46 / 58
第六章 救われぬ心
02
しおりを挟む
「待って下さい……。仮に盗聴していたのが私だとしても……。彼らをどうやって殺すんです? 考えてもみてください。私は直前にラバンスキーと山瀬と銃を向け合ってるんだ。迎え入れてもらうことからして、不可能でしょう?」
当然の問題を、倉木が指摘する。
「実は……解剖の結果、微量ですがラバンスキーの鼻腔と気管から睡眠薬の成分が検出されました。なんらかの方法で睡眠薬を気化させて、吸い込ませたものと思われます」
速水が、タブレット端末を操作しながら応答する。
「なら、銃声の問題はどうです? 山瀬体位の持っていたグロックにはサプレッサーがついていなかった。隣にいた綾音さんに聞かれずに、どうやって大佐を射殺できたんです? しかも二発も」
速水が強い口調で反論する。
「それについては……これを見てもらうのが一番早いでしょうね」
誠がノートパソコンを開き、有料コンテンツを選択する。
画面にスティーブン・セガールが映る。
「あああ……! そうかこうやったのか!」
相馬が大きな声をあげる。
セガール演じる主人公が、コーラのペットボトルの中身を床にこぼして空にする。
ボトルの口にビニールテープを巻き付ける。それhを45オートマチックの銃口に貼り付けて固定する。
これで、即席のサプレッサーの完成だ。
「県警本部で実験してみました。結果、六十ホーンまで音を抑えることができました。ちなみに、ロッジの壁は七十ホーンまでなら通さない」
速水が端末で記録映像を見せる。
映画と同じように、グロックの銃口にペットボトルを固定して射撃する光景が映っている。
「もちろん、この即席サプレッサーは一発で外れて役に立たなくなる。しかしそれは、ペットボトルを複数用意すれば解決です」
沖田が突っ込んだ説明をする。
「あのボヤ騒ぎの時見つかった焼けたペットボトルがその証左さ。ちょうど三つあった。恐らく、一発はラバンスキーを射殺した時。もう一発は確実に殺すため。最後の一発は……」
誠が天井を仰ぎながら推理する。
「大尉の手に……硝煙反応をつけるためか……」
ブラウバウムがはっとする。
「そういうこと。刑事ものでもよくある。山瀬さんの手から硝煙反応が出ないと、彼が撃ったのでないことがバレてしまう」
少年が不敵な笑みで応える。
「そして、ペットボトルはバーナーで原型を留めないまでに焼いてしまう。そうでないと、底に穴が開いていることでトリックがわかってしまいますから」
沖田が腕組みをしながら順を追う。
「あ、そうか。あのボヤ騒ぎは、それをカモフラージュするために……」
千里がはたと膝を叩く。
「そういうこと。ウォッカはあらかじめこぼされていた。おそらくタバコをタイマー代わりにして、犯人はアリバイを手に入れつつ偽装工作を実行したんです。火が出た時、全員が事件現場に集まっていたから」
速水がタバコを取り出しながら言う。
「ついでにオーナー。グロックとLCPの指紋の付き方がどう見てもおかしかった。グリップとトリガー、それにスライドの一部からしか検出されないんです。おかしいと思いませんか? 彼らは銃の手入れをどうやってしたんでしょう? それに、弾込めも」
沖田が、マガジンに弾を込めるまねをする。指紋をつけずにどうやったのか、と言うニュアンスを込めて。
「第三者がまっさらな銃で二人を殺し、指紋をつけた……。しかし……中途半端になってしまった。そうおっしゃりたいわけですか……」
倉木が、不安げに応じる。
「犯人はミスをしたんじゃなく、念入りに偽装したくてもできなかったんです。特に山瀬さんは、五発も食らって手まで血だらけだった。その状態で銃身やマガジンに指紋をつけようとすると……どうなります……?」
誠が頭をかきながらほのめかす。
「あ、そうか……。銃の内側に血だらけの指紋がついちまう……。かえっておかしいですよね」
篤志が誠の言わんとするところに気づく。
血がついた手で、フィールドストリッピングをしたり弾込めをしたりするわけがない。
「さてオーナー。念入りに指紋を拭き取ったようですが……。拭き残しがありましたよ。銃本体ではなく、弾に」
速水が、とどめとばかりに告げる。
「そうですか……。指紋まで残っていたとあっては……もう言い逃れはできませんね」
倉木が力なく笑う。
「おっしゃる通りです。私が……あの二人を殺しました」
四十三歳のダンディな容貌が、真剣な表情になった。
当然の問題を、倉木が指摘する。
「実は……解剖の結果、微量ですがラバンスキーの鼻腔と気管から睡眠薬の成分が検出されました。なんらかの方法で睡眠薬を気化させて、吸い込ませたものと思われます」
速水が、タブレット端末を操作しながら応答する。
「なら、銃声の問題はどうです? 山瀬体位の持っていたグロックにはサプレッサーがついていなかった。隣にいた綾音さんに聞かれずに、どうやって大佐を射殺できたんです? しかも二発も」
速水が強い口調で反論する。
「それについては……これを見てもらうのが一番早いでしょうね」
誠がノートパソコンを開き、有料コンテンツを選択する。
画面にスティーブン・セガールが映る。
「あああ……! そうかこうやったのか!」
相馬が大きな声をあげる。
セガール演じる主人公が、コーラのペットボトルの中身を床にこぼして空にする。
ボトルの口にビニールテープを巻き付ける。それhを45オートマチックの銃口に貼り付けて固定する。
これで、即席のサプレッサーの完成だ。
「県警本部で実験してみました。結果、六十ホーンまで音を抑えることができました。ちなみに、ロッジの壁は七十ホーンまでなら通さない」
速水が端末で記録映像を見せる。
映画と同じように、グロックの銃口にペットボトルを固定して射撃する光景が映っている。
「もちろん、この即席サプレッサーは一発で外れて役に立たなくなる。しかしそれは、ペットボトルを複数用意すれば解決です」
沖田が突っ込んだ説明をする。
「あのボヤ騒ぎの時見つかった焼けたペットボトルがその証左さ。ちょうど三つあった。恐らく、一発はラバンスキーを射殺した時。もう一発は確実に殺すため。最後の一発は……」
誠が天井を仰ぎながら推理する。
「大尉の手に……硝煙反応をつけるためか……」
ブラウバウムがはっとする。
「そういうこと。刑事ものでもよくある。山瀬さんの手から硝煙反応が出ないと、彼が撃ったのでないことがバレてしまう」
少年が不敵な笑みで応える。
「そして、ペットボトルはバーナーで原型を留めないまでに焼いてしまう。そうでないと、底に穴が開いていることでトリックがわかってしまいますから」
沖田が腕組みをしながら順を追う。
「あ、そうか。あのボヤ騒ぎは、それをカモフラージュするために……」
千里がはたと膝を叩く。
「そういうこと。ウォッカはあらかじめこぼされていた。おそらくタバコをタイマー代わりにして、犯人はアリバイを手に入れつつ偽装工作を実行したんです。火が出た時、全員が事件現場に集まっていたから」
速水がタバコを取り出しながら言う。
「ついでにオーナー。グロックとLCPの指紋の付き方がどう見てもおかしかった。グリップとトリガー、それにスライドの一部からしか検出されないんです。おかしいと思いませんか? 彼らは銃の手入れをどうやってしたんでしょう? それに、弾込めも」
沖田が、マガジンに弾を込めるまねをする。指紋をつけずにどうやったのか、と言うニュアンスを込めて。
「第三者がまっさらな銃で二人を殺し、指紋をつけた……。しかし……中途半端になってしまった。そうおっしゃりたいわけですか……」
倉木が、不安げに応じる。
「犯人はミスをしたんじゃなく、念入りに偽装したくてもできなかったんです。特に山瀬さんは、五発も食らって手まで血だらけだった。その状態で銃身やマガジンに指紋をつけようとすると……どうなります……?」
誠が頭をかきながらほのめかす。
「あ、そうか……。銃の内側に血だらけの指紋がついちまう……。かえっておかしいですよね」
篤志が誠の言わんとするところに気づく。
血がついた手で、フィールドストリッピングをしたり弾込めをしたりするわけがない。
「さてオーナー。念入りに指紋を拭き取ったようですが……。拭き残しがありましたよ。銃本体ではなく、弾に」
速水が、とどめとばかりに告げる。
「そうですか……。指紋まで残っていたとあっては……もう言い逃れはできませんね」
倉木が力なく笑う。
「おっしゃる通りです。私が……あの二人を殺しました」
四十三歳のダンディな容貌が、真剣な表情になった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
その人事には理由がある
凪子
ミステリー
門倉(かどくら)千春(ちはる)は、この春大学を卒業したばかりの社会人一年生。新卒で入社した会社はインテリアを専門に扱う商社で、研修を終えて配属されたのは人事課だった。
そこには社長の私生児、日野(ひの)多々良(たたら)が所属していた。
社長の息子という気楽な立場のせいか、仕事をさぼりがちな多々良のお守りにうんざりする千春。
そんなある日、人事課長の朝木静から特命が与えられる。
その任務とは、『先輩女性社員にセクハラを受けたという男性社員に関する事実調査』で……!?
しっかり女子×お気楽男子の織りなす、人事系ミステリー!
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる