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第三章 芽生える思い
07 停電の夜の過ごし方
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「結局みんな向こうに泊まりなわけか……?」
「電車動かないし、このお天気ではね……」
季節外れの低気圧が町を襲った日。寮のロビーで司と圭は渋面を突き合わせていた。
本日、予定では寮生全員で焼き肉パーティーのはずだった。だが、突然の低気圧で電車が運休し、遅れていた司と圭は店に行くことができなくなってしまった。
さらに、バスやタクシーには長蛇の列ができてしまう。すでにあちらに行っていた寮生たちは、まとめて帰宅難民となってしまった。
ホテルやネットカフェなどに分散して、今夜は泊まりになるそうだ。
「となると……今夜は俺たちふたりだけか……飯どうする……?」
司は窓の外を見る。すさまじい雨風で、周りの景色が見えない。とても、買い物や外食に行ける状況ではない。
「あり合わせのもので作るわ。あんまり期待しないでね」
圭はいつものポーカーフェイスで言う。が、彼女の料理の腕は、その日も冴え渡る。
冷蔵庫の野菜と肉をかき集めて鍋にした。自分でも良くできたと思う。隠し味の皮をむいたトマトのうまみ成分とさっぱり感が素晴らしかった。
「ごっそさん。うまかったあ」
「お粗末様でした。相変わらずいい食べっぷりね」
食後のお茶を飲みながら、そんな会話を交わす。
(本当に美味しかったのね……。作った甲斐があった……)
満足そうに笑う司につられて、圭も笑顔になる。笑顔が素敵だと司は言ってくれる。女体化してからいろいろあってなかなか笑えなかったが、彼にそう言われるとうれしい。
その後ふたりでテレビを見て風呂を使い、それぞれの部屋でくつろぐ。
が……。
突然周囲が真っ暗になる。
「きゃあっ……!」
思わず圭は悲鳴を上げてしまう。いきなり真っ暗になるのは、冗談抜きに怖い。
「くそ……ブレーカーじゃないぞ……」
「ええ……? 停電しちゃったってこと……?」
司と一緒に懐中電灯を頼りに分電盤を確認するが、ブレーカーは正常だ。この雨風で、どこかの電線が切れたのかも知れない。
「電力会社は……?」
「この時間じゃなあ……。それに、電力会社も停電してっかも……」
非常時の連絡先にかけてみるが、全く通じない。
つまり、しばらくは真っ暗なままということになる。
「取りあえず部屋で大人しくしてるか……」
「そうね……早めに寝た方がよさそう……」
そう同意して、互いの部屋に戻る。が、圭は暗い中長くひとりではいられなかった。
「スマホの予備バッテリー貸して欲しいんだけど……。うっかり充電忘れてて……このままじゃ切れそうなの……」
適当な理屈をつけて、司の部屋を訪ねる。
「うん、いいよ」
「じゃあ、失礼して……」
メガネの少女は、そう言って部屋に入る。自分でもわかる。いつもと様子がちがう。表情をこわばらせて、そわそわとしてしまっている。
「電車動かないし、このお天気ではね……」
季節外れの低気圧が町を襲った日。寮のロビーで司と圭は渋面を突き合わせていた。
本日、予定では寮生全員で焼き肉パーティーのはずだった。だが、突然の低気圧で電車が運休し、遅れていた司と圭は店に行くことができなくなってしまった。
さらに、バスやタクシーには長蛇の列ができてしまう。すでにあちらに行っていた寮生たちは、まとめて帰宅難民となってしまった。
ホテルやネットカフェなどに分散して、今夜は泊まりになるそうだ。
「となると……今夜は俺たちふたりだけか……飯どうする……?」
司は窓の外を見る。すさまじい雨風で、周りの景色が見えない。とても、買い物や外食に行ける状況ではない。
「あり合わせのもので作るわ。あんまり期待しないでね」
圭はいつものポーカーフェイスで言う。が、彼女の料理の腕は、その日も冴え渡る。
冷蔵庫の野菜と肉をかき集めて鍋にした。自分でも良くできたと思う。隠し味の皮をむいたトマトのうまみ成分とさっぱり感が素晴らしかった。
「ごっそさん。うまかったあ」
「お粗末様でした。相変わらずいい食べっぷりね」
食後のお茶を飲みながら、そんな会話を交わす。
(本当に美味しかったのね……。作った甲斐があった……)
満足そうに笑う司につられて、圭も笑顔になる。笑顔が素敵だと司は言ってくれる。女体化してからいろいろあってなかなか笑えなかったが、彼にそう言われるとうれしい。
その後ふたりでテレビを見て風呂を使い、それぞれの部屋でくつろぐ。
が……。
突然周囲が真っ暗になる。
「きゃあっ……!」
思わず圭は悲鳴を上げてしまう。いきなり真っ暗になるのは、冗談抜きに怖い。
「くそ……ブレーカーじゃないぞ……」
「ええ……? 停電しちゃったってこと……?」
司と一緒に懐中電灯を頼りに分電盤を確認するが、ブレーカーは正常だ。この雨風で、どこかの電線が切れたのかも知れない。
「電力会社は……?」
「この時間じゃなあ……。それに、電力会社も停電してっかも……」
非常時の連絡先にかけてみるが、全く通じない。
つまり、しばらくは真っ暗なままということになる。
「取りあえず部屋で大人しくしてるか……」
「そうね……早めに寝た方がよさそう……」
そう同意して、互いの部屋に戻る。が、圭は暗い中長くひとりではいられなかった。
「スマホの予備バッテリー貸して欲しいんだけど……。うっかり充電忘れてて……このままじゃ切れそうなの……」
適当な理屈をつけて、司の部屋を訪ねる。
「うん、いいよ」
「じゃあ、失礼して……」
メガネの少女は、そう言って部屋に入る。自分でもわかる。いつもと様子がちがう。表情をこわばらせて、そわそわとしてしまっている。
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