戦憶の中の殺意

ブラックウォーター

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第四章 いくつもの謎

01

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 三日目。
 事件が解決するまではと、誠たちは自主的にロッジに留まっていた。
『あくまで任意です。強制ではありませんが……』
 警察から、参考人として引き続き宿泊するよう要請があった。
 それぞれの家からは、帰ってきた方がいいのではないかと心配する声が上がった。
 すでにラバンスキーと山瀬が死んだことは、ニュースや新聞で報道されている。
 が、会長である千里は合宿の続行にこだわった。不謹慎かも知れないが、本物の殺人事件に遭遇した。しかも、謎が多い。
 ミステリー研究会として、リサーチしない手はない。それが彼女の意向だった。
「あれ……おかしいな……。誰か録画HDDいじらなかったか?」
 ロッジのロビー。ブラウバウムが、リモコンを操作しながら困惑している。
「どうしたんです?」
 七美が相手をする。
「録画したはずの番組が消えてるんだ。それもいくつも……」
 オーストリア生まれのイケメンが、情けない顔になる。
「誰かが消したんですかね……? 容量を空けるために」
 篤志が、ビデオカメラのバッテリーを入れ替えながら口を挟む。
「それはおかしいな……。まだ録画可能な時間は四十時間以上あったはずだ……」
 ブラウバウムが、諦め切れない顔で応答する。よほど楽しみにしていたらしい。
(それは怪しいな……)
 横で聞いていた誠は、思う。
 もしかしたら犯人が、なにかを隠すために録画を消去したのかも知れない。
「高森君。さらに詳しい検死の結果が出たぞ」
 ロビーに沖田と速水が入ってくる。
 すっかり誠は、チームの一員として扱われている。
「君の言う通りだ。仏さんたちが握っていた銃は、明らかにおかしい指紋の付き方をしていた」
 そう言った沖田が、タブレット端末を操作する。
「どんなふうに?」
 ソファーから立ち上がった誠が応じる。
「指紋が、グリップとスライド、マガジンからしか出ないんだ。他はきれいに拭き取られていた」
 速水が分析の結果を読み上げる。
「事前に指紋を拭き取ってあった、ってことですか?」
 七美が興味深げに話に割り込む。
「それがおかしいんだ。二人が別に持っていた銃。つまり、ロッジで口論になった時に抜いた銃は違った。内側にもちゃんと指紋が残ってたんだ」
 速水が渋面になる。
「矛盾してますね……。そもそも彼らは外交官。銃を持っていても合法なわけだ。指紋を拭き取っておく理由がない。しかも確実に二人のものである銃には、ちゃんとフィールドストリッピングをした痕跡があった……」
 タブレット端末を覗き込んだ誠が、詳細を確認する。
「あ、そうか。あの時私にフィールドストリッピングを頼んだのはこれを確かめるためだったわけか」
 七美が得心した顔になる。
「そういうこと。銃には詳しくないが、手入れは欠かせないのはわかる。もしあの夜使った銃が本当に二人のものだとしたら……。わざわざ手袋をして分解していたか、整備が終わった後に手間をかけて拭き取っていたことになる。またなんで……?」
 誠の露骨なほのめかしに、ロビーにいる全員が考える様子になる。
「やっぱり……あのグロックとLCPはお二人の銃じゃない……。誰か他の人間に殺された可能性が高い……。そういうことになりますか……」
 篤志が代表して結論を述べる。
「そういうことになるな。だが、隣の綾音さんに銃声が聞こえなかった謎は残ったままだ。今のところ、まだ外部の犯行の可能性も捨てきれない」
 沖田が応じる。
「他になにかわかったことはないんですか?」
「新たに検死でわかったことと言えば……。ラバンスキーの胃袋から、睡眠薬といっしょに茶葉が見つかった」
 誠の問いに、速水が親切に応じてくれる。相変わらず気は進まない様子だが。
「茶葉の種類わかりますか?」
「アッサム。ここのロッジの各部屋に備え付けられているやつだ。分析したところ合致した」
 速水がまた親切に答えてくれる。
「その紅茶に睡眠薬が混ぜられていて、眠らされた……」
 横で聞いていた千里が推理する。
「でも変じゃありませんか? ラバンスキーさんはつい先ほど激しく言い争って銃まで向け合ったって時だったんです。客迎え入れますかね……?」
 誠が頭をかきながら疑問を呈する。
「我々も同じ事を考えている。紅茶のカップは洗ってかたづけられていて、証拠になるものはなにも出なかった。紅茶といっしょに睡眠薬を飲んだのはほぼ確実だが……。どうやって飲ませたのかとなると……」
 沖田の言葉に、また全員が考え込んでしまう。自分が彼の立場ならどうか。
 つい今しがた撃ち合い寸前にまでなった。誰が訪ねてきたにせよ、一緒に茶を飲む気分にはならない。露骨に遠慮はしないまでも、口をつけずにすませるだろう。
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