戦憶の中の殺意

ブラックウォーター

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第六章 救われぬ心

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 メインロッジのロビーに、全員が集められていた。
「全員集合ってことは、犯人がわかったってことですか?」
 ブラウバウムが不安そうに問う。
「少し違います。犯人の目星は、いち早くついていた。問題はその人物が二人を殺したという物証でしたが……。ようやく見つかりましたよ」
 沖田が静かな声で説明する。
「誰なんです……? 犯人は……?」
 千里が周囲を見回しながら、不安げになる。この中に殺人犯がいるかも知れないのだ。
「ラバンスキーと山瀬殺害の犯人。それはあなたですよ」
 速水がビシッと指さす。
「倉木信宏。あなたが二人を殺し、撃ち合って死んだように偽装した」
 強い口調で、非難するように言う。
「馬鹿な……なにを証拠に……!」
 倉木が立ち上がり、警察官二人をにらみつける。
「証拠はこれですよ」
 沖田がICレコーダーを再生する。
『どうしますか? 大佐。やっこさん本気みたいですよ』
『昔のよしみだ。説得して翻意を促すさ。やつにも生活がある。今は養うべき家族も、大事な事業もある』
『しかし……それでも考えが変わらなかったら……?』
『そのときは……始末するしかあるまいよ。残念だがな』
 物騒な会話が流れる。
「これって……ラバンスキーサンと山瀬サン……」
 ニコライが美貌を蒼白にする。
「その通りですよ。そして、もうひとつ……」
 ICレコーダーから、別の音声が再生される。
『どうするんです……? 証拠があるって話、はったりじゃないかも……?』
『馬鹿言え。記録には残してないし、報告書にも書いてない。証拠なんか残りようがないんだ!』
『やっぱり間違いだったんですよ……。無線傍受で慰問団が現われることを、俺たちは知ってた……なのに報告しなかったのは……』
 やぶ蛇なやり取りだった。自分たちが計画的な虐殺を行ったことを認めていた。
「この音声、どこで見つけたと思います?」
 沖田が、レコーダーを切って倉木に問う。
「私の……パソコンですか……」
 倉木がソファーに崩れ落ちる。
「オーナー。勝手に部屋に入ったことはお詫びします。でも、あなたが二人を盗聴してたことはこれで決まりですね」
 音声を持ち出した犯人である誠が、渋面になりながら言う。
「あれ……ちょっと待ってください。確か二人は受信機を持ってた。部屋の盗聴器を外した痕跡もあったし……。オーナーはどうやって盗聴なんかできたんですか?」
 綾音が口を挟む。もっともな疑問だ。
「それについて、俺から説明しましょう」
 誠が立ち上がる。
「あの夜、ラリサが足に引っかけたワイヤーがヒントだったんだ。まずは、盗聴器の原理から考える必要がある」
 少年はスケジュール記載用のホワイトボードに、盗聴器のイラストを描いていく。
「盗聴器っていうのは、大きく分けてふたつの部品からなる。一つは音声を拾うマイク。もう一つは、音声を電波として飛ばすトランスミッターだ」
 イラストをペンで指しながら、説明していく。
「盗聴器のクリーニングっていうのは、このトランスミッターを受信機を使って探すんだ。実際、ラバンスキーさんたちは部屋にしかけられた盗聴器をみつけていた」
 誠が、イラストに電波のイメージを描き加える。
「話が見えないなあ……」
 修一が腕組みして眉間にしわを寄せる。
「じゃあ、考えてみてください。もし、このトランスミッターとマイクを分離したらどうなるか……」
 イラストの半分が消され、マイクとトランスミッターが分けられて有線でつながれたように描き直される。
「あ、そうか! いくら電波を探しても、盗聴器は見つからない。電波を発するトランスミッターは、離れた場所にあるんだから。私がつまずいたワイヤーってもしかして……」
 ラリサが得心した様子になる。
「正解。あれは、マイクとトランスミッターをつなぐコードだったってわけさ。恐らくマイクは屋内に、トランスミッターは外にあったんだろう」
 誠がドヤ顔になる。
 受信機を使って盗聴器を探すためには、かなり近づく必要がある。
 さすがのラバンスキーたちも、トランスミッターだけ外にあるとまでは想像できなかったと見える。
「恐らく、部屋に仕掛けてあった盗聴器は囮でしょう。ラバンスキーと山瀬に、もう盗聴の心配はないと油断させるためのね。そして、オーナーのもくろみ通り、彼らは余計なことをしゃべってしまった。まだ盗聴は続いているとも知らずに……」
 沖田が補足する。
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