中は白い毛におおわれてほとんど人の形を留めていないが。
「ウゴオオオオオオオオオッ…!」
その爪が閃くと、誰のものともわからない腕や足がぼとりと地に落ち、その牙は兵たちを鎧ごと噛み砕き、血肉の塊に変えていく。
そして、その後ろを鬼と化した、あるいは鬼と化しつつある武田の将兵たちが続く。
「信廉様の弔い合戦だあ!織田、今川のやつらを一人でも多く殺せえ!」
「我ら武田、悪霊になり果てようとも敵を倒す!」
武田信廉が自衛隊の捕虜になった日、武田信玄は将兵たちに全てを打ち明けた。その結果、武田の将兵たちは正常に狂った。
“武田信玄様が二人いたとは”“もう一人はすでに落命されている”“ああ、どれだけの過酷な運命であったろうか?”“信廉様の仇を討つべし!それが、彼女を知らぬ間に利用していた我らの贖罪だ!”
悲しみ、悔恨、贖罪の気持ち、そして、それらと表裏一体の狂気。それがそのまま“邪気”となり、武田勢を物の怪の軍団に変貌させてしまったのだった。
とっくに“邪気”に憑りつかれ、人であることを放棄している武田兵は、まるでゾンビのように織田、今川勢に襲い掛かる。それはもはや戦闘でも、殺し合いでさえない。
「ぎゃあああああああああっ!」
「来るな!来るなああああっ!」
人と物の怪との、食うか食われるかの生存競争だった。
『こちら第4中隊!物の怪により被害甚大!支援を…。
早良!小原!しっかりしろ!意識を保て…!』
『こちら第2偵察隊!すでに3人を失いました!負傷者多数!このままでは壊滅してしまいます!』
指揮通信車の中で自衛隊の指揮を執る仰木三佐の元に入る通信は、物の怪によって被害多数と言うものばかりだった。
「なんということだ…」
指揮通信の狭い窓からも、暴れまわるかつて武田信玄であったものの様子ははっきりと見える。
巨大で力強いだけではない、怖ろしく敏捷で、柔軟でもある。急な坂やがけも難なく上る。そして圧倒的な脚力で、助走もなしで500メートルも跳躍して回り込み、こちらの兵の戦略的撤退を許さない。
織田、今川の連合軍はあっさりとうっちゃられ、劣勢に立たされる。
なにより、今まで苦戦することはあっても死者は出さずに来た自衛隊に戦死者が出始めている。
その心理的なダメージは大きかった。
「くそ!攻撃ヘリと戦車の攻撃を信玄に集中させろ!やつを倒すことができれば、武田兵たちも勢いを無くすはずだ!」
仰木が下した命令は、極めて平凡なものだった。
仰木は口惜しかった。これが自分の限界か。
こんなとき、あの天然ジゴロで破天荒でやたら悪運の強いあの男。田宮ならどうしただろうと思う。
『信玄への攻撃待て!繰り返す、信玄への攻撃待て!』
不意に、仰木の疑問の答えが無線から返ってくる。
「田宮二尉か?なにか策があるのか?」
『策と言うほど上等じゃありませんが、試して見たい作戦があります』
仰木が指揮通信車のディスプレイに目をやると、V-22が急速に近づいてくるのが確認できた。なにを持ってきたか知らないが、信玄への有効打になり得るものらしい。
「織田、今川軍及び自衛隊!後退しつつV-22を支援しろ!負傷者の後送も急げ!」
どんな手であれ、物の怪と化した信玄と力技で渡り合うよりはまし。そう判断して、仰木は田宮を支援する命令を下したのだった。
「やれやれ!後退も何も、既に逃げている最中だぞ!」
「仕方あるまいよ!あなたの旦那様があれを何とかしてくれると信じよう!」
物の怪と化した信玄からなすすべもなく逃げ回るだけだった信長と義元は、体勢を立て直して隊伍を整えることにする。
信玄をどうにかするのは田宮に丸投げするしかなさそうだ。
だが、戦そのものに勝利するのは自分たちの役目だという自負と責任があったのだ。
12
「姉さん…。おいたわしい、なんという姿に…」
V-22の窓から変わり果てた姉の姿を認めた信廉は、思わず目を逸らす。
「信廉様、しっかりして下さい。お姉様に呼びかけて正気に返らせることができるのは恐らくあなただけだ」
田宮は、こちらの間諜の情報によれば、信玄が“邪気”に取り憑かれたきっかけは信廉の遭難であったらしいと告げる。
「なんということでしょう…」
信廉には、先ほどまでの全てがどうでもいいという感情はもはやなかった。甲斐の虎、武田信玄が、大好きな姉があんな醜く理性をなくした獣のなり果てているのがひたすら悲しかった。
「どうすればいいのです?どうすれば姉さんを助けられるのですか!?」
「とにかく呼びかけて下さい。少しでも理性を取り戻せば、後は俺が何とかします」
田宮はそう返答して、信廉にヘッドセットを渡す。聡明な信廉は、それが信玄に呼びかけるための道具だとすぐに推測する。
『姉さん!お鎮まり下さい!わたくしです。信廉です。信廉が参っております!』
信廉からスピーカーで呼びかけられた言葉に、信玄の動きが止まる。理性をなくし、猛り狂っているように見えても、信廉の声に反応するくらいの思考と情は残っていたのだろうか。
「機長!高度を下げて下さい。信廉様の姿を信玄様に見せたい!」
「おいおい!V-22は不安定な機体なんだ。あれにぶつかってこられたら墜落だぞ!」
テイルトローター機であるV-22は、他のヘリに比べるとどうしても低速飛行性能やホバリング性能は見劣りする。加えて、揚力を発生させるローターが左右の離れた位置にある。1カ所にダメージを受けただけでバランスを崩して墜落する危険は常にあるのだ。
「そう言わずにお願いしますよ!下じゃ味方がやられてるんだ!」
「ちっ!了解!」
味方の命がかかっているとなれば是非もないと、機長はホバリングしつつV-22の高度を下げていく。大きく開いた後部のカーゴドアから、信廉の姿が信玄に見えるように。
『姉さん!わたくしはここです!』
「ノブ…カド…アアア…アアアアア…」
暴れ回っていた信玄の動きがぴたり止まる。そして、虎の背中の上に生えた上半身が突然苦しみ始める。
「なんだ?」
「小さくなっていくぞ…?」
巨大な虎の姿をした信玄の下半身が、風船がしぼむように急速に小さくなっていく。
「何が起きているんでしょう?」
「確かめないと。信廉様、武田軍に停戦命令を!」
同乗している偵察救難隊の副隊長である安西曹長の疑問を受けて、田宮は信廉に向けて停戦命令を依頼する。
『ええと…。
武田の全軍に伝えます!わたくしは武田信廉です。我が姉、武田信玄の代行として命じます。
武田軍はただちに全ての戦闘を中止しなさい。
繰り返します。武田軍はただちに全ての戦闘を中止しなさい!』
信廉の呼びかけに、“鬼”と化していた武田兵たちが足を止める。
“信廉の弔い合戦”という一念が、武田兵たちに命をも惜しまない覚悟を決めさせ、同時に狂気へと駆り立てていた。武田信玄が自分たちの主であるなら、信廉もまた主だ。
失ったと思っていたものがにわかに戻って来たことで、急に冷静になったらしい。
「姉さん!」
着陸したV-22から、信廉が偵察救難隊のエスコートを受けて、人の姿を取り戻しつつある信玄に駆け寄る。が…。
「ノブカド…キテハイケナイ…!」
低く大きく、不気味な声で信玄が信廉を制止する。よく見れば、信玄は人の姿にもどったのではなかった。
全身を銀と黒の毛で覆われ、犬歯は肉食獣のように長い。そして、その目は鮮血を思わせる赤い光を放っている。
なにより、体のあちこちに“邪気”に取り憑かれていることを示す幾何学模様が入れ墨のように走り、蛇のように蠕動している。
(“邪気”を精神力で抑え込んでいるのか?)
田宮は武田信玄という少女の心の強さに驚愕した。こういうのは初めて見る。一体どれだけ強い精神力が必要になっていることだろうか。
「ワタクシヲ…コロシナサイ…!イマノウチニ…」
信玄が信廉に訴える。見れば“邪気”が再び信玄を支配し、物の怪に変えようとしているのが伺えた。
信玄の体が再び大きくなろうとするのを、すさまじい精神力で抑え込み押しとどめている。
「姉さん!できません!やっと再び会えたのに…そんな悲しいこと…!」
「ヤリナサイ…!コレイジョウ…オサエキレナイ!」
「信廉様、かまいません。お姉様に声をかけ続けて下さい」
田宮に背中を押された信廉は、信玄に近づいていく。
「ノブカド…!キキワケノナイ…!」
「姉さん、わたくしを見て下さい!姉さんは“邪気”ごときに屈するお方ではないはずです!」
信玄と信廉の会話は押し問答の様相を呈していく。だが、有効であるらしい。
「ちょっとごめんなさいよ」
「ヒ…きゃああああああああああーーーーーーーっ!」
こっそり信玄の後ろに廻っていた田宮が、決して大きいとは言えないが形のいい膨らみを後ろからつかむ。
信玄の黄色い悲鳴が周囲に響いて、田宮の指の間からどす黒いほとばしりがものすごい勢いで放出されていく。
信廉も、周囲で見ている織田、今川、武田の兵たちも、あっけに取られていた。
“邪気”の放出に同調するように、信玄の体から毛と黒い幾何学模様が消えていく。やがて“邪気”の放出は弱まり、止まる。
13
信玄はすっかり元のほっそりした美しい体を持つ美少女の姿に戻っていた。
「姉さん!」
「おっと」
生まれたままの姿の信玄は、意識を失ったらしく倒れ込もうとする。信廉と田宮は、その細い体を2人がかりで支える。
(これは?)
田宮は信玄の体を支えて妙な違和感を感じる。その体はやけに冷たいのだ。首に指を当てると、脈も何かおかしい。
「市原二曹、来てくれ!」
「はい!ただいま!」
田宮は看護師資格を持つ市原操子二曹を呼ぶ。
25歳。自衛隊病院での勤務経験もあり、訓練成績優秀。こちらにタイムスリップした当初は経験不足もあって実力を出し切れなかったが、毎日のように運び込まれてくるけが人を担当している内にすっかりベテランの貫禄を身につけている。
「どうだ?」
「体温がやたらと低いし心音がおかしい。心疾患の可能性があります。
信廉様、お姉さんはもしかして胸の病を患っておいでで?」
田宮に胸を揉まれたらどす黒いものを吐き出して、姉が元の姿に戻った。その状況を理解できずあぜんとしている信廉は、市原の言葉にやっと戻ってくる。
「胸の病かどうか…。姉は幼いころから体が丈夫でなかったのです。
いろいろな医者に診せましたが、根本的な治療は困難だと口を揃えて言われました…」
「くわしく聞かせて下さい」
市原は、信廉に質問しながら手帳にメモを取っていく。そして、タブレット端末で何かを調べ始める。最近は分厚い本をめくらなくとも、電子辞書に情報を入力するだけで医療や応急処置に関する情報が得られるらしい。
「二尉、やはり手術が必要と思われます」
「そんなに悪いのか?」
「くわしく調べて見ないとなんとも…。投薬でなんとかなるのか、外科手術が必要か…」
“心臓移植をするレベルか”という言葉を市原は呑み込む。その辺に転がる戦死者の心臓をしっけいして移植するところを想像してしまったからだ。実際視野に入る可能性だから、よけいにおぞましい。
「信濃南部の野外医療設備は恐らく全部塞がってるな…。
“しもきた”に搬送する以外にないか」
「賛成ですね。“しもきた”はかなり充実した医療設備があります。
それに、信濃じゃ薬も輸血用の血液も足りない可能性があります」
そこかしこに横たわる侍や自衛隊員の負傷者たちを見回して、市原は田宮に同意する。心臓の手術となれば、人手も資材もしこたま必要になる。今の信濃にはとてもそんな余裕はないだろう。
「知!」
「田宮殿!」
かけられた言葉に田宮が振り向くと、そこには信長と義元がいた。
「信長様、義元様、ご無事でしたか」
「誰かさんが来るのが遅いお陰で、危うくくたばりかけたがな」
「そりゃないですよ。信廉殿を引っ張り出すのにどれだけ苦労したことか」
「すまんすまん、冗談だ。よく来てくれた。そして、将兵たちの命を救ってくれた。さすがは私の夫だ」
田宮と信長はにっこりと笑い会う。いかにも2人だけのフィールドという雰囲気の中で。
「それで、信玄はどんな具合だ?」
「良くないようです。これから“しもきた”に運んで検査をして、必要なら手術を行うつもりです。かまいませんな?」
「ああ、任せる。
聞いての通りだ、武田の諸君。信玄公のお体、しばしお預かりする」
信長の言葉に、信廉はじめ武田がたのものたちはぎょっとする。自分たちの主君がなにをされるのか、想像もつかなかったからだ。
「お預かりすると簡単におっしゃられても…?姉をどうするおつもりです?」
「どうするかは調べて見ないことには。ただ、このまま放っておいたら多分死にます」
市原の冷徹な返答に、信廉は選択の余地がないことを悟る。姉がなにをされるかはわからない。だが、このままでは死ぬならお任せするほかない。
「では、せめてわたくしを付き添わせていただけませんか?」
「だめだ。貴公には君主代行として、武田に停戦命令を守らせてもらう必要がある」
信廉の申出を、信長がぴしゃりと遮る。
周囲を見回せば、“鬼”と化していた武田兵たちは元に戻るか息絶えている。が、まだ織田に心の底から下る気はないのが見て取れた。
「わしが行こう」
そう言って進み出たのは、いつの間に来ていたか、隻眼の老将山本勘助だった。
「しかし良いのか?停戦が成立したとは言え敵地ではないか?」
脇にいた山県昌影が疑問を呈する。
「なにかあったとして、この老体のしわ首1つ。痛くもかゆくもなかろうよ。
文で状況は知らせる。
じえいたいの方々、わが君、信玄公とともにお世話になる」
そう言って、勘助は一礼する。
「ああ、田宮殿」
「はい?いて!」
歩み寄ってきた信廉が、田宮の手の甲を思いきりつねる。
「姉を救って頂いたことは感謝します。ただ、乙女の胸を断りもなく揉んだ罰です」
「ご無礼致しました」
田宮は素直にそう返す。信玄を“邪気”から解放するためには必要なことだったが、乙女を辱める行為であったことに変わりはない。信廉も理解してくれているから、この程度で済ませてくれたとも言える。
信玄と勘助、そして偵察救難隊を乗せて、V-22は甲斐を後にし、遠江沖に停泊する輸送艦“しもきた”に向かう。
搬送されてきた信玄の体をレントゲンとCTスキャンにかける。
「先天性の心疾患と見て良さそうだな。
ただ、心臓の肥大はわずかだし、組織の痛みも少ない。これならなんとかなるな」
主任医官の中原三等海佐が、検査結果と本で調べた心臓手術の要領を照らし合わせ、CGモデルで手術のシュミレーションを行っていく。
あまりに本格的な心臓の手術となれば当然のように専門の心臓外科医の仕事になる。心臓とはそれほどに複雑で面倒な機関なのだ。
だが、信玄の心疾患が思ったより重篤でないのが、中原たち医療担当者に安心と自信をもたらした。これなら心疾患には詳しくない自分たちにもなんとかなる。
「3Dプリンタを動かせ。人工弁を作るんだ。
心臓が血液を押し出す圧力を確保できていないだけだ。なら圧力を上げてやればいい」
「わかりました。
ただ、血液が足りるかどうか」
助手である二尉が心配そうに言う。武田との戦いが始まってからこの方、けが人だらけで輸血用のストックは慢性的に不足している。
「仕方ない。かき集めてきます。血液型はA型ですか?」
「ああ、Rh+A型だ。すまんが頼むわ。ラベル、張り替え間違えないでよ」
田宮は燃料補給の済んだV-22に乗り込み、“人使いが荒い”とぶーたれる偵察救難隊を引率して、遠江の町や村を廻り、献血を募る。
遠江の住人たちは意外なほど献血に協力的だった。一向一揆や武田の侵攻に際して、自衛隊に命を救われた者たちが多かったのだ。自分たちが少しずつ血を供出することで、今にも事切れそうな命が助かるならと、笑顔で協力してくれたのだ。
献血の代価として米や酒が配られたこともある。信玄の手術に必要な血液はすぐに集まった。そして、A型以外の血液は大量の負傷兵を抱える信濃、甲斐に搬送されたのだった。
心房と心室の間の筋肉に疾患があり、動脈の血圧を確保できないという信玄の持病は、心房がわに樹脂で作った人工弁を埋め込むことで解決される。
手術は成功し、3日後信玄は意識を取り戻したのだった。
その知らせは、勘助の書状によって甲斐にも知らされた。武田の将兵や、甲斐の民たちは大いに喜び、涙を流した。
もはや信玄にも武田がたにも戦う意思はなく、武田は正式に織田に降伏し、臣従することを選択するのだった。
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