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第五章 真実への道
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「これってまさか……」
「僕も驚きましたよ。よもや……あの場所にいたなんて……」
メインロッジのロビー。
篤志のパソコンに映っているのは、エバンゲルブルグの虐殺の映像にちらっと映っていた人物だ。
遠目である上にピントがぼけていた。が、苦労してアルゴリズムを当てはめてなんとか顔がわかるようにまでなった。
「なんてこと……。じゃあ動機は……六年前の復讐ってこと……?」
七美が信じられない様子になる。
「まさか……冗談でしょう……?」
たまたま同席している千里も、美貌を疑惑の表情にしている。
(あれ……それにしては妙だぞ……?)
誠はそこで引っかかる。
「動機は復讐だとしよう。だとしてだ、動画の中で会話してるのがラバンスキーさんたちだってどうしてわかったんだ? 俺だって何度も聞いてシャドウ2がオーナーだって気づいた。シャドウ1がラバンスキーさんとは、相馬さんに指摘されるまで気づかなかった」
まずもって、動機の前提が立たない。
写真の人物が犯人だとしても、ラバンスキーと山瀬とは面識がないはずだ。
この写真を見たことで、犯人が倉木に色仕掛けをした疑惑は高まった。誠と七美が見つけた、盗聴音声を探すために。復讐のために。
だが、どういう経緯でそこに至ったのか? ラバンスキーたちが仇であると、どうやって知ったのか。それがわからない。
(ん……?)
ふと、ロビーに置かれたピアノが視界に入る。
(ピアノか……そう言えばあの夜も……。ん……? あの夜……? 待てよ……ここに来た一番最初の時も……。まさかあの反応は……)
誠の頭の中で、ものすごい勢いでバラバラだったパズルが集まっていく。
犯人が復讐心を抱き殺意まで持った。考えれば考えるほど、そのことの説明がついてしまう。
「どうしたの高森君?」
思考モードでただならぬ様子の誠に、千里が声をかける。
「篤志、合宿初日の映像あるか?」
「ありますよ」
ノートパソコンが開けられ、初日の日付がついたフォルダが開かれる。そして動画の再生が始まる。
『あー……足が気持ち悪い……』
『やだ……ブラ透けちゃってるじゃない』
ミステリー研究会のメンバーたちが、ずぶ濡れになってメインロッジに駆け込む。様子が映されている。
「もう少し後……他の客が来たところだ……」
映像を早廻しにする。
「ここだ。よかった、映ってる」
「これがどうしたの……?」
七美が頭にクエスチョンマークを浮かべる。一見して何の意味もない映像を、幼なじみが凝視している。
「俺の推測が正しければ、犯人はこの時に知った。あの動画の中で会話しているのが、ラバンスキーさんと山瀬さんだってことを」
誠が断定する。
「どういうこと……?」
七美はちんぷんかんぷんだった。
天才シャーロック・ホームズの思考は、ワトソンにはてんで理解不能だ。
「言われてみれば……いつもと様子が違う……。いつもあんなに愛想がいいのに……この時だけはこんな態度……。確かに気になるわね」
千里も違和感に気づいたらしい。映像を巻き戻しては観ることを繰り返す。
「あくまでも推測ですが、俺たちと違って、声だけでわかったんだと思います」
誠が自信ありげに断定する。
「声だけで……?」
「どうやって……?」
七美と篤志には、少年の話が全く通じていない。説明する間もなく、さらに思考回路がつながる。
(そして殺意を抱くきっかけ……? まさか……?)
誠の頭に、最悪の可能性がよぎる。
「まさか……あれがきっかけだったのか……。だとしたら……俺がよけいなことを言ったばかりに……」
少年は恐ろしくなる。推測が正しければ、自分の不用意な言葉が、犯人に殺人を決意させてしまったかも知れない。
「どうしたんです、先輩?」
様子がおかしいことを察した篤志が、心配そうに声をかけてくる。
「いや……。まだ犯人だと確定したわけじゃない……。もう少し調べてみようと思う……」
曖昧に返答しておく。
できることなら、推測が外れていて欲しかった。自分の失言が、人一人を間接的にだが殺人犯にしてしまったなど、信じたくはなかった。
「僕も驚きましたよ。よもや……あの場所にいたなんて……」
メインロッジのロビー。
篤志のパソコンに映っているのは、エバンゲルブルグの虐殺の映像にちらっと映っていた人物だ。
遠目である上にピントがぼけていた。が、苦労してアルゴリズムを当てはめてなんとか顔がわかるようにまでなった。
「なんてこと……。じゃあ動機は……六年前の復讐ってこと……?」
七美が信じられない様子になる。
「まさか……冗談でしょう……?」
たまたま同席している千里も、美貌を疑惑の表情にしている。
(あれ……それにしては妙だぞ……?)
誠はそこで引っかかる。
「動機は復讐だとしよう。だとしてだ、動画の中で会話してるのがラバンスキーさんたちだってどうしてわかったんだ? 俺だって何度も聞いてシャドウ2がオーナーだって気づいた。シャドウ1がラバンスキーさんとは、相馬さんに指摘されるまで気づかなかった」
まずもって、動機の前提が立たない。
写真の人物が犯人だとしても、ラバンスキーと山瀬とは面識がないはずだ。
この写真を見たことで、犯人が倉木に色仕掛けをした疑惑は高まった。誠と七美が見つけた、盗聴音声を探すために。復讐のために。
だが、どういう経緯でそこに至ったのか? ラバンスキーたちが仇であると、どうやって知ったのか。それがわからない。
(ん……?)
ふと、ロビーに置かれたピアノが視界に入る。
(ピアノか……そう言えばあの夜も……。ん……? あの夜……? 待てよ……ここに来た一番最初の時も……。まさかあの反応は……)
誠の頭の中で、ものすごい勢いでバラバラだったパズルが集まっていく。
犯人が復讐心を抱き殺意まで持った。考えれば考えるほど、そのことの説明がついてしまう。
「どうしたの高森君?」
思考モードでただならぬ様子の誠に、千里が声をかける。
「篤志、合宿初日の映像あるか?」
「ありますよ」
ノートパソコンが開けられ、初日の日付がついたフォルダが開かれる。そして動画の再生が始まる。
『あー……足が気持ち悪い……』
『やだ……ブラ透けちゃってるじゃない』
ミステリー研究会のメンバーたちが、ずぶ濡れになってメインロッジに駆け込む。様子が映されている。
「もう少し後……他の客が来たところだ……」
映像を早廻しにする。
「ここだ。よかった、映ってる」
「これがどうしたの……?」
七美が頭にクエスチョンマークを浮かべる。一見して何の意味もない映像を、幼なじみが凝視している。
「俺の推測が正しければ、犯人はこの時に知った。あの動画の中で会話しているのが、ラバンスキーさんと山瀬さんだってことを」
誠が断定する。
「どういうこと……?」
七美はちんぷんかんぷんだった。
天才シャーロック・ホームズの思考は、ワトソンにはてんで理解不能だ。
「言われてみれば……いつもと様子が違う……。いつもあんなに愛想がいいのに……この時だけはこんな態度……。確かに気になるわね」
千里も違和感に気づいたらしい。映像を巻き戻しては観ることを繰り返す。
「あくまでも推測ですが、俺たちと違って、声だけでわかったんだと思います」
誠が自信ありげに断定する。
「声だけで……?」
「どうやって……?」
七美と篤志には、少年の話が全く通じていない。説明する間もなく、さらに思考回路がつながる。
(そして殺意を抱くきっかけ……? まさか……?)
誠の頭に、最悪の可能性がよぎる。
「まさか……あれがきっかけだったのか……。だとしたら……俺がよけいなことを言ったばかりに……」
少年は恐ろしくなる。推測が正しければ、自分の不用意な言葉が、犯人に殺人を決意させてしまったかも知れない。
「どうしたんです、先輩?」
様子がおかしいことを察した篤志が、心配そうに声をかけてくる。
「いや……。まだ犯人だと確定したわけじゃない……。もう少し調べてみようと思う……」
曖昧に返答しておく。
できることなら、推測が外れていて欲しかった。自分の失言が、人一人を間接的にだが殺人犯にしてしまったなど、信じたくはなかった。
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