異世界帰還書紀＜１＞

別の異世界

二人への異議

「その件のことは、何度も誤ったじゃないですか。」
「いや、念を一応押しとかないとね。治療費だって、８割は、私が出したんだからね」
「大丈夫ですよ。今回は、槍の先に柔らかい素材をとりつけてあるので。怪我は、しないと思いますよ。」
実際に、槍の先に白いスポンジのようなものが付いているのが、蒼とサンダーからも確認できる。
「・・そう、ならいいんだけどね。それじゃあ、いつでも始めていいよ！」
そう言い、ヴィトンは修行場から出ていこうとした。
「ヴィトン先生。見ていかないのか？」
「まあね。これから、貴族と側近同士で会議があるんだ。遅れたら、側近としての評判が下がってしまうからね。・・それじゃあ、３人共頑張ってね！」
去り際に、ヴィトンは、蒼とサンダーに向けて、グッとポーズをしながら、ウィンクをした。修行場からヴィトンが出て行った。
「ようやく、始めるよ。開始の合図は、そちらからの攻撃でいいよ。」
ランツェは、余裕の表情で槍を持っている。
「先制攻撃は頼むよ、サンダー！（小声で）」
「あぁ。（小声で）」

ーノクス家ー
ヴィトンは、ヴィクトール・ノクスという名の貴族の家の前まで行き、正面玄関の前まで行った。
「ヴィトン様ですね。リオネ様は、もう到着されてます。」
スーツを着た門番らしき男がそう告げた。
「そう。・・ノクスさん、待たせちゃってる？」
ヴィトンは、ニッコリして言った。それに対して、表情一つ変えずに門を開け、「わかりませんが、早く向かったほうが、よろしいかと思われます。」と告げた。
「そうだね。・・いつも、ご苦労様！」
ヴィトンは、笑顔で門番にそう言うと、館の中に入っていった。

ーノクス家（作業室）ー
ヴィトンは、部屋の前に立ち、ドアをコンコンと叩いた。
「はい！どうぞ！」
ドアの向こうから、声が帰ってきた。ヴィトンが、扉を開けると、資料作成中のノクスと、紅茶を飲むリオネがいた。
「遅い。ヴィトン。」
待ちくたびれたリオネが足踏みしながら、ヴィトンの分の紅茶をボットから注ぎだした。
「ありがとう、リオネ」
ヴィトンは、ソファーに座ると、グダーとくつろぎだした。
「それで、私達に用って、何ですか？３人の模擬戦見たかったのにー」
「・・用件は、蒼とサンダーという二人の人物についてだ。」
ノクスは、書類から目を反らさず、筆を動かしながら、言った。
「何か問題でも？だよな、リオネ！」
ヴィトンは、適当に返事を返した。リオネは、ヴィトンとは目を合わさずに軽くうなづいた。
「問題、大アリだぞ！何で、あんな出生地もわからぬような流れ者を推薦するのだ！彼らが、敵国のスパイだったら、どうする気だ！」
ノクスは、書類制作の手を止め、大声を出した。ノクスが大声を出したことにより、部屋の隅で待機していた（リオネが王宮から連れてきた）メイドが震えだした。
「んっ！ああ、外してくれていいよ、オポッ（メイドの名前）。ごめんね、このわからず屋のせいで！」
オポッは、軽く礼をすると、退室した。ノクスは、今にも筆が折れそうな力で拳を握りしめ、ヴィトンのことを睨んでいる。
「それで・・蒼くんとサンダーちゃんがスパイだって！ありえないですよ！」
「その根拠は？」
「・・側近である権力を少し使って、他の四カ国の戸籍の情報に該当人物がいるか調べさせました。」
ヴィトンは、席から立ち上がり、ノクスの方を見て言った。
「それで？結果は？」
「結果は、わかっているんでしょう！ノクスさん！」
「・・もういい！それで、二人を推薦した理由は何だ！？」
ノクスは、ヴィトンから目をそらし、再び筆を動かし、書類制作をしているふりをした。ヴィトンもソファーに座り、リオネが入れた紅茶を飲むことにした。
「ズズっ（紅茶を飲む音）。理由は、２つあります。一つは、彼らには、宿っているものがあったんですよ！」
ノクスは筆を止め、「ほう！それで、２つ目は？」と言った。
「あのランツェとうまくやっていけそうな気がしたからなんですよ。で！今まさに模擬戦をしているところなんですよ！」
ヴィトンは、そう言い、紅茶を飲み干した。
「なるほど。一応理解した。だが、私は反対だ！」
「なぜ？」
「やっぱり、見知らぬ人間が側近になる可能性があること自体が気に食わぬ！」
また少しノクスの声量が大きくなった。
「気に食わぬって、言われても、もう提出したんですし！」
「おちょくるのも、そのくらいにしたらどうだ！ヴィトン！」
リオネが、話が終わらないと感じたのか、割り込んできた。
「とりあえず、参加させますからね。ノクス殿！」
ノクスは黙り込み、ほんの少しだけ、うなづいた。そして、リオネは、ヴィトンの手を引き、部屋を出て言った。

「あっ！ヴィトン様。リオネ様。話が終わったんですね。」
「まあね！」
ヴィトンは、引きずられながら、ニッコリして返事をした。オポッは、ヴィトンの手を引き続けるリオネの後を追いかけて行った。
「全くもう！ヴィトンは！」
リオネの言葉で、オポッも察したのか、呆れ顔をした。