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第一章 不穏な客たち
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一日目。
「こんにちは」
「予約した者ですが」
玄関の方から声が聞こえる。どうやら、他にも宿泊客が到着したようだ。
「お待ちしておりました」
長身でシュッとした美貌の女が、客を出迎える。エリザベータ・ソロコフスカヤ。日本名相馬梨沙。ここの従業員であり、倉木が経営する商社の役員でもある。
(外国人には見えないけどなあ……)
誠は思う。彼女はモスカレル東部の生まれらしい。かの国は広いから、人種も雑多だ。アジア系の住民になると、日本人や中国人とほとんど見分けがつかない者もいるという。
「いやあ、結局降られましたよ」
「今はすっかりやんでるし、タイミング悪かったなあ」
新たな客は全部で五人。
スーツとネクタイが様になる、中年の男が二人。一人はエリート然として清潔感がある。もう一人は体格がよく、体育会系という感じだ。
「よろしくお願いしますわ」
美魔女と言っていい、妖艶な雰囲気の女が一人。長い黒髪をシニヨンにしている。やや丸顔ながら、切れ長の眼とぽってりした唇がセクシーだ。
「少尉、久しぶりじゃないか」
「お元気そうでなによりです」
訳あり風の男が二人。一人は金髪碧眼で、細身だが鍛えられた体躯をしている。
もう一人は日本人だろうか。腹が出てはいるものの、筋肉もついている。一見してどこにでもいそうなありふれた男。だが、身にまとう雰囲気が妙だった。
「少尉はやめてくださいよ。もう退役して民間人ですから」
どうやら相馬と彼らは知り合いのようだ。
「お久しぶりです、今は大佐と大尉ですか? 出世したじゃないですか」
奥から倉木が出てきて二人を出迎える。彼もまた、知り合いらしい。
「おお、少佐も元気そうじゃないか」
「今夜は久しぶりにみんなで飲みましょ」
互いに階級で呼び合っている。軍隊にいたことがあるのだろうか。
(なんか妙な空気だな……)
誠は漠然とした違和感を覚える。
倉木と男ふたりは、一見旧知の仲で再会を喜んでいるように見える。だが、三人とも眼が微妙に笑っていない。まるで、信用できない人間を見ているように思えたのだ。
「ラリサ、悪いが私は二人をロッジに案内する。食事の準備任せていいか?」
「…………」
倉木の言葉に、なぜかラリサは反応しない。訳あり風の男ふたりを見て、顔を真っ青にして固まっている。
「ラリサ?」
「え……? ああ……いいよ。私が準備するから、お父さんは行ってきて」
金髪碧眼の少女は我に返り、笑顔になる。
が、父親とその友人たちと同じで目が笑っていない。
(なんだか嫌な予感がするぞ……。妙なことにならないといいが……)
誠のカンが警告音を鳴らし続けている。ミステリー研究会会員として。そして、推理ものが好きでマンガや小説を読みあさってきた者として。
事件が起きそうな気がする、と。
そのときは誠を始め、誰も予測していなかった。悪い予感が最悪の形で的中することになろうとは。
「こんにちは」
「予約した者ですが」
玄関の方から声が聞こえる。どうやら、他にも宿泊客が到着したようだ。
「お待ちしておりました」
長身でシュッとした美貌の女が、客を出迎える。エリザベータ・ソロコフスカヤ。日本名相馬梨沙。ここの従業員であり、倉木が経営する商社の役員でもある。
(外国人には見えないけどなあ……)
誠は思う。彼女はモスカレル東部の生まれらしい。かの国は広いから、人種も雑多だ。アジア系の住民になると、日本人や中国人とほとんど見分けがつかない者もいるという。
「いやあ、結局降られましたよ」
「今はすっかりやんでるし、タイミング悪かったなあ」
新たな客は全部で五人。
スーツとネクタイが様になる、中年の男が二人。一人はエリート然として清潔感がある。もう一人は体格がよく、体育会系という感じだ。
「よろしくお願いしますわ」
美魔女と言っていい、妖艶な雰囲気の女が一人。長い黒髪をシニヨンにしている。やや丸顔ながら、切れ長の眼とぽってりした唇がセクシーだ。
「少尉、久しぶりじゃないか」
「お元気そうでなによりです」
訳あり風の男が二人。一人は金髪碧眼で、細身だが鍛えられた体躯をしている。
もう一人は日本人だろうか。腹が出てはいるものの、筋肉もついている。一見してどこにでもいそうなありふれた男。だが、身にまとう雰囲気が妙だった。
「少尉はやめてくださいよ。もう退役して民間人ですから」
どうやら相馬と彼らは知り合いのようだ。
「お久しぶりです、今は大佐と大尉ですか? 出世したじゃないですか」
奥から倉木が出てきて二人を出迎える。彼もまた、知り合いらしい。
「おお、少佐も元気そうじゃないか」
「今夜は久しぶりにみんなで飲みましょ」
互いに階級で呼び合っている。軍隊にいたことがあるのだろうか。
(なんか妙な空気だな……)
誠は漠然とした違和感を覚える。
倉木と男ふたりは、一見旧知の仲で再会を喜んでいるように見える。だが、三人とも眼が微妙に笑っていない。まるで、信用できない人間を見ているように思えたのだ。
「ラリサ、悪いが私は二人をロッジに案内する。食事の準備任せていいか?」
「…………」
倉木の言葉に、なぜかラリサは反応しない。訳あり風の男ふたりを見て、顔を真っ青にして固まっている。
「ラリサ?」
「え……? ああ……いいよ。私が準備するから、お父さんは行ってきて」
金髪碧眼の少女は我に返り、笑顔になる。
が、父親とその友人たちと同じで目が笑っていない。
(なんだか嫌な予感がするぞ……。妙なことにならないといいが……)
誠のカンが警告音を鳴らし続けている。ミステリー研究会会員として。そして、推理ものが好きでマンガや小説を読みあさってきた者として。
事件が起きそうな気がする、と。
そのときは誠を始め、誰も予測していなかった。悪い予感が最悪の形で的中することになろうとは。
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