自衛隊戦国繚乱 プリンセスオブジパングトルーパーズ 

ブラックウォーター

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03 甲信の死闘編

戦いの終わりと新たな戦いの準備

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14

 武田が織田に下り、戦後処理は速やかに行われていく。
 戦死者の埋葬と弔いもその1つだ。
 「撃て!」
 岐阜の郊外に作られた墓地。陸自指揮官の木場一等陸佐の号令で、弔砲が放たれる。
 「全ての戦死者に対し、敬礼!」
 制服をまとった任務部隊の自衛隊員たちが、一糸まとわぬ動きで敬礼する。
 甲斐からV-22で隊員たちの亡骸を搬送し、墓地を作り埋葬するのに8日の時を要した。
 自衛隊員戦死者8名。武田との戦いの全体の数からすれば微々たるもので、キルレシオを単純に比べれば大勝利と言える。
 だが、自衛隊員たちの心中は悲しみで満たされていた。この世界、この時代、この国で生きていく覚悟は決めたつもりだった。
 だが、やはり故郷である21世紀の日本から遠く離れた場所で仲間が命を落としたという事実は、胸に深く突き刺さる。
 戦死者たちには当然家族がいたし、妻帯者もいた。家族に知らせを送ることさえできない。
 それは、多くの自衛隊員たちに明日は我が身という予感を抱かせずにはいなかった。
 もちろん、葬儀が終わればまた戦いに戻ることになる。いつまでもめそめそしているわけにはいかない。
 武田との戦いは勝利に終わったとは言え、まだ平和にはほど遠い。
 北条が上野西部を軍事占領して領有を既成事実化しようとしているし、伊勢では一向一揆がしつこく抵抗をつづけている。近江の浅井や六角はついに説得に応じることはなく、あまつさえ逆に美濃への侵攻を企てた。
 まだまだ戦いは続く。だが、今日この日だけはただ悲しんでいたいのだった。

 さらに1ヶ月後。
 甲斐は織田占領下の韮崎城。
 謁見の間では、上座の信長に対し、武田信玄と、信廉、そして武田の重臣たちが平伏していた。
 万一のことを考えて、ふすまの裏には武装した自衛隊員と侍たちが控えているが、もはや武田に戦意も二心もないのは信長には見て取れた。
 「信玄殿。お体は良いのか?あまり無理はして欲しくないが?」
 「お気遣いは無用です。
 じえいたいの医術はすばらしい。これほど体が温かく軽いと思えたのは生まれて初めてですから」
 信玄はそう言って柔らかく微笑む。
 こんな顔もするのか。列席している義元は思う。何度か顔をつきあわせてはいるが(その内の何回かは信廉であったわけだが)こんな風に本当に少女らしく笑うのを見たことはなかった気がする。
 「ただ、命を救って頂いておいてなんですが、いささか困惑しております。てっきり三河、遠州に侵攻した咎で古府に首をさらされると思っておりましたから…。
 わたくしは今後どうすればよろしいのでしょう?」
 信長はにやりと唇の端を吊り上げる。
 「首をさらすなどともったいないことを言うな。
 貴公には織田のため、天下のために働いてもらう。なにより、武田の衆に協力を頂くために武田信玄というひもは不可欠だ」
 信長はそこで一度言葉を切り、続ける。
 「信玄殿は今後定期的にじえいたいの検査と投薬を受ける必要がある。元気に暮らしたいのであればな。
 我らに協力すれば、健常者と同じようにとはいかないまでも、今までほど難儀せずに生きられるはずだ。
 その為であれば、武田の衆ももちろん信廉殿も快く協力してくれるだろう?」
 要は信玄は人質だと、遠回しで優しい言い回しで言っている信長の言葉に、信玄は苦笑いを浮かべる。悔しいがその通りだ。
 「いかにも、命を賭して働くのは我らの役目です。
 姉さんは折角拾った命です。大切になさって下さい。武田と織田、双方のために」
 「今このときより、我ら身命を賭して織田のために働く所存」
 信廉が決意を秘めた表情で発した言葉に、勘助が付け加える。
 「気持ちはありがたいが、勘違いをするでない。
 武田の将兵は精強で優秀だ。勝手に死ぬことを許可しない。生き残れ、そして帰還し任務報告をせよ。
 死んで楽になるよりもずっと辛いが、それでも生きてなすべきことをなせ!」
 信長のその言葉に、信玄、信廉以下武田の重臣たちは、一糸乱れぬ動きでこうべを垂れたのだった。
 無茶を言う。だが面白い。苦労するだろうが、この主についていく先にはきっと面白い未来がある。この主のためであれば。この主の下であれば。
 素直にそう思えたのだった。

 同じ頃、甲斐韮崎郊外の温泉。
 「いやー。さすがは甲州。富士山が近いだけあって温泉も格別だねえ」
 「ほんと、気持ちいいーー。命の洗濯だよお」
 「あの、それはわかるけどね…」
 4つの見事な膨らみに左右から圧迫されながら、田宮はふと疑問に思う。
 「なんで君たち一緒に入ってるの!?」
 田宮の当然と言えば当然の問いに、銀髪黒ギャル忠勝と、茶髪白ギャル忠次が左右から妖艶にほほえみかけることで応じる。
 「なんでもなにも、三方ヶ原で家康様を救って頂いたのに、忙しくてお礼もしていなかったのでな」
 「今日はあたしらがたっぷりご奉仕しちゃうよ~。
 つまり、あたしらがお礼ってわけ」
 そう言って、忠勝と忠次は美しくすばらしい胸の膨らみをさらにぎゅっと田宮の腕に押しつけてくる。
 「いや、それは嬉しいんだけど…」
 男として天国といってもいい状況には違いないが、正直反応に困る。この国、この時代では、男女が一緒に風呂に入ることは格別におかしいこととは思われていない。なにせ、風呂というもの自体が21世紀に比べて希少なのだから。逆に言えば、風呂場で一緒だからと言ってうかつに性的な行為を要求すれば、悪くすればセクハラ、性犯罪になる可能性もあった。
 忠勝と忠次が自分に好意を持ってくれていることは気づいているが、どうにも距離感が測れないのだ。下半身が今すぐ理性を手放して2人を頂いてしまいたいと訴える一方で、下手をすれば今まで築いてきた信頼関係を失うかも知れない懸念する上半身が必死で理性を働かせる。非常に辛く、悶々とする状況だった。
 「田宮殿、お肌きれい。本当に男にしておくにはもったいないな」
 「裸もなんだかきれいで色っぽいしね。美味しそう」
 忠勝と忠次が、自分に密着してきゃぴきゃぴと黄色い声を上げるのが、田宮には天国と地獄を同時に味わっている気分だった。
 (なんと言っても…)
 忠勝は全身が鍛えられて引き締まった筋肉ガールで、それでいて胸の膨らみは素晴らしいものをお持ちだから目を奪われる。その膨らみには弾力と張りがあり、見事な釣り鐘型をしている。これも鍛えている成果なのだろう。
 それに、特徴である褐色の肌は水着や下着の後が見当たらず、シークレットゾーンに至るまで褐色をしている。これはこれで美しく、そしてエロティックなものがある。乳輪と乳首は意外にも淡い桜色で、ギャップを感じるから特に。
 (そして…)
 一方の忠次は、全体的にぽてっとして福々しいが、肉感的でやわらかな色気を振りまいている。膨らみはややたれ気味だが、それが返って卑猥で美しくさえ思える。なんと言っても、乳輪がかなり大きいのが目を引く。乳輪が大きい女は性欲が強い、などというのは迷信だと思うが、どうしてもエロティックな印象を覚えずにはいられない。
 白い肌はきめ細かくしみ1つない。まるで巨匠の書いた裸婦の絵から飛び出してきたようだった。
 2人とも、手ぬぐいを湯に入れるなと教育されているらしく、シークレットゾーンを隠そうともしない。一応恥じらいはあるようだが、それとて自分と一緒に湯を使わない理由にはならないらしい。
 「そろそろのぼせてきたなあ…」
 「じゃあ、背中を流して差し上げる」
 「じゃ、あたしは前の方を」
 さりげなく逃げようとする田宮を、忠勝と忠次は逃がすつもりはないらしい。
 結局、2人に前から後ろから洗われながらも、田宮は今にも飛びそうで飛ばない理性とぶれないヘタレぶりで、湯を使う以外にはなにもないまま乗り切ってしまったのだった。
 
 忠勝と忠次は、スイッチが入ってしまって火照る体をもてあましながら酒を飲み、愚痴をこぼし合う。
 お礼などというのは口実だ。田宮知という男に、自分たちもすでにめろめろになっている。彼の女にして欲しくて風呂を一緒したのに。
 「全く、朴念仁。“お前を抱きたい”とひと言言ってくれれば大歓迎なのに。
 この熱くなった体、どうしてくれるのだ…?」
 「さすがに女の子の方から“男女の営みがしたい”とか“抱いて下さい”とか言うのは恥ずかしいしね-。
 戦場じゃいつも男らしいのに、なんでこういうときは男らしさを見せてくれないかな-」
 忠勝と忠次は酒をあおり、深く嘆息するのだった。

 「隊長、聞きましたよ?女の子2人とお風呂を一緒したのに、またなにもなかったんですか?」
 「また、ってのが気にかかりますが、その通り。どうせ俺はヘタレですよ」
 数日後、車両で移動中、高機動車の運転席の安西曹長が田宮に話を振る。
 「いや、それだけもてるのにへたれてばかりって、男としてどうなんです?」
 「なんか女の子たちかわいそう。きっと待ってるでしょうに」
 小野士長と津島三曹が意地悪な笑みを浮かべて冷やかす。
 「いやほら、みんなこの世界に飛ばされてきてから不便な暮らしして、家族にも会えなくて大変だろうしさ…。俺みたいないい加減なのがハーレムなんか作ってたりしたらなんか悪いって言うか…」
 「何を気にしてるかと思えば…」
 「隊長、それ本気で言ってます?」
 市原二曹と渋川一曹が可愛そうなものでも見るような目で田宮を見る。
 「え。どゆこと?」
 「みんな、けっこう奔放というか自由にやってるってことです。さすがに所帯持ちの人たちは自重してますけどね。 
 私も実はちょっといい感じの男を見つけたところでして」
 「実は俺も最近付き合ってる女いるんすよ。まあ、節度は持ってますけどね」
 田宮は2人の言葉に頭を叩かれた気分だった。
 いやそりゃまあ、21世紀の日本に帰れるあては今のところないわけだし、こちらでいい人を見つけるのも自然なことかも知れない。
 自衛隊は盗賊や一向一揆から生活を守ってくれる存在として、市井の住民たちの評判はすこぶるいい。経済面でも、21世紀の知識や技術を応用したビジネスは着実に利益を上げつつある。ガラス細工、陶器、洋菓子、紅茶、綿製品。どれも大名や堺あたりの商人、そして南蛮商人たちに驚くほど高く売れるのだ。
 自衛隊員たちが声をかければ、なびく者は少なからずいることだろう。
 だが一方で、あるとき急に21世紀に戻ってしまうという可能性もゼロではないのだ。もし子供でもできていたら、置き去りにして戻らなければならないかも知れない。
 自衛隊の皆さん、ちょっと自由奔放過ぎやしませんか?
 それとも俺が度を超してヘタレなの?
 田宮は今まで滞納してきたものの清算を求められている気分だった。

15

 伊勢、長島城西方の山地。
 「み…見ろ…!間違いない。鬼だ…」
 「しかもただの鬼じゃにゃあ。でかいぞ」
 2人の山伏が、偶然にも近づいてしまった物の怪に気づかれぬよう、息を潜めながら目をこらす。
 それは身の丈は10間もあるか。怖ろしく筋骨逞しく、かっぷくがいいように見える。なにより、頭が二つあるのが異形で目を引く。
 ガリッガリッ
 それは、石を一心不乱に食っていた。頑丈な顎で硬い石をかみ砕き、飲み下している。
 「とにかく、早く逃げるで」
 「いや、織田様の兵とじえいたいとかいうまだら模様の軍隊に通報すべきじゃ」
 「なんで?やつはただ石を食ってるだけじゃがな?」
 「何で石を食ってるかが問題じゃにゃあか?なにか怖ろしいことになってからでは遅いじゃろう」
 山伏2人は、念のためと近くに駐屯する織田勢と、じえいたいにことの子細を話した。彼らに協力すれば、小遣いをもらえるかも知れないという打算もあった。
 この2人の知らせが、後々織田と自衛隊を救うことになるとは、このとき誰も予想だにしなかったのである。

 甲斐、躑躅ヶ崎。
 「こうしてまたみなと語らえて、わたくしは嬉しく思いますわ」
 景色のいい館の広間に、信玄、信廉、勘助、昌影、昌秀、信春、虎綱が集まり、茶を傾けている。
 みな笑顔だった。
 なにせ、こうして信玄と信廉がならんで笑っているところを見ることができるのだから。
 今まで、信玄と信廉は常に2人1役を演じることを強いられてきた。武田信玄という人間を信じる者たちをことごとく謀り、偽りを重ねながら。
 家臣たちにとっても、それは悲しいことだった。武田信廉という存在がそこにいながらにしてそこにはいなかった。それを初めて知ったとき、信廉は前戦で遭難した後だった。
 “自分たちが信廉様の名を呼ぶことは永遠に叶わないのか”
 そう絶望と諦念を抱いた。だが、今はこうして信玄と信廉が仲良く肩を並べて自分たちの前にいる。それはなによりも嬉しいことだったのだ。
 「しかし困りました。今までのわたくしはいつも急いでいて余裕がなかった。
 この身は長くない、この命が尽きる前に、と。
 じえいたいの医術のお陰で急に余裕ができて、何をしたらいいかわからなくなってしまったのです」
 「時間はたっぷりあるのです。ゆっくりなすべきことを探して行かれれば良いのでは?」
 信玄の言葉に、信廉が笑顔で応じる。
 「そうだとも。もう焦る必要はない。むしろ、御館様は今までが急ぎすぎだったのだ」
 と勘助が相手をする。
 「そうです。今までの信玄様は自分を殺して、武田のため、甲斐のためと必死すぎた。少しはのんびりされても良かろう」
 と昌影。
 「思えば、自分は御館様が女の子であることを失念していた気がします。
 御館様は女の子らしいことをしたいのを我慢してきたのではと、今になって気づきました。お恥ずかしい…」
 と昌秀。
 「まあ、それも含めてこれから考えていけばいいではありませんか」
 信春がのんびりと応じる。
 「そうですねえ。取りあえずは婿取りのこととか?」
 「え…?」
 信廉が不意に発した言葉に、信玄の目が点になる。
 「え…、ではありませんよ。姉さんは武田の当主なのですから、いずれ元気なお子を生んで頂かないと。
 医術を受けて以来、月のもの、順調なのでしょう?」
 「ええ…!?確かにまあ…順調です。今までは3月に1回もくればいい方でしたが…。この3月同じ周期で来ています。
 …って、何を言わせるんです!どうしてそれを…?」
 信廉の誘導尋問に、あっさりと信玄は口を滑らせてしまう。女として、生理が3ヶ月に1回も来ればましな方というのは悲しく惨めだった。
 それが、心臓の手術を受けて以来、まるで体が女としての機能を回復しようと急いでいるかのように、生理が順調なのだ。周期が少し短すぎて困るぐらいだ。ついでにけっこう重く、自衛隊に頼み込んで生理痛薬と生理用品を融通してもらっている。
 ともあれ、女として健康なのはなんだかんだで嬉しく幸せで、つい誘導尋問に引っかかってしまったのだ。
 「わたくしは姉さんの妹なのですから、そのくらいことすぐにわかります」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて、信廉が応じる。
 「なんと、それはめでたい。わしは、御館様がお子をなすのを内心諦めておったが、これはもしかしてもしかするのか?」
 昌影が期待に満ちた表情で言う。信玄を幼いころから見てきた者としては、信玄の健康状態では子をなすことは難しかろうというかかりつけの医者の言葉に、内心無念だったのだ。
 「それなのだが、じつは、じえいたいの戦船“しもきた”。
 あそこの医者と看護人にうかがったところでは、無理はすべきではないが、体調に気をつければお子を生むことも可能だということじゃ」
 「なんですと?」
 「素晴らしいじゃないですか?
 というか、勘助殿は抜け目がないですね。御館様に付き添って“しもきた”に行かれている間、そんなことまで調べておられたとは」
 勘助の言葉に、昌秀と信春が気色ばむ。
 「いや、付添人と言ってもやることはなかったしな。
 御館様の今後のことを医者と話し合うついでに、どうしても聞いておきたかったのよ」
 勘助がしみじみと言った様子で言う。
 「信玄さま、お子を楽しみにしておりますぞ」
 「きっと可愛いでしょうね」
 「自分もあやしてみたいものです」
 好き勝手なことを言う重臣たちに、信玄は顔を真っ赤にする。
 「もちろん、わたくしも当主として跡継ぎのことは考えているつもりです!
 一方で信廉、あなたはどうなのです?」
 「わたくし…ですか?」
 急に水を向けられた信廉が困惑する。
 「もうあなたは武田信玄の片割れではない。
 身を隠して生きる必要はないのです。今まで苦労をさせてきた分幸せになって欲しい。
 あなたのお婿さんのことも武田にとって、わたくしにとって重大事です」
 今度は信廉が真っ赤になる番だった。こうしてみると、双子でも微妙に恥じらい方が違う。
 「お婿さんと言われても、わたくしには相手がおりませんし…」
 「でも、好いた男はいるのではありませんか?」
 信玄の言葉に、信廉は「お見通しか」と肩をすくめる。
 「その…ずいぶん怖く、ひどい目に合わされました。
 でも、今ならわかります。その男は、わたくしのためを思って残酷な振る舞いも行っていたのだと。
 その男がいなければ、わたくしは今ここにいないでしょうから…」
 信玄は、文脈からそれが誰かを一瞬で察する。
 「そうですか。
 実はわたくしも気になる男がいます。
 わたくしが意識を失っている間に、敵であるはずのわたくしのために奔走してくださったとか…。
 どうしましょう?その男にして見れば、自分の役目、なすべきことをしていただけだったでしょう。が、わたくしはもうその男に心奪われてしまっております…」
 信玄の言葉に、今度は信廉が察する番だった。
 間違いなく、自分と姉の好いている男は同一人物。間違いなくあの男だろう。
 これは困ったことだった。女ったらし、種馬と噂される人物で、すでに何人もの女を侍らせているという専らのうわさ。
 だが、信玄も信廉も、それでもいいかもと思えた。世間の評判がどうあれ、なんだかんだで優秀で力があり、何より優しい人物だ。
 そんな英雄ともいえる人物の子供なら、産んでもいいかと思えちゃうのであった。
 
16

 数日後、浜松城。
 「あの、みなさんなにをなさっておられる…?」
 田宮は一室の畳の上で、絞り出すように問う。
 「何をと言われても、先に説明したろう?
 お前に見立てを頼みたいのだ。よし、どうかな?」
 (いや、どうかなとおっしゃられましても)
 田宮はうろたえる。目の前に立っている赤毛の巨乳美少女、織田信長は、豪奢なシルクの黒いブラとショーツを身に着け、あまつさえガーターベルトまでしているのだから。
 よく見ると、この時代で調達できるものでうまく作られている。ホックは板バネ、ストラップはさすがに無理なので、肩ひもやベルトの途中がリボンのようになって、長さを調節できるようになっている。
 一瞬色っぽく誘われているのかと思ったが、”下着”という概念の歴史を思い出して、ちょっと待てよと田宮は思う。
 パンツやブラと言うものは、近代になってから登場した。それまでそう言うものを身に着けた経験のない者たちにとっては、人に見せることが恥ずかしいこと、あるいは性的に誘惑することだという自覚がない可能性もある。
 「お兄ちゃん、氏真は可愛さで勝負だよ!」
 そう言ってあざとくこちらに尻を向ける、金髪おさげロリっ娘、今川氏真の下着は、ピンクのコットンに猫さんのバックプリントだった。胸もお尻もまだ発展途上だが、それゆえに可愛さを前面に押し出したデザインがドストライクと言えた。
 ゴムが調達できないために、ひもを締めることで体にフィットさせているようだが、それがまた魅力的に思える。
 「その、似合うだろうか?あ、じろじろ見るな!いや、その…見てもらわないと困るんだけど…」
 そう言った、ピンク髪のギャル風ツンデレ純情乙女、徳川家康は、清楚でシンプルなコットンの白の下着を身に着けている。にもかかわらず、ガーターベルトがおまけとばかりについていて、清楚とセクシーを見事に両立している。
 「あの…下着の見立てだなんて聞いてませんよ…」
 「なにを言っている。
 この”ぶらじゃー”と”ぱんつ”そして”がーたーべると”は素晴らしい!これは売れるぞ!いずれこの国の多くの女子に普及することだろう。じえいたいと織田の重要な資金源となる。
 そのためには、まずは宣伝だ!便利なだけではない、こんなにも美しく女を引き立たせるものだとできるだけ多くのものに知らしめるのだ!」
 要約すると、信長は自分と氏真と家康で下着モデルを務めて、ブラとパンツとガーターベルトを日本中に売り込むつもりのようだ。
 「そのために、どの下着が氏真たちを一番きれいに見せるか!殿方の意見を頂きたいのだよ!」
 びしっ!と田宮を指さしながら氏真は力説する。
 「私はあまり派手なのは好きではないので…。どうだろう…やっぱり野暮ったいだろうか…?」
 恥じらいながらそういう家康は、天使そのものだった。常日頃見た目は派手だが、内実は純情乙女というギャップが素敵すぎる。
 「こら逃げるな!ちゃんと見たてて感想を聞かせてもらうからな!」
 「お着換え中!覗いちゃだめだかんねえ!」
 田宮の天国だか地獄だかわからない状況は続く。
 3人は下着を変えるたびに襖の向こうに引っ込む。そして、新たに印象の違う下着を身に着けて現れるのだ。
 「どうじゃ?私は気に入っているが、ちょっと軽薄ではないかとな…?」
 先ほどの色違い、深紅のブラとパンツとガーターベルトを身に着けた信長が言う。
 「いえ、赤は下手すると安っぽくなりがちですが、信長様が着ると高貴な感じさえします…」
 田宮は素直な感想を述べる。実際、赤い下着は軽薄に映りがちだが、信長が着ると上品な感じさえする。
 「えへへーどう?氏真可愛い?あざとい?」
 今度は氏真が、白と水色のしましまのパンツとブラを装着している。田宮はごくりと唾を呑み込む。
 「うん…。かわいいよ。すごく似合ってる」
 縞パンはある意味ではかわいい下着の定番だが、氏真の魅力をうまく引き出しているように思える。
 「ど…どうだろうか…?」
 「!?」
 サイドテールをやめて髪を下ろした家康の新たな下着姿に、田宮は目を奪われる。胸から股下まで覆うタイプのクリーム色の下着は、ビスチェのようだった。確かに露出は少ない。が、その丈が凶悪な際どさなのだ。
 簡単に言えば”見えそうで見えない”絶妙な丈なのだ。女の子の大事な部分がもう少しで見えそうなのにぎりぎり隠されているのである。
 ”はいてない?もしかしてはいてないのか!?”という卑猥な妄想を掻き立てられずにはいられないのである。
 その後も、田宮は3人の下着品評会に悶々としながらも、3人の新たな美しさと魅力を発見し続ける、天国と生き地獄を同時に味わい続けるのだった。

 「いやあ、知のあのドギマギした表情、最高だった」
 下着の見立てが終わり、リラックスして紅茶を飲みながら、信長が言う。
 「氏真はちょっと不満かなー。我慢なんかしなくていいのに。お兄ちゃんにならいつでも全部捧げるつもりだしー」
 氏真はそう言って唇を尖らせる。
 「まあいいではないか。あの男が理性を手放すのを待つのも」
 家康がクッキーをかじりながら相手をする。
 「あの恥ずかしがり屋の朴念仁、今頃たけり狂ったものを自分で処理しているかもな。
 いや…それはそれですごく恥ずかしい気が…」
 ”ま…待ってくれ知…こんなかっこう…恥ずかし…!あん…!”
 田宮の脳内で自分が何をされているか想像を巡らせて、信長は急に恥ずかしくなる。
 「それを言わないでくださいよ。きっとお兄ちゃん、頭の中で氏真たちにいろいろ卑猥なことをしているから。
 うう…なんだか実際に手を付けられるより恥ずかしいかも…」
 ”お兄ちゃん…お願い待って…!こんなところじゃだめだってば!”
 氏真が相槌を打つ。女の子にとって、頭の中で勝手にオカズにされているというのは結構重要な問題なのだ。
 「今度、私たちを勝手に…その…想像の中でもそういうことするの禁止って言っておかないと…」
 ”ああ…意地悪をしないで…もう我慢できないのだ…”
 家康も同意する。田宮はヘタレだがスケベだ。想像の中で何をされているかわかったものではない。
 
 その後、織田家が生産する下着は飛ぶように売れ、重要な資金源の一つになるのだった。
 「胸が服に擦れないのがいいわよね。激しい運動してもしっかり押さえてくれるし」
 「うちの旦那、しばらくご無沙汰だったのにあの下着を着たら急にその気になっちゃって…。今思い出しても恥ずかしいわあ…」
 「まさかこの年でまたおめでたとはねえ…。え、理由…なんででしょうね、あはは…。(四十路とはいえ、まだまだ女としてはいけてるつもりだったけど、織田の下着の誘惑効果あり過ぎ…。もうすぐ孫ができるのに、同い年の子供が出来てしまうなんて…)」
 などなど、織田が生産する下着はいろいろ、というか、本来の用途とは少し違った方向で多くの人間に好評なのであった。

 まあこのように、束の間の平穏な時は過ぎて行くのだった。
 平和は次の戦争の準備期間でしかない。例えそうでも、いやそうであればこそ、皆が平和を享受できる内に楽しんでおこうとしているのであった。
 
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