自衛隊戦国繚乱 プリンセスオブジパングトルーパーズ 

ブラックウォーター

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06 鮮血の京都編

光秀の葛藤と炎上する本能寺

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06

 京、某所。
 「やれやれ、待つのも楽ではないわい」
 老獪そうな壮年の武将が、待機にも飽いたとばかりにこぼす。
 「若い時分、20人ほどの手勢で似たようなことをした経験はありますが…。我らの主はいつも無茶をおっしゃる」
 妖艶で母性的な妙齢の美女が、これから始まることの難しさを考えてやはりぼやく。
 まあ、2人とも自信は持っていたし、これから戦いとなると意気軒昂ではあったのだが。

 同じく京、また別の某所。
 「かなりの強行軍を強いられますね。道筋を再確認しておかないと」
 長く美しい金髪の美少女が地図に目を落とし、現在地と目的地を確認していく。
 「乱戦が予想されるが、せっかく復興した京都をまた焼いてしまうようなことにはしたくないものだな」
 長い黒髪の神々しい雰囲気を待とう美女が、京の町への被害をなんとか最小限に抑えられないかを思案している。
 自軍のことで頭がいっぱいの金髪少女と、自軍のことよりも京の都のことが気がかりな黒髪美女。
 いろいろな意味で対照的と言えた。


 明智光秀は、軍勢を率いて京の烏丸通りを一路南下していた。
 1万3000の軍勢が4つに別れて京中を進軍する様は圧巻ですらある。
 (大丈夫。計画は完璧だ。いくつもの安全策も打ってある。
 情報も逐一入っている)
 光秀は馬を走らせながら、計画に抜けや見落としがないか考える。
 問題はない。
 目標である織田信長が摂津へと出陣するために、今夜本能寺に滞在しているのは間違いない。
 本能寺周辺にまとまった兵力は存在しないのは確認済み。
 信長が本能寺を出たという情報は入っていない。
 念には念を入れて、信長の腰元や小姓の何人かを催眠暗示や金でたぶらかし、夕餉に薬を盛ることもさせてある。
 光秀は失敗しようがないはずだった。
 “私に仕えぬか?”
 そこまで考えて、ふと光秀は過日信長に仕官しないかと誘われたことを思い出す。
 “誤解してくれるな。いつでも義昭様の下に戻れるという条件付きだ”
 そう言って、信長は自分の手腕を高く評価していること。明智光秀であればもっと手柄を立てて武将として大きくなれることなどを熱心に説いた。
 光秀は信長の誘いを丁重に断ったが、嬉しいという思いはあった。今まで武将として、政治家として時分なりにやってきた自負はあるが、それほどまでに評価されているとは思っていなかったからだ。
 だが、やはり信長を怖いという思いは消えない。
 信長は度量が大きすぎるのだ。
信長はまだどのような国作りをするのか明確な展望を示していない。それだけに、彼女の最終目的地がどこなのか、この国をどこへ向かわせようとしているのか全く見えないのだ。自分のような俗人にはとくに。
 光秀としては、室町幕府が再興され、穏やかにこの国がまとまっていくのがやはり理想だったのだ。
 (安心した。私は正常だな)
 光秀は不謹慎と思いながらも安心する。
 自分は葛藤している。義昭への忠義や敬愛と、信長への憧憬や尊敬の意の間で。
 今まで、自分はどこか壊れているのではないかと疑ったことが光秀にはある。義昭のためであれば、どんな嘘も裏切りも罪深いことも平気でできてしまいそうに思えたのだ。
 だが、少なくとも、今の自分は信長に対して申し訳ない気持ちを多少なり持っている。少なくとも狂ってはいないと思えるのだ。
 今はそれで充分。自分は足利義昭のためになすべきことをなすだけ。
 光秀は決意を新たにする思いで、馬に鞭を入れた。


 京、南禅寺。
 「殿、明智勢は予定通り京中を南下しております」
 「よろしい。では我々も本能寺に向かうぞ。
 みな、わかっているな?」
 伝令の報告を受けた細川藤孝は、配下の武将たちを見回す。
 「本当によろしいので?」
 武将の1人が心配そうに問う。
 「もはや決めたことだ。
 先方との約定もある。後には引けん」
 心を見透かされた気がした藤孝は、きっぱりと言い切る。
 状況に流されたわけでも、誰かに強要されたわけでもない。自分の心に従って決めたことだ。
 義昭や光秀がそうであるように。
 「全軍前へ!」
 藤孝は号令をかける。
 細川勢5000は、南禅寺を出て東から本能寺を目指すのだった。


 「弓隊、放てーっ!」
 号令とともに、火矢が一斉に本能寺に向けて放たれる。
 ついで門が破壊され、明智勢がなだれ込んでいく。
 (妙だ…)
 光秀は違和感を覚える。本能寺から本気で抵抗しようという意志が伝わってこないのだ。
 時々鉄砲の音がする程度で、こちらの襲撃に対してほとんど無抵抗と言って良かった。
 もちろん、夕餉に盛らせた薬が効いていて、中にいる全員が動けなくなっているという可能性もある。
 だが、光秀は希望的観測をしなかった。
 兵たちが本能寺の各所を制圧していくのを確認し、光秀は本能寺の敷地に乗り込んでいく。
 かがり火は焚かれているし、人の気配はあるのに動くものがほとんどない。妙な気分だった。
 周辺にあるのは矢や鉄砲玉をうけて倒れた死体のみだった。
 「人間五十年~」
 だがその時、光秀は確かに信長の声を聞いた。
 「下天の内をくらぶれば~夢~幻の如くなり~」
 間違えようがない。信長が良く舞い、歌う敦盛だった。
 光秀はその声の元を探し、奥へと進んでいく。
 「一度生を受け~」
 「ここか!」
 光秀は乱暴にふすまを開く。
 だがそこに目当ての人物の姿はなかった。
 「滅せぬものの~あるべきか~」
 光秀が見つけたものは、信長の声を発する奇妙な小さな金属の箱だった。
 (まさか…)
 聡明な光秀は直感する。この金属の箱は、恐らく自衛隊のものだ。どういう原理かさっぱりわからないが、音声を記録しておき、必要に応じて聞くことができるらしい。
 そこで光秀は怖ろしいことに気づく。
 ここにこんな手の込んだ仕掛けがしてあるということは…。
 光秀は周辺に転がる手近な死体をひっくり返してみる。
 「なんということ…」
 その死体は人形だった。顔や手は良くできていて、一見して人と区別がつかないが、服に隠れている部分はただのわら細工だったのだ。
 光秀は確信する。どうやら自分たちははめられたようだ。
 信長は自分たちの計画をあらかじめ察知していて、知らぬ振りをしていた。自分たちを本能寺におびき寄せて反逆者の汚名を着せるために。
 「しかし、だとしたら信長はどこだ…?」
 光秀は困惑する。この本能寺は何人もの物見によって見はらせていた。信長は確かにこの寺に入ったし、出たところを見た者はいない。
 どういうことなのか。
 「…!?」
 『どこを探している光秀!私はここだぞ!』
 光秀の疑問に答えるように、けたたましい風切り音が周囲に響き、次いで本能寺が空からまばゆい光に照らされる。
 極めつけに、空から信長の声が大音量で響いた。
 
 「なんてことだ…こんなものに騙されるとは…!」
 光秀配下の足軽組頭は、本能寺の裏手で見つけたものを前にして地団駄を踏んでいた。
 それは端的に言えば、大きな紙に描かれた絵だった。
 本能寺の西側は狭い通路を挟んで、さる公家の別邸に隣接している。
 その通路に、パースのついた通路を描いた絵が吊してあったのだ。近くで見ると一目瞭然だが、暗いところで遠くから見れば、とても絵とは思えない。
 一見すれば何もない通路が続いているようにしか見えなかっただろう。つまり、左右両方に同じような絵を吊せば、その間を人間が移動していても外部からはわからないことになる。
 「物見が着いていたのは本能寺だけです。隣の屋敷を経由して移動したとなると…。誰も気づかなかった可能性が…」
 足軽の1人が顔中に汗をかきながら言う。
 足軽組頭の脳裏に最悪の可能性がよぎる。
 本能寺に滞在しているはずの信長と側近たちは既に他に移動している。
 そうとは知らずに自分たちはのこのことおびき寄せられた。
 となれば、次に起こることは…。
 足軽組頭がそう思った瞬間、世界が爆発した。


 「こちらジガバチ。予定通り明智勢の排除を開始する」
 AH-64Dのガンナーは、味方との無線連絡を絶やさないようにしつつ、70ミリロケット弾と30ミリチェーンガンによる射撃を開始する。
 ただでさえ手狭な京都の往来に、1万以上の兵が詰まっているのだ。撃てば取りあえず誰かに当たる。射撃として外すのが難しいほどだ。
 しかも、本能寺周辺にいるのは敵だけだ。
 思いきりやれる。
 ガンナーは抵抗することさえかなわない哀れな射撃の的の群れに向けて、引き金を引き続けた。

 一方、烏丸通り方面に後詰めとして配備されていた明智の将兵たちは、轟音とともに突然出現した2台の巨大な鉄の塊になすすべもないまま葬られていく。
 空き家の塀を破壊して現れた2両の10式戦車が、明智勢の将兵たちに容赦なくゼロ距離射撃を浴びせる。
 思わずこ○亀の“大○部長オチ”を想起させるが、これは笑い事ではない。
 狭い京の通りに多くの兵が集まっていて逃げ場のない明智勢はひとたまりもなかった。炸裂弾が容赦なく生身の兵たちを消し炭に変えていく。
 
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